世界に誇れる独自の情報共有システムで「日本一の短納期」を自負 TOHOKU DX大賞受賞 地域の活性化へ壮大な計画 上和電機(山形県)
2025年12月05日 06:00
この記事に書いてあること
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。
〝置賜(おきたま)地域〟と呼ばれる山形県南部に本社を置く配電制御機器メーカー、株式会社上和(じょうわ)電機は、「日本一の短納期」を誇りとする会社だ。倒産寸前の苦境の中で、DX(デジタル・トランスフォーメーション)を推進し、同業他社が追随できない唯一無二の武器を手に入れた。それをテコに、「太陽光発電蓄電池用 電気設備」という新たな成長分野へも進出。現在、建設が進む新工場周辺に、将来は商業施設を誘致し、人々が集い交わるエリアへと発展させていくことで、地域の過疎化に歯止めをかけるという壮大な夢を描いている。(TOP写真:大阪市在住のイラストレーター、松野和貴氏作のコーポレートイラスト※で埋め尽くされた本社の廊下。正面奥は同氏が壁に直接描いたウォールアートだ。 ※コーポレートイラストとは、企業の理念、ミッション、ビジョン、価値観などを視覚化したイラスト)
日本一短いリードタイムで製品化するのが強み
「日本一短いリードタイムが強み」と話す村上秀樹社長
「上和電機のいちばんのストロングポイントは〝情報の共有の速さ〟とその結果としての〝リードタイムの短さ〟です」。こう胸を張るのは、上和電機の村上秀樹社長だ。「つまり、日本一短いリードタイムで製品化するのが当社の強みです」と付け加えた。
配電盤をはじめ制御盤、分電盤、変電盤、受電盤、制御システムなど、発電所から送られてくる電気を各所で使用できるように降圧したり配電したりする装置にはさまざまあるが、一般に「配電制御機器」と総称する。上和電機は商業施設や公共施設、マンションなどの建造物に設置する配電制御機器を製造販売している。主に新築物件の電気工事を手掛けるサブコンから、一品ずつオーダーメイドで受注する〝建築系カスタム品メーカー〟と呼ばれる業界の一社だ。注文通りの製品を納めるのが使命のため、製品そのものを差別化するのは難しい。それだけに、納期の短さは強力な武器になる。
社名に「〝和〟をもって〝上〟を目指す」という意味を込める
上和電機は、村上秀樹社長の父で、現在、取締役会長の村上正喜氏が「上和電機製作所」の社名で1988年に創業した。正喜氏はそれまで、ある配電盤メーカーのナンバー2の地位にあったが、その会社のオーナー経営的な体質が合わず独立した。それだけに、会社名に苗字を冠するのを避け、「従業員をはじめ、取引先など、みんなで協力して、みんながより良くなればいいよね、という意味で、『上和』にしたそうです」(秀樹社長)。いわば、「〝和〟をもって〝上〟を目指す」という意味を社名に込めた。
正喜氏を含めて総勢3人で、配電盤メーカーの下請け事業からスタート。翌1989年に有限会社として法人化し、10年後の1999年に株式会社に転換、現社名に変更した。さらに2004年には東京営業所を新設して、建設会社や電気工事会社に直接営業する態勢を整えるとともに、配電制御機器の据え付け工事を行うための建設業許可も取得。これにより、それまでの下請けを脱し、自社ブランドで製造販売するカスタムメーカーへと成長した。
板金、塗装、組立工程を自社内で一貫生産
本社工場の製造部工場。新規製品の太陽光発電蓄電池用 電気設備を製造中だ
配電制御機器の設計から納品までの製造工程のうち、プロフィットセンターは板金、塗装、組立(配線工程を含む)の三つだ。村上秀樹社長によると、このうち組立がプロフィットのざっと8割、板金と塗装が合わせて2割の比率になるという。その半面、とくに塗装工程は設備投資がかさむ。生産効率を高めるために、同業者には板金と塗装の工程を外注に出す企業が多い。だが、上和電機は1990年に板金工程、2007年に塗装工程をそれぞれ担当する子会社を設立して、一貫生産体制を整えてきた。
「板金、塗装工程は利益構成比が少ないので、内製化すると大きな荷物になります。それで他社の皆さんは板金、塗装を外注に依存して、組立工場だけを建てられる。でも、それではお客様が求める工期に間に合わないのです。2000年代初頭から建物自体の工期が大きく変わってしまったからです」。村上社長は強調する。
建築現場で大工が柱や梁(はり)を一本一本建てていた時代から、工場で生産したパネル(プレカット)を現場に運んで組み立てるだけで済む時代に変わり、工期が半分以下になった。今や、「配電盤の仕様が決まってから納品するまでの時間は1ヶ月くらいしかありません。それで、(同業者の)皆さんはどこも納期遅延を起こすようになりました」(村上社長)。
納期遅延で注文が途絶え、債務超過に陥る
実は上和電機も納期遅延を起こし、仕事を失うという苦い経験をしている。2011年から2012年にかけてのことだ。「私を含めて従業員全員で、毎晩、夜中の1時、2時までずっと作業していました。最長3日間、徹夜したこともあります」(村上社長)。それでも納期に間に合わず、しまいには完全に注文が途絶えた。2011年2月期決算で大幅な赤字を計上、何とか踏ん張ろうとしたものの、2013年2月期決算でとうとう債務超過に陥った。
ちなみに村上社長は専門学校を経て別の会社に4年ほど勤めてから1997年に上和電機に入社。2000年に取締役に昇進する直前に、仕事中に大怪我を負った。検査工程で電源の試験中に誤って3000ボルトという高圧電流に触れ、感電したのだ。作業衣に金物が入っていたことから電気が右手から左手へ抜け、一命はとりとめたものの左手の親指が吹っとんだ。
「怪我をするまでは(仕事に対して)冷めていました。それが、怪我をしてからいろんなことを知りたいと思うようになり、勉強もするし、こう(仕事に対しても情熱的に)しゃべるというように、性格が変わりました。何より、自分を支えてくれている家族をはじめ、周りの人たちに感謝するようになりました」。腹部の皮膚で修復し、親指があった部分に人差し指を付け替えた左手のひらを見せながら村上社長は振り返る。
メガソーラー用変電所の受注が舞い込み起死回生も、ブームは長続きせず
債務超過に陥った当時は専務取締役として、経営の中心的な役割を担っていたが、次の決算期から業績が上向くことはわかっていたので、慌てふためくことはなかったという。
というのも、経済産業省が2012年7月に「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」(FIT制度)を開始。メガソーラーブームが沸き起こり、変電所の注文が大量に舞い込んでいたからだ。太陽光パネルで発電する直流電気を交流に変え、電力会社の系統に連係できる6000ボルトに昇圧するための変電所だ。メガソーラーの投資家は、従来の顧客であるサブコンとは異なり、「ほぼ言い値近くで買ってくれました」(村上社長)。
もっとも、メガソーラーブームは長続きしなかった。FIT制度の買取価格が年を追うごとに下げられていったからだ。2013、2014年がピークで、2015年には注文がパタッと止まった。
納期遅延は情報の共有ができていないことが原因。文書管理システムを活用して情報共有の仕組みづくりに着手
電子黒板で文書管理システムの画面を説明する村上社長
債務超過に陥る前から村上社長(当時は専務)が取り組んできたのが、納期遅延を起こさない仕組みづくりだ。村上社長にとって、納期遅延の原因は明らかだった。「当社はメーカーさんの下請けをずっとやってきたので、メーカーさんの一番弱いところを知っています。それは営業情報と設計情報、技術情報と製造情報が共有されていないことです」(村上社長)。板金、塗装工程を社外に依存している会社はもちろん、一貫生産する大きな会社でも、縦割り組織の弊害が生じ、やはり情報共有が難しくなる。自社の納期遅延の原因も同じだった。
村上社長は2000年頃から導入していたものの、自分のパソコンでしか使っていなかった文書管理システムを、自社サーバーに移し、全従業員の間に普及させることから始めた。複合機などと連携して、紙の文書を電子化するとともに、共有フォルダで一元管理するシステムだ。当初は従業員の間になかなか浸透しなかったが、システム会社に相談して、紙文書のスキャニングの設定や保管ルールを意識することなく操作できるソフトウェアを追加するとともに、過去のデータを活用する方法を教育するなどして、全員が使いこなせるようにした。
同時に、共有された情報を村上社長が一括管理することにした。「私が情報管理者として一括管理するので、『全員がここ(文書管理システム)に情報をよこせ、ここにない情報は〝嘘情報〟になる』と従業員に伝えました。すると、従業員の動きが変わったんです。専務(当時)に言っておけば(共有フォルダに文書ファイルを入れておけば)専務に情報の責任を転嫁できる、という雰囲気が醸成されたのです」。そうなれば、ありとあらゆる情報がフォルダに集まる。それを従業員全員が閲覧し、活用できる。
文書管理システムの画面はエクスプローラーで表示され、製造番号が記された物件(製品)ごとのフォルダの中には、営業情報、設計情報、製造情報、検査情報などのサブフォルダがあり、営業情報のサブフォルダ内には受注から契約に至る取引先とのやり取りから、注文書、見積書、売上処理などの情報が一つ残らず保存されている。メールの文書もすべて共有フォルダに保存し、メールサーバーには残さないという徹底ぶりだ。「どの日に誰が誰に対してどのような指示を出したかが一目瞭然」(村上社長)となる。
「一括管理システム」と「一気通貫生産システム」で短納期を実現。工事ごとの採算を共有することで収益意識向上。「TOHOKU DX大賞」も受賞
それだけではなく、決算書もすべて共有フォルダを通じて従業員に公開。積算・原価管理システムを使って、製造中や製造後の物件の採算性もこと細かく試算し、共有フォルダで開示するので、従業員のコスト意識も高まった。この「一括管理システム」と名付けた情報共有手法は2013年頃から本格的に稼働し始めた。
社内のありとあらゆる情報を全従業員が共有するので、一つの物件のフォルダを開けば、自分はいつ何をすべきかがわかる。設計から納入に至る各工程で、その物件のためのスケジューリングが可能になるのだ。「例えば、板金図が出てこなくても板金を作り始められるし、組立も塗装板金が上がってこなくても準備ができます」(村上社長)。各工程がリレーションの順番を待つのではなく、一斉に仕事に取り掛かることができる仕組みで、「一気通貫生産システム」と呼ぶ。
30周年記念事業として、イラストレーター松野和貴氏を起用し、上和電機の歩みや成長の過程を題材にした絵本「灯りのもと」を制作。同氏の作品はコーポレートイラストとして、ホームページにも使われている
村上社長は、法人化から30周年となる2018年に45歳で社長に就任。「一括管理システム」と「一気通貫生産システム」により確立した短納期を実現する仕組みに自信を深めたことから、2020年東京五輪に向けた関連施設の建設需要に業界が浮き足立つ中、営業部隊に「慌てるな」と指示した。折からの不況のために五輪需要を先取りしようと安値受注が横行しており、「きっと納期遅延が発生する」と読んだためだ。案の定、同業他社による納期遅延が多発。上和電機に短納期での依頼が続々と入り、特急料金で受注する物件が相次いだ。その結果、2020年2月期決算は売上、利益とも過去最高となり、売上高純利益率は20%を超えた。
その後も、納期遅延を起こした同業者の代わりにピンチヒッターとしての注文がよく入るようになった。2023年4月に受注した物件は、村上社長が「今の仕事を止めてでも準備せよ」と指示し、「受注した暁にはボーナス3ヶ月分を支給する」と予告。見事受注し、一気通貫生産システムにより、受注から10日後には1号機を納入するという猛スピードで注文通りに仕上げ、予告通りのボーナスを全従業員に支給した。ちなみに、直近の2025年2月期までの4年間で売上高は2.5倍に増えている。
この短納期を実現する上和電機独特の仕組みとそれによる収益拡大という実績は、2022年に経済産業省東北経済産業局の「TOHOKU DX大賞」を受賞している。
遠隔臨場システムの導入で、設計担当者が、点検の度に全国の顧客導入現場へ行くことがなくなった。ドラえもんの「どこでもドア」を手にした
DXの一環として、2023年には遠隔地の作業を支援するための「遠隔臨場システム」も導入した。全国にある配電制御機器を納入した現場で、営業担当者がスマートフォンによる通話とウェラブルカメラの映像で、配線の状況などを山形の本社にいる設計担当者に伝え、ケーブル交換などの指示を得る仕組みだ。従来は、点検の都度、設計担当者が現場に出かけていたので、同システムの導入により、大幅に作業効率が上がったという。
(詳しくはhttps://remote-field.ricoh/ja/case/jowa-denki参照)
「私が欲しかったのはドラえもんのひみつ道具のうち〝タイムマシン〟と〝どこでもドア〟なんです。一括管理システムは、未来は難しいけど過去をちゃんと保存できるという意味で〝タイムマシン〟ですし、遠隔臨場システムは〝どこでもドア〟と言えます」(村上社長)。
村上社長はこれらICTシステムには完成形はなく、常にバージョンアップを重ねていくものだと考えている。同時に、人間はICTシステムに左右されるのではなく、逆にシステムの改善を求めるくらいにシステムを使いこなせるように、〝人間力〟を高めないといけないとも考えている。
太陽光発電蓄電池用 電気設備に進出。独占市場を快走
太陽光発電向けの蓄電池一体型変電設備「Capa-Two」=ホームぺージより
上和電機は、短納期の実績が再生可能エネルギー分野の投資家の目に止まり、新規事業も開拓することができた。太陽光発電蓄電池用の電気設備の製造販売だ。2023年に新電力(新規参入の電力会社)が熊本県荒尾市に設置した系統用蓄電池の配電盤を受注・納入したのがきっかけ。FIT制度のメリットが薄らぐ中、太陽光の発電量が多く、卸電力市場の価格が安い日中に充電し、太陽光発電からの供給が減る夕方に放電することで収益を得ようとする新電力が現れたのだ。
さらに、この仕事に関わった商社をはじめ蓄電池メーカー、トランスメーカー、それに配電盤メーカーの上和電機などによるプロジェクトチームが誕生。上和電機は蓄電池と一体型の変電設備を独占的に製造販売することになった。すでに2025年半ばの段階で約60台を出荷。今後、年間200台程度のペースで受注が続く見通しだ。
2027年春完成を目指し、新工場「塗装棟」を建設中。将来は「JOWA PARK」に発展へ。県内トップの平均年収も目標に
白い板金棟の先に見える青いクレーンの位置が塗装棟の建設現場
上和電機は現在、新工場を建設中だ。道路をはさんで本社工場の「組立棟」と「板金棟」が並んでいる先に、新たに2万平方メートルの土地を取得。まず、「塗装棟」を新築して、子会社で担当している塗装工程を移管するとともに、生産能力を高める計画で、2027年春に完成予定だ。
村上社長は、これに続く第2フェーズとして「組立棟」と「厚生棟」を建設、第3フェーズでは「カフェ棟」を建て、工業と商業が一体化した集積地に発展させる考えだ。名付けて「JOWA PARK」。山形県置賜地域は人口が減り続けている。2000年の24万6684人から2024年には18万9033人に減少した。「この地域に仕事と会社と環境さえあれば、人は魅力を感じてくれるのではないかと思うのです」。そして3代目、4代目と続く後継者には「JOWA TOWN」に発展させてほしいと願う。
もう一つ、この地域、この会社に人を集める方策は、年収を高めることだ。「配電盤業界は小さいので、エネルギー業界全体でトップを目指そうとすると、平均年収日本一のA社を抜かなくてはいけません。そこで、従業員に、まずは山形県内1位のB社を超えようと言っています」と村上社長は言葉に力を込めた。
製造と採算に関わる全ての情報を逐一全社共有することで、従業員のパワーを最大限に引き出し、従業員に給与という形で報いる。その背景には、「〝和〟をもって〝上〟を目指す」という脈々と受け継がれた体質がある。そして今、地域発展のために大きな一歩を歩みだした。これからの時代に見本となる経営形態だ。ICTは企業のシステム化だけでなく従業員全員の力を発揮するために使われ、そして全社一丸となって地域全体の力を引き出すために使われるものだという事を実証している。
上和電機本社
企業概要
会社名
株式会社上和電機
住所
山形県東置賜郡高畠町大字石岡178-1
設立
1989年4月(創業1988年11月)
従業員数
約100人
事業内容
配電制御機器、太陽光発電蓄電池用電気設備の製造・販売
記事タイトルとURLをコピーしました!