製造業(その他)

独自の「働き方改革」を推進、利益分析の徹底と顧客情報システム活用で収益力アップし新規事業展開へ 札幌高級鋳物(北海道)

From: 中小企業応援サイト

2025年12月24日 06:00

この記事に書いてあること

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産経ニュース エディトリアルチーム

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札幌高級鋳物株式会社は、北海道庁の技師だった奥田泰氏が「北海道の工業開発に役立つ優れた鋳物を提供しよう」と決意して、1949年に札幌市で創業した「札幌高級鋳物鋳工所」がルーツだ。1953年に株式会社化し現社名に変更。現在はステンレス鋼や耐熱鋼、耐摩耗鋼による産業向け部品を全国に供給している。同社は、産業界の構造変化による特殊鋼部品の需要減少や、電炉で大量消費する電気料金の高騰などの経営環境の変化に対応するため、収益体質の改善と生産管理の改革などを柱とする中期経営計画に取り組んでいる。計画推進のエンジンとなっているのが、ICTソリューションの徹底活用だ。(写真 溶解炉1 産業界でさまざまな用途に使われる特殊鋼部品だが需要は減少傾向にある)

道庁技師から転じて道内工業に貢献する鋳物製造を目指して創業 生産設備増強しつつ道内有数の特殊鋼部品メーカーに成長

発電設備のポンプ内に装着されるインペラーは耐腐食性能の高いステンレス製だ

発電設備のポンプ内に装着されるインペラーは耐腐食性能の高いステンレス製だ

創業者が社名に「高級」と付けたのは、当時鋳鉄の中でも高級であった「球状黒鉛鋳鉄」と呼ばれる鋳鉄の生産を、北海道内でいち早く始めたことに由来する。創業当初は農機具やマンホールなどの鉄製品を作っていたが、1964年に現在の本社敷地内に工場を新設してからは、鉄に合金元素を加えて造る特殊鋼の製造に軸足を移した。

1970年には特殊鋼専門工場を増設し、材料に応じて加熱方法を柔軟に設定できる高周波誘導炉を設置した。特殊鋼の組成や性質を正確に分析するため、1977年に発光分光分析装置を導入。その後も設備を大型化・高性能化し、高品質な特殊鋼の生産量を伸ばした。

特殊鋳鋼にはマンガン、ニッケル、クロムなど、混入する合金元素によって、耐腐食鋼や耐熱鋼、耐摩耗鋼などがあり、産業界で様々な分野に使われている。札幌高級鋳物では工業炉や圧延機、破砕機の部品、工具、発電所のポンプに使われるインペラー(羽根車)など多様な用途に応じた製品を生産している。

日本航空から転職し6代目社長に就任 福利厚生の充実や就労環境を改善 時間外労働は月2.5時間、年休取得率は97%強

本社  奥田由利社長は家業の3K職場で就労環境改善に取り組んだ

本社  奥田由利社長は家業の3K職場で就労環境改善に取り組んだ

2012年に就任した奥田由利代表取締役は、母方の祖父だった泰氏から数えて6代目になる。1978年に日本航空に入社し、国際旅客部の地上勤務に従事していた。「天職とまで思っていた仕事」(奥田社長)だったが、札幌高級鋳物の社長だった弟が急逝、後任も体調不良で経営継続が困難になり、白羽の矢が立った。32年間勤めた日本航空を辞め、社長就任を前提に2010年に入社した。

「経営は全くの素人で技術のこともわからない」と公言していた奥田社長だが、航空会社で学んだ人材活用や従業員の業務支援の経験を生かして、奥田流の“働き方改革”に取り組んできた。女性従業員の採用や報奨金制度導入による長時間労働の是正など、女性経営者ならではの視点で福利厚生の充実を図り、3Kの代表のような就労環境は次第に改善された。泉上和範取締役経営企画部部長によると、「時間外労働は月平均2.5時間まで減少、年休取得率は97.2%に達している」という。

2系統の生産ラインを保有し、あらゆるニーズの特殊鋼製造に対応 月産40トン、150社に供給もコスト増で利益率低下 収益改善が急務に

2系統の生産ラインが稼働する道内唯一の特殊鋼メーカーだ

2系統の生産ラインが稼働する道内唯一の特殊鋼メーカーだ

同社は100%受注生産で多品種少量に対応。1ロットが数グラムから約600キロまで、300種以上の鋼種に対応でき、さまざまな要求の特殊鋼製造が可能な体制を整えている。また、豊富な材質と形状の技術蓄積により、図面があれば翌日には見積を出せる強みがある。

なかでも、製造する材質や形状に応じて、造型に使用する樹脂と硬化剤の違いにより、フラン自硬性鋳造と、アルカリフェノール自硬性鋳造の2系統の製造ラインを保有しているのは、道内では同社だけだ。前者は精密な寸法と高い強度が必要な部品に、後者は溶融金属が凝固する際の収縮に合わせて造型が変形する柔軟性が必要な部品に、それぞれ製造ラインを使い分けることで、顧客の要求にきめ細かく応えることができるという。

同社の鋳物生産能力は月産50トン。製造する鋳物製品は500種に上り、約150社に供給している。ピーク時には800種、180社という時期もあったが、製造業の海外移転による現地調達の拡大や部品業界の統廃合などにより、特殊鋼部品の需要は減少傾向にある。

耐腐食性能が高いステンレス鋼は、東日本大震災後に原子力発電用部品の需要がほぼゼロになり、生産比率は10%以下に落ち込んだ。全体の生産量が月産40トンに減っている一方で、電気料金や原料資材コストは高騰し、利益率が低下。収益改善が喫緊の経営課題として浮上した。

中計目標「収益体質の改善」で早くも成果 データ分析ツール活用で顧客別・製品別利益を可視化 原価管理を徹底して収益増に生かす

泉上和範取締役は「原価管理による利益の可視化で、どこを強化すれば収益が上がるか分かるようになった」と話す

泉上和範取締役は「原価管理による利益の可視化で、どこを強化すれば収益が上がるか分かるようになった」と話す

2024~2026年度の中期経営計画では、「収益体質の改善」を目標に掲げ、2027年3月期に売上高12億円、営業利益1億4400万円(営業利益率12%)を目指す。具体的な取り組みとして、原価管理の徹底とコスト上昇による価格転嫁の要請を推し進めた。さらに、効率的な組織体制の構築や情報共有、生産性向上、新たな収入拡大などにも取り組み、「安定した経営基盤確立」と「進化し続ける北海道一の企業」を目指す。目標達成のために重要な役割を担っているのがICTだ。

原価管理では、業務部門で必要なデータをもとに、自由な形式で視覚化できるプログラミング不要のデータ分析ツールを2023年に導入。工程ごとの利益データ分析や顧客別・製品別利益比較など、原価と利益の相関関係を客観的に分析できるようになった。

泉上取締役は「顧客や製品による利益率の違いが一目でわかり、どの製品を多く作れば利益率が上がるか、どの顧客に価格転嫁をさらに要請しなければならないか、戦略を立てやすくなった」と導入効果を説明する。2022年度まで数年赤字だったが、2023年度に黒字転換、2024年度は売上高9億9000万円で営業利益率3%近くまで回復した。

業績回復を機に、ストップしていた採用活動を2024年に再開。インスタグラムなどの若者向けSNSも活用し、新卒を含む数名を採用していく方針だ。

クラウド型顧客管理システム導入で属人化を排して効果的な営業展開可能に。ネット環境増強し生産現場も効率化。鋳造工程の自動化も

クラウド型顧客管理システムの活用で効果的な営業活動を展開できるようになった

クラウド型顧客管理システムの活用で効果的な営業活動を展開できるようになった

利益の可視化を営業戦略に生かすため、2025年に導入したのが、顧客データを一元管理して営業活動に有効活用するクラウド型顧客管理システムだ。大型鋳物の受注拡大や新規顧客の開拓などに向け、営業による顧客管理の属人化を排したことで、効果的な営業展開が可能になった。

2024年には事務所と生産現場を結ぶ高速インターネット環境を整備。Web会議の有効活用によって業務の効率化を実現した。また、UTM(統合脅威管理)によるセキュリティ対策も講じた。ネットワーク環境の増強を受けて、2022年に導入した生産管理システムは、近くクラウド化する予定だ。

「現在、現場ではハンディターミナルで各種データを入力しているが、使い勝手を考えてタッチパネルの端末を検討している。そして、現場には大型モニターを設置し、一目で進捗を把握できるようにしたい。溶解炉まわりの作業はアナログだが、効率化の余地はまだある」(泉上取締役)と話すように、中計には「鋳造工程の自動化」も重点検討課題に挙がっている。

社内活性化めざし新規事業参入を検討 小型スピーカー販売に続き飲食業参入も 経営理念に神経通わせるICTソリューション活用

かつて製造していたステンレス製ジンギスカン鍋の木型

かつて製造していたステンレス製ジンギスカン鍋の木型

中計には鋳物にこだわらない新規事業の検討も盛り込まれている。「収益増というより、社内の活性化という意味が大きい」。すでに鋳物で製造した小型のオーディオスピーカーは、ネット通販でじわじわ売れてきている。さらに、飲食業進出も具体案として浮上しているという。

北海道では羊肉を野菜とともに焼くジンギスカンが家庭や専門店で食べられているが、札幌高級鋳物はかつて、ステンレス製のジンギスカン鍋を製造したことがある。その経験を買われ2024年にはジンギスカン鍋博物館(岩見沢市)監修の特製ジンギスカン鍋を委託製造した。泉上取締役は「ジンギスカン店経営も候補の一つ」と笑う。

同社の経営理念は、創業時からの文言を、奥田社長が創業70周年(2019年)を機に簡潔にリニューアルした次の5項目である。
① 従業員は最大の経営資産である
② 高品質の製品とサービスを提供
③ 全員参加のたゆまぬカイゼン運動を推進する
④ よき企業市民たれ
⑤ 独創的な日本一の鋳物工場を目指す

ICTの全社的な活用は、「収益体質の改善」を実現するエンジンとして機能しつつあるが、同時に経営理念に神経を通わせる役割も果たしている。

企業概要

会社名

札幌高級鋳物株式会社

本社

北海道札幌市西区発寒13条12丁目2-1

HP

https://www.sapporo-kokyu.co.jp/

電話

011-661-3333

設立

1953年8月(創業1949年4月)

従業員数

50人

事業内容

ステンレス鋼、耐熱鋼、耐摩耗鋼の各種鋳鋼品製造

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