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新潟県内のイベントの企画・運営から会場設営までを一手に手掛け、成長を続ける 新宣(新潟県)

From: 中小企業応援サイト

2025年11月21日 06:00

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新潟県内の見本市や各種フェアなどのイベントの企画・演出や、会場の舞台美術などの設営から運営までを一手に手掛ける株式会社新宣。2026年で創業40周年を迎える、新潟県内では不動の地位を誇るイベント会社だ。人のつながりから創造できるものを日々模索し、情報過多ともいわれる時代において、働く人々を主体として取捨選択を行い、さらなる成長を期している。(TOP写真:新宣のホームページ)

企業向け弁当や社員食堂運営の会社員から独立 創業者が営業を通じて感じた「イベント業」の可能性 新宣発足後は、新たな見本市会場やイベント誘致の団体が発足したことも追い風に

会社の歴史について語る丸山慶之取締役社長

会社の歴史について語る丸山慶之取締役社長

創業者である佐野健次氏は、東京の工業高校を卒業後、都内の電気部品製造会社に勤めた後、故郷の新潟県に帰り、新潟市の企業向け弁当や社員食堂運営を手掛ける企業に転職した。営業でその才覚を発揮し、新規契約先を開拓するなどしていたが、独立することを考え、会社を退職した。2年半後に起業するにあたって、東京にいた頃にさまざまなイベントに足を運び、新潟に戻ってからも週に1度は東京のイベント会場に足を運んでイベント事業者などの仕事ぶりを見ていたこともあり、イベントを手掛ける事業を立ち上げた。1972年のことだ。食品業の営業時代に培った「顧客の希望にはすべて応える」という信条の下、順調に事業を拡大したが、経理担当がいなかったため、事業の拡大とは裏腹に資金繰りが苦しくなり、この会社を1985年に整理。債務処理を終えて、1986年1月に新たに「新宣」を立ち上げた。

「私も入社前のことですから聞いた話でしかありませんが、創業翌年の1987年に新潟市産業振興センターができ、様々なイベントが開催されることになりました。産業振興センターが多くの見本市の会場となったので、そのイベントなどの会場設営から仕事を取れるようになったそうです」と説明するのは、同社の3代目社長に当たる丸山慶之取締役社長。合わせて1988年には、会議やイベントの誘致を図る「新潟コンベンションビューロー」が発足したことにより、“イベント業”という仕事が注目を集め始めた背景もあり、順調に業績を伸ばした新宣は、1988年の「88上越国際博」の会場設計や施工を受注するなどして、実績を積み上げていった。

昭和天皇崩御でイベント自粛ムード 仕事が激減するも、全国都市緑化祭を単独受注 会場設営だけでなく、トータルでイベントの設営・実施を請け負う総合事業者へ転換

新社屋完成まで本社として使われていた建物

新社屋完成まで本社として使われていた建物

ところが、1989年1月、昭和天皇が崩御し、時は「昭和」から「平成」へ移る。イベント自粛ムードが高まり、「当然、新潟県にも影響が及び、各種イベントが中止や延期となったことで、直後の売上は前年同期比7割減にもなりました」と丸山社長が振り返る。

ほどなく自粛ムードは収まり、同じ年の7月には、宮城県仙台市で開催された「89仙台印刷文化典機材展」の会場設計や施工を受注。もともと創業者の佐野氏夫妻だけで始めた会社は、この頃に社員が17人となり、躍進する布石となる態勢は整いつつあった。その後も順調に大型案件の受注を重ね、やがてその実績は県内でトップクラスになっていた。

そこに大きな転機が訪れた。1998年に新潟市と新津市(現・新潟市秋葉区)で行われた「平成10年度全国都市緑化祭」の開会式を受注したのだ。加盟企業による共同受注を目指した県の「ディスプレイ協同組合」にはくみせず、佐野氏はあくまでも単独受注を目指した。単なる会場設営にとどまらず、イベントの設営から運営、実施を請け負う総合事業者としての矜持(きょうじ)を持とうとしたのだ。

「もともとは舞台美術などのハード面に強かった会社ですが、そこから脱皮を図り、イベントの企画や運営、実施などのソフト面も手掛けることで、トータルアドバイザーの立場を取ろうということでした」と丸山社長。

その後、2003年に大型見本市会場、国際会議場、オフィスビル、ホテルなどを備えた一体型コンベンション施設「朱鷺メッセ」が新潟市中心部に開業。その翌年に始まった、酒どころ新潟ならではのイベント「にいがた酒の陣」を初回から手掛けるなど、県内イベントでは押しも押されもせぬ企業となった新宣。2006年の長岡市の市制100周年の記念事業には地元紙や大手広告代理店と共同して、イベントの企画段階から参画したことで、イベントの企画・設営・人員手配・広報・運営までのすべてを請け負い、丸山社長が言うところの「トータルアドバイザーの立場」としてイベント全体を仕切る企業に成長した。

新型コロナウイルス禍では、イベント自粛で大激震も、人の集まる会場の運営ノウハウを買われ、PCR検査やワクチンの大規模接種会場の運営を手掛け、過去最高売上を記録

舞台装飾の製作などがもともと得意で、今もなお、社員らが責任を持ってひとつひとつ作り上げている

舞台装飾の製作などがもともと得意で、今もなお、社員らが責任を持ってひとつひとつ作り上げている

2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大震災などによるイベントの鎮静化や自粛ムードなどで売上が落ち込んだこともあったが、近年最大の危機は、2020年に広まった新型コロナウイルスによるイベントの全面的な中止だった。

「とにかく、人を集められない、人が集まるイベントはほぼできなくなってしまったので、コロナ発生前に比べて売上が8割減となりました。昭和天皇の崩御の時を上回る落ち込みとなりましたが、むしろよく2割は残っていたな、というような状況でした」と丸山社長。

そんな折、イベント設営や運営にまつわる実績を積み重ねてきていた新宣に、多くの人員が集まる会場の運営について、行政側から打診があった。コロナに対するPCR検査やワクチンの大規模接種会場の運営についてだった。「最初は新潟県から打診がありました。当時はまだ新型コロナウイルスがどういうものかを完全には把握していなくて、社員の中には『この仕事をしたら、感染するのではないか』といった憶測すらありました。ただ、会社の仕事がこのまま止まっていては存続できない、ということで、社内で専属チームを作り、この仕事を受けることにしました。通常であればこうしたイベントは入札などが行われるのが一般的ですが、早急にコロナ禍に対処することが必要ということで、スピード感を優先して、弊社と随意契約をしてもらいました」

とにかく早く、ということで、持っているノウハウや実績が評価されて結ばれた随意契約により、約3年間、県内各地の大規模接種やPCR検査の会場運営を担ったことで、過去最高の売上が続くこととなった。通常、イベントは春と秋が繁忙期となるが、コロナ禍での事業は季節に関係なく途切れることなく続いたこと、さらに、県だけでなく県内の主要自治体からも仕事を受注したことがその要因だ。もちろんこうした受注においても、会場設営から当日の現地スタッフ、運営や当日の来場者の登録システムなどを一気通貫で請け負い、コロナ禍前には年間で10億円程度だった売上が、2021年2月期には20億円まで拡大した。

「酒の陣」や「フィッシングショー」「フードメッセ」など主だったイベントは数多く 「成人式(二十歳のつどい)」では警備会社と共同体を組み、県警の協力も仰ぐ

イベント会場の柱などを仕上げている様子

イベント会場の柱などを仕上げている様子

新宣が現在手掛けている主なイベントは、前出の「にいがた酒の陣」のほか、100社以上の釣り具メーカーが出展し、朱鷺メッセに毎年2万人以上を集める釣りの祭典「にいがたフィッシングショー」、新潟市で開催される食の総合見本市「フードメッセinにいがた」などがある。これに加え、毎年4000人以上が集まる「成人式」(現・二十歳のつどい)も、新宣が手掛ける大事なイベントの一つだ。

「すでに10年以上前から成人式を手掛けていますが、始めた当初はまだ、いわゆる『荒れる成人式』のような様相もありました。警備会社と共同企業体を組み、式典の前方に警備員を並べたり、県警のご協力を仰いだりしました。そうした取り組みが定着したことと、全国的にも荒れることが少なくなっているのと同様で、近年は少なくなり、ここ2~3年はトラブルなどはありません。お酒を飲んだ人は式典会場へ入れないという取り決め)なども奏功しています」

「リアル」から「バーチャル」へ イベントのあり方もコロナ禍を境に変わりつつある

得意としてきた看板作り。多くのイベントの看板を手掛ける

得意としてきた看板作り。多くのイベントの看板を手掛ける

コロナ禍を境に、イベントのあり方も大きく変わってきた。「実際に会場に行き、対面で交流するリアルのイベントが当たり前だったのが、今はバーチャル(オンラインなどを活用してイベントに参加)も増えてきましたね。そして、そのハイブリッド型のイベントも増えています。今後もこういった傾向は少なからず続くでしょうね」と丸山社長は指摘する。

新潟県内のイベントでも、会場の規模に対応して全体の参加人数が制限されることは、当たり前に行われるようになった。特にビジネス系のイベントであるセミナーや展示会、見本市は、多くがバーチャルでの開催に変わってきた。こうした傾向に丸山社長は次のような認識を示す。「オンラインでこうした見本市や展示会の開催が増えたのは、リアルと同様に見込み顧客の情報が得られたり、詳細な情報を伝えられるなど、オンラインでの開催の効果が認識されたことが大きな要因とみています。ただ、リアルには当然リアルの良さもあり、バーチャルとリアルのイベントを同時開催するハイブリッド型のイベントが多くなっています」

イベント業界にとっては、チケットをモバイル端末で保持することで簡素化され、発行の手間や労働力が大きく軽減されたことも大きな変化だ。「チケット販売にまつわる人員の削減と同時に、入場時のチェックも以前に比べれば劇的にシンプルになりました。それだけではなく、マネジメント面においても、予約システムによる参加者数の把握や入場売上予測の効率化なども容易で、そうした分析材料をデータベースに蓄積させ、顧客へのターゲティングにおいて非常に的確に的を絞れることになります。今後もこうした便利さや効率性は高まりそうです」と丸山社長はみる。

クラウドサービスにより、イベント企画段階、運営段階、当日全てにおいて情報共有や進捗管理が大きく進化

イベント状況を確認する丸山慶之社長

イベント状況を確認する丸山慶之社長

こうした環境を背景に、新宣が継続的に成長していくために必要なことについて、丸山社長は「経営課題は社内外にたくさんあります」と説明する。具体的には「世界的な気候変動や世界情勢に伴うリスク」「経済変動」「少子高齢化と労働力人口減少」「ICT技術の発達に伴う消費者ニーズの変化」といった外部要因に加え、内部的にも「社内のコミュニケーション不足」「人材育成」「ビジネスモデルの見直し」などがあるという。

「特に労働力人口の減少は喫緊の課題です。労働力人口減により、人材確保のコスト増大などに対応できなければ、生産性低下や事業継続困難となるリスクに直面する可能性があります。また働き方改革では、私が若い頃にしていたような長時間労働は是正され、多様な働き方への対応も求められるため、社内体制の見直しを進めているのです」と丸山社長。

こうした状況を踏まえ、社員各自のスケジュールを可視化できるシステムや、販売管理・オンライン請求書受領を担うシステムを導入し、成果を上げている。また、社内クラウドサービスの導入により、自身も外回りで社外にいることが多い丸山社長は、「私や営業担当が社内データを外出先から見ることができ、スケジュール管理、協力企業との打合せもスムーズに行えるようになった」と語る。

企画提案段階での様々なCGや3D-CADのやり取りが行えるようになったほか、造作などのハード部分と作業スケジュールの管理、当日のイベント運営に関する情報の共有や進捗管理などを含め、「大きく進化したと思います」と丸山社長は話す。

今後は、顧客カルテを作成する感覚での提案、複数事業領域の確立、リアルなコミュニケーションの重要性、AIを生かした事業開発等を通じて新たなステージへ

2024年9月に完成した新社屋の入口

2024年9月に完成した新社屋の入口

今後の新宣について、丸山社長は、「個人の営業担当が情報を持つだけではなく、見える化することによって社内で共有したり、社内スケジュールも共有化することで、効率的な運営ができるようになりました。営業においても、顧客のカルテを作るような感じでアプローチをどうするかなど、効率的に組み立てていく必要があります」

「コロナ禍を経てわかったことは、事業領域が一つだけでは存続が厳しくなることもあるということ。他の事業でもある程度、会社を支えていける柱を複数本育てていかなくてはならないですね」

「それと、オンラインはとても便利だけど、人とのコミュニケーションが薄くなる今、ちょっとした情報交換の機会は少なくなっています。ネットやメールでコミュニケーションは取れるけれど、リアルにおいて存在する独特のコミュニケーションは少ないです。表情を読み取ったり、とかね。オンラインにばかり頼っていると、失敗はないかもしれないけど、成長の機会もないと思うんですよ」

そうした中で、今、丸山社長が思い描くのはAI(人工知能)の効率的な導入だ。「あくまでも人間が主体であることには変わりないのですが、AIをどううまく導入していくか。そのトライ&エラーを繰り返しながら、AIともども会社も一緒に成長させていきたいと考えています」

創業者の佐野氏以来、道を切り開いてきた新宣が、また新たなステージに進もうとしている。

企業概要

会社名

株式会社新宣

住所

新潟県新潟市中央区神道寺2丁目3番4号

HP

https://shinsen.biz/

電話

025-243-6827

設立

1986年

従業員数

38人

事業内容

各種催物会場の企画及び施工、各種造形装飾用品の企画・製作、広告一般の代理業務

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