製造業(食料品)

国産キャビアで小さな世界企業 新たな養殖技術とAIの活用で経営体質を強化 ジャパンキャビア(宮崎県宮崎市)

From: 中小企業応援サイト

2025年10月10日 06:00

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世界三大珍味の「キャビア」。チョウザメの卵の塩漬けで「黒いダイヤ」とも呼ばれる高級食材の国産化に成功し、世界でも高く評価されているジャパンキャビア株式会社(宮崎県宮崎市)は2025年、国産キャビア発売12周年を迎えた。2004年からキャビアに関わってきた坂元基雄代表取締役社長は、その約20年間を「決して平坦な歩みではなかった」と振り返るが、キャビア製造にクリーンルームとIoT(モノのインターネット)を導入するなど先進的な取り組みで世界をリードしてきた。食品の安全を確保するための国際的な衛生管理手法であるHACCP(ハサップ)をいち早く導入し、ICTを活用した社内の文書管理体制を整備したことに加え、全社的にAI(人工知能)の活用を拡大するために新たな基幹システムの構築も進めている。(TOP写真:ジャパンキャビアのキャビア製造は無菌状態に近いクリーンルームで行われている)

宮崎県が1983年に旧ソ連から贈られたチョウザメの養殖研究に着手し、2004年に完全養殖に成功

宮崎県が完全養殖に成功したチョウザメ

宮崎県が完全養殖に成功したチョウザメ

なぜ、宮崎でキャビアなのか。その答えは、1983年にまでさかのぼる必要がある。1983年に「日ソ漁業科学技術協力年次計画」の一環として、ソ連(現ロシア)から日本に贈られたチョウザメの一部を宮崎県が譲り受け、宮崎県水産試験場でキャビアとなる卵を持つチョウザメ養殖の研究に着手したのが宮崎キャビアの始まりだ。

宮崎県水産試験場は1991年にチョウザメの人工ふ化に成功し、2004年には人工ふ化したメスのチョウザメが産卵し、稚魚が生まれるというチョウザメの完全養殖への道を開いた。旧ソ連のチョウザメは、希望する全国の都道府県に譲渡されたが、チョウザメの完全養殖に成功したのは宮崎県が初めて。これを受けて宮崎県は同年、この養殖技術をもとに新たな産業を起こす目的で、キャビア製造事業者を募集した。

宮崎県のキャビア製造事業者募集に7事業者が参加。試験養殖に失敗も「キャビア輸出の夢」に感銘受け、協議会を結成

チョウザメの養殖池

チョウザメの養殖池

最初に協議会に最初参加したのは県内の7業者でしたが、県の事業説明会には、沢山の事業者が参加。当時、地元の建設会社の取締役営業部長だった坂元社長も、新規事業としてキャビア製造に関心を持ち、説明会に参加した一人だった。だが、事業化の厳しさを感じた坂元社長は、「リスクと投資負担が大きく、事業化は困難」との報告書を会社に上げたものの、建設会社には過去にアユの養殖を手がけた際の養殖池があり、その池でチョウザメの試験養殖をしてみることに。しかし、数ヶ月で全滅させてしまった。

他の事業者に話を聞きに行ったところ、皆困りごとを抱えながらも、60歳以上の高齢者がキャビア輸出の夢を追いかけていることを知った。「高齢者が夢を持つのは格好良い」と感銘を受けた坂元社長は、困りごとを持ち寄って検討する協議会の結成を提案。一番の若手だった坂元社長が宮崎チョウザメ普及促進協議会の事務局長に就いたのは、2007年のことだ。

2013年に宮崎キャビア事業協同組合を設立、宮崎県と協力しキャビア製造を開始した

宮崎キャビア事業協同組合の設立総会

宮崎キャビア事業協同組合の設立総会

宮崎県と一緒になって、勉強会や海外視察を行うなどキャビアの研究を進めていた2012年、予想より早く養殖チョウザメから卵が採れることが判明。キャビア製造の事業化に向けて、2013年に協議会を解消して宮崎キャビア事業協同組合(現ジャパンキャビア株式会社)を設立、県が水産試験場にキャビア加工場を整備した。

「さまざまな支援をしてくれた県への恩義や、協議会の仲間を裏切れないという思いがありました。同時に2004年から10年間もチョウザメと付き合うと、愛着も湧きますし、古代魚であるチョウザメの神秘的な魅力に引き込まれた部分もありました」。この時、建設会社を退職して事業協同組合の事務局長を引き受けた坂元社長は、こう言って当時を振り返る。

わずか600個の初めてのキャビアは即完売したが、翌年までの運転資金調達で地元金融機関を口説く

「最初は日本一のキャビア売り場からスタートすべきと考えた」と語る坂元基雄社長

「最初は日本一のキャビア売り場からスタートすべきと考えた」と語る坂元基雄社長

2013年11月にできたキャビアは、一般的な20グラム瓶で約600個。日本で唯一キャビアの専門売り場を持つ東京の百貨店に売り込みに行き、「商品が完成していないのに売り込みに来た人は初めてです」と言われながらも、興味を持ってくれたバイヤーを商品化最終段階の〝仲間〟に引き込んだ。チョウザメが宮崎にやって来た1983年にちなんだ「宮崎キャビア1983」の商品名が生まれ、日本一のキャビア売り場に商品を並べた。

約600個しかなかったが、東京・丸ビルで開いた発売披露は各テレビ局で取り上げられ、百貨店と通信販売で即完売。話題性から多くの注文は入ってきたものの、いかんせん次のキャビアができるまで時間がかかる。坂元社長は、「宮崎の新しい産業が育とうとしている時に水をやりませんか」と地元金融機関を口説き、運転資金を調達した。

ジャパンキャビア株式会社に組織変更。販売好調で2016年に新加工場建設、伊勢志摩サミット夕食会の食材に採用も

日本で開かれたサミットの食材に相次ぎ採用された「宮崎キャビア1983」

日本で開かれたサミットの食材に相次ぎ採用された「宮崎キャビア1983」

宮崎キャビアの需要が伸びる中で、2016年には新たな加工場の建設が必要になった。約3億円の設備投資だ。「この額の融資は共同組合では難しい」という金融機関の判断を受けて、協同組合から株式会社ジャパンキャビアに組織変更。農林水産省の厳しい審査をクリアし、商工中金など金融機関3行の協調融資を受け、新本社・加工場を建設し、同年12月に完成した。

同時に2016年5月に開催された伊勢志摩サミットの夕食会などの食材に「宮崎キャビア1983」が採用され、話題になった。「国際的な重要イベントで採用されることが、セールストークとして非常に有効」と考えた坂元社長が、県庁と協力して売り込みを図った結果だ。サミットで先進国の首脳たちに振る舞われた効果は大きく、日本国内はもとより世界に「宮崎キャビア」を知らしめるきっかけになった。今では大手航空会社のファーストクラスや世界的な超高級ホテルでも提供される国際ブランドに成長し、2023年5月の広島サミットでも提供された。

「日本一のキャビアをつくる」ため、世界に例のない加工場のクリーンルーム化で衛生管理を徹底し、熟成管理にIoTを導入

キャビアの瓶詰は手作業で盛り付けるように行われる

キャビアの瓶詰は手作業で盛り付けるように行われる

新加工場には、「日本一のキャビアをつくる」という強い意志が凝縮されている。世界にも例のない加工場のクリーンルーム化と、キャビアの熟成度を見極めるための温度、湿度管理へのIoTシステムの導入だ。

宮崎キャビアは、塩分3%程度で熟成させ、旨味を極限まで高めた低温殺菌しないフレッシュキャビアだ。「自然な味わいを最大限に引き出すために保存料や添加物を一切使わず、少量の岩塩だけでキャビアを長期熟成させる製法に挑みました」(坂元社長)という。その結果、雑菌に影響されない最もクリーンな環境で、「キャビアに雑菌を付けることなく熟成させることが重要である」との結論にたどり着き、加工場にクリーンルームを導入した。温湿度や熟成期間などを365日24時間体制のIoTを駆使したクリーンルームで製造作業し、熟成した旨味が十分に引き出された理想のタイミングで急速冷凍をかけ、出荷している。

国際的な衛生管理手法のHACCPの証明書発行や査察に必要な膨大な資料をそろえるための文書管理システムを導入

紙文書のデジタル化とセキュリティー管理で活躍する複合機

紙文書のデジタル化とセキュリティー管理で活躍する複合機

ジャパンキャビアの衛生管理は徹底しており、同社のキャビア加工場は食品の安全を確保するための国際的な衛生管理手法であるHACCPを導入し、厚生労働省のHACCP認証制度に基づくキャビア製造を実践。米国やEU(欧州連合)向け輸出に必要な輸出水産食品加工施設としての認定も受けている。

対米と対EU向けHACCPでは、輸出する際にその都度、厚労省の証明書を発行してもらう必要があるほか、対米、対EUそれぞれ年1回の査察が求められる。HACCP証明書の発行や査察の際には膨大な資料をそろえる必要がある。そのため、パソコンから印刷指示を出した印刷文書を個人別の保存場所に自動的に蓄積する複合機のアプリや、複合機のスキャン機能を利用して紙文書を電子化するシステムを導入し、大量のHACCP資料を紙文書と電子文書を効率的に管理できる文書管理体制を整えてきた。

HACCP専用システム導入後は、文書管理システムが事務管理部門の業務効率化に寄与

業務の効率化が進んだ事務管理部門

業務の効率化が進んだ事務管理部門

厚労省がHACCP査察で電子データの利用を認めるようになったため、2024年4月にHACCP専用のシステムを導入したが、それまでに整えてきた文書管理システムは通常業務の効率化に役立っている。勤怠管理システムの導入でタイムカード集計の手間が省けたほか、個人別に印刷文書を自動的に蓄積するアプリでミスプリントが減少し、機密文書印刷も容易に。スキャン機能を利用して紙文書を電子化するシステムでは電子化作業が大幅に簡素化された。2024年には現行の電子帳簿保存法に対応して証憑(しょうひょう)電子保存システムも導入。池田恵美総務部課長は、「業務の効率化が進み、他の仕事ができるようになりました」と歓迎している。

「中小企業こそAIが必要」として、AIの活用を全社的に広げるための基幹システム構築を進める。

今後のICT化では、業務全体へのAIの活用拡大を計画している。坂元社長は、「2024年まではまさか自分たちがAIを使うとは考えてもいなかったが、今は中小企業こそAIが必要と思っています」と力説し、会社の業務全体でAIを活用するために必要な基幹システムの構築を進めている。

現在も営業会議やチョウザメの卵の品質分析などにAIを活用。「営業会議でAIを使うと、雑談レベルの会話の録音からAIが議事録を自動生成し、それを確認するだけで済むようになりました。しかし、AIが次回までに何をやるかのアクションリストを出すので、やらなければいけないことがいっぱいできて、かなり仕事が増えました」と坂元社長は苦笑いする。

2025年6月からは、AIの活用を広げるために社内の全てのシステムを1ヶ所に集約した基幹システムの構築に着手。同年内に完成するその基幹システムを基にAIの活用を全社的に広げていく考えだ。

2025年からは朝礼で週1回のAI事例発表と、月1回のAI研修会を実施して、従業員のAIリテラシー向上も図っている。AI化を進めるには、全従業員がAIを使えるレベルに達する必要があるからだ。

「日本人がおいしいと思う食材は本当においしい」。しょうゆやだしの旨味を加えた和風キャビアを世界へ

しょうゆやだしの旨味を加えた和風キャビア

しょうゆやだしの旨味を加えた和風キャビア

「日本のキャビアを世界へ」。2022年から商品化している和風キャビアで本格的に世界市場に打って出ることが当面の目標だ。ジャパンキャビアの輸出量は、コロナ前に年60キロに達したが、コロナ禍でゼロになった。2025年3月期にはようやくコロナ前の半分程度に回復。今後はしょうゆやだしの旨味を加えて熟成させた和風テイストのキャビアで輸出の拡大に取り組む方針だ。

「日本人がおいしいと思う食材は本当においしいし、世界にも受け入れられています。和風キャビアの海外での評価も上々です。当初目標としていた『日本一のキャビアメーカー』にはなりましたので、次は和風キャビアを世界市場で売って、『世界一のキャビアメーカーになろう』と社内で言っています」と、坂元社長の勢いはさらに加速している。

メスのチョウザメだけの短期養殖技術による原価低減とAIを活用して現状の人員で売上を2倍にし、経営体質の強化を目指す

メスしか生まないチョウザメ

メスしか生まないチョウザメ

ジャパンキャビアは、画期的な養殖技術の開発にも取り組んでいる。3歳から4歳になるまでわからなかったチョウザメのメスとオスの区別を稚魚の段階で判別する技術や塩水刺激によって成長スピードを1.3倍に速める成長促進技術を、近畿大学や宮崎大学と共同で開発。さらに、近畿大学と共同でメスしか生まないチョウザメを生み出す技術にも目途をつけた。すなわち、キャビアの原料となる卵を持つメスのチョウザメだけを養殖し、採卵までの期間も短縮できることになり、それによってキャビアの製造原価を半減できる可能性があるという。

同社の2025年3月期のキャビア生産量は、約800キロ。売上高は、初年度の2014年3月期の30倍の約4.5億円に拡大した。原価低減によって収益力を強化する一方で、2026年から始まる全社的AI活用によって、坂元社長は「仕事の半分をAI化し、余裕ができた時間で新規事業など新しいことに取り組めるようにして、近い将来に現在の人員(17人)で売上を2倍にしたいと思っています」として、「世界一」に向けた経営体質の強化を目指している。

ジャパンキャビアの本社・加工場

ジャパンキャビアの本社・加工場

企業概要

会社名

ジャパンキャビア株式会社

本社

宮崎県宮崎市瓜生野6388-7

HP

https://www.japancaviar.jp/

電話

0953-86-8686

設立

2013年4月

従業員数

17人

事業内容

キャビアの製造・販売・輸出及び関連事業

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