属人化した現場をDXで変革 「三実」の理念で未来を築く 境谷工業(広島県)
公開日:2026年09月07日
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総合建築と鉄骨加工を両輪に、地域の発展を支えてきた境谷(さかたに)工業株式会社。熟練工の高い技術力を強みに信頼を築いてきた一方で、現場やバックオフィスでは情報管理が担当者任せとなり、原価や労務、工程などのデータが分散していたため、経営状況をタイムリーに把握することが難しかった。そこで境谷明子取締役は、社内の課題を洗い出し、クラウド型の業務アプリ開発ツールを活用して現場管理システムを構築。導入当初は戸惑いの声もあったが、利便性が浸透するにつれて現場の理解も深まり、現在は全社一体となって業務のデジタル化を推進している。今後は予実管理の導入も視野に入れ、さらなる経営の見える化と生産性向上を目指している。(写真:鉄骨加工は自社物件に加え、ゼネコンなど外部からの受注も堅調だ)
農機具の製造販売から総合建築・鉄骨加工へ 三実の理念で地域とともに歩んだ70余年
ドラッグストアなど大型商業施設の建築需要が業績回復を加速する
1953年、日本経済が戦後復興から高度経済成長へと歩み始めた時代に、境谷正昭代表取締役の父、忠夫氏が広島県北部の大林町で創業した「大林製作所」が境谷工業の原点だ。当初は農機具の製造・販売を手掛けていたが、1965年に新工場を建設したことを機に鉄骨加工へと事業転換。1970年代には建設業にも進出し、1974年に法人化して現在の境谷工業株式会社となった。高度経済成長の波を追い風に、総合建築と鉄骨加工を二本柱として事業を拡大し、地域に根差した企業として着実に信頼を築いてきた。
三実のモットーを伝える境谷工業のホームページ
同社が創業以来大切にしてきたのが、「サカタニの三実のモットー」だ。「お客様に誠実」「仕事は確実」「経営に堅実」を基本理念に掲げ、一級建築士や一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士、鉄骨製作管理技術者(1級)、宅地建物取引士など、多くの有資格者がそれぞれの専門性を発揮。土地の紹介から設計、施工まで一気通貫で対応できる体制を整えている。
「『三実のモットー』を守りながら、これからもレベルの高い仕事に挑戦し続けたい」と境谷社長は語る。その思いは、創業以来受け継がれてきた技術力とともに、今も地域の信頼を支える原動力となっている。
建設需要の回復を追い風に 鉄骨加工と建築事業が力強く回復基調へ
姪に当たる境谷明子取締役に「おまえに任せる」と全幅の信頼を寄せ、デジタル化による業務改革を後押しした境谷正昭社長
現在は、広島県内の建築需要や鉄骨構造物の加工を中心に事業を展開し、総合建築と鉄骨加工がほぼ半々の売上構成となっている。鉄骨加工部門では、自社案件に加え、ゼネコンやファブリケーターなど外部からの受注が約8割を占め、長年培ってきた技術力への信頼の厚さがうかがえる。
一方で、新型コロナウイルス感染拡大以降は、地元経済の停滞や慢性的な人手不足の影響を受け、売上高は一時的に減少した。その後、建設需要は回復傾向にあるものの、技術者不足から受注機会を十分に生かし切れない状況もあり、人材確保・育成が今後の成長に向けた大きな課題となっている。
それでも足元では、力強い回復の兆しが見え始めている。ドラッグストアや医療モール、工場や倉庫、福祉施設などの新築需要が上向き、鉄骨加工の受託も堅調に推移。2026年9月期は業績が大きく回復し、2027年9月期においては売上高がコロナ禍前の180%を超える見込みだ。こうした好調な事業環境を確かなものとするため、事業基盤をさらに強化し、持続的な成長を目指している。
現場管理の属人化を解消 デジタル改革で経営の見える化を推進
熟練工の理解を得るため粘り強く対話を重ね、現場のデジタル化を推進した境谷明子取締役
受注量の増加に加え、収益性の向上を支えている大きな要因が、熟練工の経験に頼っていた属人的な現場管理を抜本的に見直したことだ。デジタル化による業務改革を進め、経営の“見える化”を実現したことで、工場や建設現場の状況をリアルタイムで把握できる体制を整えた。その改革を主導したのが、境谷明子取締役だ。
境谷取締役は、創業者・忠夫氏の孫で、前社長・博氏の長女。現社長・境谷正昭氏の姪にあたる。
「子どもの頃からいずれは会社を手伝うように言われていました。広告営業の仕事を経て、しばらく専業主婦をしていましたが、早めに入社した方がいいと思い、自分から社長に相談して2014年に入社しました」。
当初は経理の補助業務からスタートしたが、財務、総務、労務へと担当範囲は次第に広がり、「業務量があまりに増えたので、友人に入社してもらい分担した」というほどだった。その後も、営業で外回りの多い境谷社長を支えながら経営全般を担い、2024年からは採用業務も担当している。
業務への理解を深める中で、境谷取締役が強く感じたのは、社内の情報管理が部署や担当者ごとに分散して管理されていることだった。工期や原価、支払状況、収支などを確認するには、それぞれの担当者へ個別に問い合わせる必要があり、「あの人に聞かないとわからない」という状況が日常的に発生していた。さらに、担当者間の情報共有も十分ではなく、必要な情報が必要な人に届かないことで、「聞いていない」「知らなかった」といった行き違いも起きていた。
経験ゼロからシステム開発へ 構想図づくりから始めた挑戦
現場管理の課題を洗い出し、自ら設計したシステム構想図。試行錯誤を重ねながら業務アプリ開発へとつなげた
当初は「課題は見えていても、どうすれば解決できるのかわからなかった」と境谷取締役は当時を振り返る。転機となったのは、クラウド型の業務アプリ開発ツールのセミナーだった。「これなら会社の課題を解決できるかもしれない」と感じたものの、システム開発の経験はまったくなかった。そこでまず着手したのが、現場管理の課題を一つひとつ洗い出し、解決策を現場管理システムの構想図としてまとめることだった。
自ら作成した構想図を手に、「アナログでずっとやってきた会社なので不安はありましたが、もしかしたらできるかもしれないと思いました」。現場からも意見を募ったが、導入当初は反発も少なくなかった。特にベテラン技術者からは「新しいことはやりたくない。今までのやり方を変えないでほしい」と強く反対されたという。
それでも境谷取締役は、「現場監督や熟練工が辞めれば、そのノウハウも失われてしまう。会社の資産として残さなければならない」と考え、粘り強く説得を続けた。境谷社長から「おまえに任せる」と背中を押されたことも、大きな支えになった。
説得を重ねた末、2025年7月に業務アプリ開発ツールを導入し、システム支援会社のサポートを受けながらアプリ開発を本格化。ノーコードで開発できるツールとはいえ、「初めての経験だったので本当に難しかった。集計方法などは専門知識がなければ実現できませんでした」。それでも試行錯誤を重ね、自社の課題を解決する現場管理システムを、一つひとつ築き上げていった。
見える化を実現した現場管理アプリ DXで経営改革をさらに前へ
現場管理システムをさらに進化させ、日報連携や予実管理、ペーパーレス化にも取り組んでいく
導入当初は反対していたベテラン技術者に対しても、境谷取締役は「根気よく説明を重ね、最終的にはなんとか理解してもらいました」と笑う。試作した画面を見せると、「これは便利だ」と納得する声も上がり、操作方法を覚えてもらうまでには時間を要したものの、徐々に現場へ定着していった。
そして約7カ月をかけて完成したのが「現場管理アプリ」だ。原価や下請けへの発注、売上高や利益、支払・請求状況など、これまで担当者ごとに分散していた現場の情報を1カ所に集約し、リアルタイムで共有できるようになった。その結果、誰もが工事の進捗や収益状況を把握できるようになり、「経営の見える化」が実現した。
さらに、現場管理アプリに経費精算や発注管理、工種別の支払、請求書発行などの業務システムも連携。これまで十分に管理できていなかった顧客や下請け業者の情報、それぞれの取引実績なども一元管理することで、蓄積したデータを営業活動にも生かし、売上拡大につなげていく考えだ。
また、「クラウド型グループウェア」と連携したことで、各部署が表計算ソフトで管理していたデータもクラウド上で共有できるようになり、自宅や出張先からでも必要な情報へアクセスできるようになった。さらに、PDF書類を加工・活用するツールも導入し、蓄積したデータの再利用や現場での情報確認にも役立てている。
一方で、日報や勤怠管理システムとの連携は現在も開発を進めている段階だ。「難しくて一度は棚上げになりましたが、今後の課題として取り組んでいきます」と境谷取締役。さらに、予算と実績の差異を分析する予実管理システムの導入も視野に入れている。現場管理から経営管理までを一体化し、さまざまな切り口から、必要な人が必要なデータをすぐに確認できる環境を整えることで、データを経営に生かす仕組みづくりを進めていく。
三実の理念を未来へつなぐ DXと人材育成で経営を進化させる挑戦
若手人材の採用・育成を見据え、働きやすい環境づくりと経営改革を進める。写真は本社外観
境谷取締役は、「実は当社では予実管理をきちんと行う習慣がありませんでした。予算を立て、実績と比較・分析し、次の改善につなげる経営へ変えていきたい」と将来を見据える。採用活動を担当する中で、「若い人たちが安心して活躍できる会社をつくらなければならない」という思いを強くし、そのためには経営の質をさらに高めることが欠かせないと考えている。
一方で、人材確保は容易ではない。コロナ禍前には41歳だった従業員の平均年齢は現在51歳となり、次世代を担う人材の確保・育成が大きな経営課題となっている。それでも、この2年間で溶接工や施工管理見習い、事務、営業をそれぞれ1人ずつ中途採用した。
「20代、30代の若い人に来てもらい、長く活躍してもらうためにも、DXを活用してベテラン社員のノウハウをマニュアル化し、教育体制の充実につなげたい。安心して働ける職場環境をつくることが何より大切です」と境谷取締役は話す。
そのため、有給休暇取得率の向上や時間外労働の削減、育児休業制度の充実など働きやすい職場づくりを進めるとともに、2026年4月には住宅手当の支給も充実させた。さらに、業務全般のデジタル化を推進し、効率的に働ける環境づくりにも力を注いでいる。DXは業務効率化だけでなく、人材確保や人材育成、さらには持続的な企業成長を支える重要な経営基盤になりつつある。
創業以来受け継がれてきた「お客様に誠実」「仕事は確実」「経営に堅実」という「三実のモットー」。その理念を礎に、人を育て、経営を進化させる挑戦は、これからも続いていく。
企業概要
会社名
境谷工業株式会社
本社
広島県広島市安佐北区亀山9丁目35番10号
電話
082-814-4437
設立
1974年5月(創業1953年4月)
従業員数
28人(2026年8月末現在)
事業内容
総合建築、土木、舗装、しゅんせつ、鋼構造物加工、管工事、不動産など
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