日本で唯一の「仏教」の名が入った更生保護施設、2026年度建て替えを控え、個人情報等のセキュリティ強化を行う 群馬県仏教保護会(群馬県)
2025年11月20日 06:00
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犯罪を犯した人や、非行歴のある少年が社会復帰した際に、再犯や再非行を防ぐため、自立し、改善・更生できるように支援を行う更生保護施設。更生保護法に基づき、法務大臣が認可するこうした施設は全国に100を超え存在するが、群馬県前橋市の「更生保護法人 群馬県仏教保護会」は、その中でも唯一「仏教」の名が入った施設だ。2026年度には、約60年ぶりの全面改築を控え、県下の寺院の協力や近隣住民の理解を得ながら施設を運営している。(TOP写真:会議室の仏間、お彼岸のための追善供養。墓参りや焼香の経験がない寮生のため、作法を教えながら共に般若心経を唱え、先祖の供養を行う)
群馬県仏教会が「釈放者の社会復帰を助けることは宗派を超えて協力すべき」として群馬県仏教保護会の歴史が始まった
群馬県内の寺院の住職たちが、宗派を超える形で設立したと語る河内孝道理事長
前橋市内の有志寺院が、前橋市天川原町の「松竹院」に釈放者の収容保護所を設けたのが始まり。これを契機に、群馬県内の寺院の住職らが、宗派を超えて、1913年5月に「群馬縣佛教聯合保護會」を設立。現在の前橋市紅雲町に収容施設を移転して、本格的に釈放者の保護事業を開始した。保護會は1922年に財団法人「群馬県仏教連合保護会」となり、1930年に現在の名称となった。
「最初に保護所として手を挙げてくれたお寺があった。そうすると、群馬県仏教会が、全部でやろうよ、ということになり、保護会の組織が始まったと聞いています」と話すのは、群馬県仏教連合会の会長で、同保護会の19代目理事長にあたる河内孝道氏。同じ仏教でも宗派によってさまざまな考え方はあるが、「慈愛慈悲や相互理解など、人を助けることについては、経典を読めばどの宗派にも入っている話。であるならば、宗派を超えて釈放者らの保護をやろうと。先人の遺徳というものがいかに素晴らしいかということです」と説明を加える。
耐震性の問題で全面改築に 県下寺院の懐具合にそれぞれの事情はあるが、「先人の遺徳の灯を消してはいけない」との思いで一致
「先人の遺徳の灯を消してはいけない」と力説する河内孝道理事長(右))と大塚良太郎施設長(左)
現在の建物が完成したのは1969年のこと。1968年に建設した平屋建ての少年寮の隣に、成人寮が完成した。1996年の更生保護法の施行に伴い、更生保護法人に組織変更され、現在に至っている。成人寮と少年寮は2009年に全面改修工事を終えたが、耐震性の問題などから、「更生保護施設大規模整備事業」の第7次5ヶ年計画の改修対象施設となり、2026年度に全面改築を予定している。
河内理事長や、連合会事務局長で保護会の大塚良太郎施設長によると、施設の全面改築に要する費用は、現状で6億弱と見積もられているが、建設資材の高騰などにより、今後さらに膨らむ可能性もあるという。
「更生保護法人更生保護事業振興財団や公益財団法人JKAからの補助を受けます」と大塚施設長。だが、それだけでは足りず、不足分を保護会で捻出しなくてはなりません。県下の寺院に対する説明と協力の要請に、河内理事長ら役員が県内を奔走してきた。
「人口減少によって、県内の寺院でも財政的に厳しいところはあるが、先人の遺徳をしのび、顕彰していかなくては寺の本来の価値がない、この灯を消してはならないという思いに、県下のすべての寺院が『手を取り合ってやろうよ』と賛同してくれました。般若心経でいうところの『ぎゃーてーぎゃーてーはらそうぎゃーてー』(あらゆる苦しみの世界を離れ、悟りの境地へと歩みを進めるように励ますメッセージ)の精神ですね」と河内理事長が話す。保護会が設立された際の意思、先人の遺徳を、各寺院が深く理解している証だ。
具体的には、地域内で割当額を決め、その地域内で財政の潤沢な寺が多めに寄進し、財政の厳しい寺院をフォローするなどの方法で、県下の寺院すべてが協力体制を築いているという。
更生保護法人 群馬県仏教保護会の外観
入寮者へ「ソーシャルスキルトレーニング」(SST)により現代社会へうまく対応するための訓練を行い、同時に本来持っている慈悲の心や他者を敬う気持ち、命の大切さや感謝の心などを育む
写仏教室の様子
入寮者は規則正しい生活を身につけるため、朝起きて清掃を行い、門限や消灯時間を設けて夜にはきちんと寝る生活だ。
さらに、現代社会へうまく対応するため、「ソーシャルスキルトレーニング」(SST)を集団もしくは個別で行う。「保護会で生活する寮生の中には、住民票を移す手段を知らない、役所へ行っても各種手続を行うのに、どうしたらいいのか、どう聞いたらいいかわからないという人がいます。また、働ける状況にない上、所持金もなくなり、生活に困って生活保護の申請をしようとしても、実情を訴えられず申請すらできない人もいます」と大塚施設長は指摘する。
こうした生活上の課題や仕事、人間関係の問題を含めて、「困難な場面に直面した時、対処するのではなく逃避してしまい、その結果として再犯に至ってしまう場合も多いため、社会で生活するための技術を身につけることができるSSTは必要なのです」と大塚施設長。むしろ、これまでそうしたことに対処していなかったため、「寮生は社会の常識に飢えており、砂が水を吸収するように、すぐに生活に取り入れている」のが実情という。
また、入寮者には出納帳(小遣い帳)を記入させ、補導職員が個別面接で金銭管理を指導する。「出納帳の記入にハマる人が多く、新聞広告をチェックし、1円でも安いスーパー探しや、寮生間で情報交換をする姿も見かけます」と大塚施設長は目を細める。
施設では入寮者の退所後も連絡を取り合い、生活状況の把握に努めている。再犯に至らないよう、指導や助言を含めた相談にも乗っているという。
仏教の強要は行っていないものの、入寮者による写仏と追善供養が行われるのも特徴だ。入寮者の多くは親族とのつながりが疎遠になり、近しい人に頼れないことから、こうした更生保護施設へ保護を求めねばならない状況でもある。「会いたくても会えない親族たちに思いをはせながら、神妙な顔で仏壇に手を合わせる姿が印象的なのです」と大塚施設長は説明する。
写仏について、大塚施設長は「気持ちを落ち着かせ、仏教を身近に感じながら精神修養する行の一つです。集中力を高める効果は、地域社会で生活する上で有用な取り組みでもあります」と話す。また、追善供養は「自身の先祖への供養のために読経とお焼香を行います。仏教青年会の方々と交流することで、贖罪意識の涵養(かんよう)、慈悲の心や他者を尊重する気持ち、命の大切さや感謝の心などをはぐくむことを目的としています。当会を退所した元寮生に参加してもらい、自己の体験談などを語ってもらうことで、ピュアカウンセリングの効果もあります」と、取り組みの効果を解説する。
近年は入寮者も高齢化の波 入寮者数も漸減傾向に 入寮者は平均3~4ヶ月で自立へ
入寮者の高齢化や施設について説明する大塚良太郎施設長
釈放者などを保護する施設だけに、近隣の理解も重要だ。もともと更生保護施設は釈放された人の社会復帰を支援する役割を担っているが、犯罪には被害者がいる。「幸いにして、被害者側から『お寺がそんな加害者を保護するのか』というような声が保護会に向けて出されたことはないけれども、水面下ではそういう声があるかもしれない。でも、釈放者たちが『社会に受け入れてもらえない』と判断すれば、再犯に手を染める可能性だってある。地域の安心や安全を考えれば、こうした事業は必要なんです」と河内理事長は力説する。加えて「身柄拘束を解かれてから、半年以内に自立できるようにしなくてはなりません。最長でも保護会では半年までしか入寮できません。多くの入寮者は3~4ヶ月で自立していきます」と説明する。
刑期満了後などに引受人がいない場合、受刑者らは更生保護施設への入所を希望できる。法務省保護局の管轄下にある前橋保護観察所を通じて、入寮希望者の打診があり、入寮に至る。施設は、法務省からの委託費や仏教会からの賛助、篤志家や更生保護団体などの賛助会員による出資などで運営されている。
そうした中、大塚施設長によると「近年、収容人数は減ってきていますが、高齢者の割合が増えているというのが現状です」という。
2021年は収容者は83人。2024年は69人、年間の入寮者のうち、2~3割程度は高齢者だ。職を探そうにもうまくマッチしない入寮者も多いため、保護会では2021年度に社会福祉士の資格を持つ職員を採用。「生活保護の申請をしたり、施設に入ってもらったりするなど、必要な支援を受けられるような道筋を作るために、早い段階から着手するようにしています」と大塚施設長は話す。
また、県内に13団体ある更生保護女性会にて、月1回行われる、入寮者への食事作りが好評で、今年度は入寮者もともに食事を作る行事へと発展。河内理事長は「入寮者には、母親などの愛情が薄い中で育った人も多く、自分より年齢が下の女性ながら、母親の愛情を受けるような感じで食事作りを楽しむ入寮者も多いようです」と目を細める。
群馬県就労支援事業者機構の登録企業に就職を斡旋 マイナンバーカードが不可欠の中、手続きなどにも最適なシステムを導入
秘匿性の高い入寮者の情報をインターネットを通じて扱えるシステムを導入した
入寮から最長6ヶ月という時間は長いようで短い。保護会では、働くことが難しい高齢者など以外は、群馬県就労支援事業者機構に登録した企業への就職を斡旋(あっせん)することで自立を促しているが、ネット環境の発達の中で、「寮生の個人情報の扱いが難しく、苦労していた」と大塚施設長は明かす。
以前は、インターネット環境につなげられるパソコンは1台のみ。その他のパソコンは、個人情報の流出を防ぐため、外部と接続できない仕様だった。だが、「それではやはり事が足りず、それぞれのパソコンを外部につなげられるようにする必要があった。そこで個人情報などが流出しないよう、ルーターやファイアウォールにセキュリティ機能を備えた機器を導入し、ウイルス対策も含めた多層的な防御システムを導入。また、サーバー内でバックアップ対策も含めたデータ管理ができるようにもしました」と大塚施設長。
入寮者が新たに職探しをする際などにも必要不可欠なのがマイナンバーカードだが、「何をするにしても必要なこのマイナンバーカードを作るにも、ネットで手続きをする必要があり、パソコンのネット接続は必要です。以前は、データをUSBメモリなどに落としてやり取りするなどの手間があった」というが、現在はそうした面からも職務の遂行がスピーディーになったという。
現在は、施設長以下5人の職員が信頼関係を築きながら職務を遂行しているものの、さらにセキュリティレベルを高めるためのシステム構築も視野に入れているという。
施設が全面改築に入る2026年度は、仮施設に移転して事業を継続するのは非現実的なため、入寮者の受け入れを停止するが、2026年度内に全面改築を何とか終え、2027年度からは新たな環境を大いに活用し、入寮者の自立支援を行っていく方針だ。
企業概要
団体名
更生保護法人群馬県仏教保護会
住所
群馬県前橋市紅雲町1-24-6
電話
027-221-3376
設立
1913年(更生保護法人化は1996年)
職員数
5人
事業内容
元受刑者などの釈放者の自立を促す更生保護
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