環境の変化に応じて取引先を多様化。女性社員の多能工化、新規設備導入で事業拡大狙う 桑原プレス工業所(群馬県)
2023年06月22日 06:00
この記事に書いてあること
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。
創業から55年を迎えた有限会社桑原プレス工業所(群馬県桐生市)は、自動車用プレス部品の製造など、精密プレス加工を得意としている。だが、自動車業界の変化により需要構造が変化。これに対応して新規の取引先開拓を進め、成果も出てきた。新たなICT機器も導入してさらなる技術と品質向上、人材育成も図って事業拡大を目指している。(TOP写真:新規需要の開拓を進める桑原プレス工業所の桑原幸雄代表取締役社長)
精密プレス機27台を保有。自動車向け部品製造が主流
桑原幸雄代表取締役社長の祖父が、機械用部品製造として創業したのは1953年。1967年には有限会社として現社名に変更した。その後は、秤(はかり)用、精密機械、自動車用プレス部品だけでなく、板金溶接、金型設計などに事業を拡大し、工場棟は4棟に増えた。特に自動車向け需要が拡大し、現在では精密プレス機は14種27台を保有し、プレス加工事業の割合は約90%と最大だ。
3代目として桑原社長が継いだのは、2008年10月のことだ。だが、当時はリーマン・ショック直後だったため、受注が大きく減少。「社長としての初めての仕事は苦しいリストラからだった」と振り返る。その後は徐々に自動車向け需要も回復し、ロボット導入などの自動化を推進して生産設備の整備を進め、「自動車向け事業がピークを迎えたのは2014年」という。
電動化などで自動車向けが停滞。新規需要開拓に取り組む
桑原プレス工業所本社
主力の取引先である自動車業界は、部品共通化の進展で部品点数が減少。加えて、電子制御の進展、ハイブリッド車や電気自動車などの電動化により、「今後も部品点数の減少が進む」(桑原社長)と予測する。桑原プレス工業所はワイパーやブレーキ用部品などの製造が多く、電動化の影響を直接的には受けにくいが、部品市場全体の縮小により参入企業が増えて競争激化が見込まれる。同社にも電動化対応の部品製造の打診はあるものの、「競争が激しく、新規参入は難しい状況」という。
こうした状況下で、脱自動車を推進する考えだ。「売上高に占める主力の自動車向けプレス部品の割合は、ピーク時の約85%から、60%程度まで落ち込んでいる。自動車向けの事業規模は維持しながら、新規の業界の取引先を増やして全体の売上高を拡大していきたい」と意気込む。
他社にないプレス技術(絞り)を生かし、遊技機向けなどの新規需要つかむ
すでに、地元産業として盛んな遊技機向け部品の売上構成が25~30%に達しているほか、モーター用ケースや部品、家電や事務機器、航空機向けなどの需要を開拓している。新規需要を開拓できているのは、「当社は鉄板をプレス機で打ち抜いたり変形させたりするだけでなく、複雑な形状のものでも加工できる。材料の選定から加工方法まで、これまで培ったノウハウがある」ことが評価されてのこと。
同社の技術力の一端を示す事例がある。あるメーカーの電気ストーブ用フレームは、これまで3枚の部品を溶接でつなげていたが、接合部分の塗装がはがれ、液漏れが起きるなどの不具合が起きていたという。これに対し、同社は1枚の鉄板を加工して接合部分をなくしたフレームを開発し、受注につなげた。金属を金型で挟み、圧力をかけて精密に成形する「絞り」という技術に長けていたからこそ、できた製品だった。こうした技術力を評価してくれる機械商社など取引先の紹介がきっかけで受注につながることもあり、「横のつながりを大切にしていきたい」としている。
桑原プレス工業所が製造する各種のプレス部品
工場内にある大型の精密プレス機
小型プレス機もそろえている
品質ISOの再認証を取得。測定器の導入にも注力
プレス技術の優位性に加え、品質向上にも余念がない。社長就任時の2008年には、品質保証の国際規格「ISO9001」の認証取得に向けて準備を始めた。経営環境は厳しかったものの、「社員からも勧められた」ことで、外部コンサルティングにも依頼して取得に着手した。当時、自動車関連業界からは、「桑原さんの部品の品質は確かだから、認証を取得しなくても大丈夫」と言われたが、「自動車業界以外の需要開拓では認証が武器になる」(桑原社長)と考え、約2年をかけて取得した。現在では認証取得が普及しているが、当時のプレス業界としては珍しかったという。2022年には再認証も取得した。
品質確保という点では、「測定器には力を入れている」という。2022年には国の補助金も活用して、画像寸法測定器、3次元測定器を相次いで導入。「ここまで精密な測定機を使用するのは、一般的なプレス加工業では行わない」という。ここにも品質にこだわる桑原社長の姿勢が表れている。
3次元CAD(コンピューター支援設計)システムも2022年に導入した。自動車関連の取引先から3次元データを渡されたが、同社の既存の端末では読み込めなかった。そこで、今後の武器にもなると考え、こちらは群馬県の補助金を受けて導入を決めた。
女性社員の多能工化を推進。高齢者人材も活用
桑原社長は、人材活用にも力を注ぐ。自動車部品関連では組み立て工程が多かったため、女性の入社が相次ぎ、現在では社員の女性比率は約半数となっている。その後、組み立て工程は減ったが、ロボットなど自動機の導入で「女性でもロボットを使えば加工工程を担当できる」と考えた。社員の協力もあり、組み立てに加え、加工、検査などの多能工化を進め、社員のスキルアップも図れたという。「女性は根気強く、不良率も低いなど、予想以上の成果を上げた。今では品質管理も担当している」と喜ぶ。
工場内では女性社員の姿も目立つ
人材確保のためホームページも刷新しSDGsの取り組みも紹介
人材確保の面では、高齢者も活用する。65歳を過ぎても雇用を続けるほか、外部から高齢の経験者も採用している。中には、女性の高齢者もいるという。新規の商談では、インターネットで同社の技術を知って、というケースも増えていることから、「もっと見栄えのよいホームページにしたい」と考えていたところ、システム支援会社のアドバイスを受け入れながら刷新した。新しいホームページでは、障がい者も雇用していることから、SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みも明記した。
コスト転嫁交渉の成功事例も。後継者育成にも乗り出す
日本のモノづくりを支える部品製造業は、おしなべて人手不足、コスト上昇、価格競争の激化など経営環境は厳しい。ただ、桑原プレス工業所では「材料費などのコストアップ分の価格転嫁の交渉が認められるところが多くなってきた。非常にありがたい」という。桑原社長自らが出向いて交渉したもので、「やはり行動を積み重ねないとだめだ」としているが、同社の技術力が評価されたものとみられる。
桑原社長はまだ57歳だが、後継者の育成も視野に入れている。すでに子息も入社し、準備を始めた。後継者に継承するには、「少しでも道(経営路線や手法)を整備して、後進に渡したい」と、まだまだ経営改革を進めていく構え。
経営改革を推進する桑原社長
創業から55年を経ても、設備投資による技術や品質向上だけでなく、人材活用などに力を注ぐ同社。取引先との連携も深め、自動車だけでなく、新しい分野の需要開拓を図り、事業拡大を進めていく方針だ。桑原社長の経営手法からは、日本のモノづくり基盤の強さを感じた。
企業概要
会社名
有限会社桑原プレス工業所
本社
群馬県桐生市広沢町4-1998-8
電話
0277-52-4624
設立
1967年4月
従業員数
24人
事業内容
精密プレス加工、板金溶接加工、金型設計製作
記事タイトルとURLをコピーしました!