デジタルとアナログの組合せで、全員参加の現場改革と経営改革が進む サンエー精機(石川県)
2023年05月30日 06:00
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日本海からほど近い石川県かほく市内に、創業半世紀を迎える精密機械部品メーカーがある。旺盛な需要に応えるため、株式会社サンエー精機 山本伊智郎代表取締役は多品種少量型の生産体制に合わせたICTの独自活用法により、社内の活性化と顧客へのサービス体制を強化している。(TOP写真:精密加工部品の需要増で活気あふれる株式会社サンエー精機の工場)
多品種少量で付加価値の高い部品生産へシフト
特徴的な製品と山本伊智郎代表取締役
サンエー精機は1973年3月、山本利也会長(75歳)が26歳で創業。減速機のシャフトメーカーとしてスタートした。2000年頃まではロボットで生産工程を自動化し、24時間体制で大量生産する「無人化」を標榜していた。しかし、中国などの海外に工場を移す企業が増えたことで、大量生産品の依頼が減少し、「当時の主力のお客様からも一緒に海外に進出しようと提案もありました」が、当時社長だった山本利也会長の決断で、日本のものづくりにこだわり多品種少量で付加価値の高い部品生産に舵を切った。
2代目山本社長は2013年に入社し、2019年に社長就任
「他社に真似できない高精度で低価格の部品の供給によって日本の製造業を支えたい」と話すのは、利也会長の長男で、同社2代目トップの山本伊智郎代表取締役(42歳)だ。小さい時から父の跡を継ぐのは自分だと思ってきた。大学卒業後、工作機械メーカーで2006年から経験を積んだ後、2013年に父の会社に入社した。当初1年間は生産現場で汗を流し、その後営業や生産管理などを担当、2019年に社長に就任した。「父が立ち上げた会社ですが、今は完全に一線を退いて、見守ってくれています。やりやすいです」と感謝を口にする。
予想以上のコスト増、原価把握も困難な状況だった
山本社長が入社した当時は、量産から多品種少量生産に移行したことで、難易度が増して予想外の工数になり、採算が合わない仕事が増えていた。さらに顧客からの低価格要望もあり、山本社長は、会社全体の改革に乗り出した。外部のコンサルタントの力を借りながら、従業員全員参加で取り組めるように、経営方針を策定して経営数字の見える化を行い、全員が「数字で語ること」を目指した。
そのために重要なのは、目標と実績の推移を全員で確認し、原価意識を高めて自ら行動すること。製造業において個別の製品原価を把握することは必須だが、従来のシステムではデータ活用できる仕組みがなく、原価管理に必要な加工時間等もデータ化されていなかった。また、EDIや帳票の変更にもその都度開発費がかかっていた。新システムでは、入力データを自由に活用できること、EDIや帳票レイアウトの仕様変更もある程度自社で対応できることを重視して選定を行った。
作業進捗状況をリアルタイムに把握。変動費を全員でコントロール可能に
生産性向上へ。現場の負担軽減とデータ化することでの情報活用の効果の両立を語る
新システム導入には、現場の担当者の負担を増やさないために、紙の作業指示書に工程別のバーコード印字を必須とした。各工程の担当者は工程が終了するとバーコードを読み込む。すぐにシステムに登録されるため、事務所にいてもリアルタイムに製番単位の作業進捗状況がわかるようになった。
経営的に非常に大きかったのが、製番別原価管理ができるようになったこと。以前のシステムでは仕入データの活用が出来なかったが新システムでは原価計算のための取り込みが可能になり、加工時間も取り込めた。
方針説明会で目標と実績を数値で示すことで、材料費や外注比率が高い時はロット数の見直しをするなど、全従業員が参加して変動費率をコントロールできるようになった。さらに受注・売上の分析ができるため、戦略的な営業が可能になった。
デジタルとアナログを融合させ、現場と作業後の効率化を推進
紙図面に貼り付けた小さなQRコードが電子保管を可能にする
製作に使用した紙(アナログ)の作業指示書や図面は、後々の活用や顧客からの問い合わせのために重要。ただ探す手間や場所等の問題もありデジタル化が必要な分野でもある。
「お客様からいただいた図面には、高精度に加工するためのノウハウや注意事項を書き込みます。大きな図面をデジタル化してタブレットに入れるという発想もありますが、作業現場での使い勝手を考えると定着はできないのではと考えました」(山本社長)。
データの再入力が不要で、蓄積データの検索等ができるデジタルの良さは当然感じながらも、どこでも広げて確認できて、その場で書き込みもできる紙(アナログ)の良さを生かしたい。そこに二次元バーコードがあった。山本社長は、二次元バーコードを印刷にも読み込みにも使うことで、簡単にアナログとデジタルの行き来ができると考えた。これをデジタルだけでやろうとすると、大きな投資が必要となるし、作業の柔軟性が損なわれる。2つの会社の協力を得てシステムを完成させた。
作業指示書の企業名、製番、品番情報をバーコードプリンターから出力して図面に貼り付け(上記写真)、その後は従来通りに作業ができる。作業終了後は複合機で図面をスキャンすると、図面の中のバーコードが認識したフォルダへPDF化された図面が保存されるというシンプルな工程。その際、タイトルもバーコードで指定したタイトルに変換され、保存したデータは、いつでも検索して利用することが可能になった。
山本社長の図面デジタル化のもう一つの目的は、図面の保管方法に関する悩みの解消だった。図面の紙は大きく束になり場所を取ってしまい、探そうとすると時間もかかってしまう。紙図面の効率的な保管方法を考えていた山本社長にとっては、簡単にデジタル保存でき、探すことも容易で、図面を保管する場所も必要がなくなり、従業員の作業効率が上がったことは大きな喜びだった。
現場の生産改善策をタブレットを使い情報共有
従業員による作業の危険ポイントを知らせる投稿画面
生産性向上のために、生産現場の状況報告を支援するサービスを応用して開始したのが「チームごとにタブレットを1台ずつ配り、生産現場での問題点や効率を上げる提案をみんなに投稿してもらい、全員で情報共有する。いわば社内SNSです」と山本社長。
以前はカメラで画像を撮って資料を作成し、月に1度、社内の会議で報告していた。だが、専用のアプリを使えば画像をコメント付きで投稿できて、すぐに関係者全員で共有できる。会議でもアプリを開いて改善のビフォー・アフターを発表すれば、資料を作る手間が要らない。印刷しないので紙が不要だし、過去の資料の保存も簡単だ。
簡単になった分、情報の重要性に対する配慮の欠如も心配された。2022年夏から準備を始め、同年12月に導入したが、山本社長は「情報の大切さを認識してもらいたいので、タブレットを配った時は、従業員に秘密保持の契約書にサインしてもらいました」と話す。
サンエー精機の社屋
働きやすい職場をつくり、結果顧客から支持される会社を目指す
現場改革と経営改革により、品質向上と対応力強化が図れたこともあって、顧客からの発注が大幅に増えた。現在の工場ではカバーできなくなったため、現在の工場の倍以上の土地を取得し、新工場の稼働を2025年春に予定している。
「さらに生産性を上げることが必要ですが、一番大事なのは、今やっている業務の無駄をいかに無くして行くかです。そのためにデジタルはすごく有効」と語る。また「売上より先に、お客様が仕事を出したいと思えるような会社にしたい。従業員は家族同然なので、みんなが働きやすい職場づくりもして行きたいですね」と締めくくった。
製造業のシステム導入は以前から進んでいる。しかし、既存のシステムが、融通性が無い上、必要な項目が無かったりして、経営革新のためには使えないケースも多い。ただ近年、様々な顧客の要望を反映したシステムがいくつも登場している。しかも、同社のようにデジタルだけに頼らず、社内の状況を判断してアナログ的な手法を利用することで、はるかに実用的でコストパフォーマンスが高い進め方も、現場ならではの知恵で実践している。サンエー精機がこれからどんなことに挑戦していくのか期待したい。
企業概要
会社名
株式会社サンエー精機
住所
石川県かほく市遠塚ロ27
電話
076-285-1728
創業
1973年3月
従業員数
50人
事業内容
射出成形機部品、減速機部品(出力軸、ウォーム軸)、遊星減速機部品(低速軸、遊星軸)、工作機械部品(刃物台、主軸関連)、油圧機器部品の製造、モーターシャフト機械加工
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