製造業(食料品)

SDGsの理念に通じる安全安心で持続可能な「土づくり」や野菜のポット栽培、その普及活動を支援するクラウドシステム 関東農産(栃木県)

From: 中小企業応援サイト

2025年10月09日 06:00

この記事に書いてあること

制作協力

産経ニュース エディトリアルチーム

産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

安全安心で持続可能な作物づくりのため、栃木県の那須町から全国に稲作用の培土や農業用の有機肥料を販売している株式会社関東農産。有機肥料の原料となる米ぬかを集めるためにコイン精米機事業を展開したり、露地ではなくポット(鉢)でトマトをおいしく育てる技術を開発して、アイデアと研究開発力を発揮し事業の幅を広げている。最近では、忙しく全国を飛び回る営業担当者が、出先から過去の取引データや製品在庫データを見られるようにして営業効率を高め、これまで以上に顧客に寄り添ったサービスを行える体制作りにも乗り出した。(TOP画像:関東農産が手がけているANS独立ポット栽培システムで育てられているトマト)

独立リーグのプロ野球チーム「栃木ゴールデンブレーブス」が2025年6月に開催した試合で、活躍した選手にトマトジュースがプレゼントされた。球団のサポートカンパニーに名前を連ねている関東農産が提供したものだ。トマトジュースは無添加であるにもかかわらず甘くてフルーツジュースのような味わいで、東京都内でも銀座の百貨店で販売されて好評を博している。このトマトジュースの原料となるトマトは、実は関東農産が共同開発して全国展開している「ANS独立ポット栽培システム」によって育てられた。

ポットでトマトやナス、キュウリをおいしく育てるシステムを開発して提供、自社でもトマトジュースを作り販売する

ポット栽培によって育てられているナス

ポット栽培によって育てられているナス

「ポットの中に土の代わりに特殊な培地(粒状)を入れて、その上でトマトの苗を育てる仕組みです」と代表取締役の郡司祐一氏は説明する。特殊な培地の元になっているのはココヤシの実の繊維を材料にしたココビート。大小さまざまな形になった粒が水を適度に保つようになっていることで、トマトがしっかりと根を張り水分や養分を吸収して、おいしく瑞々しい実をつける。「このANS培地と、自動的に必要な分の水や肥料を与える潅水(かんすい)ユニットをセットにして提供しています」(郡司社長)

この独立ポット栽培システムを導入すれば、誰でも比較的手軽にトマトや野菜の栽培を始めることができる。「導入して2年目で野菜ソムリエの金賞を受賞した人も出ました」(郡司社長)。栽培ポットではトマト以外のキュウリやナス、ピーマンといった野菜も栽培できる。新しく農業を始めたい人や、効率的に農業を行いたい企業などから引き合いが来ているという。同社が1989年に創業した当初から水稲用の培土製造に取り組む中で培った、「土」へのこだわりが、ANS培地という新しい商材の開発につながり、独立ポット栽培システムやトマトジュースといった新しい収益源を生み出した。

水稲用培土の製造・販売で経営基盤を固めつつ、化学物質を使わない有機肥料の開発で新しい顧客をつかみ収益を伸ばす

大学に入り直して有機肥料作りを研究した郡司祐一社長

大学に入り直して有機肥料作りを研究した郡司祐一社長

同社が最初に取り組んだ水稲用の培地とは、田んぼの隅に作っていた苗代(なわしろ)に代わって、ハウスなどで苗を育てる時に使う土のことだ。那須の透水性と保水性に優れた土を加工して作り出した培土は、全国の稲作農家で使われている。「女性が扱いやすいよう軽量化した培土も作っています」(郡司社長)。こうした工夫によって、稲作農家の減少という流れの中で、農家から必要とされる存在であり続けてきた。未曽有の米不足を経験した政府が近年、米の増産に乗り出したことで、培地の需要がここに来て持ち直すのではといった期待も生まれている。

ただ、長く稲作農家の減少が続いていた中で、新規分野への進出は大きな課題だった。そこで1997年ごろから始めたのが有機肥料事業だ。父親が経営していた関東農産に別の仕事をしていた郡司社長が経営に参加。「大学に入り直して微生物や発酵を勉強しました。それから会社に入って有機肥料作りを研究しました」(郡司社長)。コイン精米機を栃木県内に展開して有機肥料の原料になる米ぬかを入手できるようにして、安全な有機肥料の開発に取り組んだ。

取扱製品のポートフォリオを増やして景気の変動に強い経営体制を作り上げてきた

関東農産の工場で製造されている有機肥料

関東農産の工場で製造されている有機肥料

米ぬか以外にも生薬系の植物原料を発酵させた肥料を作ったり、水稲専用の有機培土を全国に先駆けて開発したりするなど、高い開発力を発揮した製品を次々に市場へと送り込んで売上を伸ばしていった。独立ポット栽培システムも含めこうしたポートフォリオの拡充によって、創業から36年に及ぶ経営の中で売上が下がったのは農機販売事業の移譲やコロナ禍などの3回だけという、事業環境の変化に柔軟に対応できる経営体質を作り出した。一業に秀でることも中小企業にとっては大切だが、変化する市場を見て対応していくことも必要だと言えそうだ。

こうした製品面での取り組みを、取引先に伝えて実際のビジネスにつなげるのは営業担当者の役目だ。同社では6人の営業担当者が全国の都道府県を回っているが、「以前は外からデータにアクセスできないようになっていたため、取引先との過去のやりとりを調べたり、在庫の状況を確かめたりするために、本社のパソコンを開いてデータを調べる必要がありました」(総務部の真下勝美部長)

外部からでも取引先別売上データや商品別在庫データを見られるようにして機動的な営業活動が行える体制を作った

関東農産総務部でシステム関係を担当する真下勝美部長

関東農産総務部でシステム関係を担当する真下勝美部長

遠方に出張しても、週の半ばで一度戻って再度出かけていくことが多かったが、クラウド型のシステムにすることで「1週間出っぱなしでも現場でパソコンから確認できるようになりました」(真下部長)。戻って出直す時間も取引先への対応に当てることができる上に、データを参考にしながら柔軟に商談を行うこともできるようになれば、相手との関係もより深まるようになる。自宅などからネットにつなげばシステムが使える環境になったことで、コロナのような事態がまた起こっても、テレワークの体制をすぐに構築して対応できる。不測の事態が起こっても事業を継続する上で、クラウドへの移行は大いに効果を発揮しそうだ。

コミュニケーションアプリやグループウェアを使った情報の共有化も行っている。例えば「栽培農家などを訪ねた担当者が、作物の生育状況をスマホで撮影して研究開発部の担当者に送り、どのような状況なのかを判断してもらう、といったことを行っています」(郡司社長)。その場で問題を確認して対応することで、顧客の信頼も上がり次の取引につながっている。

グループウェアにはスケジュールを入れてお互いに確認できるようにして、クレーム報告も共有してタイムリーで適切な対応を行えるようにした。「以前は月に1回ほど情報共有化会を開催していましたが、今はグループウェアで共有したり掲示板にアップして誰でも見られるようにしています」(真下部長)

勤怠管理システムと給与計算システムを連携させて事務処理の時間を短縮

関東農産の事務室

関東農産の事務室

「請求書の電子化にも取り組んでいて、現在までに3分の1ほどまで終わりました」(真下部長)。紙に出力して郵送する手間を省くことで、事務に関する作業効率を高められる。真下部長は「今後も更に電子化比率を上げることに取り組みます」と決意を語った。

給与計算に関するシステム化にも取り組んだ。以前からICカードを使った勤怠管理システムを導入していたが、これを給与管理システムと紐付けることで事務の手間を省くことができた。以前は、出退勤の時間が打刻されていても、申告漏れなどをチェックした上で計算する必要があったが、新しい体制では締めの日まで待たずに日々チェックを入れてエラーを修正しておくことで、「前に比べて給与計算に関する作業時間を1.5日分減らすことができました。ひとつの事務作業を軽減することで、時間短縮だけでなく、全体の仕事がスムーズに進むようになりました」(真下部長)。

脱炭素社会に向けて環境負荷の軽減に役立つシステムやAIの開発へ

今後のシステム関係の取り組みとしては、脱炭素のような環境面での具体的な取り組みにシステムの活用を検討しているとの事。そのための方針をすでに立て、システム構築会社と契約してどのようなプログラムやサービスが利用できるかを始めた。そしてもうひとつがAI(人工知能)の活用に関する検討だ。どのような事業や業務の分野でAIが利用できるのか、利用できるとすればどのような方法になるのかを探るため、真下部長は「AIコンサルタントから講習を受けました。プレゼンテーションスキルを高めるなどいろいろな活用方法があるようなので、これから積極的に取り組んでいきます」と語った。

海外への事業展開、具体的にはタイでの事業を計画中

関東農産では研究担当部署を置いて既製品の改良や新製品の開発に取り組んでいる

関東農産では研究担当部署を置いて既製品の改良や新製品の開発に取り組んでいる

本業の方でも、既存事業の拡大から新規事業の開発までいろいろと取り組んで、売上の維持・拡大を目指していく。既存事業では園芸培土について、タイでの海外展開に着手している。タイ国産の原料を利用し製品を製造普及していく考えだ。「タイでは輸入品の培土が高価で、野菜の苗づくりが発展途上。輸入培土に替わるタイ国産培土が普及することで、苗づくりの拡大に寄与できる。」(郡司社長)その次のステップとして、水稲用培土の開発にもチャレンジしていく考えだ。日本とタイの国同士が農業に関する交流を進めようとしている中で、同社の持つ優れた培土技術を活かす余地は大いにありそうだ。

独立ポット栽培システムでも、「次はイチゴを育てられるようにしたいですね。平面の路地で栽培するより段々の棚にポットを並べた方が収穫量を格段に増やせますから」(郡司社長)。技術面でまだまだ課題は多いというが、ジュースを飲んだ人が驚くほどおいしいトマトが作れるなら、イチゴにも大いに期待したいところ。栃木県の特産品ということもあり、開発が進めば大きな話題を集めそうだ。

国連が提唱するSDGs(持続可能な開発目標)を大切にした経営は、様々な会社の参考に・・・

関東農産はホームページに「サスティナビリティ」の項目を置き、地域や環境への貢献を大切な使命と位置付けて様々な活動を展開している。コイン精米機事業を通して米ぬかを集め有機肥料の原料としてリサイクルすることは、そのままでは捨てられてしまう貴重な資源の活用につながり、環境への負荷も減らせる。

地元のNPO法人那須フロンティア地域生活センター「ゆずり葉」を利用している心に痛みを抱える人を受け入れ同社の敷地内で野菜の栽培や収穫を手伝ってもらって社会復帰を応援する活動も行っている。まさしくSDGs(持続可能な開発目標)に合致したこうした経営マインドは、環境対応が急がれる世界において大切なこと。「土」と向き合い自然と寄り添ってきた同社の経営から、SDGsに関心を持つ企業にとって、参考となる指針となりそうだ。

関東農産の本社

関東農産の本社

企業概要

会社名

株式会社関東農産

住所

栃木県那須郡那須町大字高久甲字道西2691-3

HP

https://www.kantoh-ap.co.jp/

電話

0287-63-6213

設立

1989年

従業員数

53人(パート・契約社員含む)

事業内容

水稲用育苗培土製造、野菜・園芸用培土製造、有機質肥料製造、施設園芸栽培システムの販売、精米事業(コイン精米機・米販売)

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