飲食店のグリストラップ内の油脂を石鹸水に変える特許で成長 デジタル化、クラウド化で次の成長路線へ 日本エコシス(群馬県)
2026年02月12日 06:00
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飲食店の厨房からは、油脂分を含んだ水が排出されるため、グリストラップの設置が必要となる。群馬県前橋市に本社を置く株式会社日本エコシスは、業務用の厨房排水から油脂分を分離して流す装置「グリストラップ」(油脂分離阻集器)から分離した油脂分を、石鹸水に変える技術を開発し、その特許を持つ企業だ。グリストラップの手入れを怠ると、悪臭や害虫の発生、最終的に産業廃棄物となる汚泥が滞留することによる排水機能の低下、環境への負荷……といった負の影響が計り知れない。同社は、こうした問題を一気に解決する画期的な技術で「グリピカロボ」を開発、販売代理店を通じて全国の清掃業者などに採用が広がっている。しかし、この技術で使用する専用の薬剤販売が思うように伸びておらず、その使用状況を把握するための、データ精査の必要性を痛感。デジタル化、クラウド化を急ぎ、次の成長の原動力とする考えだ。(TOP写真:特許を持つ石鹸化工法でグリストラップの清掃を行う様子)
持ち帰り寿司チェーン店の営業担当から社内独立 時流に乗って業績好調も「バブルだった」 飲食店業の展開で感じたグリストラップを清掃する必要性
日本エコシスの外観
日本エコシスの創業者である深町五一代表取締役会長は、23歳の時に持ち帰り寿司チェーンを展開する「株式会社小僧寿し本部」に入社。営業担当として埼玉県を担当し、順調に業績を伸ばしていた。埼玉県や他の県は順調ながら、深町会長の地元である群馬県は店舗展開がうまくいかず、1988年、深町会長は上司である専務に「地元に帰って独立したい」と告げた。「群馬では売れないよ」とのアドバイスも受けたが、言葉通りに独立。深町会長によると「小僧寿し本部では初の社内独立だった」といい、4月に地元・前橋市で1店舗目をオープンさせた。
「ところが見事に客が来ないんです(苦笑)。朝6時から準備を始め、開店してもお昼に10人ぐらいのお客さんが来る程度でした」と、見事なまでに当初は売れなかったという。それは、「群馬県のこのあたりの人は見栄っ張りで、ええかっこしいなんですよ。例えば市内の大型団地ではよく布団を干す光景が見られたけれど、干している布団と普段使っている布団は違って、いい布団を干しているといわれるほどでした」。深町会長がオープンした店でも、高齢の主婦がいなりずしを1個だけ買い求め、レジ袋があるのは当たり前の時代なのに、袋は不要ということも多かった。「これも見栄で、家庭で食事作りをちゃんとしていると見られたいという思いがあったのでしょうね。自分の手提げ袋に入れて少量だけを持って帰るような方が多かった」と深町会長は述懐する。
だが、時代はバブルのさなか。開店から半年ほどたった頃から売れ行きが上がり、2店舗目を出店。これが1店舗目の50%増の売上となっただけでなく、1店舗目も同様に売上が上昇。さらに3店舗目を開店させると、既存2店舗の売上もさらに増加した。「当時は『俺ってすごいな』と思っていたんです(笑)。でもそれは時代がバブルだったから。時代のおかげで売れたし、小僧寿しというブランドで売れただけだった」と深町社長。全5店舗を運営したほか、居酒屋、仕出し弁当店を各1店舗出店したが、「バブル崩壊と回転寿司チェーン時代の到来で、内食から外食へ時代が変わっていった」といい、結果、2000年に全店舗を売却した。
一旦は全てを失った深町会長だが、抱えていた思いがあった。「まさにそれがグリストラップのことだったんです。厨房排水のグリストラップの清掃を、何とか簡単にきれいにできれば、それは人が一番嫌がるような仕事だから、それこそ自分の仕事にできるのではないか」と。
グリストラップの油脂を「一般清掃事業」で処理できるようにしたい その思いを実現するためにありとあらゆる方策を試行錯誤するも資金繰りとの戦いに
石鹸化工法できれいにする施工前、施工中、施工後のグリストラップの様子
グリストラップは、「建築基準法施行令」や「下水道法」「水質汚濁防止法」などにより、実質的に設置が義務付けられていると言っていい。生ごみのほか、油脂や汚泥を分離して、排水を処理することになるが、厄介なのは、この油脂や汚泥が通常の廃棄物ではなく、産業廃棄物として扱われることだ。2003年に、休眠状態となっていた飲食店経営会社の社名を「日本エコシス」と変更し、一般清掃業として再稼働させたが、そのハードルは高かった。
「産廃のくくりである以上、これを処理するのは許認可制となっていて、許可を得た業者しか処理ができなかったんです。当時はバキュームカーに吸引してもらって、中間施設で処理してもらうのが一般的でした。飲食業者もグリストラップをきれいにしたい思いはあるけれど、産廃処理業者に頼むと、値段が高いので躊躇(ちゅうちょ)する。結局そのままにしていて、飲食店内に臭いが上がってこないように、処理槽の部分にマットなどをかけているところもあった。ならば、これを一般清掃でできるようにすれば、価格破壊を起こせるんじゃないかと考えたんです」
最初は、グリストラップの内容物を別のタンクに移して熱処理をすることで、油脂と水分と汚泥に分ける方法を考えた。油脂は燃料として、汚泥はEM菌を加えることで肥料化して活用する、という方法だった。だが、その装置を作ろうにも先立つものがない。高崎市の機械工業の会社を訪ねて意図を説明したところ、「図面を起こすのに50万円」といわれた(深町会長談)。その資金は消費者金融で用立てた。ところが、納品されたのは製品の仕様情報だけで全く形にならなかった。それでも試行錯誤を重ね、最終的にこの油水分離システムで2007年に特許を取得した。
群馬県の廃棄物処理担当課を訪ねたところ、曲折あったのだが「大がかりな装置は産廃処理業に当たる」との回答を得た。当初は2トントラックに積載するような大型の装置を考えていたからだ。しかし、その解答から、「それを小型化できないだろうか」とひらめき、再びチャレンジが始まった。
「ただ、処理するのに熱を加えると臭いが出るんです。装置が小さいほうがそれは顕著で、グリストラップの異様な臭いが飲食店に広がることを考えたら使えない。そこでまた試行錯誤が始まり、はたと思いついたんです。グリストラップの油脂は食べ残しから出るものだから、動植物系の油なんです。それなら水酸化ナトリウムという専用の薬剤と反応させれば、脂肪酸ナトリウムとグリセリンになると思いついたんです。これは『鹸(けん)化』と呼ばれる反応で、石鹸を作るのに一般的なやり方なんです。微生物が石鹸水を好んで食べることで、汚泥の全体量を減らせるようになった」。深町会長が探していた答えの端緒が見つかった瞬間だった。2008年のことである。
以前の轍(てつ)を踏まないよう、初めから特許を申請することにした。東京に本拠を置きながら、月に数回、群馬県に来る弁理士が工学系に詳しく、「あんた面白いねえ」と興味を持ってくれて、特許の申請もしてくれることになった。技術を見込んだのか、その弁理士は「前例はない」としながらも、依頼料の分割払いを認めてくれた。2008年の申請から2回の申請拒否を経て2年後の2010年にようやく特許を取得。グリストラップ石鹸化工法のシステム特許を8件取得した。「自分が思いついたことに理屈を合わせ、諦めずに追っていく性格が良かったんだろうね」と当時を振り返って深町会長は笑う。
総代理店契約で特許の専用実施権を譲渡 何とか買い戻しに成功 全国約150の代理店を通じ、システム使用は全国に広まる
日本エコシスの歴史について説明する深町五一会長
石鹸化工法システムの特許を取得し、東京の企業と総代理店契約を結び、全国でシステムに興味を持つ顧客に販売した。この時、まだ資金繰りに苦しんでいた深町会長は、この企業から1000万円を借りる代わりに、特許の専用実施権をこの企業に渡してしまった。
「これは弁理士の先生に怒られましたね(苦笑)。『お前、特許なんてもうないよ。専用実施権が権利なんだよ』ってね。ところが、2019年にこの企業が傾いた。うちもこの企業への売掛金が700万円ほどあり、先方が借りた1000万円と相殺したいと言ってきた。『残りの300万円は借金してもいいからそろえて、専用実施権を買い戻せ』と弁理士の先生に言われ、何とか買い戻すことができました。普通ならそんな額じゃ買い戻せないはずでした。でも、あれがなければ今も苦しかったでしょうね」と深町会長は話す。
回り道はしたが、システム販売は全国に広がり、近年は前年を年間20~30%上回る売上の伸びが続いているという。加えて近年の環境意識の高まりも追い風となっている。「各地の保健所に行っても、最初の頃は、グリストラップ自体を知らないところも多かったほど。それに昔は、例えばラーメン店に営業をかけに行っても、コストと見合わせて『うちのラーメンを何杯売ればいいんだ』などと言われることも多かったんです。それでも今は、コンプライアンス意識の高まりから、大手企業からも引き合いが多くなっています」(深町会長談)
かつては一般清掃業者が触れられなかったため、グリストラップだけは専門の産廃処理業者が携わることが多かったが、この工法であれば一般清掃業者がグリストラップ清掃も請け負えることから、取り入れるところが広がり、現在は、北海道から沖縄まで約150社と代理店契約を結んでいる。
苦労の末、完成した石鹸化装置「グリピカロボ」
「グリストラップ石鹸化工法」に使用する石鹸化装置の数に比べ、専用の薬剤の使用量が少ない……データ精査の必要性を痛感 外部からでも入力可能なネットワークサーバーでデータ共有を実現
ネット上で各代理店からの報告書をチェックする監査役の内山さん
日本エコシスが特許を持つ「グリストラップ石鹸化工法」では、専用の石鹸化装置を使用し、専用の薬剤によって、油脂の石鹸化などを実現している。石鹸化装置を全国の代理店に販売し、さらに専用薬剤を都度販売することで事業を運営している。「これは小僧寿しチェーンの頃にヒントがあります。小僧寿しでは専用の酢を使用していました。それがなくなれば新たな専用の酢を注文します。つまり、サブスクリプションのような形で、石鹸化装置を使い続ける限り、専用の薬剤を使ってもらうことで売上が回っていくと考えました」と深町会長。
ところが、「代理店とは信頼関係でやっているものの、ちょっとデータを調べたところ、あまり嬉しくない事情が一部で浮かび上がってきたんです」と深町会長が言葉を継ぐ。石鹸化装置を30台保有しているはずなのに、薬剤の購入が月間で20~30本に留まるところなどが見受けられた。すなわち「専用の薬剤を使わずに他の薬剤を使用しているのかもしれない」といい、データを精査する必要性を痛感したという。
しかし、会社自体の規模は小さく、人手も少ない。代理店が多くなることによって、その報告書の作成やチェックが煩雑になってきた。同社監査役の内山さんによると、「エクセルやワードに手で打ち込むことで手いっぱいになっています」という。しかも会社内でしか作業ができなかった。
ネットワーク対応サーバー(NAS)を導入することで、「パソコン内にしか保管していなかったデータをNASにおき、外部からもアクセスできるようにしました。それが2019年で、翌年の新型コロナウイルス禍の直前でした」と内山さん。「コロナ禍で出社できなかった時も、外部からアクセスできるようになり、溜まった分の作業が自宅でできるようになりました。実は私も子どもが学校で罹患(りかん)して感染し、自宅待機からホテルでの隔離になりました。それでも外部から増えた顧客分のデータを入力できるようになり、それを共有フォルダに入れて、社のみんなが見られるようになりました。そして、スケジュールも会社のパソコンからNASに移したことで、スマートフォンでも最新の予定が見られるようになり、自宅や外出先でも、お客様からの問い合わせに対応ができるようになりました。今までは次の日に、会社で予定を確認して連絡しなおしていましたが、その手間がなくなりました。また、銀行などでの各種金額確認もスマートフォンでできるようになり、プリントアウトして持ち出す必要がなくなりました。仕事が増えれば増えるほど、システム化が必要なことを痛感しましたね」と語る。
企業成長のためデジタル化、クラウド化を進める その布石をベースに新たな事業への思いを馳せる
煩雑さを解消するために、経理用・販売管理用のソフトやネットバンクの導入を検討している。深町会長も「企業が大きくなればなるほど、システム化は絶対必要ですね」と同調。先の専用薬剤の使用本数なども広く共有できるようにしたいという。
深町会長は、現在、自動石鹸化装置の開発を進めている。さらに2025年2月に埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故で、硫化水素による下水道管の腐食の可能性が報道されたことについて、「今ある下水道管はもう間に合わないかもしれないけれど、専用の薬剤で石鹸水にすることで硫化水素の発生を弱められる」と指摘。今後の事業展開にさまざまな思いをはせている。
企業概要
会社名
株式会社日本エコシス
住所
群馬県前橋市亀里町318-5
電話
027-265-7474
創業
1988年
従業員数
10人
事業内容
一般清掃業、廃液処理装置の製造・販売、害虫駆除作業、その他清掃業務全般
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