省エネ推進!照明のLED化で14%以上電気使用量削減 ペーパーレス化も推進中 九頭竜厚生事業団(福井県)
2023年06月23日 06:00
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障害者施設や高齢者施設を運営する社会福祉法人九頭竜厚生事業団は2022年5月から、福井市内で運営する障害者支援施設「九頭竜ワークショップ七瀬の郷」の照明をすべてLEDに変更。エアコンを使わない時期の電気使用量が前年比10%以上も減った。蛍光灯時には必要だった毎月何本もの取り換え作業も不要となり、同法人が運営する全施設でのLED化も検討し始めた。(TOP写真:自然豊かな山中に建つ「九頭竜ワークショップ勝山本部」)
働きながら生活する障害者支援施設を造る
社会福祉法人九頭竜厚生事業団は福井県職員だった故・五十嵐閑名誉理事長が1977年10月に設立した。五十嵐名誉理事長は県庁退職後、県の身体障害者入所更生施設のトップとして働いていたが、視察先の北欧で「日本の施設は単なる人の入れもの」と酷評されたことで奮起。「働きながら生活する障害者支援施設を造る」との志を打ち立てた。
故・五十嵐閑名誉理事長像(左)と、現理事長の五十嵐研治郎氏(右)
施設の場所として選んだのが、同県勝山市内にある標高340メートルの風光明媚な高地。県職員時代に訪れ、地域住民の人柄の良さも知っていたことから、職員とともに施設予定地の整地や農園、庭園の整備を進め、翌1978年4月に定員50人の障害者療護施設を開設した。同様の施設は全国的に少なく、県外からも入所者がいて、今も4分の1が県外からという。
清掃活動やお祭りなど地域住民と交流、天皇陛下から御下賜金
「自然と一体となって生活する中で、やすらぎを感じながら、笑顔あふれる」施設を目指し、地域住民との交流も重視。入所者や職員、地域住民らが一緒に行う清掃活動、地域の祭りの準備や運営協力、施設のイベントへの地域住民の招待なども行ってきた。
毎年6月に行われる「みなづき祭」で歌を披露する地元の小学校の学童
農場で植えたサツマイモなどの収穫時には、地域の小学校の児童を招いて交流。障害者らが自然環境の中で豊かに暮らしていることが評価され、1984年には優良民間社会福祉施設として天皇陛下より御下賜金(ごかしきん)が授与された。
七瀬の郷では温泉を掘削、地域住民に開放
その後も就労支援事業所や介護老人福祉施設などをニーズに応じて開設。2009年には福井市内の自然豊かな山中に障害者支援施設「九頭竜ワークショップ七瀬の郷」をオープンした。
入所者が利用する入浴施設。掘削した温泉が使われている
開設前には、温泉を掘削。入所者の入浴用に使うだけでなく、地域住民に開放した内湯の施設にも利用した。金・土・日の夕方のみ開放される内湯には毎回10人ほどが訪れ、敬遠されがちな施設を地域住民に身近なものにした。(2023年4月現在は利用を休止中)
週末の夕方、地域住民が利用した内湯の入口
入所者や職員、地域住民も交えた清掃活動は、七瀬の郷でも実施。施設内のイベントとして行う祭りには地域住民を招くだけでなく、近隣の中学生が出し物を演じることもある。また、中学生の職業体験などにも活用されている。
全照明のLED化で10%以上の電気使用量の削減に
その七瀬の郷は昨年まで、すべての照明が蛍光灯だった。地震などで蛍光灯が落下してガラス片が飛び散り、入所者の避難が困難になることも懸念され、2022年5月から数ヶ月かけてすべての照明をLED化した。
すべての照明がLEDになった七瀬の郷
工事費を含めて取り換え費用は約1200万円に上ったが、エアコンを稼働させない時期の11月検針の電気使用量は約3.5万kWhから3.0万kWhへと14%強の削減ができた。料金は月額10万円くらい安くなった。この冬は寒さが厳しかったため、エアコンの使用が増えて2、3月検針では電気使用量が前年より増えてしまったが、照明用の電気料金が月額10万円くらい安くなっていることを考えれば、年間で120万円のコスト削減効果があり、10年リースの年間料金120万円と相殺され、これまでと同じ照明コストでLEDに換えられたことになる。
BCPにも貢献、虫対策や照明の安定にも効果
懸念されていた震災害時などのガラス片飛散は、LED本体がガラス製ではないため、懸念がなくなった。また、LEDは原則として蛍光灯にもわずかに含まれる虫の好む波長の紫外線がないため、虫が集まらないという。古くなれば色が変わる蛍光灯のような灯りムラもないため、事務作業もしやすくなった。
「危険な取り換え作業が不要になったのがとてもありがたい」
五十嵐研一郎主任事務員が最大のメリットと話すのは、蛍光灯時には必要だった毎月何本もの取り換え作業が不要になったことだ。LEDの耐久時間は、蛍光灯の0.6万~1.2万時間に対し、4万~5万時間とされる。1日8時間の使用だと、LEDは20年近く取り換え不要。このメリットはただでさえ大きいが、取り換え作業が困難な場所となるとありがたみがさらに増す。
レクリエーションにも使われる七瀬の郷の食堂。天井が高く開放感があるが、蛍光灯の取り換え作業は危険を伴っていた
七瀬の郷の食堂は天井が通常よりも高く、大きな脚立を使って作業しなければならなかっただけに、五十嵐主任事務員は「高い所が苦手な私には怖いだけでなく、実際に危険でもあるので、この作業がなくなっただけでもありがたい。蛍光灯は産廃としての処分が必要だし、処分までの間の保管も大変なので、その点でも助かっています」と笑顔を見せた。
LED化のメリットを話す五十嵐研一郎主任事務員(右)と松井充広総務部長
LED化の補助制度もあり、他の施設では買い取りを検討
リースだと実質的にコストほぼゼロでLEDにできるが、買い取りで行えば、補助金制度が利用可能になる。国の制度などで取り換え費用の3分の1が補助されるため、仮に七瀬の郷と同様に1200万円のコストがかかったとすれば、400万円の補助が出て、実質800万円でLED化ができる。
写真・九頭竜ワークショップ七瀬の郷
年間120万円のコスト削減につながれば、7年で取り換え費用が相殺され、8年目以降は純粋に毎年120万円のコスト削減につながる計算だ。取り換えの手間が不要といったメリットも大きいため、九頭竜厚生事業団の松井充広総務部長は「他のすべての施設でも検討したい」と話している。
日報や介護記録、介護報酬の申請などをすべて電子化 職員の情報共有が進む
法人としてすでに進めているのが、電子化によるペーパーレス。2018年頃までは、日報や介護記録などをすべて手書きで行っていた。勝山市の施設が同市内で最も紙を多く使う事業所だったほど、その量は膨大だったという。その汚名を返上するために介護システムを取り入れ、各施設の日報や介護記録、介護報酬の申請などをすべて電子化。職員の理解を得るのに時間はかかったが、今はすべてペーパーレスで実施し、職員間の情報共有や資料閲覧などにも役立てている。
ペーパーレス化が浸透し、すっきりした七瀬の郷のオフィス
そして、現在検討しているのが入所者が通院時に持参する書類のペーパーレス化だ。今は、介護記録などをすべてプリントアウトして介添えの職員が医療機関に持参しているが、プリントアウトをやめて、すべてのデータをタブレットに入れる方向で検討している。松井総務部長は「タブレットに入れたデータの方が確実に見やすく、医療機関の方も喜んでくれるはず」と話す。
高齢者施設で見守りシステム導入、障害者施設でも検討へ
九頭竜厚生事業団では、2027年の創立50周年を前に、介護老人福祉施設「シルバーケア九頭竜」での見守り機器導入を決めた。同施設では入所者の看取りも行っているため、ある段階になると、職員の巡回は1時間に何度も行うほど頻繁になる。しかし、見守り機器を導入すれば、心拍数などのバイタルデータだけでなく、入所者の動きがカメラを通じてスマートフォンやタブレットで確認できるようになるため、巡回回数を大幅に減らすことができる。
リハビリ職員のサポートでeスポーツに取り組む七瀬の郷の入所者
また、看取り時以外でも、入所者の健康管理や転倒防止などに役立つ。松井総務部長は「看取り時の職員の肉体的、精神的負担の軽減は相当大きい」とみており、七瀬の郷などの障害者支援施設でも導入を検討している。
感染症対策のBCPではマニュアルの抜本改正により再発を防止
コロナ禍の中、七瀬の郷でも新型コロナウイルスの感染者が出た。その時点ではBCP(事業継続計画)がなく、対応が混乱して大規模クラスター発生に至ったことから、マニュアルを抜本改正。指揮命令系統や業務分担、個人防護具の着脱や消毒、清掃、換気などについて詳細な方策を決定。その後の感染者発生時には最小限にとどめることができた。
電気料金の1.5倍近い値上げ対応のためにもLED化を推進
エネルギー価格の高騰を受け、北陸電力は2023年6月使用分からの電気料金が1.5倍近くに値上げした。施設運営には大きな負担になるため、九頭竜厚生事業団では七瀬の郷以外の施設でもLED化を検討しているが、それでも電気料金の負担増は避けられない。施設運営の負担は増えるが、九頭竜厚生事業団ほど地域交流の盛んな施設は全国的に少ないという。それだけに、今後もICT導入などさまざまな工夫によって、運営基盤を固めてほしい。
企業概要
名称
社会福祉法人九頭竜厚生事業団
創立
1977年10月
本社
福井県勝山市平泉寺町岩ヶ野第42号61番地
電話
0779-87-3003
従業員数
259人 (令和5年6月1日現在)
事業内容
福井県内3ヶ所で、障害者支援施設や就労支援事業所、介護老人福祉施設など5施設11事業を運営
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