持続可能性国際認証「ISO21401」を国内の宿泊施設で初めて取得 クラウド化推進しBCP対策も 中沢ヴィレッジ(群馬県)
2025年09月19日 06:00
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日本三名泉の一つ、草津温泉で最大級の客室数を誇るリゾートホテル「草津温泉ホテルヴィレッジ」の運営会社である株式会社中沢ヴィレッジ(群馬県草津町)は2024年12月、国内では初となる宿泊施設の持続可能性に関する国際規格「ISO21401」の認証を取得した。家業から企業への脱皮を図るとともに、国際ルールの基準に則り「温泉文化の承継」という目標を従業員が一丸となって達成していくためだ。空気中に酸性を多く含むという温泉地特有の事情により、ホテル管理システム(PMS)をはじめとする館内の情報システムを維持する上で、サーバーのさび対策が欠かせなかったが、2022年頃からクラウド化を推進してBCP(事業継続計画)対策も強化している。(TOP写真:フロントやレストラン、浴場などがあるパブリック棟を中央にして三つの客室棟を配した草津温泉ホテルヴィレッジの外観=ホームページより)
「歩み入る者にやすらぎを 去りゆく人にしあわせを」。東山魁夷の言葉を社是に
社是の由来を説明する中澤一裕代表取締役社長
「歩み入る者にやすらぎを 去りゆく人にしあわせを」——中沢ヴィレッジの社是である。
中澤代表取締役社長が社是の由来を語る。「かつて、東山魁夷画伯が当ホテルに何度もお泊まりいただいたのですが、いつも本名を名乗られていたので当初は誰も気がつきませんでした。ある日、(2代目社長の)中澤晁三が気づいて声をかけたことから懇意になり、東山画伯からこの言葉が送られたそうです」
ドイツ・ローテンブルグ市にあるシュピタール門にラテン語で刻まれた銘文を東山画伯が和訳したものだ。草津町も1979年にこの言葉を「町民憲章」に制定している。「あまりにも深くて重い言葉なので、観光の草津町にもふさわしい言葉だということで当社が町に提案しました」(中澤社長)
標高1200mの草津温泉初のリゾートホテルとして1967年創業 湯畑周辺の温泉街から郊外へと草津全体の繁栄を目指す
中沢ヴィレッジは1967年、草津の老舗旅館に生まれた中澤清氏が設立。親から譲り受けた郊外の広大な森林を切り開いて、翌1968年にホテルヴィレッジを開業している。ベルツ博士の影響を受けた清氏が草津温泉のイメージを一新しようと開発した、草津温泉初のリゾートホテルだ。
ベルツ博士というのは明治時代に政府に召喚されたドイツ人医師で、草津温泉を愛し、草津温泉の医学的な有効性を世界に知らしめたことから、「草津の恩人」と称されている。そのベルツ博士は草津周辺の気候や風景が欧州のリゾート地に類似していることに着目していた。
草津町は標高約1200メートルと高地にあり、夏は避暑、冬はスキーと一年中楽しめる。名所「湯畑」を中心に旅館・ホテルが林立する〝湯の町・草津〟に加え、郊外に〝リゾート草津〟を発展させれば草津温泉全体の繁栄につながると創業者は考えたのだ。
草津温泉の名所「湯畑」
草津温泉で最大級の客室数。東京ドーム7個分の敷地に多彩なアミューズメント施設
ホテルヴィレッジのエントランス
客室数45室で開業したホテルヴィレッジは、今や3棟の客室棟を合わせて298室に拡大。草津温泉を2024年度に訪れた観光客の数は初の400万人台に乗せたが、そのうち約20万人がホテルヴィレッジに宿泊した。
東京ドーム7個分(約32万平方メートル)という広大な敷地は順次、整備されてきており、その名の通り、豊かな自然に囲まれた村のようだ。温泉とプールの建物「プール&温泉 テルメテルメ」をはじめ、ゴルフのショートコースやパターゴルフ、ボウリング、アスレチック、アーチェリー、釣り堀、迷路などを楽しめるアクティビティが豊富にあり、隣接する国有林の「ロイヤルコース」(上皇上皇后両陛下が散策された道)へと歩み入って森林浴を味わうこともできる。
ホテルヴィレッジのパターゴルフ場
隣接する国有林のロイヤルコース
テルメテルメを含めてホテル館内には「湯畑源泉」「万代鉱源泉」「わたの湯源泉」という泉質が泉質の異なる源泉かけ流しの温泉を設けている。一つの宿泊施設で、三つの源泉それぞれの泉質が持つ効能で心身を癒やしつつ湯めぐりを楽しめるという、草津町でも貴重な存在だ。
テルメテルメのプール=ホームページより
従業員の多様化に対応、日本の宿泊施設初の「ISO21401」認証取得で目標と行動規範を共有 メインテーマは「温泉文化の継承」
フロント業務のプロセスを細かく分類してチャンスとリスクを洗い出す
今や草津温泉を代表するホテルの一つに成長したホテルヴィレッジ。そのホテルを運営する中沢ヴィレッジが日本に数多ある旅館・ホテルのどこも取得したことのない「ISO21401」にチャレンジした理由は何か。中澤社長が語る。
「リゾートホテルとは文化や哲学が異なる都会のビジネスホテルやシティホテルから転職してくる人が増えたのに加え、外国人も2割以上を占めるようになるなど、従業員が多様化してきました。そのことから、今まで何となく阿吽(あうん)の呼吸で共有してきたもの、例えば『おもてなしの心』といった価値観なども個々の理解に齟齬が生じるようになってきました。そこで、当ホテルの目指すもの、当社の姿勢というものを何らかの指針に基づいて明文化し、従業員全員が共有する必要性を感じたのです」
「ISO21401」は、宿泊施設が環境への負担を軽減し、地域社会とのつながりを深め、地域経済に積極的に貢献するための基準を示した、ISO(国際標準化機構)規格だ。人権の尊重、従業員や宿泊客の健康と安全、エネルギーや水資源の効率的な利用、廃棄物管理など持続可能性の主要な要素を取り上げており、同規格を導入することで、従業員や顧客の満足度を高められ、ブランド価値も向上できるなど、さまざまなメリットが得られるとされている。
キックオフは2023年10月。まず、フロントやレストラン、客室係など全部署の業務内容を洗い出し、「業務プロセス管理シート」を作成した。「例えば、フロントにはお客様のチェックインをする、会計をする、荷物を預かる、予約係との引き継ぎをするなど一つひとつ分けて考えると多数のプロセスがあります。そのプロセスにはチャンスもありますが、同姓同名のお客様がいる、食事アレルギーのお客様がいるなどのリスクもあります」(中澤社長)。ホテル事業を取り巻くチャンスとリスクを徹底的に洗い出したのは初めてのことで、「とても勉強になりました」と中澤社長は振り返る。
続いて「環境」「社会」「経済」の三つの観点から現状を診断し、持続可能性に関連する活動の全体像を把握した。同時に、水やエネルギーの使用量、廃棄物の削減率、顧客満足度や地域社会への貢献度など、ホテルの現状を定量的に評価する「サステナビリティ指標」を策定した。その上で、2030年をゴールとする目標を設定した。具体的には二酸化炭素(CO₂)排出量の2013年度比2割減、男女ともに育児休業取得率100%、群馬県食材を活用したメニュー提供の年間目標設定など25項目ほどにのぼる。それらの目標を達成する目的、メインテーマとして「温泉文化の承継」を掲げた。
そこには、「草津温泉の2000年と言われる歴史の中で、たまたま地域の一角をホテルヴィレッジという形で、ここ半世紀にわたりお預りしている者として、この自然、温泉を大事にして、(社是に謳っているように)お客様に楽しんでもらい、元気になって帰ってもらう、ということを将来的にも続けていけるよう努めたい」(中澤社長)という思いがある。
「新・ダイバーシティ経営企業100選」「健康経営優良法人」「地域未来牽引企業」に相次ぎ選定される
ホテルヴィレッジは近年、企業経営に対する第三者による高評価を積極的に獲得している。2019年度には経済産業省が「ダイバーシティ経営によって多様な人材を生かし、イノベーションを生み出すことで企業価値向上を果たした企業」として表彰する「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選定された。また、2019年度以降は、経産省と日本健康会議が従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践している企業を選定・表彰する「健康経営優良法人」に毎年認定されている。「ホテルの利用者に安らぎを提供するためは従業員が健康で幸せに過ごしていることが欠かせない」という発想からだ。
ホテル業とは異なる業種の大企業から転じた前社長が、人材採用面の強化と従業員の定着率を高めると同時に、顧客にも企業としての取り組みをアピールする狙いから、こうした外部の評価獲得に取り組んできたのだという。当時、副社長として前社長を補佐してきた立場から、「(前社長の)影響を受けた」と語る中澤社長が社長に就任した2020年度には、経済産業省が地域経済の中心的な担い手となりうる事業者として認定・表彰する「地域未来牽引企業」に選ばれている。そして、今回の国内初の「ISO21401」取得へとつなげた。
「宿屋というのは基本的には自営業の延長で大きくなってきたので、どうしても家業的な体質が残りがちです。しかし、1人の経営者が見られる宿屋の部屋数はせいぜい30室程度だと思います。当社のような規模になったら組織としていろんなものを動かせるようにしないといけません。そのため、今はホテルを良くするということ以上に、企業として強くするということに力を入れています」(中澤社長)
草津温泉特有の酸性の空気でサーバーが壊れやすく、ホテル管理システム・基幹システム・内線を相次いでクラウド化 BCP対策を強化
「酸性の空気でサーバーが壊れやすかった」と話す総務人事課の篠木悠多課長
企業体質強化の一環として、近年、力を入れ始めたのがBCP(事業継続計画)対策。草津町は自然災害の経験も予見されるリスクも少ないことから、中沢ヴィレッジとしてもこれまではあまりBCPには熱心ではなかったそうだが、数年前に草津町一帯の停電が半日続く事故があり、BCPの必要性を感じたという。
BCP対策の一つがICTシステムのクラウド化で、2022年頃から順次進めている。それまではオンプレミスのサーバーを最大時で4台設置していた。「硫黄分を含む酸性の空気によって基板が損傷しやすく、とくにバッチ処理の時にサーバーが壊れてしまうのです。(システム担当の)私は半年に1回は深夜に呼び出されていました」。総務人事課の篠木悠多課長がクラウド化に踏み切った理由を説明する。草津温泉の源泉は、鉄の釘を浸けておくと1週間程度で溶けてしまうほどの強酸性で有名。そのため空気も酸性を含み、さび対策が欠かせないのだ。
まず、経営にとって営業面の基幹システムであるホテル管理システムと、バックオフィスの基幹システムである会計・給与・固定資産管理システムをそれぞれクラウド型に置き換えた。続いて、PBX(電話交換機)を交換するタイミングを機に、内線電話もクラウド化した。「クラウド化したことにより、常にスタンドアローンのパソコンをサーバーを経由しないでネットワークにつなげられるので、例えば停電になってもお客様の情報をチェックできるなど、100%とまではいかなくても事業が続けられる形にはなりました」と中澤社長は胸を張る。
ナビダイヤル、LINEワークス導入で館外や館内からの各種予約受付を自動化
内線電話のクラウド化と同時に、自動音声応答システム「ナビダイヤル」を導入。外線からの宿泊予約や各種アミューズメントのお問い合わせに直接電話をかけることが可能になった。また、宿泊客が館内から食事や客室備品などを予約する際には公式LINEアカウントを活用することとなった。部屋のキータグやチェックイン時に渡されるリーフレットのQRコードをスマートフォンで読み取ってLINE公式アカウントを友だち登録すると各種のメニューが表示され、夕食や朝食の時間とレストランを選択して予約できる。大浴場の場所など館内の配置情報も得られる。「食事の予約だけでなく、例えば大きさが『L』の浴衣を持ってきてほしいとか、延長コードを貸してほしいとかの要望を入力すれば、その情報がハウスキーピングのLINEワークスに飛び、自動的に対応する仕組みです」(篠木課長)
キータグのQRコードを読み取りLINEに友だち登録して、レストランの食事予約ができるようにしている
中澤社長は今後のホテルヴィレッジの方針について、「草津温泉の他の旅館・ホテルに泊まり、湯畑とか西の河原といった温泉街でゆっくりしていただいたお客様も、2日目はお帰りになる前に当ホテルで草津の自然を楽しんだり、もう1度お風呂に入ったりと、草津の滞在時間を1時間でも2時間でも長くしてもらえるようにしたい」と語る。そのために2022年から「ベルツの森の花畑計画」を推進している。創業者らがベルツ博士にちなんで名付けた「ベルツの森」と呼ぶ広い敷地の一角に新たな花畑を作っていく計画だ。アジサイ、ブルーベリーと続き、今年はサクラを植えた。
「ベルツの森の花畑計画」の一環として植栽したアジサイ畑
中沢ヴィレッジは「温泉文化」のユネスコ無形文化遺産登録を応援している。かつて草津町長を2期務めたことのある、中沢ヴィレッジの中澤敬代表取締役会長は現在、一般社団法人群馬県温泉協会会長として、その先陣を務めている。中沢ヴィレッジ創業者の夢である草津温泉全体の繁栄に向けて、ホテルヴィレッジと一体となった取り組みが進められている。
企業概要
会社名
株式会社中沢ヴィレッジ
住所
群馬県吾妻郡草津町大字草津618番地
電話
0570-01-3232
設立
1967年
従業員数
230人
事業内容
ホテル業、レストラン業、会員制リゾート倶楽部事業、温泉保養公園事業
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