国産ブドウ100%の「日本ワイン」最大手 高性能監視カメラで、醸造所見学の安全確保と満足度向上 北海道ワイン(北海道)
公開日:2026年03月09日
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日本最大のワイン用ブドウ畑を保有する北海道ワイン株式会社。国内で生産されるワインのうち、輸入ワインや輸入ブドウ果汁を混入したものが8割前後を占める中、創業以来、国産ブドウしか使わないワイン(日本ワイン)だけを造り続けている。リニューアルしたワインギャラリーでは、醸造所見学者を積極的に受け入れ、ワイン造りの情報発信を強化。導入した新型監視カメラの活用により、動線の安全確保と、より詳しい設備見学の両立を実現。ブドウ農家の人手不足に対応したスマート農業でも、通信事業者など大手企業や北海道大学などと共同で先進的取り組みを推進。道外はもちろん、海外からの注目も集める。(TOP写真:大小230本もの醸造用タンクから年間200万本のワインが瓶詰めされている)
1974年に設立しドイツの醸造技術を習ってワイン造りを模索 「ワイン造りは農業」の信念で地元に合ったブドウ栽培を追求
苦難の末に初めて完成した第1号の白ワイン「ミュラー・トゥルガウ」は、今も醸造所内の倉庫に保管されている
北海道ワインは2024年に創業50周年を迎えた。山梨県のブドウ農家に生まれた嶌村彰禧(しまむらあきよし)氏は、当時経営していた服飾事業で1971年に旧西ドイツを視察した折に、関心を寄せて訪問したワイン醸造やブドウ栽培技術を教える施設で、「ドイツと同じような寒冷地気候の北海道なら、ワインに適したブドウが栽培できるのではないか」と思いついた。これが創業の原点となった。
家業の関係でブドウ栽培に興味があったことに加えて、北海道の浦臼町に服飾事業の工場があったことから、同町の耕作放棄地を購入し、1972年にドイツから輸入したワイン用ブドウの栽培を開始。1974年にワイン製造会社「北海道ワイン」を立ち上げた。
しかし、ブドウ栽培は簡単ではなかった。粘土質の土壌で数千本の苗木がすべて枯れたり、せっかく育った苗木が豪雪で枝折れしたり、野ウサギや野鳥対策に悩まされるなど、相次ぐ苦難に直面した。試行錯誤の末、約7年の歳月を経て1979年に第1号のワイン完成にこぎ着けた。同社が創業以来こだわってきたのは、国産ブドウ100%でワインを醸造することだ。大手ワイナリーのように輸入ワインや輸入濃縮果汁を一切使わない「完全国産主義」のワイン造りだ。経営の根幹にあるのは、「ワイン造りは農業である」という彰禧氏の信念だ。
先代の意志を引き継ぎ国産ブドウにこだわるワイン造りに磨きかける2代目社長 契約農家200軒と二人三脚
本社と醸造所は小樽市郊外の山の中腹にある
2012年に就任した2代目の嶌村公宏代表取締役社長も、1988年の入社以来、彰禧氏のワイン造りに対する頑ななまでのこだわりを身をもって学んできた。
創業時に伝えられたドイツワインの醸造技法を、北海道の気候や品種に合わせて改良を重ね、進化させてきた北海道ワインは、直轄農場のほかに200軒にのぼる契約ブドウ農家との協力関係を築き、信頼関係のもと、収穫したブドウは全量買い取りを基本としてきた。
2018年には、北海道が山梨県に次いで日本で2地域目となる「GI(地理的表示=基準を満たせば産地名を名乗ることができる制度)」の指定を受けた。また、国産ブドウのみを原料として国内で生産したワインが「日本ワイン」と定義された。これにより、輸入ワインや輸入果汁を混ぜて国内で生産したものも含まれる、いわゆる「国産ワイン」と明確に区別されることになった。北海道ワインのワイン造りの姿勢に、制度がようやく追いついた形だ。
国内最大級のワイン産地に成長した北海道はワイナリーが75社と急増中 「日本ワイン」で最大手の北海道ワインは年間200万本を出荷
石狩川沿いに広がる浦臼町の耕作放棄地を1972年に開墾して作った鶴沼ワイナリーは、今も国内最大のワイン用ブドウ畑だ
北海道のワイナリー数は山梨県、長野県に次いで全国3位だが、2022年度の53社が2024年度には64社、2025年10月末には75社に急増。ワイン生産量は2024年度に長野県を抜いて2位に浮上した。
北海道ワインのグループ会社、有限会社鶴沼ワイナリー(浦臼町)は、敷地面積が東京ドーム100個近い447ヘクタールに及び、植栽面積はおよそ100ヘクタールとなる国内最大のワイン用ブドウ畑を運営している。ほかに、石川県穴水長でのワイン生産技術支援を機に設立した、有限会社北海道ワイン能登ヴィンヤード(穴水町)、有機ワイン生産を目的に設立した北海道ワイン後志(しりべし)ヴィンヤード株式会社(仁木町)を加えた、直轄農場3ヶ所でブドウを栽培している。
鶴沼ワイナリーでは、試験品種を含む約40種のブドウ苗を育てている。同社で定番商品に使用する品種はケルナー、ミュスカ、ツヴァイゲルトなどの比較的寒冷地向けの品種に加え、ピノ・ノワール、シャルドネ、ソーヴィ二ヨン・ブラン、ロンドなど多様化。ワイン生産量は年間約200万本(720ミリリットル換算)で、日本ワイン全体の総生産量の約10%を占める最大手だ。
2025年にフランスのワインコンクールでソーヴィニヨン・ブランの銘柄が最高金賞受賞 ブドウ栽培と醸造技術で北海道の品質が高く評価
醸造所見学の後にはテイスティングルームで、腕の良い契約農家のブドウから醸造される選りすぐりのワインなどが試飲できる
「手に入らないプレミアムワインよりテーブルワインを」。彰禧氏は多くの人に飲んでもらうために、低価格で美味しいワインの提供こそが会社の使命と考えていた。テーブルワインを重視する姿勢は現在も変わることなく、嶌村社長に引き継がれており、同社の販売量の大半が2000円未満の手ごろな価格帯のワインである。
一方、ブドウ栽培技術の研究では業界をリードし、農家と二人三脚で北海道産ブドウの高品質化に取り組んできた。その成果は次第に実を結び、国内外のワインコンクールで北海道ワインの銘柄が相次ぎ入賞。ワイン産地としての北海道の認知度向上にも寄与してきた。
フランス醸造技術者協会が主催する「ヴィナリ国際ワインコンクール2025」では、「田崎ヴィンヤード ソーヴィニヨン・ブラン 2022」が、最高賞のグランド・ゴールドを受賞した。受賞ワインは、契約農家の田崎正伸氏が余市町で収穫した、良質なソーヴィニヨン・ブラン種を、北海道ワインが醸造して瓶詰めしたものだ。
同コンクールでグランド・ゴールド賞は、各国の生産者550社が出品した約2700本の銘柄のうち171本に贈られた。日本産ソーヴィニヨン・ブラン種で造ったワインが、同コンクールで最高賞を受賞するのは初めての快挙だ。
同時に、鶴沼ワイナリーで収穫されたブドウによる「鶴沼ゲヴュルツトラミネール 2021」もゴールド賞を受賞し、ブドウの栽培技術と北海道ワインの醸造技術の高さが世界的にも認められる結果となった。
世界水準のワインの品質を目指して不断の努力を続けてきた北海道ワインだが、持続可能な農業モデルにも長期的な視野で取り組んでおり、国内ワイナリーのトップランナーといえる存在となっている。温暖化により栽培品種が変わっていくとともに、従来とは異なる病害への対応も必要となり、2000年以降にはカビ菌に強いPIWI品種の栽培を開始。農薬散布の削減に成果をあげている。
遠隔操作によるEVカートで草刈り、収穫を自動化 時差を利用した国際間協力も視野にスマート農業で業界をリード 2026年には有機ワインも本格事業化
北海道大学などと共同で取り組む「オープンイノベーション研究・実用化推進事業」でブドウを刈り取る収穫ロボット(北海道大学、生研支援センターより提供)
2022年には、北海道大学やNTT東日本株式会社、豊田通商株式会社などと共同で、ローカル5Gの通信環境を活用したEVカート(電動式自動草刈・防除)の遠隔操作を鶴沼ワイナリーなどで実証試験を行った。現在は、より遠くの能登ヴィンヤードのブドウ畑でEVカートを走行させ、北海道から遠隔操作する実証実験も行っている。また、センサーやドローンによる育成データの収集と、工場でのトレーサビリティを連携させ、ブドウ栽培から収穫、醸造、瓶詰、運搬までの全工程をデータで証明できる体制の構築も目指している。
北海道営業部の今村直明営業企画課課長は、「技術的には草刈りと防除は実用レベルに達しているが、実際の作業に活用するには、もっと操作性など使いやすさの面で改良しなければならない」と説明する。ユーザーインタフェースの向上に加え、収穫、剪定(せんてい)の自動化といった、より高度な遠隔操作も視野に入れて取り組んでいる。
遠隔操作については、労働力不足という世界共通のワイン農家の課題に対する有効な解決策として期待されており、フランスの有名ワイン産地から視察団も来日。時差を利用し、国境を越えた遠隔操作の研究も始めている。
後志ヴィンヤードは2021年に有機JAS認証を取得。本社醸造所も2025年8月に取得し、10月から有機ワインの醸造を開始しており、2026年の販売を予定している。世界的に機運が高まっているオーガニックワインの安定的な生産体制を確立し、サステナブルな栽培技術と高度な品質管理を融合した次世代の日本ワインモデルを模索している。
環境保全に本腰で取り組み太陽光発電で必要量の3分の1賄う タンクの冷却水は地中熱ヒートポンプ導入で循環利用を開始
タンクを冷却する水を冷やすための、地中熱ヒートポンプシステムが2025年春に稼働を始めた
環境保全に配慮した再生エネルギー活用や省エネ対策にも本格的に取り組んできた。2018年の北海道胆振東部地震による3日間の停電を教訓に、太陽光発電パネルを敷地内に設置し、現在は本社・醸造所の使用電力の最大3分の1を賄っている。工場内の全照明をLED化し、150キロワット時の蓄電池装置も導入。電力ピーク負荷の分散とCO2排出量削減を実現した。2025年2月には、醸造タンクを冷やすためにくみ上げていた地下水の減少に配慮して、地下に採熱管を埋めて冷却した水を循環させる地中熱ヒートポンプシステムを導入した。
また、「農家のためにブドウの付加価値を高めたい」という考えから、搾汁後の残渣(果皮や種子)にポリフェノールが大量に含まれている点に着目。パウダー化して菓子などへの利用が2025年から始まった。
これら未来を見据えたワイン造りの姿を情報発信していくために、2024年には「体験型ワイナリー」を目指しリニューアルした、「おたるワインギャラリー」をグランドオープンした。最大5万リットルを超える大型タンクをはじめ大小230本もの醸造用タンクや、瓶詰めラインなどさまざまな機械が稼働する醸造所だが、ワイン造りの現場を顧客に実際に見てもらうことが、さらなるワイン需要拡大に不可欠との考えがあるからだ。
醸造所内の監視カメラを増設 広角化と4Kレベルの高精細化を実現 見学者の知的好奇心に応えつつ安全確保と誤侵入防止を両立
高性能監視カメラの設置でガイドは心理的プレッシャーなしに説明に集中できるようになった
ワイン好きな見学者の知的好奇心にできるだけ応えながら、見学者の安全確保と、衛生区(サニタリーゾーン)などへの誤侵入防止を徹底するために導入したのが高性能監視カメラシステムだ。2023年のワインギャラリーのリニューアル工事で監視カメラシステムを刷新。カメラの視野角を広角化し、監視範囲を広げたほか、設置個所を従来の16ヶ所から25ヶ所に増設した。また、360度の全方位カメラの設置も行い、見学者の見守りを徹底した。
経営企画室の眞崎晃文課長は、「事務所のパソコンでも見学状況を確認できるようになった。また、高精細になったことで、映像を拡大しても画像が粗くならず、詳細に確認できるようになり安心感が高まった」と導入効果を説明する。
見学者の危険な設備への接近や禁止区域への誤侵入など、複数名での確認ができるようになり、ガイドも心理的なプレッシャーから解放され、説明に集中できるようになったという。
醸造所の見学者数は3倍に増加も無事故を維持 製造ラインの現場の映像を分析して作業効率化や業務改善にも活用し安全と生産性の両立目指す
「北海道を世界有数のスパークリングワイン産地に」と話す嶌村公宏社長
ワインギャラリーの年間見学者数は、改装前の約3倍となる6000人に急増したが、無事故で運営されている。見学者対応以外の映像活用として、経営企画室は、「今後、製造ラインに設置した監視カメラの映像を、ラインの作業効率化や業務改善に向けた分析データに活用する方向で検討していく」(眞崎課長)。映像データから熟練者の動きや動線を分析・数値化することで無理や無駄のない作業工程を標準化し、「安全」と「生産性」を高次元で両立させたい考えだ。
「ひたすら愚直」なワイン造りへのこだわりと未来への責任をブランドブックで「葡道」と表現 「北海道に必要な企業」を超えて100年企業目指す
50周年を機に発刊されたブランドブックには「薄利多売で結構。望むところだ。」など創業時からのワイン造りのこだわりが書かれている
嶌村社長は、「地球温暖化で世界のワイン造りが変わってきている。私たちもこれまで以上にサステナブルなやり方に変えていかなければならない。北海道を世界有数のワイン産地にしていきます」と力強く宣言する。具体的な事業計画のひとつとして掲げるのは、「(フランスのシャンパーニュ地方のような)高品質なスパークリングワインを造る」ことだ。最終的には、直轄農場のヴィンヤードで栽培している有機ブドウを、その原料とする構想も練っている。
北海道ワインは50周年を機に、「100年企業を目指す」ため、創業者が説いた「ひたすら愚直であれ」というブドウ作り・ワイン造りの精神と、未来に対する責任感を込めたブランドブックを発刊した。そこで示した「葡道(ぶどう)」という言葉には、「名声よりも自分の納得するものをどこまでも追い求める」という創業以来のこだわりが込められている。
社是は「北海道ワインは北海道に必要な会社となります。感謝と誠実を心に。」である。 ホームページには「まだそんな存在にはなれていない」と記されているが、国産原料しか使わない日本ワインへのこだわりと、ICTなどの新技術をワイン造りの問題解決に生かす真摯(しんし)な姿勢は、北海道だけでなく、日本に必要な会社としての存在感を増している。
企業概要
会社名
北海道ワイン株式会社
本社
北海道小樽市朝里川温泉1丁目130番地
電話
0134-34-2181
設立
1974年1月
従業員数
79人(2025年12月1日現在)
事業内容
酒類製造(北海道産及び日本産原料ぶどう100%使用の非加熱生ワインの醸造、ビール類製造)と販売、原料ぶどうに係わる営農指導・管理・調達、ぶどう圧搾残渣の加工・販売
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