「人と社会を支える」というミッションをデジタル時代に最適化する異色のキャリア社長の挑戦 向陽(東京都)
2026年02月04日 06:00
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東京都昭島市の有限会社向陽は、長年、地域の建設現場や公共施設へ燃料を届ける社会基盤を支える企業だ。2024年10月に新社長に就任した松島大輔氏は、アナログなFAX文化の「手軽さ」を評価しつつも、テレワークの難しさやパソコンのないオフィスといった業界の現実に直面。自身の異色のキャリアで培った知見とスピード感を生かし、伝統的な「いいもの」を尊重しながら革新を進める「ハイブリッドDX戦略」を推進している。これは、「人と社会を支える」というミッションをデジタル時代に最適化する挑戦といえる。(TOP写真:デジタルとアナログを効率よく活用する戦略を語る松島大輔代表取締役)
DX戦略に着手し、事務部門を「コスト部門」から「収益部門」へ
松島社長がまず取り組んだのは、社内にIT機器を導入することだった。松島社長が向陽に入社したのは2019年12月。その直後に発生したコロナ禍を一つの機会と捉え、助成金を活用してパートや事務スタッフのパソコンを整備し、テレワークを導入した。社会全体がデジタル化を強いられる中で、向陽もその波に乗った。ピンチをチャンスに変えることができたのは、向陽にとって幸運といえた。
事務作業のデジタル化によりシステムで省力化した
社内でも“コストセンター”と呼ばれがちであった総務・経理といった内勤部門を、稼げる部門へと変革させたことは特筆に値する。松島社長は、長年の慣習であったアナログ業務を徹底的に見直し、事務や経理の通常業務を受注管理や事務作業のデジタル化により省力化し、作業時間を大幅に圧縮した。これにより、月末、月初以外の期間に事務スタッフに余裕を生み出すことに成功した。
この生まれた空き時間を、社内で立ち上げたクリエイティブ事業の仕事を任せることで有効活用し、部門のマネタイズを図った。具体的には、松島社長が撮影してきた動画の編集、採用向けのスマートフォン動画の編集、ホームページの簡単なデザイン業務など、生産性のある仕事を任せている。この取り組みの結果、内勤スタッフの「私も稼いでいる」というモチベーションにつながったようだ。
さらに、無駄な慣習の排除も強力に進めた。業界で当たり前のメール文化を廃止し、SlackやNotionといったチャットツール、データ管理ツールを導入した。これにより、「お疲れ様です。〇〇です。この本件なのですが…」といった形式的なやり取りをなくし、「○○さん、これなんだけどやった?」「やりました」といった短文でのコミュニケーションを可能にした。松島社長は「この毎日の1行、1秒の積み重ねが効率改善につながる」と断言。社内に「小さくても決めてすぐ動く」というベンチャー精神を注入した。
オフィスは社員がそれぞれの空間を有効活用して事務効率を改善している
松島社長のDX戦略は地域の異業種企業との提携に発展した。2024年1月、食品関連のエンジニアリング、プラント設計・施工などを事業とする株式会社川西(東京都武蔵野市)は、松島社長を取締役に迎えた。川西の代表取締役、大賀美夏子氏は「松島社長の多岐にわたる業界経験とマーケティングの専門知識が、自社のビジョン達成に重要な役割を果たす」と期待を表明している。
背景には、向陽のマーケティング経験と川西の食品プラント技術の優位性を組み合わせた、相互補完によるシナジー効果の創出がある。松島社長は、IT・小売業界での知見を食品業界に生かし、顧客ニーズに合った最適なソリューションを提供することで、業界の発展に貢献したいと考える。この異業種提携は、物流最適化やエネルギー効率化、持続可能なビジネスモデル構築につながる可能性があるという。
両社のオフィスは現在、Web会議システムで接続されており、物理的な距離を超えた連携を進めている。このシステムは、日常的に顔を合わせる機会の少ない両社社員の問い合わせや業務上のコミュニケーションを可能にした。ランチタイムに「今日のおかずは何?」といったカジュアルな情報交換もあるなど、社員間の相互理解と交流を深める場としても機能している。
両社の社員のエンゲージメント向上に貢献しているWeb会議システム
顧客視点を徹底して地域密着とデジタルの融合に余念がない
対外的な集客においても、松島社長は顧客視点を貫いたDX戦略に余念がない。自ら現場でヒアリングする中で、燃料を注文する現場のリーダー層が20代、30代になっていることに着目。「彼らの生活はもはやWebで注文、アプリで注文が自然な流れだ」との知見を得た。そこで、ホームページで簡単に注文できるように入り口をデジタル化しつつも、取引先の担当者が「この重機には○○を入れて」といった詳細な指示が必要な部分は「人と話した方が楽」だと考えた。ホームページからのワンクリックオーダーと、人を介した細やかな対応を融合させ、「楽だけれども温かみがある」独自の“ハイブリッド型”サービスを構築した。松島社長は「地域密着を大切にしながら、いちいち会わないデジタル化」と表現する。
顧客視点においてはもう一点、石油販売先の顧客がWebで発信するのに困難を感じている状況を見て、本業と併せて顧客のWeb発信を支援している。着実に成果を出しながら、その成果をベースにWeb発信支援を新たな事業としてスタートした。
また、松島社長は社員との心理的安全性の確保に腐心している。たとえば、「誰かが失敗しても他の人は覚えていない」という考え方に基づき、社員がミスをしても「それは自分しか気にしてないから。大丈夫」と声をかけている。ミスをした場合は影響の振り返りやフィードバックは行うが、これからのチャレンジを恐れて何もしないことを良しとしない。こうした社内風土が、社員が前向きに失敗から学び、次の挑戦へ向かう姿勢を育てている。
異色のキャリアが「究極のユーザー視点」での改革につながっている
松島社長のこうした改革の源泉は、大学卒業後に経験した異色のキャリアにある。大学院で言語学を学んだ後、コールセンターのアウトソースを行う大手システム会社に入社し、その後、食べログなどを運営するカカクコムに入社して初めてマーケティングと企画に携わった。さらに楽天、そしてフランスの化粧品大手ロレアルの日本法人でマーケティングを極めた。
仕事のポリシーは、一貫して「ユーザー視点で物事を考える」こと。そして、提供するサービスや商品を「すべて使い倒す」という徹底ぶりである。「ユーザー視点を徹底して貫く」(松島社長)。食べログ時代にはサービスを極めるため自ら食べ歩きを徹底した結果、10キロ近く太ったという。楽天時代には楽天経済圏を体験するため、「生活はすべて楽天で買う」を実行し、数百万円レベルで商品を購入した。さらにロレアル時代には、「(化粧をする際)女性はどういうタイミングで、どういう生活を送っているのか」を知るため毎日化粧をし、女性の服装で通勤するという驚きのエピソードを持つ。ファンデーションが洋服についてしまうという体験から、「お客さまは洋服を重視するのか、メイクを重視するのか」という深い洞察を得た。これらの徹底的な体験から得られたユーザー視点が、向陽が推進する「地域密着型のビジネスとデジタル化の融合」戦略に生かされている。
未来への展望は新たな社屋と「豊かな日常を支えたい」というビジョン
現在の社屋。松島社長のビジョンの実現を果たすための空間に生まれ変わる
松島社長は、1〜2年後に本社社屋の建て替えを検討している。これは、採用したい20代、30代の若者に「この会社に入りたい」と思わせる魅力を高めるためである。採用を「婚活」にたとえ、社屋の建て替えを「自分磨きの花嫁修業」の一環と位置づける。新社屋には、今や事業の柱となりつつあるWeb制作や動画編集に必要な撮影スタジオを設け、クリエイティブ事業のさらなる内製化を目指す。
松島社長のミッションは、「豊かな日常を支えたい」である。それは、2010年の東日本大震災の後、自宅で使っていた石油ストーブが「家族が温まったり、明かりにもなる」ことを実感し、「当たり前の日常こそが、何かあった時にすごくありがたい」と思えたからだ。向陽は、これからもインフラを支える企業としての揺るぎない覚悟と情熱を抱き、地域の「当たり前」を力強く支えていくだろう。
企業概要
会社名
有限会社向陽
住所
東京都昭島市拝島町4丁目7-10
電話
042-569-6671
設立
1996年11月
従業員数
17人
事業内容
石油製品販売、石油製品の卸販売、石油陸上運送、自動車整備、メンテナンス、Webサイト制作、システム開発、写真動画撮影、採用支援サービス
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