鋳鉄材の切削が最大の強みの老舗メーカー 自動化に挑み、サイバー攻撃へは出口対策強化 新井工業(群馬県)
2025年11月10日 06:00
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新井工業株式会社は群馬県館林市で機械加工部品の設計・製作・加工を手掛ける。創業から70年以上の歴史を持つ中で、バブル経済の崩壊、リーマン・ショック、新型コロナウイルス禍といった数々の苦境を、モノづくりの基本を忠実に守り、乗り越えてきた老舗メーカーだ。現状の事業環境は決して良好とは言えないものの、最大の特徴である鋳鉄材(FC)の切削技術、さらに産業用ロボットと連動した自動化を突破口に、苦境打開の道筋を手繰り寄せようとしている。一方で、すそ野の広い産業機械のサプライチェーン(供給網)の一端を担う企業として、現在の産業界の脅威であるサイバー攻撃に対するセキュリティー対策も怠らない。(TOP写真:テーブルの大きさ630角の横型マシニングセンター)
創業の地は東京・品川 転機は館林工場の新設 事業環境の変化から二拠点体制を一本化 創業者は中小企業の振興発展に貢献
群馬県館林にある新井工業の本社工場
新井工業の創業は現在の新井浩之代表取締役の父、新井善太郎氏が1951年7月、東京都品川区戸越で機械部品を切削する事業を友人と共同で立ち上げたことにさかのぼる。その後の事業拡大に伴い、1959年9月に新井善太郎氏が単独で「有限会社新井製作所」を設立し、1963年には第二工場を設け、各種機械部品の加工や油圧機器、減速機、変速機の製作に事業を広げてきた。さらに、1967年には有限会社から「新井工業株式会社」に改組した。
この間の事業実績については、1966年1月に開催され、当時の佐藤栄作首相が名誉総裁を務めた第一回全国中小企業団体総連合表彰大会において、中小企業界の振興と発展への貢献が高く評価され、名誉総裁賞を受賞した。
新井工業にとって大きな転機となったのは1972年で、現在の本拠である群馬県館林市に工場を新設した。創業の地である東京都品川区戸越は住宅街で、騒音などの問題のほか、設備機械の大型化を進めるにも工場の増改築が困難だったため、館林工場の新設に踏み切った。館林市を選んだのは新井社長の母の実家が館林市にあったからだ。
館林工場にはその後、無人運転可能な横型マシニングセンター、複合NC旋盤などの設備を導入し、事業を拡大してきた。この間、生産は東京と館林の二拠点体制で取り組み、館林工場で製造した部品を東京工場で組み立て、発注元に納めるという基本パターンを続けてきた。
ただ、「10年ほど前から事業環境が大きく変化してきた。また、東京工場は住宅と兼用しており、増改築すると営業ができない状況にまで来ていたため、これをきっかけに思い切って東京工場を閉鎖し、2017年12月に生産拠点を館林工場に統合、集約した」(新井社長)。
取引先には上場企業も 部材の材質にこだわらず小ロットから中ロットまで「一つから心を込めて作る」をモットーに 苦戦する油圧技術には金属旋盤加工の自動化で打開
採択された事業再構築補助金により導入した産業用ロボット(左側奥)とNC旋盤システム
現在、新井工業が手掛ける製品は一般産業機械全般だ。上下水道のバルブ開閉装置の加工・組立をはじめ、電車の台車を替える時に車両全体といった重量物を持ち上げるのに使われるスクリュージャッキのほか、油圧部品やガスバルブといった大小さまざまな機械加工部品に及ぶ。
主要取引先はカヤバ(旧KYB)、日本ギア工業といった株式上場企業をはじめ、中小企業など多岐にわたる。中でもカヤバとは主力取引先として良好な関係を継続しており、品質管理において積極的な活動が評価され、品質優良賞などの表彰も受けている。新井社長は「当社の特徴は、まず部材の材質にはこだわらない。他社が敬遠しがちな鋳物のFC加工も率先して引き受ける。さらに、小ロットから中ロットまで『一つから心を込めて作る』をモットーにしている」と語る。
ただ、一般産業機械、特に油圧技術の分野は、構造が簡単で部品点数の少ない産業用モーターによる電動化の流れが加速してきた中で、苦戦しているのが現状だ。新井社長が「10年ほど前から事業環境が大きく変化した」と語るのも、この電動化の波が大きな背景になっている。
しかし、この厳しい状況にただ手をこまねいているわけではない。新井工業は中小企業等事業再構築促進事業として中小企業庁から採択された事業再構築補助金により、産業用ロボットと連動した金属旋盤加工の自動化に取り組んでいる。2022年3月に採択された事業計画は「金属旋盤加工自動化による土木工事機械部品の高精度・短納期の実現」で、新井社長は「ロボットはまだフル稼働には至っていないものの、フルにこなせるようにしていきたい」と意欲を見せる。
中小企業を狙うサイバー攻撃に備え、「出口対策」で対応 大企業のサプライチェーンの一角を担う立場として「取引先に迷惑はかけられない」 受発注のICT化も模索
テーブルの大きさ400角のマシニングセンター
一方、新井工業が取り組み始めたのはサイバー攻撃に備えたセキュリティー対策の強化だ。これまで業務用パソコンはウイルス対策ソフトで対応してきたものの、社内ネットワーク上の対策は実施しておらず、いわゆる「出口対策」にリスクを抱えていた。たまたま業務用パソコンが故障し、新たな機種を導入したのに合わせて、2025年7月に社内ネットワークから外部への危険な通信を検知し遮断する出口対策を備えたセキュリティーサービスの導入に踏み切った。
近年は、中小企業を狙ったサイバー攻撃がかなり増えている。大企業や官公庁との下請けや取引関係のある中小企業へのサイバー攻撃を踏み台にし、そこを経由して外部流出した情報から、攻撃の本丸とされる大企業や官公庁のサーバーに侵入するというのが、中小企業を狙う理由だ。このため、大企業、特にすそ野が広く重層構造のサプライチェーンを抱える大手メーカーは、下請け企業などに対しセキュリティー対策、特に出口対策の強化を求めてきている。
新井工業の場合、取引先であるカヤバ、日本ギア工業の株式上場企業のサプライチェーンの一角を担っており、サイバー攻撃に対するセキュリティー対策の環境整備が不可欠になってきた。新井社長はセキュリティー対策に踏み切ったことについて、「取引先にはセキュリティ対策の実施状況を確認するチェックリストの提出などを求められており、それに対応している。とにかく取引先に迷惑をかけないようにするため、出口対策を打った。導入によって得られる最大の利点は安心感であり、ある種、保険をかけるといった意味合いもあった」と語る。
今後、業務効率化を図りたい点について、新井社長は「すべての受発注をICT(情報通信技術)化したい」と語る。現状はカヤバ、日本ギア工業の主要取引先とは、それぞれの受発注システムを活用している。
一方、現場の機械設備について、新井社長は「機械の故障を未然に検知できる『予兆検知』のようなシステムができないかと思っている」と話す。新井工業の場合、「古い機械だと故障すればシステムごと交換しなければならない。そうなる前に部品の交換だけで済むのであれば、費用も抑えられる。
今後の方向性もあくまでFCの切削技術にこだわり、強みにさらに磨きを
「当社の最大の特徴である鋳鉄材の切削の技術をメインに据えて、強みにさらに磨きをかける」と語る新井浩之代表取締役
新井工業が今後目指していく方向性について、新井社長は「当社の最大の特徴であるFCの技術をメインに据えて、引き続き、強みに磨きをかけていく。FCは削ると粉が散って機械の心臓部に入る場合もあるため、FCを嫌う企業も結構多い。ただ、当社はFC主体でずっとやってきた。だからこそ、それを伸ばすノウハウを持ち合わせている」と述べ、あくまでFCにこだわった事業の進化に取り組む方針だ。
その上で、新井社長は「X・Y・Zの3軸に加えて回転・傾斜軸の2軸を同時に稼働させ、どんな形にも加工できる「同時5軸加工機械」という最上位の機械で、これ強みにした仕事やニーズを取り込みたい」と将来像を描く。
新井工業が今後ともこの方向性を貫いていくうえでは、生産管理や受発注をはじめとしたICTによる業務面でのバックアップ体制の構築が必要であり、「ICTに強い会社としてシステムを進化させていく」と語る。老舗メーカーの新たなチャレンジはこれからだ。
企業概要
会社名
新井工業株式会社
住所
群馬県館林市近藤町620-3
電話
0276-73-5942
設立
1951年7月
従業員数
10人
事業内容
横型マシニングセンターやY軸付NC旋盤(複合機)を活用した機械加工部品の製作
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