福祉業(介護)

「依存から独立へ」—重度肢体不自由者の“暮らし”を支える自立ホームの挑戦とICT活用の最前線 社会福祉法人はばたき(東京都八王子市)

From: 中小企業応援サイト

2025年11月06日 06:00

この記事に書いてあること

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産経ニュース エディトリアルチーム

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自立の原点は「当事者の思い」から。「障がいがあっても地域の中で自分らしく生きていきたい」——。そんな思いから始まったのが、社会福祉法人はばたきが運営する「はばたきの郷 八王子自立ホーム」だ。(TOP写真:都営住宅での生活から施設が始まり、増築を重ねて現在の体制に至る)

はばたきの歴史は1973年、東京都の「障害者のための街づくり協議会」にまでさかのぼる。当事者団体「青い芝の会」の提言に基づいて、東京都が重い障がいがあっても一人の市民として自ら生活する場所をつくることを目指した。そして1981年、「ケア付き住宅」という当時の福祉施設にはなかった画期的な形態で20名規模の施設がスタート。当初は都営住宅を住まいとし、ケアスタッフが不在のノーケアデーには障がい者同士が助け合いながら暮らしていた。

利用者は重度の肢体不自由者だが、「すべて支援されるのが当たり前」ではない。必要な支援を受けながらも、できる限り自分自身で生活を組み立てる。その精神は今も変わらず受け継がれている。

「磨く・食べる・生きる」——人間らしく在るために 特に「磨く」にウェイト 『心を磨く』 『感性を磨く』 『相手のことを感じ取る力を磨く』へ

設立の精神を守りながら現場で見守る橋本孝広常務理事。利用者の作品の前で

設立の精神を守りながら現場で見守る橋本孝広常務理事。利用者の作品の前で

「施設の理念には、『依存から独立へ』という力強い言葉と並んで、『磨く・食べる・生きる』というテーマが掲げられています。これは単なるスローガンではなく、日々の暮らしの中に深く根づいた価値観です。とりわけ『磨く』にウェイトを置いています。当初は『障がい者の生活環境を徹底的に整える(清掃)』ことを意味していましたが、次第に『心を磨く』 『感性を磨く』 『相手のことを感じ取る力を磨く』といった、人間的な成熟の意味へと広がっていきました」(橋本常務理事)

利用者の中には寝たきりに近い人や重い知的障がいを併せ持つ人もいるが、時間をかけながら自分の考えを言葉で伝えようとし、仲間同士で問題や痛みを分かち合いながら解決する努力が重ねられている。

「この『磨く』は、利用者だけでなくスタッフにも求められる姿勢になっています。日々のやりとりの中で、利用者の表情の変化や声の調子を敏感に感じ取り、『今、何を求めているのか』 『本当はどんな思いがあるのか』を受け止めようとする事が、スタッフ自身の心を磨いています」(橋本常務理事)

共有スペースでは、和気あいあいとした雰囲気でそれぞれの創作活動にいそしむ

共有スペースでは、和気あいあいとした雰囲気でそれぞれの創作活動にいそしむ

スタッフの成長も支援の一環 スタッフはそれぞれの専門性と人間性の両面で研鑽を重ねている

はばたきでは、利用者支援の質を高めるために、スタッフ自身のレベルアップにも力を入れている。グループワークや会議での学びのほか、積極的に資格を取得。重度障がい者の内面を丁寧に感じ取り、的確に応える力を養うため、日々の支援の中でも気づきや振り返りを大切にしている。

また、近年では医療的ケアや知的障がい、精神障がいとの併存といった新たなニーズにも対応するため、幅広い視点とスキルが求められていて、スタッフはそれぞれの専門性と人間性の両面で研鑽(けんさん)を重ねている。

ダイニングルームの食卓。利用者の車椅子に合わせて高さが微調整されている

ダイニングルームの食卓。利用者の車椅子に合わせて高さが微調整されている

「施設」ではなく「暮らしの場」として「支援に依存する」ではなく、 「支援を上手に使いながら、自分の暮らしを楽しむ」

八王子自立ホームの大きな特徴は、「いわゆる“施設らしさ”がない」こと。多くの障がい者支援施設が日課や生活管理を前提とした“集団的な暮らし”をベースにしているのに対し、ここでは一人ひとりの生活リズムや価値観を尊重することが基本。

入浴や食事など支援が必要な場面では時間の調整があるものの、それ以外は原則自由。外出も買い物も、誰と会うかも、本人の判断に委ねられている。入所時には一人で電車に乗れなかった利用者が、他の利用者の助言をきっかけに外出できるようになった例も。「支援があるからそれに依存する」のではなく、「支援を活用しながら、自分の暮らしを楽しむ」——この発想の転換が、他施設との最大の違いだ。

利用者の居室。車いすで動くことを考慮した広い空間、介護ベッドがなければ普通のマンションと変わらない雰囲気

利用者の居室。車いすで動くことを考慮した広い空間、介護ベッドがなければ普通のマンションと変わらない雰囲気

利用者が主体の「生活向上委員会」 “支援する側” “される側”を超えた、人としての対等な関係づくり

利用者主体の活動として、「生活向上委員会」という話し合いの場が定期的に開かれている。自治会的な役割を担いながら、日常の困りごとから行事の企画まで、利用者同士が率直に意見を出し合う。

また、スタッフと利用者の定例会議では、支援に対する率直なフィードバックが行われることも。「あの支援は違うと思う」といった本音も、信頼関係のもとで共有され、互いの理解を深め合う場となっている。ここには、“支援する側・される側”を超えた、人としての対等な関係づくりが息づいている。

居室の前の中庭。部屋から緑が見え癒やされる

居室の前の中庭。部屋から緑が見え癒やされる

デジタルサイネージで「情報が暮らしを動かす」ICTのあり方を体現

利用者から大好評のデジタルサイネージ。スタッフのシフト表を見て行動戦略を考える

利用者から大好評のデジタルサイネージ。スタッフのシフト表を見て行動戦略を考える

はばたきでは、介護リフトや入浴装置などの機器に加え、ICTの導入にも積極的に取り組んでいる。

特に注目すべきはデジタルサイネージ。施設のエントランスに設置された大型モニターには、天気・ニュース・スタッフの出勤シフトなどが表示され、利用者の暮らしに密着した情報がリアルタイムで提供されている。

「驚いたのは、今日の天気やニュースが人気なのはわかりますが、スタッフの出勤シフト表が大人気なこと」(橋本常務理事)利用者はスタッフの出勤シフト表を見て、「今日はこの人に相談してみよう」「午後にこの件を聞いてみよう」と行動を組み立て、自主的な生活を支える情報源として活用。スマートフォンで画面を撮影して確認する人もいて、表示内容のリクエストも頻繁に寄せられる。モニター前がちょっとした交流の場になることもあり、「情報が暮らしを動かす」ICTの理想的なあり方を体現している。

スタッフを支援するためのICT導入も着実に進んでいる

今後は、スマートフォンや携帯端末などによるリアルタイム入力の導入も視野に入れ、重要な記録作業の効率化を目指す。現場での支援内容をすぐに入力・共有することで、支援の質が高まり、スタッフの気づきを即時に反映できる体制を整えていく計画だ。

インカムの導入も検討中。支援スタッフ間でのリアルタイム連携が可能になれば、利用者の変化に即応できるようになり、チームとしての連携力が向上。これらのICTツールは、業務効率化だけでなく、スタッフの学びやレベルアップにも直結すると期待される。

事務業務では、勤怠管理にはクラウド型のシステムを導入し、紙のタイムカードを廃止。多様な勤務形態に対応する運用のチューニングが進められており、今後は給与計算や勤怠確認の自動化にもつながる見通し。

複合機を活用し、帳票類のデジタル化やペーパーレス化も進行中だ。紙に頼らない情報共有によって、日常業務のスピードと正確性が向上した。

対外的な情報発信にも力を入れており、最近では「おりこうブログ」の導入によってホームページの更新頻度が大幅にアップ。施設の取り組みなどを発信することで、地域や関係者とのつながりを深めている。

「フェスタ!はばたきの郷」は、地域住民と利用者がふれあう貴重な機会 日常の中に“共に暮らす”感覚が育まれている

はばたきは地域との関係性も大切にしている。2024年から始まった「フェスタ!はばたきの郷」は、地域住民と利用者がふれあう貴重な機会として開催。子どもたちが自然に障がい者と関わる場としても機能している。

地域では『車椅子の人に優しい』と評される雰囲気が醸成されており、日常の中で“共に暮らす”という感覚が育まれている。

地域との行事「フェスタはばたきの郷」の様子(左:来場者歓迎のゲート、中央:続々と入場する来場者、右:様々なイベントを楽しむ(写真は釣り堀)

地域との行事「フェスタはばたきの郷」の様子(左:来場者歓迎のゲート、中央:続々と入場する来場者、右:様々なイベントを楽しむ(写真は釣り堀)

地域の障がい者への寄り添いや高齢化、重篤化、医療ケアの増加等次のステージへ

現在、短期入所支援や新たな「相談支援事業」の立ち上げも進められている。これは、介護保険でいう“ケアマネジャー”のように、地域の障がい者に寄り添う役割を担うもので、一人ひとりの人生に並走する新たな展開といえる。

一方で、利用者の高齢化や障がいの重篤化、医療的ケアの必要性の増加といった課題も増えている。その中で、支援の軸となるのは、人としての感性を磨き続けるスタッフの姿勢と、ICTの力を活かしたチーム支援。

テクノロジーを生かしながら「ともに生きる仲間」として日々を重ねていく

「支援する」「される」という役割を超え、“ともに生きる仲間”として日々を重ねていく。社会福祉法人はばたきの取り組みは、私たちが「人間らしく生きる」とは何かを問いかけてくれているようだ。

その根底には、テクノロジーを柔軟に生かし、変化に応じて進化を続ける姿勢と、変わらぬ信念がある。

企業概要

名称

社会福祉法人はばたき

所在地

東京都八王子市千人町4-14-15

HP

http://www.habataki-j.or.jp

電話

042-665-9131

設立

1994年3月

従業員数

50人

事業内容

障害者支援施設(施設入所支援・生活介護・短期入所)の管理運営

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