農林・水産・鉱業

林業の魅力、もっと身近に 森と人をつなぐ場所へ! 働きやすさと誇りを育てる 揖斐郡森林組合(岐阜県)

From: 中小企業応援サイト

2025年12月03日 06:00

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岐阜県西部で滋賀県と福井県との県境に位置する揖斐郡に、林業のイメージを新しくしようと挑戦している森林組合がある。「きっと、林業はかっこいい」をキャッチフレーズに、職員の待遇改善やICTを活用した業務効率化に積極的に取り組んでいるのが揖斐郡森林組合。日本は国土の約7割を森林が占めており、林業は木材の生産にとどまらず、生物多様性の保護やCO₂吸収による環境保全、土砂災害の防止など、私たちの暮らしを支える多くの役割を担っている。しかし、その重要性に比べて、社会的な認知度はいまだ高いとは言えない。そうした中、揖斐郡森林組合は、林業の持つ多面的な価値を広く伝えるため、地域とのつながりを深めながら、次世代に向けた情報発信にも力を入れている。ICTの活用や働く環境の改善を通じて、「かっこいい林業」の実現を目指すその姿勢は、業界の未来を照らす一歩になり得るのかもしれない。(TOP写真:森林整備は地球温暖化対策や国土保全に大きな役割を果たしている)

7町村森林組合による岐阜県初の広域合併森林組合として1995年に誕生

全国の森林組合でも数少ない間伐材などのリサイクル設備

全国の森林組合でも数少ない間伐材などのリサイクル設備

揖斐郡森林組合は1995年2月、揖斐川町、春日村など岐阜県揖斐郡の7町村にあった森林組合が合併して誕生した。岐阜県で初めての広域合併による森林組合だ。全国で市町村合併が進む中、林野庁は1950年代後半から森林組合の合併を進めてきた。1963年に森林組合合併助成法が成立し、合併の動きが本格化。揖斐郡森林組合も、「流域林業の中核的担い手となり得る広域合併の促進」という林野庁の方針のもと設立された。

揖斐郡森林組合は、2万1500ヘクタールの人工林と、4万8500ヘクタールの天然林を整備している。年間の木材生産量はおよそ9,500立法メートル。また、間伐材や剪定(せんてい)材、土木現場などから出る木材を粉砕機でチップ化し、木質バイオマス発電の燃料などにして販売するリサイクル事業も展開。現在、岐阜県内にある18の森林組合の中で、中堅クラスに位置している。

森林整備は100年サイクル 将来の担い手確保に向け、林業のイメージ向上と就業環境改善に乗り出す

「働きやすく、誇りを持てる林業へ。そんな姿を描くことで、未来の仲間が自然と集まってくるはず」と話す野原義弘参事

「働きやすく、誇りを持てる林業へ。そんな姿を描くことで、未来の仲間が自然と集まってくるはず」と話す野原義弘参事

森林整備は、①苗木を植える植栽、②植栽木の成長を妨げる雑草木を刈る下刈り、③雑木を取り除く除伐、④成長に応じて間引きし、立木密度を調整する間伐、⑤伐採して木材として利用する主伐――の順で行われる。「伐(き)って、使って、植えて、育てる」という森林のサイクルは100年を超え、その間に人の手による適切な整備を行わなければ、森林は荒廃し、本来の役割を果たせなくなる。

しかし、林業は「きつい、汚い、危険」の3K職場といわれている。「この3Kイメージを払拭したい。働きやすく、誇りを持てる林業へ。そんな姿を描くことで、未来の仲間が自然と集まってくるはずです。そうして人がつながり、森が育まれ、森林の価値も次の世代へと受け継がれていく。そんな循環を目指しています」。職員の出入りが激しく、人手不足が深刻化していた2020年頃。組合の総務・財務部門を担当していた野原義弘参事は、現場の声に耳を傾けながら、林業のイメージづくりと職場環境の改善に取り組み始めました。「森を守る人が、安心して働けること。それが、森の未来にもつながる」そんな思いが、今の取り組みの原点です。

「きっと、林業はかっこいい」。ポスターやオリジナルロゴを作成・発信し有名アウトドアブランドの制服を採用した

「揖斐郡森林組合」のオリジナルロゴマーク

「揖斐郡森林組合」のオリジナルロゴマーク

林業は、温室効果ガスであるCO₂を吸収する森林を守る仕事。揖斐郡森林組合では、「俺たちの仕事は『地球防衛軍』だ」という思いを込めて、「きっと、林業はかっこいい」というコピーのポスターを制作し、SNSでの情報発信をスタート。制服には、有名アウトドアブランド「モンベル」のジャケットやポロシャツ、ワークパンツを採用し、職員に支給している。ポロシャツなどの背面には、「環境に配慮した未来」を意味する「GREEN FUTURE(グリーン・フューチャー)」の文字をあしらい、機能性とデザイン性を両立させることで、林業のイメージアップにもつなげている。さらに、組合の理念をより明確に伝えるため、オリジナルのロゴマークも最近刷新された。

給与水準を岐阜県産業界の平均以上に引き上げ、職員との対話重ねて仕事のやり方も改めた

重機の仕事は雨でも休まない。

重機の仕事は雨でも休まない。

「働きやすい職場へ」、揖斐郡森林組合では、就業環境の改善にも力を入れている。給与水準を岐阜県内の産業平均よりも高く設定し、有給休暇も取得しやすくした。ただし、単に給与を上げるだけでは、組合の経営が成り立たなくなるおそれもある。そこで、職員と対話を重ねながら、働き方の効率化にも取り組んできた。

「林業は屋外での仕事なので、どうしても天候に左右されます。以前は雨が降ると、森林整備や伐採の作業は休みでした。けれど今は、伐採した木材を出荷する作業など、重機やトラックを使えば雨の日でもできる仕事があります。事前に天気予報を確認しながら、雨でも休まなくて済むよう、仕事のやり方を工夫してもらっています」。「何のために仕事をするのか」という目的についても職員と話し合いながら理解を深め、仕事のやり方の改善を続けているという。「今も日々、職員とともに一緒に、よりよい働き方を考えています」(野原参事)

1997年に揖斐郡森林組合に入った野原参事は、当時を振り返ってこう語る。「当時の賃金体系は請負的で、一般的なサラリーマンとは異なっていました。林業を広く社会に知ってもらうためには、若い人たちが魅力に感じられる給与制度や就業環境を整える必要があります。職員が『林業を職業にしてよかった』と思ってもらえるようにと考え、2020年ごろから進めてきた職場改革が、少しずつ成果をあげてきています」

ICTで業務を効率化。ワークフローシステムの導入で各種届け出や稟議の申請・承認を電子化した

ICTを活用した業務の効率化も、職場改革の大きな柱となっている。2020年以降は、それまでに使用していた販売・在庫管理システムを更新し、2023年にはクラウド型のワークフローシステム、2024年には電子請求書発行システムを導入した。

ワークフローシステムは、紙で行っていた申請や承認を電子化し、業務効率を向上させるためのツールだ。紙申請の元であるエクセルデータをそのまま電子申請フォームにできるなど、誰でも使いやすい仕組みとなっている。揖斐郡森林組合では、有給休暇の届け出・承認の電子化から始め、その後は個人別の有給残日数管理や、各種稟議書、見積書、契約書といった書類の提出・決済にも対象を広げてきた。

毎月の給与締め日には、職員一人ひとりの有休取得状況を確認して給与明細に反映させる必要がある。総務課の足立彩主任は、「紙で有休申請していた時は、その作業に半日ほどかかっていましたが、電子化してからは1時間もかかりません」と業務の改善効果を話す。ただ、県への補助金申請などは、今でも紙書類での提出が求められるため、紙の削減効果は導入前の半分程度にとどまっているが、「県など自治体への電子申請が可能になれば、紙書類の量はさらに削減できますし、当組合ではすでに対応準備は整っています」(足立主任)と話す。

請求書発行システムで請求書・納品書発行を電子化 郵送先が従来の4割程度に減少し経費削減に

取引先に販売する木材

取引先に販売する木材

請求書発行システムは、郵便料金値上げや、消費税の税額控除にインボイス制度が採用されたことをきっかけに導入した。同組合では、今まで使用していた売上管理ソフトと、新しい請求書発行システムを連携させ、毎月約40通の請求書や納品書を電子化してメールで送付している。

揖斐郡森林組合の取引先はおよそ100社。そのうち電子化に対応できるのは約半分の50社ほど。以前は月に約70通の請求書・納品書を紙出力して郵送していたが、今は郵送分が約30通と半分以下になった。業務の効率化に加え、郵送費などの経費削減にもつながっている。

野原参事は、「業務を改善したいとの思いからICT導入を進めてきましたが、新しいことに取り組むには、問題意識を持ち、改善意欲のある職員の存在が欠かせません。当組合では、志の高い複数の職員のおかげで、業務効率化の成果が着実に出ています」と、総務管理部門の職員を高く評価している。

山の安全にはコミュニケーションが大切 衛星ネットサービスで山間部での携帯通信を可能にした

衛星通信システムによって山中の作業の安全が高まった

衛星通信システムによって山中の作業の安全が高まった

揖斐郡森林組合では、職員に「人とのつながりやコミュニケーションを大切にすること」を呼びかけている。林業は山の中で危険を伴う作業もあるため、職員同士がお互いを思いやる気持ちを持つことが、安全な作業につながるからだ。こうした意識のもと、同組合では2022年6月以降、労災保険の対象となる休業4日以上の労働災害ゼロを継続している。

しかし、山林では携帯電話がつながらないところが多く、揖斐郡の山林も例外ではない。このため、揖斐郡森林組合は林業の安全性や利便性を高めるため、2024年から衛星を利用したインターネットサービスを活用した通信システムを導入。これにより、山奥の作業現場同士や事務所との通信ができるようになった。

今後のICT化では、重機の無人化やドローンの活用も検討していく。重機を遠隔操作によって無人運転できるようになれば、危険な現場での重機作業を職員が行わなくても済むようになる。また、ドローンを使えば、苗木や木材の運搬、鹿などによる動物被害の確認などが効率的に行える。こうした取り組みを通じて林業の安全性を高めながら、作業の効率化と負担の軽減を目指していく考えだ。

2026年3月に林業交流施設を開設し、林業の社会的地位向上へ

現在の本部事務所

現在の本部事務所

揖斐郡森林組合は2026年3月完成を目指し、現在の事務所に隣接する廃製材工場を活用して、林業交流施設「グランヒュッテ・いび」の建設を進めている。完成後は事務所も同施設へ移転する予定だ。既存の工場の中に新たな建物を造る建築工法を採用して、林業交流施設と事務所を兼ね備えた「壮大な山小屋」を造る。完成後は一般にも公開される予定だ。

日本の林業は、2022年度の国内でのCO₂吸収量5,020万t-CO₂のうち、森林における吸収量が約9割を担い、地球温暖化対策に大きく貢献している。さらに、生物多様性の保護や土砂災害防止など、私たちの生活を支える重要な役割を果たしている。にもかかわらず、その貢献と役割は、まだまだ知られていない。そのため、同組合では林業交流施設に電子黒板や大型プロジェクターを設置し、林業の実態や役割、その重要性をわかりやすく発信していく。一般の人や子どもたちが林業への理解を深められる場所にしながら、林業の社会的地位の向上にもつなげていきたい考えだ。

「林業に誇りと喜びを感じてもらえる組合に」 「地球防衛軍」の役割を果たしていく未来を目指す

国土保全に寄与する森林伐採作業

国土保全に寄与する森林伐採作業

「働いている職員が森林を守り育てる仕事に、誇りと喜びを感じてもらえるような組合にしたい。林業を盛り上げて、働く職員と家族が林業という仕事に就いて本当に良かったと思ってもらえる組合にしていきたいと思っています」
野原参事はこう話し、揖斐郡森林組合の未来に目を向ける。そこには、世界の潮流となっている脱炭素化対策や、気候変動によって深刻化する災害への対策に立ち向かう、「地球防衛軍」として、国土保全を担う林業への誇りが息づいている。

事務所のエントランス

事務所のエントランス

企業概要

法人名

揖斐郡森林組合

住所

岐阜県揖斐郡揖斐川町上南方1973番地370

HP

https://www.ibishin.org/

電話

0585-22-6511

職員数

32人

事業内容

森林整備(植林、下刈り、除伐、枝打、間伐、木材生産など)、作業道開設、木材リサイクルなど

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