福祉業(介護)

危機的状況の特養、見守りシステム全床導入他と医療連携で次の改革へ 朝日会(栃木県)

From: 中小企業応援サイト

2025年10月17日 06:00

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2000年に介護保険制度が創設されてから四半世紀が経ち、2025年には人口のボリュームゾーンである団塊の世代が後期高齢者世代となった。当初高齢者福祉事業の担い手は社会福祉法人が中心であったが、国は少子高齢化を背景に民間事業者の介護事業への参入を後押しし、建設業や薬局チェーン、教育事業、保険業といった民間企業が次々と参入している。そして今、医療・介護サービスも提供する民間施設の攻勢を前に、税制優遇があっても利益を出しにくい社会福祉法人は苦境に立たされている。そんな状況に危機感を抱き、ICTを活用した徹底的な仕組み化と医療との連携によって道を開く、社会福祉法人朝日会の取り組みを紹介する(TOP写真:入居者の平均年齢は90歳、移動時はリフトによる介助も行われている)

33歳の時に立てた5年計画で、高齢者福祉施設の開設を宣言するも、新規参入には障壁が高く、7年越しにようやく実現

社会福祉法人朝日会 理事長の青柳勝男氏。30代で高齢者福祉事業を構想した

社会福祉法人朝日会 理事長の青柳勝男氏。30代で高齢者福祉事業を構想した

栃木県宇都宮市に本拠を構える朝日会は、1998年に設立。翌1999年に開設した特別養護老人ホームを皮切りに、デイサービスやショートステイ、訪問看護ステーションなど数多くの高齢者福祉事業を手がける事業者だ。現在理事長を務める青柳勝男氏が高齢者福祉事業を手がける構想を抱いたのは1991年、33歳の時だったという。「26歳から不動産事業を手がけていたのですが、5ヶ年計画を立てた33歳の時、コンサルタントから『出した利益で、何をやりたいのですか』と問われたのです。それで経験は全くありませんでしたが、漠然と高齢者福祉事業を手がけたいと思ったのが最初です。また、当時所属していた青年会議所の在籍期間が40歳までだったため、次のステップを考えていたこともありました」(青柳理事長)

社会福祉法人朝日会が最初に開設した特別養護老人ホーム・はりがや

社会福祉法人朝日会が最初に開設した特別養護老人ホーム・はりがや

高齢者福祉施設をやると宣言した青柳理事長は、35歳の時に当時管轄だった栃木県の担当部署へ相談に出向いた。しかし、許認可数2施設のところに17もの事業者が応募しており、県の担当者には「実現には時間がかかるからあきらめたほうがいい」と返された。さらに2年後にも同部署に出向いたが状況は変わらず。状況が動いたのは3年後の1996年のことだった。管轄が県から宇都宮市に移管したため、市の担当部署に出向いた青柳理事長は、当初開業を予定していた事業者の撤退により、思いがけず特養を開業できることになった。「すぐに施設図面を書いてほしいと言われて急きょ対応しました。そこから国へ申請をして、2年後の1998年にようやく法人の設立となったのです」と青柳理事長は振り返る。

介護保険制度開始後、ケアマネジャーの資格取得や介護報酬請求システム導入 2015年以降はICT導入を進め、記録も電子化

青柳理事長の子息 青柳正寛氏は同法人の特別養護老人ホーム「はりがや夢希の杜」施設長を務め、同法人の事業運営にも力を注ぐ

青柳理事長の子息 青柳正寛氏は同法人の特別養護老人ホーム「はりがや夢希の杜」施設長を務め、同法人の事業運営にも力を注ぐ

特別養護老人ホームはりがや開設から1年後の2000年には介護保険制度が始まり、同法人の介護現場にも大きな変化をもたらした。「ケアマネジャーが必要となり、その資格を職員に取らせました。それと、介護報酬請求業務が煩雑で手書きでは対応しきれませんので、2002年には介護報酬請求システムを導入しました」(青柳理事長)

さらに2015年には同法人にとって力強いブレーンが入職した。青柳理事長の子息で、現在同法人の特養「はりがや夢希の杜」施設長を務める青柳正寛氏である。青柳施設長は前職の総合病院で4年間リハビリテーション職に従事し、在職中から朝日会へ毎月一度手伝いに訪れていたという。また、ICTの活用にも高い関心を寄せており、現場目線での分析と現実的な運用を担う心強い存在だ。

折しも、青柳施設長が入職した頃は、介護人材の不足や超高齢化社会を見据えた国の方針で、ICTインフラの整備によって、健康・医療・介護データの利活用が促進されていた。電子化されたデータは医療・介護事業者間の情報連携に必要だ。「利用者さんの記録業務はけっこう大変ですし、医療現場での電子カルテ運用が始まりましたので、うちも利用者さんの記録を電子化して連携するために、すぐにタブレット端末を導入しました」と話す青柳施設長。現在では一部のケアマネジャーが音声入力も活用しているという。

コロナ禍でICT活用が加速。全床に見守り導入し看取りも迅速対応が可能に 導入コストが課題だが効果を得るには一斉導入が不可欠

全床に導入された見守りセンサーによる利用者の生体情報は、職員のタブレット端末と連動。見守りカメラは異常時に起動し、アラームで知らせてくれるため、状況の把握に有効だ

全床に導入された見守りセンサーによる利用者の生体情報は、職員のタブレット端末と連動。見守りカメラは異常時に起動し、アラームで知らせてくれるため、状況の把握に有効だ

2020年を境に、同法人ではICTの活用が飛躍的に進んだ。その背景はコロナ禍だった。「感染対策として、利用者さんと職員の接触機会を減らすという目的もあり、見守りセンサーを全床で導入しました。夜間にはスタッフひとりで20人もの利用者さんを見ないといけないので、職員の負荷を減らす対策にもなりました」(青柳施設長)

この見守りシステムはベッドに設置したセンサーにより、心拍や呼吸、体動などの生体信号をモニタリングし、夜間の離床や体調急変の際、職員のタブレット端末に知らせが入る仕組みとなっている。さらに見守りカメラもセットで導入しており、異変があるとカメラが起動して居室の様子を確認できる。

「利用者さんの平均年齢が90歳とご高齢なので、昨日まで元気でも急変して亡くなるケースもあります。それが職員にとっては大きなストレスになるのです。24時間、365日モニタリングができると看取りにも迅速に対応できるので本当に助かります」と青柳施設長は導入の効果を実感する。

さらに同法人では現在、排泄ケアの変革に向けて新たな試みも進行中だ。「認知症の方は尿意を感じなくなってしまうので、パッチ型センサーを体に貼って膀胱の状態を検知し、トイレ介護の失敗を減らす排泄予測機器を試用しています」(青柳施設長)。このように、介護を支援するソリューションはさまざまなものがあるが、課題は導入コストだと青柳施設長は表情を曇らせる。「国の補助金はだいたい10%ですが、それでは全床の導入に時間がかかります。だから、特に海外で主流の移動介助機器などの高額なものは、日本ではなかなか導入が進まないでしょう」(青柳施設長)

さらに、ソリューションの導入効果を得るためには一斉に導入することが不可欠だと指摘する。「見守りシステムを全床に導入したのは、一部だけ導入しても効果が出ないからです。それに、利用規模があってこそ使い方のノウハウも生まれます」(青柳施設長)

民間事業者の参入により特養は危機的な状況 医療が欠かせない高齢者への対応にはオンライン診療で対応へ

青柳正寛氏が施設長を務める特養「はりがや夢希の杜」。朝日会ではSDGsにも積極的に取り組んでいる

青柳正寛氏が施設長を務める特養「はりがや夢希の杜」。朝日会ではSDGsにも積極的に取り組んでいる

数多くの施設を展開する同法人だが、青柳理事長は社会福祉法人が運営する特養の現状には危機感を抱いている。その背景にあるのが、大手民間事業者による高齢者福祉・障害者福祉事業への参入だ。「特養は法人税や固定資産税が免除されていることが強みではありますが、そもそも利益が出にくい事業構造ですし、人件費も上がっていますので補助金だけに頼っていたら赤字に陥ります。だからこそ、施設を増やしていくしかないのですが、そこへ来て大手民間企業によるサービス付き高齢者住宅(サ高住)や住宅型有料老人ホームが増えています。それらの施設では訪問看護や訪問介護も使えるのに、特養では医療を伴う人は受け入れができません。高齢者に医療は欠かせないのに、この差をどうやって埋めればいいのでしょうか」と青柳理事長は危機感をあらわにする。

「そこは、テクノロジーが必要なところです」と指摘するのは青柳施設長だ。ここでいうテクノロジーとは、オンライン診療のことを指している。現状、介護保険の療養指導として療養生活を営む場においてオンライン診療を受けることが認められている。ICTの活用は介護施設と医療との連携も可能にする。

「2030年に向けて入居施設は大きく変わるでしょう。ここ2〜3年で変化が起こると見ています。特養が存続する鍵になるのは医療との連携です」と青柳理事長も今後を見据え、取り組む構えだ。

職員の分業・専業化を進め、人間がしなくてもいいことはICTで徹底的に効率化 AIは今後記録と見守り業務での運用拡大が期待される

排泄ケアの変革にも取り組む朝日会。利用者の体に貼ったセンサー型パッチから膀胱の尿量を予測し、職員のタブレットにデータを転送するしくみだ

排泄ケアの変革にも取り組む朝日会。利用者の体に貼ったセンサー型パッチから膀胱の尿量を予測し、職員のタブレットにデータを転送するしくみだ

民間企業の参入が相次ぎ、苦境に立つ特別養護老人ホームだが、それに対し朝日会ではICTを活用したコスト削減と効率化を図り、施設の規模拡大を進めている。一方で、介護の質を落とさないために職員の分業化・専業化を進めている。例えば清掃などは専業スタッフに任せ、利用者と直接関わる業務は介護スタッフが応じる体制の構築だ。さらに、青柳施設長は医療サービスにおけるAIのさらなる利活用にも期待を寄せている。

「見守りと記録はAIが最も活用できる分野だと思います。例えば、利用者さんがナースコールを押したら居室のモニターにスタッフのアバターが投影され、利用者さんと会話を行って対応できることもあるでしょう。スタッフが直接居室に出向くまでの時間稼ぎにもなります」(青柳施設長)

さらに、「記録については現状のソリューションは記録作業を楽にしようというレベル」と指摘する青柳施設長。「動画から文字への置き換えができると飛躍的に記録業務が楽になりますよね。見守りカメラで撮影した動画をAIが判定し、テキスト化することができれば」と今後の機能拡張に期待を寄せている。

今はバラバラなソリューションが統合されればより使いやすくなる 開発者はぜひ現場の声を拾ってほしい

朝日会の各事業所に所属する職員たちは年に1回の事業所目標発表会に参加する。日々の介護業務だけでなく、第三者に目標や達成結果などをプレゼンテーションすることは、職員の成長にも貢献する

朝日会の各事業所に所属する職員たちは年に1回の事業所目標発表会に参加する。日々の介護業務だけでなく、第三者に目標や達成結果などをプレゼンテーションすることは、職員の成長にも貢献する

「ICTソリューションはすでに出そろい、飽和状態にあり国も補助金助成を控えている状況です。今後はICTをどう活用していくかを評価しつつ、再構築する時期ではないかと思っています」と現状を分析する青柳理事長。青柳施設長も「ICTのソリューションが個別化しすぎて、複雑になっている」と感じている。今後はそれぞれの施設に応じて統合的にソリューションがコーディーネートされれば、より効率的かつ導入コストの軽減が実現できるかもしれない。

ICTの未来を先取りするふたりの数々のアイデアは、厳しい現実に向き合いながら生まれた現場のリアルでもある。介護保険制度草創期から介護現場を牽引(けんいん)してきた社会福祉法人朝日会の行動力とリーダーシップは、介護業界に革新をもたらすのではないだろうか。

企業概要

法人名

社会福祉法人朝日会

住所

栃木県宇都宮市針ヶ谷町655番地

HP

https://www.fukushi-asahikai.or.jp

電話

028-688-1555

設立

1998年9月

従業員数

750人

事業内容

特別養護老人ホーム、短期入所施設生活介護、通所介護、認知症対応型通所介護、居宅介護支援センター、地域包括支援センター、ホームヘルプサービス、訪問看護、グループホーム、小規模多機能型居宅介護支援事業所、障がい者グループホーム

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