「人を大切にする」 理念を現場の力に 不二ビルサービス ケア事業部「ふじケア」(広島県)
公開日:2026年10月15日
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株式会社不二ビルサービスは、広島市を拠点にビルメンテナンス事業を展開する一方、1997年に福祉事業に参入した。ケア事業部「ふじケア」は、高齢者ホームをはじめ、訪問介護・訪問看護・デイサービス・グループホーム・定期巡回訪問介護看護など幅広いサービスを展開。人財育成や働きやすい職場づくりなどの取り組みが評価され、公益財団法人介護労働安定センターの理事長表彰を受けた実績を持つ。その根底にあるのが、「人を大切にし、共に成長する組織=ふじケア」という理念だ。この理念を精神論にとどめず、具体的な行動や技術として身につける仕組みを構築し、スタッフの人間力とケアの質を高めてきた。(TOP写真:ふじケアのホームページから)
「人を大切にする」を理念に 行動から内面を変える人財育成
「夢叶えプロジェクト」。多くの利用者の夢を叶えている(ホームページから)
1997年、介護保険制度が始まる前に福祉事業へ参入して以来、ふじケアが大切にしてきたのは「人を大切にする」ということだ。利用者一人ひとりの人生観や尊厳を大切にしたケアサービスを提供するのと同じように、この考えは共に働くスタッフにも向けられている。右田担当課長は「スタッフがやりたいことを会社がすごくサポートしてくれ、チャレンジさせてくれる環境がある」と話し、日本人、外国籍を問わず、一人ひとりが大切にされている実感があるという。
その具体的な取り組みの一つが、スタッフの要望から生まれた「夢叶(かな)えプロジェクト」だ。介護保険の枠組みの中では、利用者一人ひとりの「やりたいこと」をすべて叶えることは難しい。そこで、制度の枠を超えて、利用者が人生で叶えたい夢の実現に伴走する試みだ。
温泉に行きたい、個展を開きたい、もう一度パンを焼きたい――。そうした願いをスタッフが共に実現していく過程で、利用者の満足はもちろん、スタッフ自身がこの仕事の本質を深く学び、成長していくという。会社の理解とサポートがなければ実現できなかったプロジェクトだ。
ケア事業本部がある「介護付有料老人ホーム ふじの家川内」
こうした思いを言語化したのが、「人を大切にし、共に成長する組織=ふじケア」という理念だ。3年ごとに見直す中期経営計画を策定する中で、冨田部長が時間をかけて練り上げたという。管理職のほとんどが介護現場の出身であるふじケアにとって、日々のケアで大切にしていることを改めて言葉にするのは、簡単なようで難しい作業だった。この理念を組織の軸に据えてから、2026年で6年になる。
さらに、理念を浸透させる過程で、ふじケアは「行動から内面を変える」という考え方にたどり着いた。「内面を変えて行動変容まで起こそうと思っても、そのやり方ではお手上げになった」と冨田部長。そこで、まず具体的な行動や技術を変えることから始めた。この考え方が、「人間力向上項目」やユマニチュードなど、人財育成の土台になっている。
人間力は技術として育てる 62の行動項目で成長を支援
ふじケアの研修、一年をかけて理念や技術の研修をしっかり行う
「この仕事は人がすべて」だと冨田部長は言う。人がそのままサービスになる仕事だからこそ、人づくりが何より重要になる。
ふじケアは、人財育成や働きやすい職場づくりには、並々ならぬ力を注いできた。その成果が認められ、令和5年度には、介護労働安定センターが選ぶ「働きやすい職場づくりや地域貢献で全国の模範となる事業所」として最優秀賞に選ばれた。広島県内の事業所としては初の受賞となった。主に評価されたのは、「ふじケア版キャリア段位制度」の制定、「ユマニチュード」のブロンズ認証取得、ICTを活用した働きやすい職場づくりだ。
「ふじケア版キャリア段位制度」は、国の「介護プロフェッショナルキャリア段位制度」を自社向けにアレンジしたもので、介護技術の習得度をレベル認定し、インセンティブに連動させている。
特徴的なのが、介護技術と並んで重視している「人間力向上項目」だ。「自ら相手の目を見て、笑顔で挨拶ができる」「両手で物を渡すことができる」「怒りやイライラした感情をコントロールできる」など、一見当たり前に思えるような日々の小さな所作まで、細かく項目化されている。
「人間力は、その人の性格とか生い立ちで決まるのではなく、仕事をする上で必要な技術であり、訓練することで育まれると考えています」と冨田部長。「人間力=人徳」といったあいまいなものではなく、62の行動項目を示すことで、「挨拶が悪いぞ」といった感覚的な指導ではなく、具体的な改善につなげている。
この考え方は、約30人の外国籍スタッフの育成にも生かされている。日本特有の「空気を読む」ことを求めるのではなく、どのような行動が相手にとって心地良いのかを、具体的に示すことを重視した。文字中心だったマニュアルを動画化するなど、教育方法そのものも見直している。
「一番わからない人に合わせた教育方法に変える。だから日本人の新人も育つ」
相手を大切に思う気持ちを、誰もが実践できる技術や仕組みに変えて伝える。この考え方が、外国籍スタッフだけでなく、日本人の新人育成にも生かされている。
「大切に思う気持ち」は、伝わって初めて意味を持つ ユマニチュードで思いを技術に
日本で初めてユマニチュードのブロンズ認証を取得した(ホームページから)
もう一つの柱が、フランス発のケア技法「ユマニチュード®」だ。2014年から導入を始め、2023年6月には「グループホーム ふじの家瀬野」が、ユマニチュードのブロンズ認証を国内の介護事業所で初めて取得した。(ブロンズ認証取得期間2023年5月~2026年5月)
どれだけ相手を心の中で大切に思っていても、無言で急に体に触れたり、車椅子を押したりすれば、相手は恐怖や不快を感じてしまう。「私には優しさがある」ではなく、「あなたは大切な存在です」と相手に伝え感じてもらう。大切に思う気持ちを、相手に伝わる具体的な技術として実践するのがユマニチュードだ。
導入のきっかけは、現場が抱えていた切実な悩みだった。入浴介助の際、どれだけ丁寧に接しても、利用者にかみつかれたり、爪を立てて抵抗されたりすることがあったという。「一生懸命やってるのに、なんで伝わらないんだろう」――。そうした行き詰まりの中で、何か突破口になればとユマニチュードの研修を受講した。
研修から戻って実践したところ、それまで入浴を強く嫌がっていた利用者が、その日は「ありがとう」と言って穏やかに入浴できたと末弘次長は振り返る。組織への浸透には時間がかかったが、現在、本格的に取り組んでいる施設では、スタッフの働きがいや仕事への満足度も高いという。
数字よりプロセスを大切に ケアの質と働きがいを追求
左から、末弘千恵次長、森本桜千代担当主任、右田康規担当課長、冨田祐介部長
重視するのは、数字よりも良いケアを提供するプロセスだ。
「介護報酬は制度で決まっているので、そこに手を加えることはできない。変にコスト削減などで環境が悪化しかねないことに力を入れるより、利用者にとって良いことをしっかりやっていく。そこに尽きると思います」と冨田部長。「事業を拡大して質が落ちていく事業所も見てきた中で、うちはそうはしない。できることを最大限やっていくというところです」と続ける。介護報酬など制度上のルールが定められた介護の世界だからこそ、ケアの質を高めることで利用者に選ばれ、継続して利用してもらう――。それが、ふじケアの経営の根幹にある考え方だ。
この姿勢は、人財に対しても変わらない。「働きやすい職場を目指しているわけではなく、働きがいのある職場を目指しているんです」と冨田部長は話す。良いケアを追求する姿勢を求める中で、職場を離れるスタッフもいる。一方、一度退職して外の環境を経験した後、ふじケアの良さに改めて気づき、戻ってくるスタッフも複数いるという。ただ働きやすさだけを追求するのではなく、スタッフ一人ひとりが良いケアに真剣に取り組み、その仕事にやりがいや成長を感じられる職場を目指している。
スタッフとのコミュニケーションも重視している。管理者による年2回の面談に加え、冨田部長も定期的に現場を巡回し、スタッフが日々の業務で感じる違和感や困りごとの把握に努めている。現場の声を拾い上げ、必要な改善につなげていくことも、「働きがい」のある職場づくりを支える取り組みの一つだ。
ICTで「人を見る時間」を生み出す 利用者に寄り添うケアへ
見守りセンサーを導入することで、夜間の状況把握が詰所でできるようになった
介護現場の負担を減らし、利用者と向き合う時間を増やすため、ふじケアはICTの活用にも力を入れている。特に外国籍スタッフが多いふじケアにとって、ICTを活用して利用者の「今」をスタッフ間で共有し、一人ひとりに寄り添ったケアにつなげることは重要なテーマだった。ふじケアでは、見守りセンサーやインカム、記録システムを導入。ただし、一律に同じ機器を導入するのではなく、それぞれの施設が抱える課題に合わせて選定してきた。
見守りセンサーの活用では、これまでベテランの経験や勘に頼っていた利用者の体調変化を、目に見える形で把握できるようになった。定員66名の施設では、詰所のモニターで全居室の状況を把握し、23時と深夜3時の定時巡回も、「起き上がり」や「離床」をセンサーで検知して確認する方法に切り替えた。
グループ内の別の施設では、見守りセンサーの活用によって夜勤体制を3人から2人へ見直した。欠員対応も含め、スタッフ1人あたり月8~9回に及ぶこともあった夜勤は、月4~5回程度まで減少。夜勤回数が大幅に減ったことで、スタッフの心理的な負担軽減や定着にもつながっているという。
また、インカムの導入によって、情報共有のあり方も変わった。これまで一部のスタッフにしか伝わらなかった情報を全スタッフが同時に共有できるようになり、伝言による情報伝達のロスが減少。必要なときにすぐにサポートを求められる安心感が生まれた。
記録システムでは、それまで手書きだった記録を、音声入力や定型文の選択によって入力できるようにした。日本語の読み書きに不慣れな外国籍スタッフでも、正確かつ迅速に記録を残しやすくなった。一方、蓄積されたデータをどのようにケアの方針に生かしていくかは、今後の課題だという。
現在、冨田部長が新たな課題として挙げるのが、管理職の業務負担の増加だ。シフト作成や労務管理、マニュアル作成などに時間を取られ、本来大切にすべき「人を見る」時間が圧迫されている。「スタッフをしっかりケアすること、スタッフがしっかり利用者と向き合う時間を作ること」を実現するために、ICTやAIをさらに活用して業務負担を軽減していきたい考えだ。
その取り組みの一つが、若手スタッフを中心とした「生産性向上プロジェクト」だ。各事業所でチームを組み、現場の困りごとを集めてAIで分析。そこから施策を考えて実践し、さらにその評価にもAIを活用するというサイクルを回している。「プロ級のプログラムコードを作りました」という報告が出てくることもあるという。若い世代を中心に、新しい発想でAIを使いこなしながら現場の課題を解決しようとする動きが、組織の新しい力になっている。
理念を行動と技術に変える 「人を大切にする」を未来へ
ふじケアの事業所エリア
人間力向上項目、ユマニチュード、外国籍スタッフの教育、そしてICT・AIの活用。取り組みは多岐にわたるが、ふじケアが目指すものは一貫している。理念を精神論で終わらせず、具体的な行動や技術、仕組みに変え、より良いケアにつなげることだ。「人を大切にし、共に成長する組織」という理念のもと、これからもスタッフと共により良いケアを追求していく。
企業概要
名称
株式会社不二ビルサービス ケア事業部「ふじケア」
所在地
広島県広島市安佐南区川内1丁目15-24
電話
082-831-8908
設立
1958年4月(「ふじケア」は1997年10月スタート)
職員数
300人
事業内容
高齢者ホーム、居宅介護支援、訪問介護、デイサービス、ショートステイ、グループホーム、福祉用具レンタル販売、定期巡回訪問介護看護、訪問看護
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