遊びから生きる力を育む — 福祉を知らなかったからこそ生まれた“コロたま”の自由な支援 SMILE・LOHAS(群馬県)放課後等デイサービス
2025年12月10日 06:00
この記事に書いてあること
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コロたまの基本は大人も本気で楽しむこと。運動会でのスタッフの様子を見るとよくわかる。
子供と一緒に全力で遊ぶ。自由な発想で子どもを育てる。子供と向き合う時間を最大にするために、スタッフを支えているのが、クラウド型の記録・情報共有システムや勤怠管理システム。スタッフ一人ひとりの業務負担が改善され、子どもとの時間の「質」が向上した。
(合同会社SMILE・LOHASが経営する放課後等デイサービス「コロンブスの卵」のホームページ)
はじめに ― “遊びを通して生きる力を育てたい”
群馬県伊勢崎市にある放課後等デイサービス「コロンブスの卵」(略称「コロたま」)。子どもたちの笑い声が絶えないこの場所では、毎日、遊びを通してさまざまな学びが生まれている。「コロたま」を運営する合同会社SMILE・LOHAS代表社員の木村美佳さんは、福祉の世界をまったく知らないまま、2017年にゼロからこの施設を立ち上げた。
かつて自分の娘が登校を拒むようになったこと。周囲に発達に特性のある子どもがいて、その保護者が仕事を休まざるを得なかったこと。そうした出来事が木村さんの背中を押したという。
「その子たちを自分で育てていきたいな」
これが、木村さんが「コロたま」を始めたきっかけである。“コロンブスの卵”という名前には、子どもたち一人ひとりの可能性を育てたいという思いが込められている。
木村さんが大切にしている理念は、「遊びを通して生きる力を育てたい」ということ。話を聞いていると、まさに木村さん自身が“コロンブスの卵”を体現しているように感じる。後から見れば簡単に思えることでも、最初にそれを考えて実行するのは難しい。木村さんはまさにその挑戦を実践してきたのだ。
代表の木村美佳さん(左)、相談支援専門員の香川英哉さん(右)。スタッフみんなが日々楽しみながら仕事をしている
ゼロからの挑戦 ― 福祉を知らなかった起業家の決意
木村さんはもともと実家の給食センターや、主人が営む飲食店の手伝いをしていた。そこで「食」に対する知識とこだわりが培われたが、福祉の知識や経験はまったくなかった。そのため、放課後等デイサービスを開設するまでは、いばらの道だった。何を準備すればいいのかもわからず、行政からダメ出しを受けてはやり直しを繰り返す日々。1年ほどかかって、ようやくスタートにこぎつけた。
開設当初は利用者も少なく、経営は苦しかった。1ヶ月経過後、行政に報酬を請求することすら知らず、お金が入ってこなかった。立ち上げには成長した娘も参加してくれたが、給与は最低限に抑え、なんとか乗り切った。借入金の返済が始まる1年後、ようやく経営は軌道に乗った。
コロたまは「食」にこだわりを持っている。子どもたちは自分で作ったものを競うようによく食べる
自由が生んだ福祉のかたち ― “コロたま”という新たな場所
福祉をまったく知らなかったからこそ、現在の「コロたま」ができあがった。開設から4年後に入職した、福祉のプロで相談支援専門員の香川英哉さんは言う。
「当時、他の福祉施設で相談員をしていて、コロたまに最初の利用者さんを紹介したんです。その後も何人か紹介して、コロたまの様子を見に行ったんですが、衝撃的でした。それまで私が経験してきた福祉の世界とは別世界で、本当に自由で面白かったんです。“福祉って楽しくていいんだ”ということに気づかされました」
放課後等デイサービスは児童の発達支援の場であり、厳しくあるべきだと思っていた香川さんにとって、その自由さは新鮮だった。
コロたまでは、子どもの表情や興味を見ながら、その日の活動を柔軟に変えていく。「最初に何(従来の既成概念)もなく、自由に発想したことが、今のコロたまの姿につながっているんです」と香川さんは言う。
一日のルーチン表。好きなことを早くしたいので、ルーチンをすぐに終わらせる習慣が身につく
ご縁が広げる輪 ― スタッフの居心地の良さがその原動力
香川さんはその後、前職を辞めることになり、あいさつの電話を木村さんにしたところ、誘われて入職することになった。
「これまでの福祉の世界は、“こうでなければならない”“こうしなければならない”という固定観念に縛られているところがありました。コロたまはそれとは違い、自由で働きやすい場だと感じました」(香川さん)
開設から4年後に福祉のプロである香川さんが加わったことで、コロたまはさらに発展する。二つ目、三つ目の施設を開設し、利用者も増え、相談支援事業も始まった。現在勤務している18人のうち、16人はスタッフの紹介で入職している。新しい施設の物件も、スタッフの紹介で見つかった。スタッフにとって、コロたまは居心地のいい場所なのだ。
木村さんは言う。
「当然、基本はちゃんとしているんですけど、いい感じに楽なところがあると思います。髪の毛の色が自由とか、ピアスも自由とか。頑張ってくれていれば、他の細かいところはあまり言わないからかもしれません」
木村さんとスタッフの間には厳しい上下関係がなく、家族のような距離感がある。利益が出たときはスタッフに分配しており、頑張りが報われる仕組みができている。その好循環が、コロたまの風土を支えている。
スタッフの紹介とスケジュール表。ヘアスタイルの自由さがうかがえる
本気で遊ぶ ― 大人も子どもも笑いながら成長する
コロたまの活動の根本にあるのは「遊び」、そして「子どもも大人も本気で楽しむ」ことだ。木村さんは言う。
「スタッフが本気で遊びを楽しまないと、子どもも本気にならないんですよ。だから何かするのにもスタッフも本気でやって、ゲームにも勝つ。大人が勝つ。ダンスも本気でやるとかね」
コロたまの毎日はまず宿題などのルーチンを行った後、「遊び」に移る。リズムやダンス、サーキット遊び、集団でのゲームなど多彩なプログラムがあるが、その前に行う子どもとスタッフの一対一の遊びがとても重要だ。真剣な遊びを通じて信頼関係が育まれ、仲間として安心して心を開けるようになる。子どもたちは、“一緒に遊びたい”という気持ちを原動力に、自ら努力を重ねていく。宿題を頑張るのも、活動に真剣に取り組むのも、早く「先生と遊びたい」「好きなことをしたい」という純粋な動機からだ。こうした日々の積み重ねが、生きていくための習慣につながっていく。
遊びの中から、子どもたちとスタッフの間に安心できる家族のような関係が生まれている。しかし、それで終わらないのがコロたまだ。SST(ソーシャル・スキル・トレーニング)を通じて「家族ではない大人との適切な距離感」も教えていく。仲良くしてもいいけれど、先生は家族ではない。場面に応じた関わり方を学んでいくのだ。このような教育を通じ、学びはゆっくりだが、確実に進む。木村さんは言う。
「全然しゃべれなかった子が少しずつ言葉を出せるようになったり、宿題が嫌で泣いていた子が、ある日“しれっと”自分から宿題を始められるようになったりするんです。成長は本当にスローステップ。でも、続けていけば必ず変わる。遊びから生きる力が育っていくのを感じます」
コロたまのこだわりの一つに「食」がある。安全な食材を使って子どもたちが自分でおやつを作ると、嫌いな食材でも競って食べる。楽しみながら健康にもよい、一石二鳥の活動である。保護者にも楽しんでもらう工夫を欠かさない。現在3つある施設合同で、近くのグラウンドを借りて運動会を行っており、多くの保護者が参加する。
スタッフも全力で子どもたちと一緒に走り、笑い、楽しむ。また、保護者と一緒に東京ディズニーランドに行ったり、送迎時に子どもの様子を話したりするなど、日常的な交流を大切にしている。年に2回、1週間の保護者見学会も実施している。インスタグラムで日々の様子を投稿し、保護者専用ページではモザイクなしの写真も共有する。子どもの成長を日常的に見られることは、保護者にとって何よりの喜びである。
コロたまの食事風景。これも生きる力を育てる一環だ
ICTが支える自由な現場 ― 見えない仕組みの力
コロたまでは、おおらかな雰囲気を保ちながらも、支援の質を守る仕組みづくりにも力を入れている。その一つがICTの活用である。勤怠管理システムを導入したことで、スタッフの出退勤管理が自動化され、木村さんが半日かけて行っていた作業がほぼ不要になった。運営全体の改善やスタッフとのコミュニケーションに、より時間をかけられるようになった。
また、クラウド型の記録・情報共有システムを取り入れたことで、データのバックアップが安全に行われるようになった。スタッフ一人ひとりの業務負担も改善された。他の施設の情報をいつでも見ることができるので、モチベーションや業務の質の向上も期待できる。今後はAIの活用も視野に入れている。
放課後等デイサービスは法定サービスなので、制度について調べなければならないことが多い。しかし、どこに情報があるのかもわかりにくく、情報にたどり着いても内容が複雑で難解だ。AIの活用により、複雑な制度情報をわかりやすく整理し、これまで限られた人しかできなかった業務をより多くのスタッフが担えるようにしたいと考えている。
勤怠管理システムを導入。弁当代の自動引き落としもできるようになり、大幅に効率が上がった
未来へ ― 子どもと保護者が安心できる地域へ
当初は香川さんだけだった相談員が、現在は3人に増えた。これも香川さんの縁を通じてのつながりである。現在の施設では、相談に来たすべての人をコロたまで受け入れることはできず、他の施設に紹介することも多い。地域全体で子どもたちを支える輪が広がっている。放課後等デイサービスは子どもの支援を行う場だが、それだけではない。木村さんは言う。
「児童の発達支援をするところなんですが、保護者の方々の支援も含まれていると考えています。お子さんの状況を受容するまでには時間がかかるので、そこも踏まえた上でフォローしていきたいです」
今後は、コロたまの施設を増やすことに加え、卒業した子どもたちが大人になったときのための介護施設や就労系の施設の開設も視野に入れている。そのような場所があれば、保護者にとっても大きな安心につながるだろう。
コロたまの子どもたち。この子たちが成長した後も視野に入れている
おわりに ― 正解のない現場で見つけた“生きる力”
コロたまには、決まりきった正解はない。けれど、ここには「子どもを信じて一緒に遊ぶ」という揺るがない姿勢がある。「遊びを通して生きる力を育てたい」――その理念を胸に、今日も大人と子どもが本気で笑い合っている。
企業概要
会社名
合同会社SMILE・LOHAS
所在地
群馬県伊勢崎市東本町94-1
電話
0270-61-6226
設立
2017年2月
従業員数
18人
事業内容
放課後等デイサービス、相談支援事業所の運営
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