継がれる地域密着の介護 創業者の思いを受け継ぎ進化 保育所とICTで高い定着率を実現 定山会(千葉県)
公開日:2026年04月23日
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社会福祉法人定山会は、千葉県八千代市で地域に密着した介護サービスを提供している。同法人を訪れてまず印象的だったのは、理事長と幹部スタッフのとても明るい表情だった。会議室に入ってきたその姿からは、楽しげな職場の雰囲気が伝わってくる。その理由は、取材を進める中ですぐに明らかになった。定山会では「感謝」という理念を単なる言葉にとどめることなく、日々の業務や職員の行動にまで落とし込み、組織の文化として根付かせているからだ。地域を支える存在として歩み続ける定山会の取り組みを紹介する。(TOP写真:左から三代川まどか看護副主任、稲葉聖穂特養主任、三木千佳理事長、三木雄典施設長)
地域でお世話になった高齢者の暮らしを支えるために社会福祉法人定山会ひばりの郷を設立
施設の名称「ひばりの郷」はかつてのこの地域の風景を思い起こさせる
定山会は2007年、初代理事長の小澤修氏によって設立された。小澤氏は代々、八千代市大和田で家業を営み、地域の代表者として様々な活動に尽力してきた。そうした中、地域でお世話になってきた先輩たちが高齢となり、介護に困っていると家族からの相談を受ける機会が増えていった。
この状況を受け、「福祉を通じて地域のために恩返しをしたい」という思いから、未経験でありながら福祉へと踏み出す決意を固めた。小澤氏の人望と熱意に呼応するように、医療関係者や弁護士、民生委員など地域の専門家や住民が集まり、設立準備委員会が発足。その熱意はやがて行政を動かし、新規設立が容易ではなくなっていたが、定山会は社会福祉法人として認可を受けるに至った。
小澤氏の思いは脈々と受け継がれている。現在、理事長を務めているのは小澤氏の娘である三木千佳氏だ。スタッフと気さくに言葉を交わしながら、明るく活気のある職場の雰囲気づくりに力を注いでいる。
そして、施設長を務める三木雄典氏は、これまでのビジネス経験を生かし、組織運営や事業の方向性を論理的に捉えながら、法人全体の経営を支えている。創業の理念を大切にしながら、幹部や職員の意思を尊重し、働きやすい環境を整え、その結果として利用者の満足向上につなげている。
初代理事長の志を継ぐ、娘の三木千佳理事長 介護の考え方「感謝」を理念として言葉にする。
創業者が大切にした「感謝」という理念が引き継がれ組織に定着している(ホームページから)
定山会では、理念を単なる言葉で終わらせないために、「サービスの基本方針」「行動指針」「業務指針」にまで具体化している。職員が日々の仕事の中で迷った時に立ち返る判断基準を明確にするためだ。
「サービスの基本方針」
・利用者のこれまでの生活を大切にする「暮らしの継続」
・利用者にとっての幸せを考え続ける「幸せの追求」
・利用者の意思を尊重する「自己決定・尊厳の尊重」
・専門職集団による適切なサービスの提供
・家族・地域との連携
「行動指針」については、基本方針を現場で実践するため、科学的根拠に基づく介護・支援、傾聴の姿勢、問題を放置しない姿勢、自己研鑽(けんさん)など、職員としての基本的な姿勢が示されている。
「業務指針」については、就業規則や諸規定の遵守、報告・連絡・相談、研修の受講、法令遵守や安全管理、個人情報保護、虐待防止など、日々の業務で守るべき具体的なルールを定めている。
このように理念を段階的に具体化することで、職員一人ひとりが同じ考え方を共有しながらサービスを提供できる仕組みをつくっている。単に理念を掲げるだけでなく、研修などを通じて繰り返し共有することで、日々の業務の中で自然に意識されるよう努めている。
2025年に1年をかけて行ったユニットケアの改善プロジェクトでは、職員から「本質的な改善を進めるために、入職時に学んだ理念や指針を学び直したい」という声が上がった。これは、定山会の理念が、現場にしっかりと根付き、職員一人ひとりの行動の拠り所となっていることを示す象徴的な出来事といえる。
理念が組織文化として根付く職場づくり・職員の定着率をささえる環境づくり
「ひばりの郷」と同じ敷地内にある「どれみ保育所」では手厚い保育が行われている
現在の定山会では、理念や行動指針が職員の働き方や組織文化としてしっかりと根付いている。しかし、開設当初から順調だったわけではない。新しい施設としてスタートした当初は、組織づくりの難しさや職員体制(人員配置)の試行錯誤を重ねてきたという。そうした過程を経て、定山会の理念や価値観に共感する人材が定着し、組織は次第に安定していった。
現在では、採用の段階から定山会の文化との相性を重視している。経験や資格だけで判断するのではなく、理念や価値観に共感できるかどうかを大切にしているという。その結果、職員の勤務年数は、15年以上が25%、10年以上が25%、5年以上が30〜40%と、高い定着率を実現している。
これは理念の共感だけでなく、職員が長く働き続けられる環境づくりに力を入れているからでもある。その一つが、企業主導型保育事業として開設した「どれみ保育所」だ。若手女性職員が結婚・出産を機に離職するケースが続いたことを受け、施設と職員双方にとって望ましい環境を整えるために開設した。職員の子どもを預けられることで、子育てと仕事を両立しやすい環境が整えられている。また、施設を利用している高齢者と職員の子どもたちが、日常的に交流することで、施設全体に温かな雰囲気も生まれている。
さらに、部署や職種の垣根を越えた委員会活動などを通じて、職員同士が自然にコミュニケーションを取れる仕組みも整えられている。こうした取り組みが、風通しの良い職場環境につながっている。人事考課制度では、法人の価値観に沿った行動を評価し、賞与や昇格にも反映させている。理念を現場で体現する職員がきちんと評価される仕組みを整えることで、組織としての価値観を共有しているのである。
また、eラーニングの活用、外部研修や情報交換会の開催など、働きやすさと職員の成長を支える制度も積極的に取り入れている。
三木施設長は、「介護事業は人がすべて」と話す。職員がやりがいを持ち、安心して働き続けられる環境を整えることが、結果として利用者へのより良いサービスにつながる――。そうした考え方が、同法人の組織づくりの根底にある。
小規模だからこそ実現できる個別ケア。利用者が自宅で送っていた生活リズムを、できる限り施設でも再現できるよう改善を重ねている
特別養護老人ホームは9名1ユニットで運営されている。まるで自宅のリビングで過ごしているような雰囲気だ
定山会の特徴は、小規模な施設でありながら、地域の高齢者の暮らしを幅広く支える多様なサービスを展開している点にある。
中心となるのは、定員27名の地域密着型特別養護老人ホームだ。9名を1ユニットとする3ユニット体制で運営している。地域密着型施設のため、利用者は原則として八千代市に住む高齢者に限られる。大規模施設のような人数の多さはないが、その分、職員が利用者一人ひとりの生活歴や価値観を把握しやすい環境が整っている。
同施設では、利用者の生活の背景やこれまでの暮らし方を大切にしながら、「その人らしい生活」を支えるケアを重視している。大規模施設のスケールメリットを求めるのではなく、小規模だからこそ実現できる「内容の濃いオーダーメイドの介護」を目指しているのである。
また、開設から十数年が経過したことを機に、ユニットケアのあり方を見直す取り組みも進めている。ケアが形式的になっていないかを職員自身が振り返り、利用者が自宅で送っていた生活リズムをできる限り施設でも再現できるよう改善を重ねているという。この取り組みの効果として、ユニット型施設の評価基準の採点において、評価が大幅に上昇し、職員のモチベーション向上につながっている。
さらに、施設でのサービスだけでなく、在宅生活を支える小規模多機能サービスも提供している。「通い」「訪問」「宿泊」を組み合わせながら、住み慣れた環境での生活を継続できるよう支援している。同じ職員が施設利用日と訪問日の両方を担当することで、利用者にとって安心感のある一貫したケアを実現しながら、利用者が希望する時間にも柔軟に対応している。
ショートステイについても特徴的な取り組みがある。特養の空きベッドを利用する一般的な形ではなく、「介護付きホテル」というコンセプトで独立したサービスとして設計されている。利用者が他人の生活空間に入り込む感覚ではなく、もう一つの自分の部屋で過ごすような安心感を持てる環境が整えられている。
ショートステイの部屋は、「介護付きホテル」というコンセプトで独立したサービスとして設計されている
このように、施設サービスと在宅支援を組み合わせながら、高齢者が地域の中で暮らし続けるための多様な選択肢を提供している。小規模であることを強みに、一人ひとりの暮らしに寄り添った支援を実現している。
ICT活用で支える介護現場の業務改善 2016年から介護記録システム導入、スタッフの負担軽減 更に見守りシステムで利用者とスタッフの安心・安全を強化
ナースコール、見守りセンサー、見守りカメラが一体となった統合見守りシステム。利用者の状況がリアルタイムで把握でき、職員の負担軽減と利用者の安全・安心を得ることができた
パソコンと同時にスマートフォンにもアラートが通知される。施設内のどこにいても何かあった時には通知が来るという安心感は、スタッフの業務ストレス軽減に役立っている
もう一つ印象的だったのは、ICTの活用である。介護現場では、どうしても記録や情報共有に多くの時間が取られがちだ。利用者の状態やケアの内容を正確に残すことは重要なのだが、その業務負担が増えすぎると、職員が利用者と向き合う時間が減ってしまう。
定山会では10年以上前から、手書き記録など非効率な業務プロセスに課題意識を持ち、効率的な情報共有を目指して介護記録システムを導入した。これにより情報が一元化され、転記作業がなくなるとともに、「聞いていない」といった伝達漏れや、認識のずれも起きにくくなった。また、自ら情報を確認しにいくという意識も高まった。結果として行政監査にも効率的に対応できるようになった。
さらに近年では、将来的な人手不足を見据え、利用者見守りシステムを導入した。夜間の不要な巡回が減り、必要な時に、リアルタイムで利用者の状況を確認できるようになったことで、職員の精神的負担の軽減から離職予防にもつながっている。
今後はインカムや音声入力など、現場に即した新しいICTの導入も検討している。導入に当たってはシステムの拡張性を重視し、外部パートナーと協力しながら段階的に進めていく考えだ。こうしたICTの導入の目的は、単なる業務効率化ではない。記録や事務作業などの負担を減らすことで、作り出した時間を、利用者一人ひとりと向き合う時間に充てることが目的である。
三木施設長は次のように語る。「ICTの導入は、経営側が変わろうとしている姿勢を職員に伝えるとともに、職員を大切にするというメッセージなんです」。小規模施設だからこそ、利用者の細かな変化にも気づくことができる。その強みをさらに生かすための支えとして、ICTが現場を支えている。
特別なことをしているわけではない。ただ、理念を実践し続ける地域密着の介護が、そこにはある。
同じ場所に特別養護老人ホーム、小規模多機能ケア、ショートステイが開設されている。それぞれが連携しながら理念に忠実な支援が続けられている
定山会は特別なことをしているわけではない。提供しているサービスも決して派手なものではない。それでも、職員が利用者一人ひとりの生活や背景をよく理解し、その人らしい暮らしを支えるケアが着実に実践されている。その背景にあるのが、創業者の思いを理念として言葉にし、組織文化として共有してきた歩みだ。
地域密着型の施設として、地域の高齢者の暮らしを支える。その役割を丁寧に果たし続けていることこそ、定山会の強みである。そして、その積み重ねが、地域の安心を支えていく。
企業概要
名称
社会福祉法人定山会
所在地
千葉県八千代市大和田字源山53
電話
047-481-5566
設立
2007年11月
従業員数
50人
事業内容
地域密着型特別養護老人ホーム、小規模多機能ケア、ショートステイ、居宅介護支援事業所、企業主導型保育事業
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