生産設備の機械設計や制御盤製造などを手掛ける技術者集団 新社屋が完成し新経営体制で飛躍を目指す トステック(群馬県)
2025年09月24日 06:00
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制御盤を中心とした産業機械関連の設計・製造が主業務の株式会社トステックは、自動車や半導体、医療機器、FAシステム構築など幅広い分野で技術を蓄積し、独自製品の開発にもその技術を発揮している。2025年5月には新社屋と従来比2倍の広さの新工場が完成。経営を引き継いだばかりの山森雄介代表取締役が、ICT活用による業務効率と製造技術のさらなる高度化に向けて本稼働し始めた。(TOP写真:多様な産業の制御盤設計・製作で地元の信頼を集めるようになった)
バブル経済崩壊後に前社長(父)が仲間5人と設立 地元で信頼を築き事業を軌道に乗せる 前社長の意を酌み継ぐつもりで入社
山森雄介社長は「(父の)継いでほしいという気持ちを知って早く入社しよう」と考えた
トステックは制御盤技術者の山森利行代表取締役が仲間5人と、バブル経済崩壊後の1994年に設立した。国内経済が低迷し設備投資意欲も減退するなかで、産業機械や制御盤の設計・製作の受注獲得に奔走。資金繰りにも苦労しながら、難しい要求にも対応する技術力の高さで地元を中心に次第に信頼を獲得してきた。
2025年6月2日付で代表取締役に就任した雄介氏がトステックに入社したのは2001年。「直接父親から継いでほしいと言われたことはなかったが、何となく継いでほしいという気持ちは感じていた」という。将来はクルマ関係の仕事か幼稚園の先生になりたいと考えていた雄介氏だが、「好きな道に進んでから後で戻るより、継ぐなら早い方がいい」と判断し、高卒で父親の会社に飛び込んだ。
仕事覚え事業承継へ気持ち固まる 2025年5月に先代が急逝 急きょ2代目社長に就任 事業基盤の維持・発展へ覚悟
若くして入社した山森雄介社長は現場でベテラン技術者の指導を受けながら次第に仕事を習得した
成人式を迎えたばかりの雄介氏は同年代の友人と夜遅くまで遊んで遅刻を繰り返すなど「できの悪い社員」だったが、ベテラン技術者の指導を受けながら制御盤製作の現場や営業で汗を流し仕事を徐々に習得。「数年たって父親に会社を継ぐ気持ちを伝えた」という。
利行氏は「仕事は大変だ。簡単に継げるわけじゃないぞ」などと小言を口にしたが、雄介氏が30歳を超えたころに「継ぐと言ってくれたのはうれしかった」と話してくれた。息子に会社を託したくても会社経営の厳しさを知っているだけにあえて継げとは言いにくい父親の気持ちが垣間見えるが、2021年には雄介氏を取締役に昇格させて後継者としての勉強をさせるとともに、古くて手狭だった本社と工場の新設計画を進めた。
しかし利行氏は病に倒れ、新社屋を見ることなく2025年5月下旬に急逝。雄介氏が急きょ2代目社長に就任した。体調を崩しがちだった利行氏に代わって経営を任されていたこともあり、事業運営で慌てることはなかったが、トップ交代と本社・工場の新築で経営体制は一挙に刷新。新社長には先代が築いてきた事業基盤の維持・発展という新たな課題が突き付けられた。
独自技術搭載の防犯灯を開発 多品種小ロットに適したゴム製鋳造装置も製品化し幅広い分野に導入 他社が諦めた案件の開発依頼を引き受けることもある
独自開発のラバーキャストマシンは多品種小ロットの製造ニーズに欠かせない
先代は屋台骨の制御盤設計・製作に加えて計装工事や電子回路設計、FA関連システム開発などに事業分野を広げ、20人規模の技術者集団に成長した。自社製品開発にも積極的で、2006年には低コストで高性能なLED蛍光灯の開発に着手。2009年に製品化したカメラ内蔵の防犯灯「e自警灯」は画像を暗号化して保存するプライバシー保護機能を備えており、伊勢崎市や前橋市など地元自治体で導入され500台以上売れた。大手メーカーの低価格製品投入で販売数は落ち込み、現在はメンテナンス中心だが、同社の開発力は地元で知られるようになった。
加工分野でも独創的な技術開発力を発揮。シリコンゴムを鋳型に使って多品種少ロットの金属製品を低コストで製造できるラバーキャストマシン(遠心鋳造機)を独自開発した。3Dプリンターで出力した原型を利用した精密模型や釣り用ルアー、仏具、装身具、食品、カメラなど多様な業界の少量製造ニーズに対応している。
微細鋳造や亜鉛の溶解温度に対応できるシリコン型も利用できる使い勝手の良さが高く評価され、バルカナイザー(ゴム型成型機)との組み合わせで約50台の出荷実績がある。他社が諦めた案件の開発依頼を引き受けることもあり、間口の広い開発力は顧客からの信頼も厚い。
顧客の要望から生まれた独自の製品開発 制御技術生かし大型船の海洋微生物付着防止装置を開発し500件以上の導入実績誇る
「海洋微生物付着防止装置」は大型タンカーや貨物船のほか豪華客船「飛鳥Ⅱ」にも搭載されている。写真は横浜大さん橋に寄港した飛鳥Ⅱ
「顧客との話のなかで『こんなものが作れないか』などと要望を聞くことがあり、技術者が作れるかどうか試行錯誤して、製品開発につながったものもある」。山森社長は先代がこだわっていた“新たな価値を創造するモノづくり”の伝統を説明する。
船舶のバラスト水やエンジン冷却水に混入した海洋微生物が他の地域の生態系に影響を及ぼすのを防ぎたいとの要望で開発した「海洋微生物付着防止装置」は、銅イオンや鉄イオンなどで金属皮膜を形成してタンクや配管内の微生物の付着を防止する仕組みだ。培ってきた制御技術が役立った。
従来一般的だった塩素ガス注入などによる殺菌処理と違い、金属材料の腐食や環境汚染の問題を解決するSDGsを具体化する自社製品としてニーズが高く、IHIや商船三井、三菱重工業などの大手船舶会社や官公庁に500システム以上の納入実績がある。
新工場は従来比2倍の広さで作業効率格段にアップ 社屋新設を機にセキュリティ対策大幅強化 本社の内外の緑で職場環境にも配慮
職場に緑を多く配置し働きやすい環境に配慮した
完成したばかりの本社は観葉植物など緑を多く配置し、談話スペースなど働きやすさに配慮した作りだ。隣接する工場は以前の約2倍のスペースを確保。「サイズの大きなシステムも作りやすくなり作業効率は格段に上がった。ほこりっぽさもなくなり働きやすくなった」(山森社長)と話すように、職場環境は大きく改善されたようだ。
就労環境改善とともに取り組んだのがICTの本格活用だ。まず、社屋建設と同時に強化したのがサイバー攻撃対策だ。マルウェアなどコンピューターウイルスの侵入を防ぐUTM(統合脅威管理)とともに、万が一ウイルスに侵入されても不正通信をシャットアウトして情報漏洩(ろうえい)を防御するシステムを導入し、入口と出口の双方で強固なサイバー攻撃対策を施した。大企業へのサイバー攻撃の踏み台として攻撃されることが増えている中小企業への攻撃の増加に対応し、万全の情報保護対策を施した。
販売管理と在庫管理をクラウド化し機能強化とBCP対策 業績は右肩上がり 楽しく仕事ができる環境を重視しICT活用本格化
オフィス 販売管理システムと在庫管理システムはクラウド環境に移行し機能強化とBCPに対応した
2025年8月に導入したのは、従来使用していた販売管理システムと在庫管理システムの機能強化版で、クラウド環境に移行した。販売管理システムは、伝票番号を入力すれば見積書作成・受注処理データから売上を計上でき、追加注文や商品数量など受注内容の変更にも対応できる。
在庫管理システムは販売管理システムとデータを完全共有しているため、売上データの入力時に在庫照会ができる。売上データから仕入データが自動作成でき、受注データから発注データを作成することも可能だ。クラウド化によってセキュリティ面やBCP(事業継続)対策にも配慮した。本格活用はこれからだが、システム支援会社のサポートを受けながら業務効率化の効果に期待している。
業務やあいさつ回りに追われてホームページの更新にも時間がかかっているが、業績は堅調で、2019年度に7億円だった売上高は2024年度には8億6000万円に増加。「少しずつだが、右肩上がりで来ている」(山森社長)
同社には定年制度はない。「社員が楽しく仕事ができる環境を大切にしたい。業績は後からついてくる」(同)という経営方針だ。急な事業拡大を目指しているわけではないが、「電機屋(といわれる制御盤設計・製作だけ)では限界がある」(同)と将来への危機感も抱いている。
事業のすそ野拡大へ機械製造に参入準備 将来はマシニングセンター導入も 工場新築で採用に応募が殺到 経営体制固めて飛躍目指す
2025年5月末に竣工したばかりの新本社。隣接する工場も格段に作業環境が向上した
事業のすそ野拡大が必要と考え、機械製造に参入する準備を進めていて、製造技術者も採用した。「設計した後のエンジン部分の機械製造は他社に委託していた。機械製造もできれば設計・試作・製造まで自社で賄えるようになり多様に要求に即応しやすくなる」(同)と期待している。
「無理せず少しずつ進めていく」方針だが、将来はマシニングセンターを導入したいという夢もある。先代が築いたトステックの事業基盤をさらに強固にするため、制御盤事業から機械製造まで事業分野の拡大が2代目社長の当面の経営課題となりそうだ。
新工場建設に伴い、パート従業員を数人募集したところ「応募が殺到した」と驚く。今回採用したのは3人だが、稼働状況をみながら増員も検討していくという。従業員増に対応してアルコールチェックシステムやAED(自動体外式除細動器)を完備。CSR(企業の社会的責任)や従業員の安全にも配慮し、攻守に気配りしながら第2のスタートを切ったばかりのトステック。社名は先代が「技術をトスしていく」という意味を込めて名づけた。技術を継承してアタックに結び付けることができるか、2代目の手腕が注目されそうだ。
企業概要
会社名
株式会社トステック
本社
群馬県高崎市柴崎町905-4
電話
027-360-5359
設立
1994年4月
従業員数
26人
事業内容
ECO照明開発・製造・販売、制御盤設計・製作、産業機械電装設計・施工、シーケンサ(PLC)ソフト設計、FAシステム構築、電子回路設計ほか
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