製造業(印刷)

メール管理をグループウェアへ クラウドストレージで情報管理の見える化、「製造業」から「思い出アーカイブ企業」へ変身 イシクラ(埼玉県)

From: 中小企業応援サイト

2023年06月21日 06:00

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初代社長の石倉武雄氏が、勤務していた卒業アルバム制作会社の経営者から事業を譲り受け、東京都荒川区で「石倉コロタイプ印刷所」を創業したのは1936年。3代目となる現在の石倉博幸代表取締役社長の祖父である。戦時中は休業を余儀なくされたが、終戦後の1947年に事業を再開した。本社を埼玉県川口市に移して本格的な製本・印刷の工場を建設し、業容拡大を図ってきた。学校数や取引業者の拡大とともに、個人のメール管理に依存してきた社内外の業務のやり取りは煩雑を極めた。セキュリティ対策の面からも一元管理が急務となり、クラウドストレージと「Microsoft365」によるネットワークを構築してメールボックスの共有化を実現。学校や生徒とのやり取りもカバーする柔軟なネットワークの運用が動き出し、今後のサービス拡大の可能性も広がってきた。(TOP写真:工場製本風景。イシクラでは年間2,500校の卒業アルバムを制作している)

累計1,000万冊の卒業アルバムを制作

子どもの増加と学校の新設、増設という高度経済成長時代の流れにも乗り、株式会社イシクラは卒業アルバム需要増に対応して工場や製本設備を増設。現在は関東や東海地方などを中心に約2,500校の卒業アルバムを引き受けており、制作した卒業アルバムの累計は1,000万冊を超えた。

イシクラ本社(学校の増加とともに業容を拡大。製本工場、印刷工場など増設を続けてきた)

イシクラ本社(学校の増加とともに業容を拡大。製本工場、印刷工場など増設を続けてきた)

石倉博幸社長が就任したのは2004年11月。1993年にイシクラに就職して以来、営業や管理部門など多様な業務を担当し専務取締役を務めていただけに、経営全般に通じていた。しかし、社長就任を要請された時には「業界の先行きや会社の問題点をよく知っていたので、社長をそのまま引き受けることにピンと来なかった」と苦笑する。気が進まなかったようだ。
入社してまもなく、それまで右肩上がりで伸びてきた業績が初めて前年度比マイナスの見通しとなり、当時社長の石倉一雄氏ら幹部も驚いていた。少子化や地方の過疎化の影響で、卒業アルバム需要が伸び続ける時代ではなくなっていたのだ。

「製造業をやめ『卒業』をコンテンツとして展開していく」と宣言した石倉社長

「製造業をやめ『卒業』をコンテンツとして展開していく」と宣言した石倉社長

だからこそ社長就任前から撮影や印刷機材などさまざまな新規事業への進出を模索したが、どの分野も専業の競争力にかなわなかった。曲折を経て、石倉社長は「卒業アルバムへの特化」を打ち出した。経済産業省の産業・業種区分では印刷業は「製造業」に分類されているが、石倉社長はあえて「製造業をやめる」と社員に宣言した。「『卒業アルバム』はブランドなんです。アルバムを作る製本屋ではなく、『卒業』をコンテンツとして売り込んでいこうと宣言しました」

学校には、卒業アルバムの完成品を販売するだけでなく、写真自体も思い出として売れるほか、例えば部活動のアルバムもニーズがあるという。部数が少ない分はWebの活用などコストダウンに知恵を絞った取り組みを試行。「卒業」を核とした多様なサービス展開を検討している。
新しいサービス展開に備えるために不可避なのが、メールや写真データのやり取りなど社内外のコミュニケーションの「見える化」だ。営業部門と膨大な 取引業者や客先とのやり取りは個人メールに依存していて、卒業アルバムの素材入手や管理の方法が統一されていないため工程管理に遅れが発生したり、セキュリティ対策が難しくなっていた。

インフラ整備し「思い出アーカイブ企業」へ脱皮

開発課が中心となって取り組んだのは、事業の再定義と課題の整理、そのための具体的な対応策だ。製造業である「卒業アルバムメーカー」から「思い出アーカイブ企業」への脱皮を図るために、社内のあちこちに散らばっていた個人任せだった情報管理や社内外のコミュニケーション環境の一元管理を目標に置いた。
これらの検討を通じて2022年4月に導入したのは「Microsoft365」とクラウドストレージだ。Microsoft365でメールボックスの共有化や業務アプリケーションとの連携を実現。データの格納庫には、容量が無制限でアクセス権限をきめ細かく設定できるクラウドストレージを活用した。体系化されたフォルダー作成が可能で、データ提供時の統一ルールも確立。生徒や保護者からの写真回収も受け付けられるようになった。

体系化されたフォルダーは、例えば「学校関連」だと都府県、小・中・高校など学校種類別、各学校ごとに階層化。学校や外部コラボレーターとの写真やデータの出稿・確認や生徒からの使用写真の受付などきめ細かなやり取りが年度ごとに保存され、共有化される仕組みを作った。
外部コラボレーターからアップロードされた出稿データは学校ごとのフォルダーに仕分けられ、出稿フォルダーからダウンロードしたデータはクラウドストレージの自動処理機能によって、年度別フォルダーに格納される。
クラウドストレージの現在の利用状況は外部コラボレーターのアカウント数が169件、共有フォルダーの数が1,103件、アップロードされた写真点数は80万点に上る。

Microsoft365の共有メールボックスの利用も開始した。「社内の十数人が共有アドレスを保有して1日40~50件を運用している」(内田駿輝開発課長)状況で、システムのパフォーマンスや業務改善効果などを検証しながら、埼玉県内のサッカーなどスポーツクラブのアルバム制作と社内の業務用メールのやり取りを実施している。

工程管理一元化で締切遅れが解消

約1年続けた試験運用の成果について、内田課長は「一元管理によって全データの経路が把握できるようになり、セキュリティ面のリスク管理が可能になった。写真データをDVDなどで持参することも多かったカメラマンなど外部コラボレーターもクラウド上でやり取りできるようになり、双方の作業効率が向上した」と手応えを感じている。今後は顧客や取引業者とのやり取りをすべて共有化していく方針だ。

Microsoft365でメールボックスを一元管理する

Microsoft365でメールボックスを一元管理する

多くのカメラマンが写真データをDVDなどで持参していた時は、個人任せの工程管理が煩雑な上、締め切りを過ぎてからの納品が繰り返されていた 。クラウドストレージ導入によって大容量データのアップロードも容易に行えるようになり、全体管理が可能になったため「締め切りを過ぎることはほぼなくなった」(内田課長)という。

今後の全社展開に向けて、課題も見えてきた。ストレージ上で作業をする際にクラウドストレージ は時間帯によって速度に差が出るため、業務効率が一定しない問題がある。また、Microsoft365で顧客データの一本化を図る予定だが、工場のスタッフは管理者を通じた入力を行っている状態のため、見える化のさらなる拡大も検討していく。

卒業アルバムに関する膨大なデータや学校、取引先企業とのコミュニケーションをICT化によって抜本改革するために、同社が試行したアプローチは「やれるところから始めたのが良かった。クラウドストレージの導入は管理面が心配と考えがちだが、逆にクラウドストレージ側で仕分けや管理を自動処理してくれるので自分1人で抱える必要がなくなる」(内田課長)と導入効果を説明する。

イシクラの工場

イシクラの工場

国内の小・中・高校は児童の減少により統廃合が進み、専門学校や保育園などを含めても卒業アルバムの「顧客」層は減り続けている。イシクラが拠点を置くさいたま市も人口増加傾向が頭打ちとなっている。卒業アルバム事業が全体の8割近い同社も「制作部数は年1~2%減っている」(石倉社長)状況で先行きは決して明るいわけではない。ICT化による業務改革は生き残りと新サービス展開を狙う攻防一体の経営戦略ともいえる。

今後、卒業アルバムなどに使用する写真をクラウドストレージ上で教師や生徒に選んでもらえるサービス提供や、新規商材のインフラとしてもクラウドストレージを活用していく可能性を検討中。社内インフラの確立によって、新規サービスと新たな営業展開も準備しており、「思い出アーカイブ企業」への脱皮を加速することになりそうだ。

企業概要

会社名

株式会社イシクラ

本社

埼玉県さいたま市岩槻区古ヶ場1-6-11

HP

https://www.ishikura.co.jp/

創業

1936年9月

従業員数

160人

事業内容

アルバム・出版物の企画制作・印刷製本、写真用資材等の製造販売

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