内臓専門業者で全国唯一のISO9001認証取得企業 経営トップがDXを推進 G・Mフーズ(群馬県)
2025年09月16日 06:00
この記事に書いてあること
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。
群馬県伊勢崎市で豚カシラ肉と牛・豚内臓を製造・販売している株式会社G・Mフーズは、内臓専門業者としては国内で唯一、国際品質管理規格「ISO9001」を取得するなど品質・衛生管理に力を入れている会社だ。大手取引先の事故で大口注文が途絶えた時は、その品質を高く評価する他の取引先が代わりに製品を引き取ってくれた。経営トップがICTに詳しく、早くから流通業界向けのデータ交換手順(EDI)に準拠した受発注システムを活用しており、近年は販売・仕入・在庫管理システムのクラウド化を進めるなど、同社のDX(デジタルトランスフォーメーション)を率いている。(TOP写真:本社建物の脇には冷凍食品の自動販売機が置かれている)
豚カシラ肉、牛・豚内臓の専門業者として創業 その後飲食店から大手加工品メーカーへと販路を拡大
G・Mフーズが扱う肉の一部(ホームページより)
G・Mフーズは1963年に「長沼照夫商店」として創業した。創業者の長沼照夫氏は精肉販売店に勤務して社会人生活を開始し、大手加工食品メーカーの営業所長にまで昇りつめたが、もともと事業意欲の強い人だった。独立創業するにあたり、土地勘のある精肉販売店業界は競争が激しいと見て、当時、食用として市場が広がりつつあった豚カシラ肉の専門業者となる道を選んだのだという。
豚カシラ肉には部位によってカシラのほか豚トロ、タン、ハラミ、ハツ、レバー、シロなど内臓の各部位も含めて「内臓(ホルモン)」と総称される。精肉店やスーパーで販売されているロース、フィレ、バラなどが一般消費者に買われているのとは異なり、特別な販売ルートを開拓する必要があった。長沼照夫氏は焼き肉店など飲食店に卸すほか、自分でも小さな飲食店を構えてそこで売ることから始めた。
その後、惣菜原料とし惣菜メーカーから注目され、その用途を開拓していった。カシラ肉は赤身質で旨味が強く、ほど良い食感が特徴のため、ハム・ソーセージ、餃子、シューマイなどに使われるようになった。例えばウインナーだとメーカーによって異なるが、肉の14~20%にカシラ肉が使われている。創業当時は伊勢崎市内にあった食肉処理場から原料を仕入れていたが、その後の屠畜場法改正に基づく全国の屠畜場の統廃合によって設立された「株式会社群馬県食肉卸売市場」(群馬県玉村町)から仕入れるようになった。G・Mフーズから車で15分の距離にある、処理能力日本一を誇る食肉処理施設だ。
経営立て直しを使命に役員として入社 株式会社化するとともに鶏卵の取り扱いを開始した
経営立て直しを担って入社した髙橋郁夫代表取締役
同社の創業時は原料肉の流通が多く、「逆にひと手間かけて商品を製品化すれば売れた時代だったと思います」と、代表取締役を務める髙橋郁夫氏は入社間もない頃を回想する。髙橋社長は2007年に取締役として同社に迎え入れられた。それまで全国農業協同組合連合会(全農)に勤めていた髙橋社長が創業者に請われて入社したのは、全国的に競合会社が増えて競争が激化していたためだ。いわば「経営立て直し」の使命を担っての入社だった。
まず、髙橋社長が手掛けたのが1984年に有限会社化されていた長沼照夫商店を「株式会社ナガヌマ」へと社名変更して個人商店から法人化された企業として世間的なイメージを高めることだった。「ちょうど2005年に会社法の改正が行われ、有限会社の設立ができなくなるとともに株式会社の設立手続が簡素化をされたのです」と髙橋社長は振り返る。2007年に相前後して、髙橋社長が全額出資の子会社「アグリ・フーズ株式会社」も設立している。
当時、厚生労働省は衛生管理強化の一環として、屠畜場から「毛付き」(未処理)の畜肉原料を市場に流通させないという方針を打ち出した。日本を代表する屠畜場を自負する群馬県食肉卸売市場は率先して国の方針を実施するため、カシラや豚足といった毛付き原料肉を処理する業者を入札で募った。その仕事を当時の株式会社ナガヌマが落札したが、新規に専門の委託引き受け会社を設立することが入札条件だったことから、アグリ・フーズ株式会社を設立するに至った。
アグリ・フーズはその後、髙橋社長が全農時代の経験で得たノウハウを生かして鶏卵の卸売事業に乗り出し、G・Mフーズグループの屋台骨を支える事業の一つに育っている。アグリ・フーズは現在、鶏卵のほかに群馬県食肉卸売市場で生産されるブランド肉「上州牛」「上州麦豚」などの販売も行っている。
本社工場を改築し、衛生管理を徹底 原料の洗浄機を独自開発
経営立て直しの一環として、当時のナガヌマの本社工場を改築した。原料搬入から洗浄・脱骨・検品・梱包に至る各工程をそれぞれに適した作業エリアに区分するためで、翌2008年に改築が完了した。これにより、人やモノが異なる衛生区域間を移動する際に雑菌を持ち込んでしまうといった交差汚染を防げるようになった。
2010年にはさらなる品質アップを目指し、スパイラル方式の洗浄機を導入した。円筒の中のらせん状のフィンが回転して原料を攪拌しながら洗浄したあと、殺菌装置を使ってオゾン水を散水させる仕組みだ。同社はメインの殺菌工程では次亜塩素酸ソーダの水溶液を使っているが、オゾン水も多用しており、人がいない夜中には工場内にオゾンガスを散布させている。「オゾン水もしくはオゾンガスは過去に発がん性が指摘されたこともありましたが、近年は濃度が10ppm以上とか20ppm以上にならなければ人畜無害とされています。水道の浄水場の殺菌にも採用され始めています」と髙橋社長は説明、研究を重ねた上で採り入れた方法であることをうかがわせる。ちなみに同社は0.4ppm程度で使用しているという。
スパイラル洗浄機の手前には自社開発した予備洗浄機を設置した。スパイラル洗浄機の前処理で、豚カシラの粗熱(あらねつ)を下げるためだ。スパイラル洗浄機は野菜用に普及していた機械をメーカーに依頼して肉用に改良してもらったものだが、この予備洗浄機は社内で知恵を絞り合って独自開発したものだという。製品の検品工程ではX線の異物検出器を使って目に見えない異物を取り除き、自動計量したあと梱包されて冷凍保管庫に送られる。
事故・事件発生時に録画で検証するため工場内に監視カメラ11台設置 パソコン画面でモニターをチェック
工場内の監視カメラの映像をパソコンでチェック
髙橋社長はこれら設備や工場内の従業員の動きについて、パソコンの画面を見せながら説明する。パソコンの画面には、工場内に設置された11台の監視カメラの映像が映し出されているのだ。工場内の状況を常時録画しているので、「何か事件・事故が発生したときの原因の検証を行うとともに、従業員への意識づけにもなります」と髙橋社長。工場内にはまだ数ヶ所、録画したい場所があるので、今後さらにカメラを増やしていく予定だという。
現在の社名に変更したのは2012年。髙橋社長が取締役から代表取締役に昇格したのを機に、グローバルな観点に立ち、個人名を使わない社名に改めようと、社内アンケートを実施して「群馬ミートフーズ」の頭文字であるGとMにフーズを加えた現社名を考案した。GとMの間に「・」を入れたのは髙橋社長がインターネットで文字の画数や配列から運勢を占う社名判断を調べたところ、このほうが「吉」となるとわかったためだ。
ISO9001認証を取得 品質管理の取り組みを見ていた取引先が困った時に支援
ISO9001と同規格の日本版である「JISQ9001」の認証は2014年3月に取得した。ホルモン製造専業会社としては本邦初であり、2013年4月にキックオフしてからの1年の歳月と努力の結実だ。「なにせ椅子に座って文字を書くということをしたことのない、書類のない会社でしたから大変でした。まず社内に(品質マネジメントシステムを導入することの)必要性を訴えて、(作業の一つひとつを記録することについての)理解をしてもらうことから始めました」(髙橋社長)。今ではISO監査の各種記録である監事帳票もA4ファイルで100冊にのぼるという。
2022年にはG・Mフーズが製造する豚カシラ肉の約30%を納入していた主要取引先である大手加工食品メーカーの工場が火災で操業を停止するという危機に直面した。だが、ISO認証取得をはじめとした普段からの品質管理の取り組みを見ていた他の取引先が救ってくれた。「すぐに他のお客さまから『お前のところは大変だね』と電話が入ったので、『そのうち頼みに行くからね』と答えると、『いつでもいいよ』と。結局、ほぼ1週間でその量を売り切りました」と髙橋社長は今だからこそ笑う。
年商を5倍に増やすのが夢。事業拡大へ工場用地を手当てするも使用原材料の調達量を増やせないのが悩み
現在の取引先は全国に及ぶ。北海道から九州、沖縄まで大手加工食品メーカー、冷凍食品メーカーに豚肉、豚カシラ肉、内臓を供給。群馬県食肉卸売市場との連携で上州牛、上州麦豚などのブランド肉を販売し、アグリ・フーズを通じて全国の鶏卵生産者のたまごをスーパーなどに卸販売している。関東近県を中心とする飲食店にはホルモンや鶏肉、鶏卵を供給。インターネット通販を利用してチルド&冷凍品の小売販売も行っている。
数年前にはグループの年商が10億円を超えた。髙橋社長は「個人的には50億やると、ずいぶんお金の回りも良くなるだろうなと思う」と事業規模を5倍にする夢を描いている。生産能力の拡張に向けて、最近、土地を手当てしたという。現在、原料の調達量を思うように増やせないのが最大の悩み。髙橋社長は北海道から沖縄まで全国の産地を訪ね歩いているが、どこも品不足状態にあるという。「原料さえあれば、既存のお客さまだけでも、更なる販売拡大が出来るのだが」と残念がる。
社長自ら先頭に立ってデジタル化を推進 他の人材のICT能力引き上げが課題
「社長への依存度を下げるのが課題」と話す髙橋美帆さん
髙橋社長は全農時代からICTシステム導入による効果を身をもって感じていたようで、G・Mフーズでは先頭に立ってデジタル化を推進している。社長の長女で事務を行う髙橋美帆さんが「この会社は社長の能力に依存しているところがすごくあるので、この先10年20年を考えると、(社長不在時に)再現性のない部分を改善していくことが大きな課題だと思っています」と話すほどだ。美帆さんはシステムを使った経理業務など事務作業から営業の外回りまでこなす社長の右腕だ。
髙橋社長はアグリ・フーズで鶏卵事業を始めると同時にスーパーをはじめとする流通業界で使われているEOS、その後BMS受発注システムを導入。養鶏場にネットでデータ送信し、静岡、愛知、岐阜、滋賀、新潟、長野の各県に散在するスーパーなどに鶏卵を届ける仕組みを構築した。「例えば、三重県と岐阜県の2ヶ所にある養鶏場に午後2時ぐらいまでに発注データを送信すると、養鶏場は商品を荷造りして4時か5時には車に積み込み、8時くらいには指定した場所に納品してくれます」(髙橋社長)
販売・仕入・在庫管理システムをクラウド化 顧客先で詳細なデータを示せる便利さを実感
販売・仕入・在庫管理システムをクラウド化した
販売・仕入・在庫管理システムは、フロッピーを使うタイプから使い始め、オンプレミス版からクラウド版へと置き換えてきた。クラウド化したのは2015年頃。セキュリティー面とアクセスの利便性、BCP(事業継続計画)対策などに配慮した。クラウド化するにあたり、EOS受発注システムのデータを販売・仕入れ・在庫管理システムに落とし込むためのソフトも導入した。
「自宅でも常に会社と同じ環境でデータを見られるし、ノートパソコンを持参すれば、顧客先でも生のデータを見ながら商談できます。その場でクレームが出たら、今確認しますといって、監視カメラの録画映像を見せることもできます」。髙橋社長はクラウド化のメリットをこう語る。万一の時に備え、クラウドを使わずに、パソコンを遠隔操作できるアプリも導入。電源さえ入っていれば社外にいても社内のパソコン内のファイルをやりとりできるようにした。日本を震撼させたコロナ禍により、ビジネス環境もZOOM、TEAMSを使用したリモート化が図られ、在宅勤務も推奨されているが、アグリ・フーズ株式会社ではコロナ禍以前より取り組んでいた。また、BCP対策の一環として最近は社内の電話もクラウド化した。
健康のため立ったままキーボードを叩くのが髙橋社長の執務スタイル
現在進めているのがLINEを活用した受発注システム(TANOMU)の導入。電話やFAXで発注してくる個人事業主ら小規模の取引先に順次、LINEアカウントを作ってもらって、同システムに切り替えている。これまでは毎日、FAXによる発注書が数10件、そのほかに留守電も数件入っていたという。「いろんな人が入れ代わり立ち代わり毎日、何十行も文字を書いてFAXで発注書を送ってくる、お客さまによっては(自前のFAXがないので)わざわざコンビニから送ってくるという状況を改善したかったのです。この先、絶対にWebに移行していくじゃないですか。だからFAXがないと発注できないのは大きなデメリットになります」と美帆さんは狙いを語り、デジタルを活用した業務の改善に意欲を見せた。
G・Mフーズ本社
企業概要
会社名
株式会社G・Mフーズ
住所
群馬県伊勢崎市今泉町2丁目471-2
電話
0270-25-1506
設立
1984年9月(創業1963年9月)
従業員数
約40人
事業内容
豚カシラ肉販売、牛・豚内臓販売、畜産加工品販売
記事タイトルとURLをコピーしました!