ベテラン社員の「経験値」を全社的なデータ資産へ 健康経営でさらなる躍進 栗原レントゲン(群馬県)
公開日:2026年04月16日
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群馬県前橋市に拠点を置く栗原レントゲン株式会社は、2028年に創業70年を迎える医療機器専門商社である。レントゲンやMRI、CTといった高額な画像診断機器を主軸に、設置からメンテナンスまでをワンストップで担い、今や関東圏でも指折りの存在へと成長を遂げた。その躍進の裏にあるのは、4代目代表取締役社長の板垣正夫氏が掲げる「正直であれ」という揺るぎない信念、そしてベテラン社員の経験値をデジタル化して「会社の財産」へと発展させたDX(デジタルトランスフォーメーション)への挑戦と、健康経営の推進にある。なぜ栗原レントゲンは、激変する医療業界の中で圧倒的な信頼を勝ち取ることができたのか。社長の波乱に満ちた半生と、人間味あふれる経営改革の現場を追った。(TOP写真:本社前で写真撮影に応じる栗原レントゲンの板垣正夫社長)
遠回りが導いた「天職」 夢を追って20代に渡米、起業・廃業を重ねて医療機器商社の営業職で才能を開花
「機械をいじって、直して、設置して。元々は技術系の人間なんです」と語る板垣正夫社長
板垣社長のキャリアは、決して平坦なものではなかった。もともとは技術系の人間として電装品メーカーで品質管理に従事していたが、バブル経済の熱狂の中でサラリーマンとして工場で働くことに疑問を抱き、夢を抱いて渡米。バックパッカーとして各地を巡りながら様々な文化に触れ、新しい価値観を見いだした。帰国後は、自ら2つの会社を立ち上げるものの、いずれも潰してしまった。一方で、円高を追い風にした輸入食材ビジネスで成功を収めるなど、まさに「冒険家」のような時期を過ごした。
転機は、30歳を目前にした頃だった。叔母をがんで亡くし、その際、病院の放射線科医からMRIなどの画像を見せられながら丁寧な説明を受けたことに深い感銘を受けた。「自分の技術力を生かせば、こうした医療の現場にも貢献できるのではないか」。その直後、偶然にも求人誌で見つけたのが「栗原レントゲン」だった。
1996年、サービスエンジニアとして入社した板垣社長は、機械と向き合う日々に没頭する。しかし、創業社長は、彼の類まれな対話力を見抜き、「お前の特性は絶対に営業だ」と約6年間にわたり説得を続けた。その熱意に押される形で営業へ転身したことが、今日の経営者としての礎となったのである。
関東トップクラスへの飛躍 「正直であれ」の営業で顧客からの信頼を得る
本社1階の事務所に掲げられた社是「誠意と奉仕」。地域医療を支え続ける栗原レントゲンの礎となっている
板垣社長が身を置く医療業界は、総医療費が膨らみ続ける一方で、個々の診療報酬や製品単価は下落し、多くの病院がかつてない厳しい経営環境に直面している。「医療業界は安泰」という世間のイメージとは裏腹に、現場のコスト意識は極めてシビアだ。板垣社長は、この市場の厳しさを冷静に分析する。「2019年を100とした市場指標は、コロナ禍を経てなお、いまだに以前の水準に戻っていない」。この収縮するマーケットの中で、栗原レントゲンが提供しているのは安価な汎用品ではない。特化しているのは、高額だが高い付加価値を持つ精密医療機器である。
生き残りの鍵は、市場の「二極化」への対応にある。経営難で投資を絞る病院がある一方で、個人病院の規模でもMRIなどの高度医療機器を導入し、明確な差別化を図る動きが加速している。栗原レントゲンは、こうした変化を的確に捉えてきた。
かつて群馬県内には、同業の医療機器商社が7~8社存在した。しかし現在、画像診断機器を専門に扱う独立系商社として、地元で存在感を保っているのは栗原レントゲンだけだ。関東圏全体で見ても、同社はトップクラスの規模へと成長を遂げている。
この躍進を支えてきたのは、創業者から受け継いだ社是「誠意と奉仕」、そして板垣社長が最も大切にする「正直であれ」という信念だ。画像診断機器は高額で、顧客である医師との間には「あなたが言うなら」と任せてもらえる深い信頼関係が不可欠だ。板垣社長は「自分に嘘をつかない仕事をしたい。下心があれば必ず見透かされる。だからこそ、最初から正直に行く」と語る。この愚直なまでの誠実さこそが、厳しい市場環境下の中で、栗原レントゲンの揺るぎない強みとなったのである。
「データは会社の財産なんです」と“個人の財産”から“会社の財産”へ DXがもたらした社員の意識改革
DXの陣頭指揮を執る髙柳美希さん。誠実な人柄で、社内の上下を問わず厚い信頼を寄せられている(写真中央)
板垣社長が2019年にトップに就任して以来、取り組んできたのが社内システムの抜本的な刷新だ。栗原レントゲンが直面していたのは、見積書や顧客のデータが各社員のパソコンや、各自が管理するUSB記憶媒体などに分散して保存されているという、属人化の極みだった。
「データは会社の財産なんです」。こう言い切る板垣社長の号令のもと、2025年12月にMicrosoft 365の導入に踏み切った。改革を現場で牽引した営業部係長の髙柳美希さんは、以前の勤め先でメールやスケジュール管理のシステムを使用していた経験から、「(今のようにシステムが整備されていない状態は)健全ではない」と強い危機感を抱いていたという。導入当初、ベテラン社員からは「サーバーに置くこと自体が慣れない」「面倒くさい」といった反発もあった。それでも髙柳さんは、毎週のようにプレゼン資料を作成して利便性を丁寧に説明し、板垣社長も「もうやるしかないんだ」と強い意志で背中を押し続けた。診療放射線技師の経験を持つ髙柳さんならではの現場目線で、わかりやすい言葉で説明を重ねたことも、社員の理解を得る力となった。
その結果、業務の効率化は徐々に進み始めている。外出先からでもリアルタイムでメールや共有データにアクセスできるようになり、外出の多い営業担当者のタイムロスが解消された。何より大きいのは、個人のパソコンに眠っていた見積書の履歴や顧客情報がクラウド上で共有され、「組織の知」として活用できるようになった点だ。
「一人欠けても回る組織」の実現へデータを共有、健康経営を推進して社員の生活を守る
SDGs宣言や健康経営優良法人の認定証。社員の健康を願う板垣社長の思いが伝わってくる(栗原レントゲンのホームページから)
板垣社長がデータ共有を急いだ理由は、単なる効率化だけではない。それは「一人ひとりの比重が大きい小規模組織だからこそ、誰かが欠けても仕事が止まらない体制を作るため」である。
「突然の入院や不幸は誰にでも起こり得る。その時、その人が何をしていたかわからない状態では、残されたメンバーも顧客も困り果ててしまう」。データを共有化することは、万が一の事態から社員自身と、その家族の生活を守るためのセーフティネットである。引き継ぎをしなくても、常に最新の情報にアクセスできる環境を整えること。これこそが、板垣社長の考える「持続可能な経営」の姿である。
栗原レントゲンは、経済産業省の「健康経営優良法人」に2022年から連続で認定されるなど、福利厚生の充実にも余念がない。板垣社長は全従業員を「家族」と呼び、一人も欠かしたくないという強い思いを持っている。
具体的な取り組みは多岐にわたる。群馬県公式アプリ「G-WALK+」を用いたウォーキングの表彰、年5万円を上限に歯科検診やジム会費の半額を補助する「健康自己啓発補助金制度」、さらにはインフルエンザ予防接種の全額会社負担など、自発的な健康意識を高める仕掛けを整えている。「医療に携わる企業として、みんなで健康で幸せになろうというのが目標」と板垣社長は話す。
「今は、どんな大企業であってもいつ倒れるかわからない時代。しかし、少なくともうちの会社で働いている以上は、安心してほしい。何か大きなことが起きても、数年は皆さんの生活をそのまま保証できるだけの環境を整えるのが、トップである私の責任です」。激動の医療業界にあって、栗原レントゲンが放つ輝きは、最新のデジタル技術と、健康経営の取組が融合した結果である。板垣社長の「正直」であり続ける経営は、これからも群馬の地から日本の医療を支え続けていくに違いない。
企業概要
会社名
栗原レントゲン株式会社
本社
群馬県前橋市下小出町3丁目23番1号
電話
027-232-1200
創立
1958年3月1日
従業員数
19人(2024年1月現在)
事業内容
医用放射線機器・MRIシステム・X線CT・診断用X線装置、循環器X線システム・核医学用機器・放射線治療装置・超音波診断装置などの販売
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