精密機器の輸送用包装資材を3D-CADで個別に独自設計 顧客対応も蓄積記録データや見積データ活用でスピード化 富士ケミカル(長野県)
2025年09月11日 06:00
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機械や部品など精密製品を輸送する包装資材を、設計から製造・販売まで一貫して手がけるのが、長野県佐久市に本社を置く富士ケミカル株式会社だ。梱包したものが壊れないよう配慮するだけでなく、全体の重量を軽くして輸送コストを削減したり、環境に優しい包装資材を使って荷ほどき後にリサイクルに回せるようにしたりして、顧客のニーズに応えてきた。富士ケミカルが手がけているのは、ネット通販で購入する商品の梱包ではなく、プリンターのような大型機械や医療機器、金属製の部品といった精密な製品の輸送時の衝撃を吸収する包装資材だ。
最近では、現場で過去の見積や商談情報を閲覧できるようにし、顧客訪問のタイミングも示唆してくれるような営業支援システムを導入して、一段と顧客に喜ばれる体制づくりに乗り出した。(TOP写真:富士ケミカル株式会社が精密機械や部品などの輸送用包装資材を設計・製造・提供している様子)
包装資材の卸販売から顧客ニーズに合った包装資材を設計・提供し付加価値を創出
富士ケミカル株式会社が手がけた包装資材と小川義弘代表取締役社長
「1990年に法人化した時は、包装資材を仕入れて販売する事業を行っていました」と振り返る代表取締役社長の小川義弘氏。「同じように包装資材を取り扱っている企業は他にもありました。競争に勝つためには、当社ならではの特徴を持った事業を行う必要があると考えました」(小川社長)。そこで挑戦したのが、段ボールのような包装資材をただ販売するだけでなく、運ぶものに合わせた形に加工して提供することだった。
運搬品のサイズや重量に応じて内部仕切りを設計し、段ボールと外箱を組み合わせる。製品が外箱に接触しそうな箇所には発泡スチロールを貼り、衝撃を吸収する。頑丈にするために木材を組み合わせることもあるが、「運ぶ時のコストを考えて、木材よりも軽い部材を加工によって強度を高めて使うこともあります」(小川社長)。顧客や運ぶ品物に合わせたカスタマイズを行うことで、顧客から選んでもらえる会社となっていった。
複雑な形状の包装資材を3D-CADで設計、梱包状態での落下試験や振動試験も行い、輸送の安全安心を実現する
富士ケミカルの設計部門
こうした、運ぶものに合わせた包装資材を作るために、同社では3D-CADを導入し、コンピューター上で包装資材の設計を行っている。求められる技術は緻密(ちみつ)で、ものを運ぶ過程で落下などが起こって衝撃が生じるような場合を想定して、中の製品が耐えられるレベルまで衝撃を吸収する緩衝材を、材料も含めて設計する。輸送する時の振動についても、運ぶものの固有振動と一致してしまって破損が発生するような事態を防ぐため、振動を抑えるような設計を行う。
こうした設計に関して、同社では「設計料をしっかりといただいています」(小川社長)。包装に関するノウハウや設計の技術が、安心して安全にものを運ぶ上で必要な対価だと、顧客に認められている証だろう。コンピューター上でシミュレーションするだけでなく、「振動試験や落下試験も行っており、試験料もいただいています」(小川社長)。ものを運ぶということについて、トータルでサービスを提供できる体制を整えることで、包装資材を販売していただけの時とは違ったポジションに立つことができた。
強化段ボールのトライウォールを使い低コストで輸送できるようにしている 「トライウォールグローバルイノベーション」の世界大会で、2度も優勝
トライウォールを使った梱包の一例。ただの箱ではなく内部にも工夫をこらして安全に運べるようにしてある
同社の技術力や開発力の高さは、強化段ボールを使ってあるものをどのように運ぶのかといった課題に挑む「トライウォールグローバルイノベーション」の世界大会で、2度も優勝していることからもわかる。2016年に2度目の優勝を果たした時の課題は、「大型プリンターの輸送コスト削減包装」というものだった。重い上に揺らしたり落としたりしたら壊れてしまう機械を、衝撃から保護した上に手間をかけず運べるようにするという複合的なテーマを、蓄積された経験と難しい課題に挑むチャレンジ精神で乗り切った。
営業支援システムを導入して顧客先で見積や過去の訪問履歴を閲覧できるようにして商談の効率を高めた
左は小川社長、右は佐々木皓一統括本部長
運ぶものごとに衝撃や振動を勘案し、湿気を防いでさびないようにする配慮も行うためには、顧客との密なコミュニケーションが必要となる。「それまでは、セキュリティーを確保したいという考えから、会社の中からだけアクセス可能なオンプレミスのシステムを使っていました。このため、外から顧客情報を閲覧できず、必要な情報をあらかじめ会社で用意して出かけていく必要がありました」(佐々木本部長)
こうした効率の悪さを改善したいという思いから、同社ではIT導入補助金を活用し、2024年にクラウド型営業支援システムを導入。営業担当者が顧客を訪問した先から過去の商談記録や見積といった情報にアクセスできるようにした。「見積などはそれまで、Excelにデータを記録したものを作成して保管していました。これをクラウドから取り出せるようにしたことで、どこからでも過去の記録を閲覧できるようになりました」(佐々木本部長)
営業担当者のスケジュールや商談の履歴もクラウド上に集めるようにした。「担当者が次の商談の時に過去の記録を参考にできるようになりました。担当者が体調を崩して別の社員が商談を代わるような時でも、本人を呼び出すことなく過去の記録を参照できます」(佐々木本部長)。前回の訪問からしばらく時間が経ったような時、以前だったら個人が気づいて訪問するか、上司から訪問を促していたが「今は設定しておけばアラートが出るようになります」(佐々木本部長)。営業の機会損失予防につながっているようだ。
新システムを導入することで「今すぐでなくても将来のデータ活用ができるようになれば見返りは得られる」と信じて推進
ICT推進の将来的な意義を話す小川社長
「今までは入力し満足してしまっていたところがありました。Excelを使っていたため分析にも使えませんでした。私が入力したコメントを社長が確認できるようにもなっていませんでした。今は、システムにログインすれば、誰がどのようなコメントをしているか見て、どのように動くかを判断できます」(佐々木本部長)
2024年11月から始めてまだ1年も経過していないため、10人ほどいる営業担当者全員がシステムを十分に使いこなせているわけではないが、徐々に慣れてきているという。「毎日入力しましょうといった指導はしています。人によってまだ完成度も違っていますが、だんだんと慣れていってもらえれば」(小川社長)と、継続的に取り組んでいく必要性を指摘する。「Excelのデータではまるで活用できていませんでしたが、システム化によって形の上では活用できるようになりました。今後1年が経ち2年が経った時、少しずつでも苦労して入力していった分、必ず見返りがあると信じています」(小川社長)
顧客と向き合う最前線を支援するため、顧客の3D-CADが高度化していくのに合わせ、同社でも3D-CADのバージョンをアップして対応できるようにしている。
資材販売から設計など付加価値事業へ転換し、サンプルカッターや大型インクジェットプリンターを導入して加工力を強化
ものづくり補助金で導入したサンプルカッター
必要なところに必要な投資を行うことが、資金が潤沢ではない中小企業のICT戦略にとって重要だと言えそうだ。補助金の活用も同様。IT導入補助金で営業支援システムを入れる前には、ものづくり補助金を活用してサンプルカッターを入れて、複雑な形状の包装資材をコンピューター制御で自在に切り出せるようにした。
状況を見据えて事業の幅を包装資材の販売から設計へと広げ、輸送に関するコンサルティングのようなことも行えるだけのノウハウを蓄積し、事業の幅を広げてきた。システムについても事業展開に合わせて検討していく。
今後検討したいことがあるとしたら「AI(人工知能)でしょうか」(佐々木本部長)。具体的にどのような分野に活用できるかはわかっていないが、急速に進歩しあらゆる分野で導入が進んでいるAIを、横目で眺めているよりは検討対象としていち早く認識し、何が使えるのかを見極めていく。設計の高度化や省力化に役立つかもしれない。営業支援の正確性を高められるかもしれない。とにかく始めてみることで、次の展開も見えてくる。「輸出する製品も扱っていますから、アメリカの関税が揺れ動くと影響も避けられません」(小川社長)。そうした不透明な時代を、先取りの姿勢によって渡っていこうとしている。
富士ケミカル株式会社本社
企業概要
会社名
富士ケミカル株式会社
住所
長野県佐久市長土呂64-32
電話
0267-68-7215
設立
1990年10月(創業1980年4月)
従業員数
31人
事業内容
包装資材・自動包装機器販売、包装資材設計、印刷加工、木材加工など
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