取扱高のほぼすべてが果樹販売で異彩を放つ「フルーツ王国」を牽引する地域農協 役職員がワンチームで経営改革を推進 フルーツ山梨農業協同組合(山梨県)
2024年10月15日 06:00
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落葉果樹日本一を誇るフルーツ王国の山梨県にあって、東山梨地区は県内の果樹生産量の4割を超える一大産地だ。年間の販売品取扱高の実に99.9%をブドウやモモなどの果樹販売が占め、全国の地域農協で異彩を放っている。
フルーツ山梨農業協同組合(JAフルーツ山梨)は山梨県甲州市に本所(本部)を置く農業協同組合で、東山梨地区にあった10農協が合併し、2001年2月に発足した。組合名の文字通り果樹生産に恵まれた立地特性にあるとはいえ、農業従事者の減少、高齢化や耕作放棄地の増加、異常気象など果樹栽培の環境は厳しさが増している。このため、JAフルーツ山梨は健全で持続可能な組合活動に向けて経営改革に取り組んでいる。(TOP写真:JAフルーツ山梨の直販サイト。売上の大部分を占めるブドウとモモ)
甲府盆地の東部エリアは、江戸時代からブドウをはじめとした果物の一大産地 世界的な温暖化が進む中、現在も県と農協と農家でフルーツ王国を支える
有名な松尾芭蕉の句にも「勝沼や 馬子もぶどうを 食いながら」とあるように、甲府盆地の東部エリアはブドウ、モモ、カキ等古くから果物の産地として知られていた。昭和13年に当時は山梨県立農事試験場園芸分場(現山梨県果樹試験場)が設立され、戦後の農地解放後、農協が設立された。山梨県、農協、農家の三者が協力しながらこの地に合った品種の開発や改良が以前にもまして活発になった。近年は温暖化の影響が大きく、高温化とこの地域の特性に合った美味しい品種の改良や開発を10年単位で行い、県と農協と農家のチャレンジ精神で「フルーツ王国」を支えている。
温暖化の影響は農業にとっては非常に大きく、果樹栽培は微妙な変化にも大きな影響を受けるため、現在でもこのエリアが「フルーツ王国」と言われるのは、その裏にあるたゆまぬ努力と古くからこの地で培われた進取の気性が大きい。
2023年度販売総額は組合発足後最高の183億円を達成
JAフルーツ山梨は現在、1万500人超の組合員(法人を含む)を抱え、7,100人超の正組合員と3,400人超の准組合員で構成される。このうち実際に生産品をJAフルーツ山梨に出荷している正組合員は4,000人強に達する。主な事業としては①営農指導②販売③購買④共済⑤信用—と全国の地域農協に共通する5事業を展開している。職員数は350人で、本所の傘下に①山梨②塩山③笛川④勝沼—の4地区ブロック・9支所を構える。
主力販売品の果樹はブドウ、モモが中心で、このほかスモモ、カキ、サクランボ、リンゴ、キウイフルーツなどを扱う。2023年度は異常気象から「白鳳」などのモモに核割れや着色不良が発生し、生産量・販売単価が前年度から減少。ブドウも売れ筋の「シャインマスカット」の栽培面積・販売量が全国に広がり、単価が頭打ちになるなど、主力生産品は厳しい環境に見舞われた。しかし、「組合員の協力と役職員の努力に加えて「シャインマスカット」の生産量が増える中で、2023年度の販売品取扱総額はJAフルーツ山梨発足以来最高の183億円を超えた」(西島隆代表理事組合長)。
JAフルーツ山梨として発足して以降、販売品取扱高が最も低かったのは2015年度の130億円。モモとブドウの販売額が拮抗(きっこう)していた時期で、その後はブドウの比率が上がり、販売品取扱高は増え続けてきた。そのまま右肩上がりで推移し2018年度には159億円まで上がったが、モモのせん孔細菌病の感染が広がり、台風の被害にも見舞われた2019年度には出荷量が減少し、販売品取扱高も150億円まで下落した。ただ、県を挙げてのせん孔細菌病防除対策に加えて、組合員の努力、協力もあり2021年度から3年連続で180億円超の販売品取扱高をキープしてきた。
持続的な組合員サービスの提供に経営改革を断行 24支所を9支所に統廃合
しかし、地域農協は諸課題を抱えており、経営改革に手を抜くことは許されないのが現状だ。確かに、コメ生産を主体とする地域農協に比べて、JAフルーツ山梨は付加価値の高い果樹で販売品取扱高のほぼすべてをカバーする恵まれた環境にあることに疑いはない。ただ、農業を取り巻く環境は農業従事者の減少、高齢化や耕作放棄地の増加、さらにウクライナ情勢や円安・ドル高での燃料、肥料、生産出荷資材などの価格高騰と農業経営にとっては逆風が吹き続けている。
そうした組合員を支える農協としては、経営改革を通じて確固たる経営基盤を築き、継続的に充実・安定した組合員サービスを提供していかなければならない。この点、JAフルーツ山梨はかねてから経営の合理化、組織のスリム化に取り組んできた。
そもそもJAフルーツ山梨が管轄する東山梨地区にはかつて24の地域農協が存在していた。それらが東山梨、山梨日川、日下部、山梨市八幡、岩手、塩山市、松里、笛川、勝沼町、菱山の10農協に再編され、それらが県下8農協構想の一環として2001年に合併し、JAフルーツ山梨が発足した。ただ、24農協の名残は最近まで存在し、JAフルーツ山梨には24支所体制が続いてきた。これを支所等再編計画に基づき支所統廃合を実現したのが2023年4月で、現在の本所・9支所体制に移行した。
JAフルーツ山梨が大幅な組織変更に迫られた背景の一つには2016年の改正農業組合法の存在がある。改正農協法は農協が農業者の所得向上に向け農産物の有利販売と生産資材の有利調達に最重点を置いて事業を運営することを狙った。このため、地域農協は組織の見直しを含めた自己変革を迫られた。
西島代表理事組合長は「農協改革という意味では合併した当時から少しずついろいろな改革に取り組んできた。ただ、農協法が改正され、危機感を持って農協改革、経営改革に取り組み始めた」と振り返る。その上で「2019年~2021年の3年間、集中的に改革を進め、その中で大きな変革につながったのが24支所の9支所への統廃合の実現だった」と話す。
共済・信用事業への依存から脱却し、経済事業を農協経営の柱に 人事考課制度も見える化し、職員のモチベーションアップへ
また、「経営改革を迫られたもう一つの大きな要因は低金利時代という背景があった」と廣瀬公元代表理事専務は指摘する。JAフルーツ山梨に限らず、地域農協は一般的に共済事業と信用事業の収益で運営が成り立ってきた。しかし、低金利時代が長期化し共済・信用事業に不透明感が強まり、「農協の経営基盤が脆弱になり、農協は経費節減や合理化を通しての経営改革を迫られた」(廣瀬代表理事専務)。
こうした環境下でJAフルーツ山梨は共済・信用事業への依存度を下げることに尽力し、本業である経済事業の収益率向上につなげてきた。この結果、西島代表理事組合長は「かつては収益の大半を占めていた共済・信用事業による収益が今は半分以下の45%に下がった。半面、販売、購買の経済事業の収益は55%を占めるまでに上昇した。大半の地域農協は経済事業が赤字に陥っている中で、経済事業の収益が農協経営の柱になっていることは、JAフルーツ山梨が胸を張れるところだ」と力を込める。
経営改革でもう一つ大きな取り組みが人事考課制度の見直しで、2024年4月に実施した。24支所を統廃合した際に足並みがそろわなかった給与体系の統一化などを図った。「経営規模の異なる農協が合併した経緯もあって、職員の年齢は同じでも給与額はバラバラという状態だった。これを業務に対する責任と能力に応じてきちんと評価する制度とした」と廣瀬代表理事専務は話し、「これにより職員のモチベーションも上がる」と期待する。
資料のデジタル化を推進 今まで多くの紙資料を必要とした理事会・委員会も、事前にタブレットで資料確認出来るため「ペーパーレス&効率運営」が可能となった
一方、経営改革の一環として業務のデジタル化にも取り組んでいる。経費削減に向けた業務のペーパーレス化が狙いで、2023年3月には本所・支所など全事業所に約30台配置していた複合機を、すべて最新の機種19台に入れ替えペーパーレス化を推進した。また、タブレット端末60台を新たに導入。理事会の出席メンバーである役員、部長、所長、事務局に配布し、ペーパーレス会議を実現している。
企画管理部企画管理課の荒井文弘リーダーによると、「理事会、委員会だけで参加者に配布される紙ベースの資料は年間300件にも達する。会議の直前に差し替えが必要となった場合は大慌てだった」という。参加者は農家で高齢者が多く、デジタルにはなじみが薄いことから敬遠しがちで、どうしてもアナログな紙媒体での配布を望んでいた。しかし、紙の価格は毎年上がり、経営改革で経費削減に取り組む中でペーパーレス化は欠かせないと判断した。さらに会議の招集なども郵送で配布していたのがタブレット端末への送信で済むようになり、郵送代の削減にもつながっている。
タブレット端末を採用した当初は操作に苦労した面はあったようだが、紙ベースだった頃は会議当日に資料が配られ、そこで初めて説明を受けるという形が、今では事前に資料を送付する形に切り替わったことで、会議自体の運営も効率的になっている。タブレット端末は役員への配布にとどまっているものの、毎月1回の配布物があり、今後は管理職クラスまでにも電子媒体での配布を検討する余地はあるとみている。
複合機も単純に既存の30台を更新したわけではない。経費削減という観点から、コピー機能しか活用していない複合機のケースや、FAX専用機が使われていたという状況を総合的に判断。業務の利便性を損なわずに不要な複合機やFAXを集約し、最終的にスキャナー利用によるペーパーレスを目的として複合機19台に削減して更新した。
果樹農家の後継者育成と耕作放棄地対策で甲州市と連携 地域おこし協力隊から研修生を受け入れ
一連の経営改革と合わせて、果樹農家の後継者育成もJAフルーツ山梨にとって大きな課題だ。この点、JAフルーツ山梨が出資主体となり、2022年6月に耕作放棄地も再生や担い手育成などを手掛ける農業生産法人「株式会社あぐりフルーツ」を設立した。
現在は甲州市と連携し、地域おこし協力隊から「アグリトレーニー」として研修生を3年間受け入れ、果樹生産技術を学び、研修終了後は再生した土地を貸し出し、自立した果樹生産経営を目指せる仕組みを確立したいとしている。
研修生は1期生3人、2024年3月に受け入れた2期生3人がJAフルーツ山梨の農業指導員らからの指導を受けている。また、2024年5月には甲州市塩山下柚木地区にある耕作放棄地を整備し、ブドウ園として再生・開園した。西島代表理事組合長はこの取り組みについて「甲州市との連携を深め地域農業の活性化につなげたい」と期待を寄せる。
役職員・組合員のワンチームで果樹生産の高品質化と産地ブランドに磨きをかけ、「フルーツ王国」の更なる高みを目指す
JAフルーツ山梨の組織運営で近年、「ワンチーム」というキーワードが職員全体に浸透してきている。西島代表理事組合長、廣瀬代表理事専務ともども事あるごとに唱えてきた言葉で、「個性ある職員の集まりが協力しあえば1+1は2でなく、3にも4にもなると説いてきた」(西島代表理事組合長)。
難しい課題もあるが、新たな品種や品種改良、耕作放棄地の再生による果樹栽培の担い手の増加や耕作面積の拡大、「フルーツ王国」が国内だけでなく世界へ飛躍するために県や農家と協力しながら役職員がスクラムを組み、ワンチームとなって果樹産地の発展に向けて一段の努力を積み重ねようとするJAフルーツ山梨の取り組み姿勢が伝わってくる。
2024年度にスタートした3カ年経営計画はこうした役職員・組合員がワンチームとなって、果樹生産の高品質化と産地ブランドにさらに磨きをかけ、2026年度までの各年度に2023年度を上回る188億円の販売品取扱高を目標に掲げている。
企業概要
会社名
フルーツ山梨農業協同組合(JAフルーツ山梨)
住所
山梨県甲州市塩山上塩後1100
電話
0553-32-6500
設立
2001年2月
従業員数
350人
事業内容
営農指導、販売、購買、共済、信用
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