訪問看護リハの枠を超え、“穏やかな暮らし”を支える会社へ DX、AI活用を穏やかに進める Calm Living Design(群馬県)
2026年02月02日 06:00
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群馬県高崎市の株式会社Calm Living Design。その社名には、「穏やかな暮らしをつくる」という代表の井上大介さんの願いが込められている。訪問看護リハステーション「おんか」では、看護師・理学療法士・作業療法士が連携し、利用者と家族、そしてスタッフ自身の心が「穏やか」になるケアを目指している。「おんか」とは群馬の方言で、「心穏やか・心配なく」という意味。その言葉が象徴するように、目指しているのは医療やリハビリの枠を超えた「心の安らぎ」の提供だ。井上さんは控えめに話すが、その語りには確かな信念と深い洞察がある。その静かな姿勢こそが、会社のあり方を支えている。(TOP写真:Calm Living Designの事務所)
代表取締役の井上大介さん。控えめだが、その語りには確かな信念と深い洞察がある
本当に役立つ訪問看護・リハビリを追求して起業
井上さんは理学療法士として病院に勤務した17年間、多くの利用者と家族の現場に向き合ってきた。その中で深まったのは、「看護とリハビリが補い合うことが最善のケアを生む」という確信だ。リハビリ職が身体機能の専門家として寄り添えば、利用者の苦しさは大きく改善する。一方、病状の変化に細かく対応し、精神的な不安を受け止めるのは看護師の力だ。両者が並んでこそ、人の暮らしを丸ごと支えられる──井上さんはその「境界線の間」にある価値をずっと見つめてきた。同時に、 「真面目に努力する看護職・リハビリ職の価値を正しく認め、処遇を改善してあげたい」 という思いも強くなっていった。
しかし、組織の制約の中では実現できることに限界がある。「良いケアができるはずなのに、そこに手が届かない」「スタッフの処遇をもっと良くしてあげたい」。そんな葛藤が積み重なり、「自分で場をつくるしかない」という覚悟に至った。
2021年、Calm Living Designを設立。翌年、念願の「おんか」を開所した。ここは、井上さんがこれまでの経験で積み上げてきた理想を、一つひとつ形として具現化していく場所である。
入社時オリエンテーションで伝えているミッション。「心穏やか」がキーワードだ
看護とリハが補い合うとき、「生活の苦しさ」が和らぐ
訪問看護ステーションは全国に多く存在するが、リハビリ専門職が在籍し、看護と密接に協働している事業所はまだ多いとはいえない。
看護師が一定のリハビリを提供することはできる。しかし、姿勢調整や動作の誘導、呼吸の改善など、生活の苦しさに直結する領域では、リハビリ職の専門性が大きな違いを生む。逆に、リハビリ職は医療的視点や経過の見立ての部分で、看護師の力を必要とする。どちらか片方だけでは、利用者の生活全体を支えることはできない。両者の専門性がひとつになることで、初めて「本当に良いケア」が生まれる。 井上さんが目指すのは、この「補い合う関係性」だ。
特に印象的なのが、終末期支援にまつわる話だ。体勢が楽になる、呼吸が整う、夜の眠りが改善する──そうした小さな変化が、本人のつらさを軽減し、家族の心理的負担も大きく和らげる。「最後まで、できる限りのことをしてあげられた」と家族が思えること。そのこと自体が、残された人の心を救う。井上さんがこの仕事を通じて支えようとしているのは、“見える回復”だけでなく、“見えない幸福”を積み重ねることにこそ、この仕事の価値がある。
状況に応じて一人の利用者に看護・リハビリ二人の担当者がつく
穏やかに働ける職場から、穏やかなケアが生まれる
井上さんは「利用者と家族の幸せ」を語る一方で、必ず「スタッフが穏やかに働けること」を並列にして語る。専門が異なるスタッフが集まる職場では、考え方の違いや価値観の差が不一致を生むことがある。それを前提にしながらも、井上さんは「どうすれば気持ちよく働けるか」「どうすれば協力し合えるか」を、丁寧に積み重ねてきた。
新しいスタッフが入ると、井上さんは必ずオリエンテーションを行う。「どんな職場で働きたいか」「どんな人と共に働きたいか」。その問いを通じて、価値観を共有し、職場づくりを「みんなで」進める姿勢を示す。最近は採用段階から理念を明確に伝えるようになり、価値観の一致したスタッフが自然に集まるようになった。
穏やかな職場は穏やかなケアを生み、ケアの穏やかさは、利用者と家族の心の負担を軽くする。こうした「穏やかさの循環」が、組織の力を根底から支えている。
「どんな人と働きたいか」をスタッフ募集時にも伝えるようになった
理念を支えるのは、誠実で透明な経営
理念を実現するには、スタッフが安心して働ける経済的な基盤が不可欠だ。井上さんは開設当初から、給与の内訳、社会保険、ライフプラン、資産形成などを丁寧に説明し、スタッフが将来を描ける環境づくりに力を入れてきた。その結果、学びを深めたスタッフが、逆に井上さんへ有益な情報を届けてくれることもある。
さらに、売上や利益を公開し、組織の現状を全員で共有する。そして、利益が出ればしっかり還元する。その姿勢が信頼を積み重ね、スタッフが会社の経営を「自分ごと」として考えるようになっていった。
一つひとつの取り組みは地味だが、その積み重ねが空気を変える。今では採用の多くがスタッフの紹介だという事実が、この経営姿勢の正しさを証明している。
さまざまな情報を全員で共有するために壁に貼られた資料
訪問看護の未来を見据え、複合的な事業へ
井上さんは訪問看護を中心に据えつつ、未来の地域ニーズと人口構造の変化を見据えて、三つの事業を育てている。
ひとつは、企業向け健康経営支援サービス「daiji」。従業員の健康の改善が企業の生産性向上につながるという視点で、着実に成果を上げている。二つ目は保険外サービスの「netsui」。訪問看護では手が届かない「生活そのものの支援」を補う新たな試みである。
井上さんは、2040年以降に訪れる高齢者人口減少社会を見据えている。来る変化に備えるため、訪問看護リハ × 健康経営支援 × 保険外サービスをバランスよく育てることが、組織の持続性につながると考えている。
DXが支える組織づくり——小さな現場から始めるデジタル活用
井上さんがDXに取り組み始めた理由は明確だ。「医療・介護はDXが遅れている。だからこそ、早く動いた方が将来の力になる」。訪問看護という現場は、人手不足・情報共有・事務作業など、多くの課題を抱えている。その負担を少しでも軽くし、組織として前に進むために、デジタルの力を取り入れてきた。
最初に着手したのが「情報発信のDX」だ。ホームページ作成ソフトを使ったホームページは、自社で素早く更新できる仕組みが整い、会社の姿勢を外にきちんと伝えられるようになった。講演後に「ホームページがよくできている」と評価されたことは、井上さんにとって大きな手応えとなった。「おんか」の利用者は紹介がほとんどだが、外部から見える情報の蓄積は、紹介元や家族にとって大きな安心材料になっている。
主業務を行うための訪問看護用の電子カルテも導入している。スタッフは一人ひとりが端末を持ち、どこでも入力できる。AIが搭載されているため、日常業務の効率化にもつながっている。
その他の業務においても、DXが効果を発揮している。遠隔でのミーティングは「Web会議システム」を活用し、対面ミーティングでは録音した音声をAIで文字起こしすることで、議事録作成にかかる時間が大幅に短縮された。ちょっとした改善に見えるが、こうした作業の「負担減」はスタッフの心の余裕につながり、結果として利用者へのケアの質にも反映されていく。今後は、ホームページで発信する情報の文章作成などにも、AIを活用していく予定だ。
また、画像作成AIなども少しずつ現場に取り入れ始めている。DXの導入をきっかけに、「もっと便利な方法があるのでは」「こういう仕組みも使えるかもしれない」というアイデアが浮かぶようになった。
Calm Living DesignのDXは、派手さこそないが、「穏やかに働ける環境づくり」という理念を静かに支える、大切な土台になっている。
AIを活用して業務の効率化を図っている。生まれた時間を本来業務に充てることができる
「働きたくなる場所」は、自然と人を引き寄せる
25年11月現在、働く13人の多くが、スタッフの紹介で入職している。訪問看護は採用が難しい領域であるにもかかわらず、この状況は特筆すべきものだ。嫌な職場だと感じていれば、人を誘わない。紹介が続くということは、スタッフが「ここで働きたい」「ここなら未来が描ける」と感じているという証拠だ。もちろん井上さんは、「まだまだ良くできることはある」と語る。休みやすい環境、オンコール負担の軽減、助け合える体制、待遇改善──。そのすべては、「スタッフが穏やかであれば、利用者も穏やかになれる」という信念から生まれている。
Calm Living Designが追求しているのは、地域の安心と、働く人の豊かさを同時に実現すること。井上さんの挑戦は続く。そしてその歩みは、これからの地域に「穏やかさ」を確かに育てていくだろう。
企業概要
会社名
株式会社Calm Living Design
所在地
群馬県高崎市菅谷町1069-1 清水貸事務所2号室
電話
027-384-4981
設立
2021年11月
従業員数
13人
事業内容
訪問看護事業、健康経営コンサルタント事業、保険外サービス事業
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