会社もシステムもひとつにつながる「One KOA」 が合言葉。「Notes」から「Microsoft 365」の移行に成功した KOA(長野県)
2023年06月30日 06:00
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クライアントサーバー型グループウェアの代表格として、産業界に広く普及している「Notes」からクラウド型の新しいグループウェアへ移行する、いわゆる「脱Notes」が多くの企業で課題となっている。Notes導入当時の開発担当者の退職・異動によるNotes技術者不足や、拡張してきたデータベース(DB)の氾濫などにより、Notes環境自体がブラックボックス化してしまっていることも一つの要因だ。そこにコロナ禍によるワークスタイルの変化が火をつけた。コロナ禍よりも前に、ひと足早く「脱Notes」に成功したKOA株式会社の事例を取材した。KOAは東証プライム市場上場の大企業だが、中堅・中小企業にとっても大いに参考となりそうだ。(TOP写真:KOA株式会社経営管理イニシアティブ情報システムセンターの北澤喜代志ゼネラルマネージャー㊥、伊藤輝プロフィットマネージャー㊧、唐澤淳一プロフィットマネージャー㊨)
2030年に向けた長期ビジョンのスローガンは、「Essential Parts of the World」
KOAは1940年に「興亜工業社」として創業した。若き創業者が自分のふるさとであり、貧しい農村地帯だった長野県伊那谷に工業を興し、農業を営む地域の人たちに、お百姓がお百姓としての暮らしを守りつつ安定した収入を得る道を拓くことで、地域を豊かにしたいというのが創業者の想いだ。以来、創業者の「伊那谷に太陽を」という夢をかなえるために、「農工一体」というビジョンを掲げ、地域に根ざした経営を続けている。
伊那谷の田園地帯の一角に松林に囲まれてある「KOAパインパーク」。本社をはじめ研究開発部門、生産棟、社員用レストランなどで構成している=KOAチャンネルの動画より
創業以来一貫して、電気回路に不可欠な固定抵抗器の製造を主力事業とし、固定抵抗器では世界トップクラスのシェアを誇る。アジアに置いた生産拠点5ヶ所をはじめ、海外7ヶ国に販売拠点を配し、ドイツには研究開発拠点も置いている。国内外を合わせた従業員数は約4,300人。近年は、ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)など環境対応車への移行に伴って自動車向けが需要をけん引しており、2023年3月期は3期連続の増収増益と業績好調だ。
2022年4月には2030年に向けた長期ビジョン「2030ビジョン」を策定し、「Essential Parts of the World」というスローガンを掲げた。「私たちKOAは世界を支える必要不可欠な部品メーカーとなり、豊かな社会をつくる世界の一員でありたい。小さな部品で世界に大きな変化を起こします」といった意味が込められている。
全員参加型の改善活動KPS(KOA Profit System)の「しんか」
同ビジョンの重点施策の一つとして、全員参加型の改善活動KPS(KOA Profit System)の「しんか」が挙げられている。「しんか」とは進化、深化、真価の3つの意味を込めたKOA独特の言葉だ。KPSは2010年から第3ステージに入っており、「共創できる研究開発型企業」へと「しんか」することを目指している。
同ビジョンの目標は、EV等のモビリティ市場や産業機器市場向けの需要を確実に取り込むとともに、2040年の創業100周年に向け、新たな事業領域への取り組みを加速することにある。そして2024年までの最初の3ヶ年は、「『確実な成長』を実現するための基盤づくり」に注力する期間と位置づけられている。
KOAパインパーク内にある本社
情報システムセンターはデジタルの力で、現実社会の中にあるさまざまな壁を取り払い、「One KOA」の実現を目指す
「『2030ビジョン』を達成するために、私たち情報システム部門が果たすべき役割として、”One KOA” の実現に貢献しようと決めました」 こう語るのは情報システムセンターの北澤喜代志ゼネラルマネージャーだ。
同センターは、「経営管理イニシアティブ」と呼ぶ本社機能を担う部門の中に、総務、人事、財務、経営戦略、CSRなどと並んで置かれている部署で、全社の情報システムを統括管理している。北澤ゼネラルマネージャーは、その25人から成るシステムエンジニア(SE)集団を率いている。
同センターが掲げるビジョンは ”One KOA”、「私たちは『しんか』し続ける。『ひとつのKOA』になる為に」というものだ。「2030ビジョン」の策定に向けて社内で行われていた議論と並行して、同センターのメンバー全員が1年かけて議論し、まとめたものだ。
「つまり、私たちの得意分野であるデジタル技術の利活用によって、組織の壁や、海外を含めた地域の拠点間にある距離の壁、言葉の壁など、現実社会の中にあるさまざまな壁を取り払い、KOAグループ全体がグローバルなひとつのチームとなって、より強くつながっていきたい。その為に必要な環境を提供し、それを使ってくれる皆さんと私たちも一緒になって仕組みづくりを行い、より良い状態で次の世代にもつないでいきたいということです」
「One KOA」の実現には、これまでの拠点別最適化を見直し、国内外のIT担当者との連携を密にする必要がある
「当社のシステムはこれまで、各拠点別に必要な機能を必要な時に必要なだけ導入してきた経緯が有り、その時、その場所、その業務に最適なシステムを導入してきました。システムの成長段階としてはそれが最善の選択ではありましたが、今日現在KOAグループ全体を俯瞰して見ると、拠点毎・機能毎にバラバラなシステム構成になってしまっています。グループ全体の状況を見ようとする時に、必要なデータや情報を集約するのに手間をかけなくてはならず、タイムラグが生じる。例えば私たちが過去数年で経験してきたコロナ禍の影響による急激な需給の変動やサプライチェーンの途絶のように、各エリアで起きている変化の兆候にいち早く気づき、今後の変化を先読みし、短時間で意思決定を迫られるような状況を想定すると、これまでのシステムの構成のままでは変化への対応が遅れてしまうという危機感があったのです」と、北澤ゼネラルマネージャーは同ビジョンに込めた意味を強調し、話を続ける。
「One KOA」になるためには、情報システムそのものの見直しのみならず、国内外関連各社・各部門にいるIT担当者らとの連携を密にし、相互支援体制を構築することも重要なミッションになる。海外関連会社のIT担当者とは年間1、2回の頻度でITミーティングを開催しているが、担当者同士のコミュニケーションを深めるとともに、システムの標準化・統一に向けた議論も開始した。
「従来のシステムの構成がネックになる」と話す北澤ゼネラルマネージャー
今までのシステム構築は、必要な機能を、必要な時に、必要なだけ作ってきた。結果、全体としてのつながりがない状況になっていた。
「Notes DBを使ったシステム開発も同じで、必要な機能を、必要な時に、必要なだけ作ってきました」と、北澤ゼネラルマネージャーの言葉を引き取るのは、同じ情報システムセンターDX推進グループの唐澤淳一プロフィットマネージャーだ。
DX推進グループは2022年4月に同センター内を3つに分けた組織のうちの一つで、新しいデジタル技術を活用した業務変革、いわゆるDXの推進を担う。残りの2つは、ITを活用した業務改善の推進とよい改善事例の横展開を担う「IT化推進グループ」と、安心・安全・快適で継続的な情報通信環境の提供を担う「ICT基盤グループ」で、両グループのトップを伊藤輝プロフィットマネージャーが兼務している。なお、ゼネラルマネージャーは部長職、プロフィットマネージャーは課長職にあたる。
NotesはDB(データベース)と呼ぶファイルが一つのアプリケーションになっており、例えば、営業部門では顧客への拡販案件を管理する「案件管理DB」、続いて製品の仕様を変更する際に顧客承認の状況を管理する「変更申請DB」というように、従来エクセルで管理していた機能を、都度必要に応じてNotes DBに置き換えてきたという経緯がある。しかし、このDB同士が連携されておらず、同じ営業所の同じ顧客であっても、DBごとにファイルを開き、顧客名を入力して検索し直さないと、その顧客の拡販案件と変更申請の情報を確認できないという状況が発生していた。
Notes DB構築時の反省を踏まえ、「全てのデータがつながること」を意識した
2018年に世の中でクラウドコンピューティングが話題になり始め、2020年に予定されていた東京五輪開催期間中の交通混雑緩和のため、首都圏の企業が在宅勤務を検討するといった話を聞くようになり、「私たちも、今後の新しい働き方、多様な働き方への対応と、間接業務の生産性向上につながる環境づくりが必要と考え、Microsoft 365(当時Office 365)に移行することを決めました」(唐澤プロフィットマネージャー)。 移行プロジェクトは情報システムセンターのスタッフのうち、唐澤プロフィットマネージャーを含めた4人が担当。完全移行期限は、2025年3月と決め、海外拠点もNotes資産が圧倒的に多いアメリカとドイツを除いて、日本と歩調を合わせることになった。
Microsoft 365導入決定後、まずメールとスケジュール共有の機能を移行するため、4人で手分けして、国内のすべての工場と営業拠点で説明会を開いて歩いた。並行して、それぞれの部門ごとに移行する時期を設定し、段階的に切り替えを実施。対象となった海外拠点には、テレビ会議システムを利用して説明会を開催した。当時はまだ、専用回線と専用ハードウェアを使う据え置き型のテレビ会議システムだった。
2019年12月よりMicrosoft 365を日常で使用、Teamsも使用開始、2020年2月からのコロナ禍に間に合う絶妙のタイミングだった
2019年12月にはドメインの変更を伴うメール、またスケジュール共有機能やSharePointを用いたファイル共有も含めて、全社的にMicrosoft 365を日常的に使用する形へと移行することができた。その後、Notes DB移行において、顧客管理(CRM)や営業支援(SFA)などのデジタルセールスマーケティングに適したクラウド型システムをいくつか検討した結果、「Dynamics 365」を採用することを決めた。Microsoft 365とDynamics 365は同じプラットフォームのため直接連携できる。「過去の反省を活かし、すべてのデータがつながるということを強く意識した結果です」(唐澤プロフィットマネージャー)。Dynamics 365のCRMやSFAを稼働するためにNotes DBに蓄積されているデータを移行する作業を進めてきており、前述の「案件管理DB」については2023年1月よりDynamics 365で稼働を開始した。
Microsoft 365への移行時に、Web会議システムの「Teams」も導入。2020年2月頃から発生したコロナ禍による在宅勤務などワークスタイルの変化に柔軟に対応することができた。「一気に世の中が変わりましたから、(脱Notesを)やっておいて良かったと思いましたね」(唐澤プロフィットマネージャー)。
コロナ禍前に脱Notesを実現しておいて「良かった」と語る唐澤プロフィットマネージャー
Microsoft クラウドの環境下で、「Power BI」の活用により、情報共有や会議のスピードが向上
Microsoft 365やDynamics 365の中に蓄積されるデータの中から必要な情報を抽出し、グラフなどの見やすい形で見える化・分析するツール「Power BI」の活用も進んでいる。「Notes」を使っていた時は、必要なデータをNotes DBからエクセルに抽出し、手作業で加工をしていた。
「Power BIの活用により、会議の効率化も期待できます。例えば、これまで毎月の会議で共有されていた定型的なグラフがPower BI上で常時更新されるようになり、変化への気づきが早くなります。また、集計期間や対象の絞り込みなど、集計条件の変更がその場で行えるようになった為、変化点の要因分析や今後の予測などの議論が、いくつもの観点で、会議の時間の中で行えるようなりました。これまでは、翌月の会議を待たなければならなかったり、仮説で議論していたものが、その場でデータに基づいた議論ができる様になったことの効果は大きいと感じています」北澤ゼネラルマネージャーの実感だ。
Dynamics 365の情報をもとにKPIの状況を表示 (ダミーデータによるイメージ)
企業概要
会社名
KOA株式会社
本社
長野県上伊那郡箕輪町大字中箕輪14016 KOAパインパーク内
電話
0265-70-7171
創立
1940年3月
従業員数
単独1,553人、連結4,144人(2022年3月31日現在)
事業内容
各種電子部品の開発・製造・販売
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