製造業(その他)

地域産業の高度化に寄与する熱処理技術 支えるのが技術のデジタルデータベースと個別顧客への技術提案 鳥取県金属熱処理協業組合(鳥取県)

From: 中小企業応援サイト

2025年10月21日 06:00

この記事に書いてあること

制作協力

産経ニュース エディトリアルチーム

産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

機械や生産用機械の分野で競争力の高い製品を生み出している鳥取県。ものづくりの根幹を担う熱処理分野で多種多様な技術を保有する鳥取県金属熱処理協業組合は、半世紀近くにわたり地域産業の高度化に貢献してきた。デジタル技術の活用、人材育成、国際標準の品質管理を組み合わせた独自のマネジメントシステムが好業績を支えている。技術開発に積極的に取り組み、取引先は県内にとどまらず全国へと拡大。愛称「とりねつ」を全面に打ち出したブランド構築にも力を入れ、その存在感を高めている。(TOP写真:金属部品の表面に焼入れを施す浸炭熱処理炉)

鳥取県内初の熱処理を担う事業体として1980年に設立 その後「協業組合」※として、地域の産業高度化による付加価値向上に、大きな貢献を果たしてきた

第一工場に設置している真空焼入れ炉

第一工場に設置している真空焼入れ炉

旧伯耆国(ほうきのくに)にあたる鳥取県の中西部は古来、良質な砂鉄が採取されたことから鉄づくりがさかんに行われていた。山陰地方一帯で古代から営まれていた「たたら製鉄」の文化の痕跡を今も残す。大正時代までさかんだったもののその後衰えた鳥取の鉄産業を再度盛り立てる鳥取県金属熱処理協業組合による取り組みが注目を集めている。

1970年代後半まで鳥取県内には金属熱処理を担う事業体がなく、県内の金属加工業者は熱処理前までの付加価値の低い仕事をするか、熱処理の工程を県外の業者に発注するしかなかった。地元産業界の要請を受けた県は、県工業試験場米子分場に熱処理設備を導入し、1980年、設備運営の事業体として地元企業の出資による鳥取県金属熱処理協同組合が誕生。協同組合の存在によって県内の金属加工業者は、地元で金属部品の熱処理を任せることが可能になった。より付加価値の高い仕事を受注できるようになり、その4年後、協同組合は、企業性を高めるため現在の協業組合※に組織体制を変更し、活動領域を拡大した。

・協同組合は、それぞれの企業の事業を助けたり、補完したりする関係
・協業組合は、組合員同士が協力して事業を一体化させる「企業性」を持つ

鳥取県金属熱処理協業組合は、取引先からの品質、納期、コストといった要望に高いレベルで対応することで技術力を高めてきた。県内よりも県外からの受注が多く、これまで約700社と取引し、火力発電、航空機、ロケット、レーシングカーといった最先端分野の部品の熱処理も手掛けている。

3つのISO認証を取得し、世界レベルの熱処理技術を確立

1990年代後半から世界レベルの熱処理技術の確立を目指し、業界内で先駆けてISO(国際標準化機構)の認証取得に取り組んだ。現在、品質(9001)、環境(14001)、労働安全衛生(45001)の3つのISO認証を取得している。2016年には航空宇宙分野の認証、JISQ9100を県内で初めて取得。社内の各部署が効果的に機能する体制を整え、内部監査を実施して年間200項目以上のチェックを行っている。職員はどのように小さなミスであってもきちんと報告する習慣と規律を身につけているという。「小さなミスでも見逃さずに把握して対応することで、大きな問題の発生を防ぐことにつなげています。不具合情報もしっかりと共有して、次年度の活動目標にも反映しています」と馬田秀文専務理事は話した。

鳥取県米子市にあり5つの工場を稼働して熱処理のほぼ全域をカバー 「とりねつ」の商標でブランド構築にも力を入れる

第一工場の様子

第一工場の様子

金属材料に加熱、冷却といった熱的操作を加えることで耐久性、耐摩耗性、耐疲労性、靭性(じんせい)などの機能を付加する熱処理は、ものづくりにおける極めて重要な工程だ。鳥取県金属熱処理協業組合は、県西部に位置する米子市の工業団地近くで、本社事務所と5つの工場棟を構えている。敷地面積は約1万平方メートル。工場内には真空焼入れ炉、浸炭焼入れ炉、プラズマ窒化炉、ガス窒化炉、高周波焼入れ装置といった多種多様な熱処理設備とマイクロスコープ、電子顕微鏡、硬さ試験機などの検査装置が並び、24時間体制で稼働している。

鳥取県金属熱処理協業組合のコーポレートマーク

鳥取県金属熱処理協業組合のコーポレートマーク

鳥取県金属熱処理協業組合は、金属部品や金型の用途、使用環境に合わせて最適な熱処理を施す体制を整えている。2008年には、長年親しまれてきた愛称の「とりねつ」を商標登録し、情報発信性を重視したブランド構築にも力を入れている。「熱処理のほぼ全域をカバーできる設備と技術を持っているので、取引先が求める性能に合わせたきめ細かな技術提案ができるのが、とりねつの強みです。試作品のような一点ものから量産品まで幅広く対応しています」と馬田専務理事は胸を張った。

鳥取県金属熱処理協業組合は、新たな技術開発にも積極的に取り組み、ステンレス鋼の耐食性を低下させない窒化処理「トリナイト-S」、溶接割れを起こさない浸炭浸窒焼入れ処理「トリソフト-G」、歪みを焼入れ段階から抑える真空焼入れ「トリソフト-V」といった独自の熱処理技術を保有しており、取引先にとって便利な存在でありたいとしている。

多能工化を推進することで人材を育成 効率的な生産体制を確立し、業務の属人化を解消することで、顧客への迅速な対応や有給休暇の取得率向上につなげている

鳥取県金属熱処理協業組合の馬田秀文専務理事

鳥取県金属熱処理協業組合の馬田秀文専務理事

経営理念として職員とその家族の幸福の実現を掲げる。「日々の生活の充実は、質の高い仕事をする上で必要不可欠と考えています。モチベーションの高い職員が育ったからこそ、事業も徐々に拡大し、オンリーワン技術の開発や特許の取得につながってきたのだと思っています」と馬田専務理事。地域貢献として工場見学の受け入れや地元の学校への講師派遣も行っている。熱処理技術だけでなく、品質、環境、安全衛生についてのマネジメントシステムや人材育成に関する講演の依頼をされることもあると話す。地元の高校や大学を対象にしたインターンシップの受け入れも行っている。

人材活用面で力を入れているのが、職員の多能工化だ。本来の担当以外の3種類の業務に1週間ずつ従事することで4週間単位のローテーション勤務を行ない、複数の業務の知識やノウハウを習得できるようにしている。「複数の業務をこなすことで、職員は組合全体の業務の流れを広い視野で把握して的確に対処する能力を身に付けることができます。必要最小限の人員配置で効率的な生産を実現できるだけでなく、業務が属人化しないので顧客への対応も迅速に行うことができます。特定の人がいなければ仕事が回らないということがないので休暇も取りやすく、90%を超える有給休暇の取得率につながっています」と馬田専務理事は説明した。多能工化を推進することで、人員を増やすことなく売上高を1.5倍にすることができたと説明する。

透明性が高い多面評価、絶対評価を採用 自由闊達な職場環境を整え、呼び合う時は役職や肩書きではなく、『さん』、『ちゃん』、『君』で

オフィスの様子

オフィスの様子

人事考課では透明性が高い多面評価、絶対評価を採用している。被考課者に対して4人の考課者を割り振り、考課者は10の評価項目に対しエビデンスを元に総合評価を行い、課長による2次考課を経て6段階の絶対評価による最終考課を決定している。最終考課の決定前には直属の上司と被考課者の面談が行われ、納得がいかなければ変更を申し立てることができる。役職についても56歳で一般職に退く役職定年制を採用。能力のある中堅の人材を早期に管理・監督者として抜擢(ばってき)する。役職定年となった人材にも引き続き活躍の場を用意し、名刺上の肩書を昇格させるなど様々な配慮を行っている。「職員が闊達(かったつ)に意見交換を行い、気持ちよく働くことができる雰囲気や環境をつくることを重視しています。組合内では役職や肩書ではなく、『さん』、『ちゃん』、『君』で互いに呼び合っています」と馬田専務理事は明るい表情で話した。

在籍する技術者の約9割が金属熱処理技能士の資格を所有し、特級技能士が半数を占める。全国規模の熱処理コンテストで優勝した実績も

第1回熱処理コンテストで優勝した際に贈られた賞状

第1回熱処理コンテストで優勝した際に贈られた賞状

鳥取県金属熱処理協業組合は、技術力を身につけるための職員教育を重視し、外部の研修や資格取得に関する講習会の受講料を負担している。熱処理の研究に対する学位の取得や、海外研修や学会の出張も支援している。技術者28人のうち約9割が金属熱処理技能士の資格を所有し、特級技能士が半数を占める。鳥取県認定の高度熟練技能者(とっとりマイスター)も5人在籍。馬田専務理事も、とっとりマイスターの資格とともに鳥取大学大学院で工学博士の学位を取得している。日本熱処理技術協会中部支部が主催した2022年の第1回熱処理コンテストでは、参加した全国の大企業を抑えて優勝を果たし、第2回でも準優勝を獲得するなど好成績を残している。

独自のマネジメントシステムをデジタル技術で支える 700社以上の顧客や1000種以上の金属のデータを受注支援システムに登録し、熱処理作業に必要な指示票を瞬時に発行することができる

受注支援システムを活用する様子

受注支援システムを活用する様子

高い技術力を備えた人材と国際標準の品質管理と共に鳥取県金属熱処理協業組合のマネジメントを支えているのがデジタル技術だ。1998年からオーダーメイドで開発した受注支援システムを運営し、顧客情報や熱処理を施した製品情報などのデータを一元管理した上で活用している。システムは、一定期間ごとに業務の迅速化を目指して検索機能を強化するなどバージョンアップを続けている。2012年の第3回中小企業IT経営力大賞で、全国231社の応募の中から優秀賞を受賞した実績も持つ。

受注支援システムには、これまで取引してきた700社以上の顧客や1000種以上の金属の材質のデータを登録。対象となる金属製品に対応した顧客コード、熱処理の種類、材質、指定の硬さなどを入力すると瞬時に、処理パターン、温度、時間、受注時に記録した依頼品の写真などを表示した作業指示票を発行できるようにしている。作業指示票には作業の指示をはじめ、顧客データや要求スペックに加え作業実績、品質記録など様々な情報やデータが追加される。処理結果は最新データとしてシステムにフィードバックし、納品書の発行や売上の計上などに活用できるよう基幹業務システムと連動することで事務作業も効率化している。この受注支援システムは他県の熱処理業者から販売を依頼されたこともあったという。

工程管理システムを使って熱処理設備のリアルタイムの運転状況を確認 紙資料はすべてデジタル化してペーパーレスで一元管理している

熱処理設備の運転状況を確認するための工程管理システム

熱処理設備の運転状況を確認するための工程管理システム

生産現場では、LANネットワークを完備し、稼働中の熱処理設備のリアルタイムの運転状況を複数のモニターで確認できる工程管理システムを導入。温度や時間をはじめ、必要なガスの種類、流量、真空度などを常時確認することが可能で、異常発生時には、アラームが表示されるので緊急時の対応も迅速に行うことができる。また、顧客から熱処理チャートの提出を求められた時には、過去に遡って目的のヒートパターンをプリントアウトすることも可能である。

ドキュメントスキャナーで文書を読み取る様子

ドキュメントスキャナーで文書を読み取る様子

また、注文書、図面、作業指示票、検査データなど熱処理作業についての紙資料は、ドキュメントスキャナーを使ってすべてデジタル化し、サーバーに保管してペーパーレスで一元管理している。20年以上前の問い合わせについても対応できると話す。保存データは広く職員も閲覧でき各担当者は顧客の問合せや品質管理に利用している。

「航空機や自動車の部品の熱処理記録は、エビデンスとして長期にわたって保存するため、紙ベースで保管していた時は管理にかかる負担が大きく、書庫の容量も限界に近づいていたのですが、デジタル化によって悩みは一気に解決しました。優れた検索機能を備えた文書管理システムを導入したことで、必要な資料を探し出す作業もわずかな時間で済むようになりました」と馬田専務理事。デジタル技術を活用した文書管理体制を構築したことによって、取引先から問い合わせが寄せられた時の返答が迅速に行えるようになり、より一層の信頼感を獲得することにつながったと説明する。

給与計算システムと連動した勤怠管理システムを活用 設備の点検簿作成のデジタル化も進めている

勤怠管理や熱処理設備の点検簿作成といった業務のデジタル化も進めている。職員は組合から支給されたスマートフォンから勤怠管理システムにアクセスして出勤時間と退勤時間を入力している。勤怠管理システムは給与計算システムと連動しており、給与明細もデジタルで発行している。以前は紙ベースで行っていた設備点検に伴う記録は、設備に付けているQRコードを読み込んでフォーマットに従って記入すれば業務が完了するようにしている。今後、会議の記録や議事録の作成に生成AIを活用することも検討している。

常にゼロベースで業務を見直す 強みをさらに磨き上げ、これからも地域産業の高度化に貢献する

鳥取県金属熱処理協業組合の工場の外観

鳥取県金属熱処理協業組合の工場の外観

生産設備から事務作業まで連動した業務のデジタル化を推進し、品質と生産性の向上につなげている鳥取県金属熱処理協業組合。「これまでうまく機能してきた取り組みを絶対視することなく、常にゼロベースで業務を見直すことを心がけています。人材育成と国際基準の品質管理にデジタル技術を組み合わせたマネジメントシステムを活用して、とりねつの強みをさらに磨き上げ、新しいことにチャレンジしていきたい」と馬田専務理事は話した。鳥取県は、自動車、航空機、医療機器の産業領域を今後の成長分野と位置付けている。いずれも熱処理が大きな役割を果たす分野だ。地域産業の高度化を進めるキープレイヤーとして鳥取県金属熱処理協業組合に寄せられる期待はこれからもますます高まりそうだ。

企業概要

法人名

鳥取県金属熱処理協業組合

本社

鳥取県米子市夜見町3001-3

HP

http://www.torinetsu.jp/

電話

0859-24-0363

設立

1980年4月

従業員数

32人

事業内容

真空熱処理、浸炭熱処理、ガス窒化処理、プラズマ窒化、高周波熱処理、無酸化焼入れ、火炎焼入れ

記事タイトルとURLをコピーしました!

業種別で探す

テーマ別で探す

お問い合わせ

中小企業応援サイトに関連するご質問・お問い合わせは
こちらから受け付けています。お気軽にご相談ください。

お問い合わせ

中小企業応援サイト

https://www.ricoh.co.jp/magazines/smb/

「中小企業応援サイト」は、全国の経営者の方々に向け、事例やコラムなどのお役立ち情報を発信するメディアサイトです。"

新着情報をお届けします

メールマガジンを登録する

リコージャパン株式会社

東京都港区芝3-8-2 芝公園ファーストビル

お問い合わせ先:中小企業応援サイト 編集部 zjc_smb@jp.ricoh.com