福祉業(介護)

実践が先にあった! 人生の終盤に寄り添う介護を、効率だけで語らないために ミツイ商事(栃木県)

From: 中小企業応援サイト

公開日:2026年04月03日

この記事に書いてあること

制作協力

産経ニュース エディトリアルチーム

産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

人手不足や業務の複雑化が進む中、介護・福祉の現場では、安定した運営を続けること自体が大きな課題となっている。制度や仕組みは整備されてきた一方で、現場では「時間に追われる介護」や「作業としての支援」を選ばざるを得ない状況も少なくない。そうした中で、介護という仕事を「効率」や「管理」だけで語ることに、違和感を抱き続けてきた会社がある。制度が整い、効率化が進んだはずの介護現場で、「このやり方で本当に、人の人生の終盤に寄り添えているのだろうか」という問いを持ち続けてきたミツイ商事有限会社である。(TOP写真:わかばケアセンター・わが家三島宅老所 昔も今もわが家のような雰囲気を大切にしている)

介護保険制度以前から始まっていた、地域での実践

左から専務取締役藤田尚子さん、統括施設長大森紀子さん、代表取締役藤田純子さん、取締役総務事務長藤田剛さん。それぞれの専門分野を生かしチームで経営を行っている

左から専務取締役藤田尚子さん、統括施設長大森紀子さん、代表取締役藤田純子さん、取締役総務事務長藤田剛さん。それぞれの専門分野を生かしチームで経営を行っている

ミツイ商事の介護事業の原点は、介護保険制度が始まる頃までさかのぼる。代表取締役の藤田純子さんは、看護師として定年まで勤め上げた後、ケアマネジャー資格を取得。地元で生活に困っている独居高齢者を、一人ひとりの自宅で支える活動を続けていた。

当時は施設不足が深刻で、骨折などで入院し、退院後に自宅での生活が立ち行かなくなった高齢者の受け入れ先が見つからない。そうした現実を前に、相談を受けた高齢者を藤田社長の自宅に迎え入れ、ともに生活する形での支援が始まった。ボランティアとして始めたこの取り組みが、同社の介護事業の出発点である。

「目の前に困っている人がいる」。その事実が、行動を起こすきっかけだった。

その後、行政からの指導を受け、自宅の2階を活用してデイサービスを開設。これが、介護保険法に基づく施設運営の始まりとなる。

各施設でいつも様々なイベントを開催している。利用者の笑顔が印象的だ(ホームページより転載)

各施設でいつも様々なイベントを開催している。利用者の笑顔が印象的だ(ホームページより転載)

実践が先にあり、制度が後から追いついてきた

介護保険制度が整う以前、全国各地で「このままでは高齢者の生活を支えきれない」と感じた人々が、制度の枠外で介護に取り組んでいた。その代表的な形が「宅老所」である。

藤田社長も、全国の実践者が集まる勉強会「宅老所・グループホーム全国ネットワーク」に参加し、制度に頼らず、人の暮らしにどう寄り添うかを学び続けてきた。宅老所や小規模ケアに取り組む実践者が集まり、現場での試行錯誤を持ち寄る場に、何度も足を運んだ。
こうした現場発の実践や学びは、やがて国の制度設計にも影響を与え、小規模多機能型施設などの仕組みへとつながっていく。

ミツイ商事の歩みは、制度に合わせて事業を拡大してきた歴史ではない。高齢者と向き合う実践が先にあり、制度が後から追いついてきた歴史だ。

必要に応じて、少しずつ形を広げてきた理由

現在、同社は老人ホーム、通所介護施設(宿泊サービス)、小規模多機能ホーム、グループホームなど複数の施設を運営しているが、拡大そのものを目的としてきたわけではない。地域の中で「ここが足りない」「この支援が必要だ」という声に耳を傾け、その都度、必要な形を一つずつ積み重ねてきた結果である。

那珂川町(なかがわまち)谷川にある小規模多機能ホーム・グループホーム「えにし苑」の開設は、そうした姿勢を象徴している。この地域は限界集落で、介護施設の不足が深刻だった。廃校となった小学校を活用し、地域のための介護施設をつくれないだろうか、という依頼が寄せられたのがきっかけだった。

開設時の説明会には多くの住民が参加し、施設の意義を直接伝える貴重な機会となった。現在では、余裕のあるスペースを生かして地域イベントが開かれ、自然と人が集う地域のコミュニティが生まれている。まさに「えにし(縁)」、人と人とのつながりや巡り合わせを大切にした場となっている。大規模化による効率よりも、地域の必要性に合った施設をつくる。その考え方は、今も変わっていない。

小規模多機能ホーム・グループホーム「えにし苑」。廃校を利用して開設した。今は地域の様々なイベントなどにも活用されている

小規模多機能ホーム・グループホーム「えにし苑」。廃校を利用して開設した。今は地域の様々なイベントなどにも活用されている

「最後の時間を、どう過ごしてほしいか」から考える介護 老後の最大の楽しみは…

藤田社長が繰り返し語る問いがある。
「老後の最大の楽しみは、やはり食べることではないか」
これは、「質の高い介護とは何か」という経営理念を考える中で生まれた問いだ。年齢を重ね、できることが少しずつ減っていく中でも、食事は日々の大きな楽しみとして、最後まで残る。その思いから、同社では栄養士が関わる体制を整え、セントラルキッチン方式による食事づくりに踏み出した。
クックフリーズ方式※を採用し、急速冷凍や再加熱の設備を導入するには、大きな投資が必要で、簡単に決断できる選択ではなかった。収支や効率を優先すれば、別の選択肢もあったはずだが、それでも同社はその道を選ばなかった。※(加熱調理した食品を30分以内に急速冷凍、提供時に再加熱する調理システム)
「食べることの質を下げたくない」という思いが、自然とそこにあった。現在では、食事の質に対する取り組みは利用者からも高い評価を受けている。さらに、地域高齢者への配食サービスにも広がり、将来的には災害時の備蓄食として地域へ還元することも視野に入れている。

食事は単なる栄養補給ではなく、人の尊厳を支える要素である――。この認識が、同社の判断の根底にある。

施設の食事は利用者から大好評だ。リクエストに応じたメニューも考えられている(ホームページより転載) 

施設の食事は利用者から大好評だ。リクエストに応じたメニューも考えられている(ホームページより転載) 

利用者を「一人の大人」として扱うという当たり前 そのため日々のミーティングを重視

Web会議システムなどを利用して積極的にミーティングが行われている

Web会議システムなどを利用して積極的にミーティングが行われている

ミツイ商事が大切にしている姿勢は、食事や環境づくりにとどまらない。利用者との日々の関わり方そのものにも、一貫して表れている。認知症の有無にかかわらず、利用者を子ども扱いすることはない。名前の呼び方や言葉遣い、態度も含め、一人の大人として尊重しながら向き合う。そうした姿勢を、現場では当たり前のこととしている。

自立支援や自己決定も、特別な場面だけの話ではない。服を選ぶ時に選択肢を示すこと、長年続けてきた生活のリズムを尊重すること。そうした日常の小さな関わりの積み重ねが、その人らしい時間を支えると考えている。

こうした姿勢は、個々の職員の心がけに任されているわけではない。日々のミーティングの中で、利用者との関わり方や言葉の使い方を繰り返し確認し合い、気づいたことを共有する。その積み重ねによって、「一人の大人として接する」という当たり前の姿勢が、組織として保たれている。

思いを属人化させないためのICT活用 互いが支えあうための道具でもある

スマートフォン対応の無線トランシーバー。いつでもどこでも情報を共有することができる

スマートフォン対応の無線トランシーバー。いつでもどこでも情報を共有することができる

人手不足が進み、現場の判断や対応を、個人の経験や勘だけに委ねることが難しくなる中で、ミツイ商事は、介護の質を維持するためには「利用者への思いを属人化させない仕組み」が必要だと考えるようになった。

その一つの答えが、ICTの活用である。同社が導入しているスマートフォン対応の無線トランシーバーは、単なる連絡手段ではない。複数の施設や訪問先で働く職員、管理者、幹部社員をリアルタイムにつなぎ、現場で起きている出来事や、その場での対応や判断を、即座に共有するための、情報インフラとして活用されている。

通信距離の制限がなく、どこからでもグループ通話が可能なため、現場で迷いが生じた際にも、その場で相談や確認ができ、必要な支援を受けることができる。社長や幹部社員も状況を即座に把握し、必要に応じてサポートに入ることが可能だ。

藤田社長はこの仕組みについて、「今まで知らなかった職員の働きぶりを知ることができ、こういうふうに一生懸命やってくれているのだと、感謝の気持ちが湧いてきます」と話す。ICTは、管理のための道具ではない。現場の行動や努力を可視化し、職員同士が支え合う関係をつくる役割も果たしている。

また、施設内には見守りカメラやベッドセンサーを導入している。これにより、夜間の利用者の体位や呼吸の状況などを把握することが可能となり、異変があった場合には速やかに対応できる体制が整えられた。従来のような定期的な巡回が不要となったことで、利用者の安眠を妨げることなく、安全を確保できるようになった点は大きい。同時に、職員にとっても業務負担が軽減され、安心して働ける環境づくりにつながっている。

これらのシステムの導入により、緊急時には状況を迅速に共有し、適切な対応を取ることができる体制が構築された。さらに、介護業務支援システムも以前から活用しており、請求業務をはじめとした事務作業の効率化にも効果を発揮している。

ミツイ商事にとってICTとは、人を減らすための道具ではない。迷いや不安を減らし、人が本来向き合うべき「人に寄り添う仕事」に集中するための基盤として、現場に根づいている。

「ああ、いい人生だった」と思えて終われるかどうか――そこに関わる仕事ほど、尊いものはない

介護という仕事について語るとき、藤田社長はときどき言葉に詰まる。「うまく表現できないんですけど」、そう前置きしながら、それでも伝えようとすることは、この仕事が、人の人生の最後に関わるものだからだ。誰にでも老いがあり、最後の時間がある。その時に「ああ、いい人生だった」と思えて終われるかどうか――そこに関わる仕事ほど、尊いものはないと藤田社長は考えている。

介護を、「じいちゃん、ばあちゃんの世話」と軽く扱いたくない。だからこそ、この仕事の質を高め続けたいという思いが、経営の根底にある。それは利用者に対してだけでなく、職員に対しても同じだ。日々のコミュニケーションを通じて行動が共有されることで、互いの考えや努力が見える。その積み重ねが、現場に責任感と信頼関係を育てていく。

介護は、人生の最終章に寄り添う、極めて尊い仕事である。その価値をきちんと知ってもらい、同じ思いを持つ人たちと一緒に働いていきたいと、藤田社長は考えている。

「このやり方で、本当にこの人の人生の終盤に寄り添えているのか」その問いに向き合い続ける

ミツイ商事は、完成された理想像を掲げているわけではない。むしろ、問い続ける姿勢そのものを大切にしている。効率や合理性を優先すれば、別の形もある。それでも同社は、人の尊厳に正面から向き合うという選択を、これからも繰り返していく。

小さな施設であってもいい。その中で、常に「一隅を照らす」存在でありたい。
「このやり方で、本当にこの人の人生の終盤に寄り添えているのか」
その問いに向き合い続けてきた姿勢こそが、同社の歩みを支えてきた原動力である。

企業概要

会社名

ミツイ商事有限会社

所在地

栃木県那須塩原市井口1179-1

HP

https://www.mitsui-care.com

電話

0287-46-7061

設立

1973年6月

従業員数

50人

事業内容

有料老人ホーム、デイサービス、小規模多機能ホーム、グループホーム、居宅介護支援事業、福祉タクシー、人材派遣、ミツイアカデミー(介護資格取得講座)、給食・配食センター(セントラルキッチン)の運営

記事タイトルとURLをコピーしました!

業種別で探す

テーマ別で探す

お問い合わせ

中小企業応援サイトに関連するご質問・お問い合わせは
こちらから受け付けています。お気軽にご相談ください。

お問い合わせ

中小企業応援サイト

https://www.ricoh.co.jp/magazines/smb/

「中小企業応援サイト」は、全国の経営者の方々に向け、事例やコラムなどのお役立ち情報を発信するメディアサイトです。"

新着情報をお届けします

メールマガジンを登録する

リコージャパン株式会社

東京都港区芝3-8-2 芝公園ファーストビル

お問い合わせ先:中小企業応援サイト 編集部 zjc_smb@jp.ricoh.com