社長自らがICT建機を操作して性能を実感。建設DXを推進して地域インフラを守る 浅沼建設工業(岡山県)
2023年10月13日 06:00
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かつて古代吉備王国の中心とされ、歴史遺産に恵まれ、豊かな自然や田園風景が広がる岡山県中南部の総社市で、技術と誠意を大事にしながら地域のインフラストラクチャーを支え続ける総合建設会社がある。1952年設立の浅沼建設工業株式会社だ。激甚化する自然災害への対応や人手不足、労働時間への規制強化といった様々な業界の課題に対応するため、建設DXへの対応を加速している。(TOP写真:浅沼建設工業が導入している土木工事の施工管理システム)
岡山県総社市のインフラを支える総合建設会社
浅沼建設工業株式会社は、土木工事から設備工事、資材調達、廃材運搬まで一貫して対応する総合建設会社だ。昔ながらのたたずまいを残す駅舎が国の登録有形文化財に指定されているJR美袋(みなぎ)駅近くの幹線道路沿いに本社を構える。公共工事を中心に、地域に住む人たちの細かい工事の要望にも丁寧に応えている。約20年前から新規事業の一環として、竹を原料に環境に配慮した堆肥「A(えぇ)~たけ」の製造、販売も行っている。環境保護を大事にする企業イメージを発信する上で効果を発揮しているという。
2年連続で岡山県から優良建設工事表彰
「地域に支えていただくことで続いてきた会社です。全従業員一丸となって技術と誠意で地域のまちづくりに貢献していきたいと考えています」と難波亮介代表取締役は話す。充実したOJTとともに、土木関連の資格取得に挑戦する従業員の講習費を会社が負担するなど、人材育成にも力を入れている。
台風や大雨による落石、倒木などで市内の道路が塞がれた時はすかさず緊急対応にあたる。2018年7月の西日本豪雨で総社市が受けた水害からの復旧事業や高梁川流域の堤防補強工事にも尽力してきた。一連の取り組みは高い評価を受け、2022年から2年連続で岡山県から優良建設工事の表彰を受けている。
「災害復旧事業は今年度内にはほぼ完了する目処が見えてきました。今後は老朽化した水道管の再生や地震に備えた耐震化工事が重要な取り組みになると思っています。全国的に数十年に一度の災害が毎年のように起こるようになっているので、気を抜くことはできません」と難波社長。
約20年前から土木工事の施工管理、土木積算のシステムを導入
約20年前から土木工事の施工管理、土木積算の業務で専用システムを導入し、バックオフィス部門の業務効率化と従業員の負担軽減に取り組んできた。「人口減少に伴って建設業界のみならずどの業界も人手不足です。その状況下で一人ひとりの従業員に負担がかからない働きやすい環境を整えていかなければなりません。そのためにも積極的にDXや遠隔臨場の導入、ICT化を進めていかなければならないと思っています」と難波社長は表情を引き締めた。
専務がキーパーソンとなり、段階的にICT建機を導入
浅沼建設工業は近年、情報通信技術を取り入れた建設機械、ICT建機の導入に力を入れている。2022年12月には、GNSS(全地球測位システム)による位置情報と3D設計データ、センサーを連動させたシステムで操作のセミオート化を実現したICT油圧ショベルを導入した。
同社のICT建機導入のキーパーソンとなっているのが栗原専務取締役だ。国土交通省が2016年4月、全ての建設プロセスでICTを活用するi-Construction(アイ・コンストラクション)の推進を提唱して以降、栗原専務は岡山県発注の大規模公共工事での活用を念頭に、費用対効果を考えながら段階的にICT建機の導入を進めてきた。2021年5月、リースでICT建機を試験的に活用して使い方を把握した上で、同年秋にGPSやセンサーがセットになった既存の建設機械に後付け設置できるICT機器を購入した。ドローンを活用した3次元起工測量にも取り組んでいる。
「行政がICT施工の普及に力を入れていることもあり、建設DXの流れは今後ますます加速していくに違いありません。ICTを活用すればこれまで複数人が必要だった仕事を1人でこなせるようになるので、労働生産性は確実に上がります。新しい技術を会社に根付かせるには一定の時間もかかるので、いつまでも手をこまねいているわけにはいきません。ICT建機の導入は価格や維持費を考えると簡単ではないと思いましたが、思い切って踏み切ることにしました」と栗原専務は振り返った。
導入したICT油圧ショベルは、掘削する際、あらかじめ設定した地点にバケットの刃先が到達すると自動停止する機能を備えている。この機能のおかげで、操縦者は掘り過ぎを気にすることなく、安心して作業を進めることができる。掘削に入る前に行う丁張の設置や刃先位置の確認といった作業の必要がなくなることで、従来なら2人以上を要した作業を建機の操縦者だけでこなすことができるという。また、建機の作業をサポートするために人が近寄る必要がなくなるので、接触事故の未然防止も実現できる。
ICT建機を理解するには操作してみるのが一番
難波社長は当初、費用対効果の観点からICT建機の導入にそれほど積極的ではなかったという。だが、実際にICT建機を操作した後、その考えは180度転換した。「当初想定していた以上の精度で掘削できたので本当に驚きました。業務効率化に大きな効果がもたらされることを実感し、投資するだけの価値は十分にあると判断しました。ICT建機を理解するには操作してみるのが一番ですね。経験が少ない若手よりもベテランの方がそのメリットを実感できると思います」と難波社長は話した。
栗原専務は、従業員全員にICT建機の便利さを実感してもらい、使いこなせるようになってほしいと思っている。「ICT建械を使えば使うほど従業員も仕事が楽になると思うので、負担をかけないようにしながら使う機会を増やすようにしていきたい。ICT建機を普段使いできるように長期的な視野で体制を整えていきます」と栗原専務。
ブログで会社の活動をタイムリーに発信
企業向けのホームページ作成システムを2020年から導入し、情報発信に取り組んでいる。会社案内、事業内容、施工実績、求人情報を掲載するとともに、取り組んでいる工事、新規車両の納入、社員旅行などの情報をブログでタイムリーに発信している。ブログを担当している栗原専務は「会社の雰囲気や日頃の活動を多くの人に知っていただければと思って地道に取り組んでいます。ホームページの活用についてこれからも研究を続けていきます」と明るい表情で話した。
電子小黒板アプリケーションで工事写真の撮影を省力化
建設現場の施工状況や施工経過を記録する工事写真の撮影でもICTを活用している。記録用の工事写真を撮影する際は、撮影者以外に、工事名や年月日などを書き込んだ小黒板を持って写り込む要員を配置するか、小黒板を設置する必要がある。そこで省力化と効率化のために、必要事項の写り込み機能を備えた電子小黒板アプリケーションを2022年1月に導入したという。アプリケーションはスマートフォンにインストールするだけで簡単に使うことができる。
「1人で時間をかけずに工事写真を撮影できるのは本当にありがたいですね。実際に小黒板に必要事項をチョークで書いていた時と比べると格段に作業が楽になりました。写し込むデータを事前に準備しておけば後はスマートフォンで撮影するだけで作業が完了します。撮影した画像データはクラウドサーバーに自動的に送信、保存されるので、紛失の心配もなく整理もしやすく助かっています」とアプリケーションの導入を進めた黒瀬常務取締役は話した。
3D施工データ作成の内製化を目指してシステム導入
2022年6月には、ICT建機を動かす鍵となる3D施工データの作成システムを導入した。現在、3D施工データの作成は外部に委託しているが、自社で作成できるようになれば、コストと時間をその分節約できる。近い将来、岡山県などからの発注工事の図面が3D化された場合に備えて今から技術を蓄積する狙いがあるという。
前向きに挑戦する姿勢が何より重要
「ICTを活用することで、現在の体制で仕事量が増えても従業員に負担をかけずにこなしていける見通しを立てることができました。ICTを使いこなすことで総合建設会社としてのポテンシャルをさらに高めていきたい。一連の改革を通じてこれからも地域にしっかりと貢献していきたいと考えています」と難波社長は意欲的に語った。浅沼建設工業の取材を通して、地域の建設会社が建設DXの波を乗りこなすには、前向きに挑戦することが何より重要であることを改めて実感した。
企業概要
会社名
浅沼建設工業株式会社
本社
岡山県総社市美袋152
電話
0866-99-1351
設立
1952年10月
従業員数
19人
事業内容
総合建設業、上下水道設備事業、生コン製造販売、真砂土販売、竹肥製造販売、家屋解体業
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