福祉業(介護)

122年続く「人を尊び、共に生きる」介護――理念・自立支援・ICTで築く持続可能な地域福祉 恵風会(群馬県)

From: 中小企業応援サイト

2025年10月02日 06:00

この記事に書いてあること

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産経ニュース エディトリアルチーム

産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

群馬県前橋市の社会福祉法人恵風会。明治期に設立された上毛慈恵会養老院をルーツに持ち、122年の歴史を刻んできた。養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、ショートステイ、デイサービス、訪問介護、居宅介護支援、地域包括支援センター。七つのサービスを展開し、利用者の幅広いニーズに応える「ワンストップ体制」を築いている。今回の取材の中心は特別養護老人ホーム恵風園。理念の継承、自立支援の取り組み、ICTの活用、そして今後の展望について話をうかがった。(TOP写真:移乗支援ロボット「Hug」。利用者の自立支援に大きな成果を出している)

理念を基にした取り組みを語ってくれた黒澤瑞樹施設長、金子恵司課長、高橋知美主任。「敬神愛人」の前で

理念を基にした取り組みを語ってくれた黒澤瑞樹施設長、金子恵司課長、高橋知美主任。「敬神愛人」の前で

明治から続く「敬神愛人」の理念とその継承、創立100年の2003年に現天皇皇后両陛下がご視察

2003年には当時の皇太子ご夫妻がご視察された

2003年には当時の皇太子ご夫妻がご視察された

恵風会の歩みは孤児や高齢者の救済から始まった。明治時代の大洪水、戦前・戦後の社会不安、前橋空襲――幾度もの困難を乗り越えながら、活動を続けてきた。
根底にあるのは「敬神愛人」の理念、「神を敬い、人を愛する」という言葉。恵風園では「人を尊び、共に生きる姿勢」として、創立から122年を経た今も、この精神が職員一人ひとりに息づいている。新入職員研修や事業計画発表会、職員会議などを通じて理念を共有。日々のケアにまで浸透している。創立100周年の際には、当時の皇太子ご夫妻(現天皇皇后両陛下)が恵風園を視察。長年にわたり積み重ねてきた信頼の証しとなった。

一人ひとりの人生や希望に寄り添うケアと自立支援

恵風園のケアは、利用者を「高齢者」という一くくりで捉えない。一人ひとりの人生や希望に寄り添ったオーダーメイド型の支援を基本としている。
特に重視するのは「できることはできるだけ自分でやる」という自立支援の考え方だ。食事、水分補給、運動、排泄など、日常の動作をできる限り自分で行えるよう支えている。
支援の方針は、入所時にご家族から利用者の人生や希望を丁寧に聞き取り、その後職員間で打ち合わせを行って決定する。決まった方針はICTを通じて全職員に共有され、誰が関わっても一貫した支援を提供できるような仕組みになっている。
自立支援の成果には次のような事例がある。

•オムツを外し、自分でトイレに行けるようになった利用者
日中の改善率は7割に上り、自分でトイレに行けることで行動範囲が広がり、会話も増えた。認知機能の改善につながったケースもある
•昔の記憶がよみがえった利用者
オムツを外せたことで外出が可能となり、希望した思い出の場所を訪問。ご家族も驚くほど鮮明に記憶がよみがえった
•精神障がいを持つ利用者の減薬
医師と連携し薬の量を調整。日常生活を安定して送ることができるようになった

こうした変化は、利用者や家族に大きな喜びをもたらす。職員にとってもケアのやりがいを実感できる瞬間となっている。

ナースコールとスマートフォンが連携している。誰がいつ対応したか一目でわかるようになっている

ナースコールとスマートフォンが連携している。誰がいつ対応したか一目でわかるようになっている

ICT・介護ロボットによる業務改革

恵風園では、職員の負担を減らしつつ利用者の生活の質を高めるため、ICTや介護ロボットを積極的に導入している。現場の声を反映しながら、さまざまな機器や仕組みを取り入れてきた。主な取り組みは以下の通りだ。

•移乗支援ロボット「Hug」
職員の腰痛予防だけでなく、利用者の自立支援にも効果を発揮。以前は二人がかりだったトイレ介助が一人で可能になり、オムツを外せる人が増えた。リハビリへの意欲も高まり、当初は不安を示した利用者からも実際に体験すると「使いたい」との声が上がるようになった。
•スマートフォン連携ナースコール
呼び出しがあると全員に通知が届き、迅速な対応が可能に。対応スピードの向上が事故防止や利用者の安心、自立支援にもつながっている
•インカムの活用
一斉連絡ができるようになり、現場全体の連携がスムーズに。情報伝達の手間が大幅に削減された
•タブレットによる記録
紙ベースでの記録をデジタル化。その場で選択方式で入力でき、記入漏れや記録待ちが減少。ケアの正確性と業務効率が向上した
•自動体位変換マットや姿勢調整座布団
褥瘡(じょくそう)防止や血流改善に効果を発揮。職員の負担軽減にもつながり、巡視回数を減らせた
•院内情報共有・伝達システム
会議や連絡事項を一括して伝達でき、情報共有が迅速化。外国人スタッフともICTを通じて共通認識を持てるようになり、多様な人材が働きやすい環境づくりに役立っている

テクノロジーの導入は効率化にとどまらない。利用者の安心感や自立支援、職員のやりがいにつながり、現場の信頼を支える基盤になっている。

自動体位変換マット。褥瘡防止や血流改善に効果を発揮。業務の効率化が進んだ

自動体位変換マット。褥瘡防止や血流改善に効果を発揮。業務の効率化が進んだ

利用者・家族に開かれた透明性 利用者・家族の声をホームページに公開

恵風園では、利用者や家族を対象とした満足度調査を実施し、その結果をホームページで公開している。

寄せられる声には「しっかり対応してくれて助かっている」といった評価に加え、「施設での様子をもっと知りたい」といった要望もある。結果を公開することで、家族に対して説明責任を果たすだけでなく、職員自身がケアの質を振り返り改善につなげる契機になっている。透明性の確保は、信頼を築くための重要な仕組みであり、現場の意識を高める原動力となっている。

「職人数128人、年間離職者数1人未満」が示す組織風土

恵風園の職員数は128人。その離職者数は年間で1人未満という驚くべき水準にある。背景には、職種の垣根を越えた協力体制がある。介護も看護も立場は同じという考え方が浸透し、急な休みには上司が現場に入りフォロー。有給休暇も取得しやすく、働きやすい環境が整っている。

利用者ごとのケア記録をタブレットで入力。情報の共有が介護の質の向上につながっている

利用者ごとのケア記録をタブレットで入力。情報の共有が介護の質の向上につながっている

理念「敬神愛人」は職場の空気にも息づいている。高橋主任は「本当に働きやすい。上司に恵まれている」と笑顔で話す。こうした雰囲気が人材の定着につながっている。「職場環境を理由に辞める人はほとんどいない」という事実は、恵風園が築いてきた組織風土の素晴らしさを物語っている。

施設内は和やかな雰囲気が漂っている

施設内は和やかな雰囲気が漂っている

超高齢化社会の見据え、デジタルを活用して次のステージへ

恵風園は今後の超高齢社会を見据え、さらなる進化を目指している。夜間の見守りや情報管理の高度化など、次のステージに向けた取り組みを進めている。

•夜間見守りカメラの導入
夜間の安全を強化し、事故防止につなげる。万一事故が起きた場合も、映像で状況を正確に把握できるため、原因分析や家族への説明に役立つ
•見守りセンサーの活用
夜間の体温や呼吸数、脈拍などを常時モニタリング。体調変化を早期に発見し、重症化を防ぐことが可能になる
•情報共有システムの拡充
スタッフ間だけでなく、ご家族への情報伝達も強化。透明性と信頼性をさらに高める狙いがある
•システムの統一とセキュリティ強化
安全かつ効率的な情報管理環境を整備。介護現場におけるICT活用を次の段階へ押し上げる

これらの施策は、利用者や家族に安心をもたらすとともに、職員にとっても働きやすい環境づくりに直結する。

「敬神愛人」という理念はこれからも引き継がれていく

「敬神愛人」という理念はこれからも引き継がれていく

理念と実践がつくる、持続可能な福祉

122年の歴史を重ねてきた恵風園は、「敬神愛人」の理念を守りながら、時代の変化に応じて挑戦を続けてきた。利用者の自立を促すケア、ICTの活用、多様性の尊重、透明性の確保――これらが融合した取り組みは、地域社会、利用者、職員のすべてに安心をもたらしている。これからの超高齢社会において、恵風園は持続可能な福祉を目指して歩みを進める。理念と実践を両輪として、未来を見据えた挑戦を続けていく。

同じ場所で7つのサービスを運営。ワンストップで地域のニーズに応えている

同じ場所で7つのサービスを運営。ワンストップで地域のニーズに応えている

企業概要

名称

社会福祉法人恵風会

所在地

群馬県前橋市日吉町2丁目20番地14

HP

http://www.keifu-kai.or.jp

電話

027-231-3430

設立

1903年3月

従業員数

128人

事業内容

高齢者福祉事業(養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、ショートステイ、 デイサービス、訪問介護、居宅介護支援、地域包括支援センター)

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