HACCPとは?2021年の義務化にどう対応するべきか詳しく解説
2022年02月10日 06:00
この記事に書いてあること
HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が2021年6月1日から制度化(義務化)されました。そのため、原則として、すべての食品等事業者は、HACCPに沿った衛生管理を実施しなければなりません。
HACCPが完全義務化されたと聞き、自社の対応は充分でしょうか?よく聞かれることとして、「具体的に何をしたら良いのか」「どのように文書を作成したら良いか」「認証を取るにはどうしたらいいのか」「費用が高いのでは」などです。これらの疑問にお応えするとともに、HACCPを導入することで得られるメリットなども解説します。
本記事では、「HACCPの義務化(2021年6月1日に完全義務化)がスタート」「HACCP文書作成時の注意点」「HACCP導入(構築)の方法」「HACCPの認証をとるための方法」「HACCP導入のメリット」「HACCP導入事例」について全て網羅します。もう既に多くの食品事業者が取り組まれていると思いますので、気になる項目だけを確認するなどしてご利用ください。
HACCPの義務化(2021年6月1日に完全義務化)がスタート

2018年6月に食品衛生法等の一部を改正する法律が公布されました。「食品衛生法」とは、飲食による健康被害の発生を防止するための法律です。今回の改正は15年ぶりの大幅な改定で、「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理」を制度化も含めて大きく7項目にわたります。法改定の背景として、東京2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とする国産食品の安全性を世界にPRする狙いもあります。
2018年6月13日に改正食品衛生法が公布され、原則として、すべての食品等事業者に、一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理が2021年6月に完全義務化されました。そのため、まだ、取り組まれていない事業者は、早急な対応が求められます。
これに伴い、農林水産省は、食品等事業者が新制度に円滑に対応できるよう、研修会の開催を支援しています。また、厚生労働省は、小規模営業者等向けにホームページで手引書を公表しており、これらを参考に簡略化したアプローチで取り組むことができます。
HACCP(ハサップ)とは

1960年代に米国で月に行く計画が進められてきました。病院の無い宇宙空間では、食中毒などを起こしたら死の危険もあるため、宇宙飛行士のために完璧な食品の安全性が求められました。そこで、NASA(アメリカ航空宇宙局)により宇宙食の安全性を確保するために食品の衛生管理手法として、HACCP(ハサップ)が開発されました。
HACCP( Hazard Analysis Critical Control Point)とは、「Hazard(危害)」「Analysis(分析)」「Critical(重要)」「Control(管理)」「Point(点)」の5つの単語の頭文字を取ったもので、「危害要因分析重要管理点」と訳されます。

原材料の受入れから最終製品までの工程ごとに、微生物による汚染、金属の混入などの「危害要因分析(HA : Hazard Analysis)」をした上で、危害の防止につながる特に重要な工程である「重要管理点(CCP : Critical Control Point)」を継続的に監視・記録する「工程管理システム」のことです。
HACCPは国際的に認められている手法
HACCP(ハサップ)は、1993年に、国連のFAO(国連食糧農業機関)とWHO(世界保健機関)の合同機関である⾷品規格委員会(コーデックス委員会)がHACCPの具体的な原則と⼿順 (7原則12⼿順)を⽰し、⾷品の安全性をより⾼めるシステムとして国際的に推奨されています。
ガイドラインが示されて、先進国を中心に義務化が進められてきました。その背景には、食品の製造・流通がグローバル化していることから、食品の安全性を向上させていくことが世界の各国・地域での共通課題になっていることがあります。そのため、日本から海外に食品を輸出する際にも要件とされるなど、現在では国際標準となっています。
例えば、EUでは、2004年から一次生産を除く全ての食品の生産、加工、流通事業者にHACCPによる衛生管理が義務付けられ、2006年には完全適用となりました(原則として全ての食品事業者。ただし小規模事業者に対しては弾力的に運用)。米国では、1997年から一部の食品(水産物及びジュースの加工・輸入、食肉及び食肉製品)にHACCPによる衛生管理が義務付けられています。
また、2011年1月には、「食品安全強化法(FSMA)」が成立し、2016年9月から段階的に、米国内で消費される食品の製造・加工、包装、または保管を行うすべての施設において、HACCPの考え方を取り入れた措置の計画・実行が義務付けられています。東南アジア諸国でも同様に、台湾では2003年から、韓国では2012年からそれぞれ順次HACCPを義務付けており、その他の国や地域も輸出食品にHACCPを義務付けたり、HACCPの導入を模索したりしています。
日本から輸出する際にHACCPが必要な国や地域
2020年の農林水産物・食品の輸出額は、9,217億円となり、8年連続で過去最高額を更新しました。政府は、輸出額の目標として2025年には2兆円、2030年には5兆円を目指しており、輸出産地の育成やブランド化等の支援による後押しをしています。
日本から輸出する際に、日本政府または第三者認証機関等(☆印)によるHACCP認証が必要な国・地域と対象品目
| 国・地域 | 対象品目 |
| EU | 水産物、水産加工品、牛肉、鶏肉 ※この他の一次産品を除く全ての食品について、HACCPの認証までは必要ないが実施を義務づけ |
| 米国 | 水産物☆ 、水産加工品☆、牛肉 ※この他のすべての食品についても、2016年9月からHACCPの考え方を基盤とする衛生管理を義務化 |
| ブラジル | 水産物☆、水産加工品☆ |
| カナダ | 牛肉 |
| 香港 | 牛肉 |
| シンガポール | 牛肉、豚肉 |
| メキシコ | 牛肉 |
| フィリピン | 牛肉 |
| ニュージーランド | 二枚貝(ホタテガイの貝柱を除く) |
農林水産省資料より作成
出典 https://www.jfsm.or.jp/9b7bc388ee53105458071ffa9b330007d062ff45.pdf
義務化によって誰が何を行う必要が生じたのか
HACCPは、一部の食品製造業者や輸出用食品事業者が取り組むのではなく、フードチェーン全体で取り組むことにより、製造、加工、販売に至るまで、各段階で関わる食品等事業者のそれぞれの衛生管理の取組・課題が明確化されます。これにより、フードチェーン全体の衛生管理の見える化がされることにより、食品全体の安全性の向上につながります。そのため、世界の食品安全対策は、「フードチェーン全体全体での食品の安全管理」「科学的根拠に基づく判断・対応」「工程管理を重視し、食品事故を未然に防止」に重点が置かれています。
厚生労働省は、HACCPに沿った衛生管理の制度化として、次の3段階に分けて提示しています。
| 対象事業者 | HACCP対応 |
| 小規模な営業者等 | 取り扱う食品の特性等に応じた取組(HACCPの考え方を取り入れた衛生管理) |
| ・大規模事業者 ・ と畜場[と畜場設置者、と畜場管理者、と畜業者] ・食鳥処理場[食鳥処理業者(認定小規模食鳥処理業者を除く。)] |
食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組( HACCPに基づく衛生管理) |
| HACCP認証が必要な国・地域へ輸出する事業者 | 対EU・対米国等輸出対応(HACCP+α) |
HACCPへ取組むことと、HACCPの認証取得することは異なり、必ずしもすべての食品等事業者に認証取得までは、求められてません。しかし、大規模事業者など、一部の対象事業者については、コーデックスのHACCP7原則に基づき、食品等事業者自らが、使用する原材料や製造方法等に応じ、計画を作成し、管理を行う必要があります。
義務化にあたり、具体的に何をしたらいいか
ここでは、小規模な営業者等に求められるHACCPの対応について説明します。次の4段階で行います。

1.衛生管理計画の作成
「一般的な衛生管理」及び「HACCPに沿った衛生管理」に関する基準に基づき衛生管理計画を作成し、従業員に周知徹底を図る。
2. 衛生管理計画の実施
必要に応じて、清掃・洗浄・消毒や食品の取扱い等について具体的な方法を定めた手順書を作成する。
3. 実施内容の確認・記録・保管
衛生管理の実施状況を記録し、保存する。
4. 衛生管理計画の見直し
衛生管理計画及び手順書の効果を定期的に(及び工程に変更が生じた際等に)検証し(振り返り)、必要に応じて内容を見直す。
より、具体的には、食品ごとに製造方法や工程管理が異なるため、すべて一緒の管理方法という訳にはいきません。各業界団体が作成する手引書を参考に、簡略化されたアプローチによる衛生管理を行います。また、大規模事業者等は、コーデックスで定められた7原則12手順でおこないます。地域の保健所や行政の窓口でも相談に応じていますので、必要に応じて管轄保健所の食品衛生監視員から助言を得て取り組みます。
コーデックスの7原則
| 1.危害要因の分析 食品又は添加物の製造、加工、調理、運搬、貯蔵又は販売の工程ごとに、食品衛生上の危害を発生させ得る要因(危害要因)の一覧表を作成し、これら危害要因を管理するための措置(管理措置)を定めること。 2.重要管理点の決定 1.で特定された危害要因の発生の防止、排除又は許容できる水準にまで低減するために管理措置を講ずることが不可欠な工程を重要管理点として特定すること。 3.管理基準の設定 個々の重要管理点において、危害要因の発生の防止、排除又は許容できる水準にまで低減するための基準(管理基準)を設定すること。 4.モニタリング方法の設定 重要管理点の管理の実施状況について、連続的又は相当な頻度の確認(モニタリング)をするための方法を設定すること。 5.改善措置の設定 個々の重要管理点において、モニタリングの結果、管理基準を逸脱したことが判明した場合の改善措置を設定すること。 6.検証方法の設定 1.~5.に規定する措置の内容の効果を、定期的に検証するための手順を定めること。 7.記録の作成 営業の規模や業態に応じて、 1.~6.に規定する措置の内容に関する書面とその実施の記録を作成すること。 |
義務化を無視した場合、どのようなことが起こるか
結論から言うと直ちに罰せられることはありません。罰則の適用については、これまでの制度から変更はありません。通常は、以下のような流れになります。

• 衛生管理の実施状況に不備がある場合、まずは口頭や書面での改善指導が行われます。
• 改善が図られない場合、営業の禁停止等の行政処分が下されることがあります。
• 行政処分に従わず営業したときは、懲役又は罰金に処される可能性があります。
一般的には、事業者が衛生管理計画を作成しない場合や内容に不備がある場合、又は作成しても遵守していない場合、まずは改善のための行政指導が行われます。事業者が行政指導に従わない場合には、改善が認められるまでの間、営業の禁停止などの行政処分が行われることがあります。営業許可の取消又は営業の禁停止については、都道府県知事等が判断することになります(食品衛生法第6 条第1項に基づく)。なお、食中毒が発生した場合には直ちに営業の禁停止などの行政処分がとられることがあります。
(参考)従来の検査とHACCPとの違い

HACCP開発以前は、製造する環境を清潔にし、きれいにしておけば安全な食品が製造できるであろうと考えられてきました。また、安全性は最終製品の抜取検査により、品質管理を行ってきました。とはいえ、抜取検査だけの場合、危険な食品はすべて排除することはできません。そのため、HACCPは、これらの考え方に加えて、食品の安全性を脅かす危害要因をあらかじめ排除することで、より効果的に問題のある製品の出荷を未然に防ぐことが可能となります。
HACCP文書作成時の注意点
HACCP(ハサップ)で必要となる文書を一から作成する必要はありません。具体的には、業界団体が策定し、厚生労働省が内容を確認した「手引書」を基に作成しますが、どのようにすれば良いか確認していきましょう。

業界団体が策定し、厚生労働省が内容を確認した「手引書」を基に作成する
HACCPの制度化にともない、保健所の食品衛生監視員※1は、許可の更新時や定期的な立入時等に「食品衛生監視票」に基づきHACCPの実施状況を確認することとなっています。保健所の食品衛生監視員による「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」の対象となる事業者への監視指導については、業界団体が策定し、厚生労働省が内容を確認した手引書※2を基に行います。そのため、まず手引書※2の内容をそのまま実施する、または手引き書の内容を参考に衛生管理計画を作成して実施するなどして、HACCPに沿った衛生管理を実施します。
なお、保健所の食品衛生監視員は、小規模営業者等に対し、手引書に沿って助言・指導を行います。地域の保健所では食品等事業者の相談に応じていますので、必要に応じて管轄保健所の食品衛生監視員から助言を得て取り組みます。
なお、大規模事業者等は、コーデックスで定められた7原則12手順でおこなう必要がありますのでこの限りではありません。
※1 食品衛生監視員は、行政や保健所の公務員として、検疫所や保健所などに所属して、輸入食品の検疫や飲食店に対する調査・指導を行い、食品の衛生や安全が脅かされることのないよう、管理しています。
※2 厚生労働省-HACCPの考え方を取り入れた衛生管理のための手引書
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000179028_00003.html
各業界の手引書が自らの業種に該当しないとき
「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を実施する施設については、手引書の内容に沿って評価されます。そのため、食品衛生監視票による確認では、「HACCPの考え方を取り入れた衛生管理」を実施している施設については、まずは手引書の内容をそのまま実施する、又は手引書の内容を参考に衛生管理計画を作成して実施していることを考慮し、手引書に沿った衛生管理を実施している場合は、対象の監視項目は適合しているものとして採点することとしています。(例:施設が手引き書に付帯している手順書を用いている場合は、手引書を作成しているものとする等)
ここで、気をつけておきたことは、現在公表されている手引書の中に自社の業種にあてはまるものがなかったり、独自の管理を行っていたりする場合です。自らの業種に該当するものがない場合でも、一般衛生管理や原料、製造法等の共通性が高い場合がありますので、危害要因が共通する業種の手引書を参考に取り組みます。各事業者団体が作成する手引書については、引き続き、厚生労働省による確認を経たものから順次公開されていきますが、必要に応じて管轄保健所の食品衛生監視員からの助言を得て取り組んで行きます。
HACCP導入(構築)の方法
| 手順1 | HACCPのチーム編成 | 製品を作るために必要な情報を集められるよう、各部門から担当者を集めます。HACCPに関する専門的な知識を持った人がいない場合は、外部の専門家を招いたり、専門書を参考したりしてもよいです。 |
| 手順2 | 製品説明書の作成 |
製品の安全について特徴を示すものです。 |
| 手順3 | 意図する用途及び対象となる消費者の確認 | 用途は製品の使用方法(加熱の有無等)を、対象は製品を提供する消費者を確認します(製品説明書の中に盛り込んでおくとわかりやすい)。 |
| 手順4 | 製造工程一覧図の作成 | 受入から製品の出荷もしくは食事提供までの流れを工程ごとに書き出します。 |
| 手順5 | 製造工程一覧図の現場確認 | 製造工程図ができたら、現場での人の動き、モノの動きを確認して必要に応じて工程図を修正しましょう。 |
| 手順6 【原則1】 |
危害要因分析の実施 (ハザード) |
工程ごとに原材料由来や工程中に発生しうる危害要因を列挙し、管理手段を挙げていきます。 |
| 手順7 【原則2】 |
重要管理点(CCP)の決定 | 危害要因を除去・低減すべき特に重要な工程を決定します(加熱殺菌、金属探知等)。 |
| 手順8 【原則3】 |
管理基準(CL)の設定 | 危害要因分析で特定したCCPを適切に管理するための基準を設定します。 (温度、時間、速度等々) |
| 手順9 【原則4】 |
モニタリング方法の設定 | CCPが正しく管理されているかを適切な頻度で確認し、記録します。 |
| 手順10 【原則5】 |
改善措置の設定 | モニタリングの結果、CLが逸脱していた時に講ずべき措置を設定します。 |
| 手順11 【原則6】 |
検証方法の設定 | HACCPプランに従って管理が行われているか、修正が必要かどうか検討します。 |
| 手順12 【原則7】 |
記録と保存方法の設定 | 記録はHACCPを実施した証拠であると同時に、問題が生じた際には工程ごとに管理状況を遡り、原因追及の助けとなります。 |
食品等事業者は、食品衛生法施行規則で規定する「一般衛生管理に関すること」及び「食品衛生上の危害の発生を防止するために特に重要な工程を管理するための取組」の基準に基づき、衛生管理計画を作成し、その内容を実施することとされています。手引書に掲載されている衛生管理計画は、厚生労働省令に規定されている基準のうち、それぞれの食品や業態の特性に照らし合わせて、特に優先度が高く、実施方法等を定めておくべき事項について記載されています。
小規模営業者等は、まずは手引書に記載されている内容をしっかり実践するところから始めます。大規模事業者等は、コーデックスのHACCP7原則に基づき、食品等事業者自らが、使用する原材料や製造方法等に応じ、計画を作成し、管理を行います。
HACCPの実施には組織全体で適切に実施することが不可欠となります。そのため、企業方針としてHACCP導入を決定の後、HACCPチームを編成して7原則12手順に沿って進めます。手順1~5は原則1~7を進めるにあたっての準備となります。
HACCPの認証をとるための方法
HACCP(ハサップ)の認証取得は、必須ではありませんが、取引先との相互による2社監査よりも一般的に信頼度の高い第三者認証は、取り組みの抜け漏れが無く効率的にHACCPに取組むことができます。また、対外的な信用力があがったり、取引先によっては認証取得を取引条件としていたりすることから、業務の拡大に応じて取得を検討します。
HACCP認証とは

国内では、1995年にHACCPの考え方に基づいて作られた安全管理手法として、「総合衛生管理製造過程」が一部の食品製造業を対象に規定されましたが、今回のHACCPの制度化に合わせて2020年5月に廃止されました。また、自治体HACCPと言われる都道府県等が、国のHACCP承認制度では対象とならない食品等事業者でもHACCPに取り組めるように独自に制定されています。その一部は、評価認定制度であり、改正後の食品衛生法にそぐわないことを理由に同時に廃止もしくは認証制度として衣替えして再スタートされる傾向にあります。例えば、東京都HACCPも今回のHACCPの制度化で、HACCPを入れるのが当たり前だという中では、その役割が終わったということで廃止が決定しています。
業界団体によるHACCP認証は、適用範囲がその業界・業種に限られますが、国が1998年HACCP手法導入を支援する目的で制定された「食品の製造過程の管理の高度化に関する臨時措置法」(略称:HACCP支援法)を5年間の時限立法で制定したことに端を発します。その後、法改正を重ねて延長され、HACCP導入の前段階での施設や体制の整備である「高度化基盤整備」を支援対象として、(株)日本政策金融公庫による施設整備への⾧期・低利の融資を受けることが可能となります。対象となる指定認定機関は、25機関(2021年3月現在)ありますが、輸出促進法に基づく輸出事業計画の認定を受けた事業者も融資を受けることができるため、HACCPの制度化に合わせて求められる役目も変わりつつあります。
このようにHACCP認証は、これまで各種団体の認証がありましたが、工場監査項目が各社バラバラで、それぞれが監査に来るなど非効率化が課題となっていました。また、食のグローバル化により、消費者のニーズに合った安全で信頼のできる商品を提供するため、フードチェーン全体で見えない価値を見える化する必要が強まっています。
こうしたことを背景に、世界的な標準規格が求められるようになり、世界的に展開する食品企業が組織した国際的な民間団体として、GFSI(Global Food Safety Initiative:世界食品安全イニシアティブ)が組織化され、食品安全の向上と消費者の信頼強化のため、食品安全管理規格の承認等を行っています。こうしてHACCP認証の主流は、政府認証の規格から民間認証資格へ移行しています。なお、JFS、FSSC22000、SQF等の民間認証は、その認証基準にHACCPを含んでいることから、保健所等の立入検査の際にも認証に必要な書類等を活用して事業者負担に配慮するとしています。
(参考)コーデックス HACCP を要件としている主な民間認証
| 主体 | |
| ISO22000 | 国際標準化機構( International Organization for Standardization) |
| FSSC22000 | オランダの食品安全認証財団(The Foundation of Food Safety Certification) |
| JFS | 日本の一般財団法人食品安全マネジメント協会 |
| SQF | 1994 年、オーストラリアの政府機関によって策定された SQF(Safe Quality Food)は、2003 年に米国・食品マーケ ティング協会(Food Marketing Institute:FMI)の所有 するところとなり、FMI 傘下である SQF インスティテュ ート(SQFI)によって運営されている。 |
認証取得には期間、費用がかかる

第三者認証取得の準備期間としては、平均約1年と言われており、短くても6か月は必要になります。費用は、HACCP構築までの社内で要する人件費や修繕費は別として、認証機関、監査会社でも異なり、会社の規模や目指す認証資格によっても監査に必要となる工数が変わるため、一概には言えませんが初回の審査で約30万円からというのが相場です。
費用の内訳としては、最初に認証・適合証明を受ける費用(審査費用や監査費用)、認証維持費用として年1回は継続的な審査が必要となります。初回審査次年度以降の定期(登録維持)審査と、3年毎の更新審査があり、定期審査は工数が少なく、初回認証登録、更新審査より安くなります。自社だけでやり遂げるのは難しい場合が多いため、認証取得までコンサルタントを雇う場合にはその費用が必要となりますが、規程類などの文書作成までお願いするかにより変わってきますので、依頼する範囲を詰める必要があります。
(参考)HACCPに関連する資格もある
HACCPに関する専門知識を有しプランの作成や運用などができる人物であることを証明するものとして、民間団体がHACCPにかかわる資格を制定しています。いずれも国家資格ではありませんので、導入時に有資格者がいなくても問題はありませんが、有資格者がいる場合にはより正しい手順でHACCP導入を進めていけるというメリットがあります。以下に主な資格を例示します。
HACCP普及指導員(公益社団法人日本食品衛生協会)
平成9年2月3日付厚生省通知「HACCPに関する相当程度の知識を持つと認められる者」の要件を満たす講習会を修了され、当協会が平成27年度より実施している「HACCP指導者研修会」を修了された方とし、別途申請手続きに基づき登録する(登録に当たり手数料が必要になります)。
SQF/HACCPプラクティショナー(SQFI 協会認定)
事前に承認されたHACCP トレーニングコース(SGS-HACCP トレーニングコース等で2日間16時間以上のコース)の修了の後に、SQFシステム(安全)トレーニングコース 2日間修了し、演習及びSQFシステムの実施テストに合格する必要があります。食品安全マネジメントシステム審査員(FSMS審査員)
FSMS審査員補登録に必要な実務経験や審査員研修コースの修了及び知識の証明(審査員研修コースの修了など)により登録が可能となります。
HACCP導入のメリット

HACCPは、現在、最も合理的な衛生管理法であることが国際的にも認められています。規模が小さい事業者であっても、社員の衛生意識の向上に加えて、クレーム、事故の減少、不具合が生じた場合の迅速化、社外への衛生管理のピーアールなど、事業活動に好影響を与える効果が実感されています。
HACCP導入のメリット:厚生労働省のアンケート結果より
・社員の衛生管理に対する意識が向上した:78.2%
・社外に対して自社の衛生管理について根拠を持ってアピールできるようになった:43.1%
・製品に不具合が生じた場合の対応が迅速に行えるようになった:37.7%
・クレーム・事故が減少した:32.3%
・ロス率が下がった:10.1%
・HACCPを求める事業者(小売業者等)との取引先が増えた:9.7%
・生産効率が上がった:9.0%
出典:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11130500-Shokuhinanzenbu/0000093104.pdf
HACCP認証取得にむけてシステムを上手に導入した事例
HACCP導入によるメリットが分かっていても、認証取得のコストや手間を考えると二の足を踏んでしまうと思います。限られた人員の中で、導入をすすめるためには、先人の知恵を詰め込んだITの力を借りて行うことも検討したいところです。
HACCP文書作成の煩雑な作業をICT化で解決
本サイトでも取り上げられている「HACCPの作成と修正に特化した企業向けシステム」の導入による事例をご紹介します。HACCPでは、工程や危害を見える化し、分析する必要がありますが、その変更の度に修正し、整合性をとる必要があります。そのため、特定の社員に業務が集中したり、作業時間が多くかかったりすることが課題となります。システム導入により作業の平準化や作業時間の削減が可能となりますので、HACCP認証取得の際には、導入を検討されてみても良いと思います。
世界を目指す川原食品にとって、食品安全マネジメントHACCP対応は必然の道 川原食品(佐賀県)
https://smb.ricoh.co.jp/casestudy/000566/
まとめ
HACCPの義務化への対応をまとめてご紹介しました。導入時に手間はかかるものの習慣化することにより当たり前に行われることで、多くの製造現場で食品の安全性が向上されていることを目の当たりにしています。食品安全への対応は、社会情勢や消費者ニーズに対する変化に合わせて行う必要があります。そのため、HACCP導入は、1度導入すれば終わりと言うことではなく、常により最善の方法を追求していくことが必要になり、そうした変化への対応にも自然に応えることが可能となります。ご紹介したように決して難しいことばかりではありませんので、できることから取り組んでいきましょう。

執筆者
三海泰良(さんかい やすよし)
静岡県浜松市出身、東京都世田谷区在住。大学卒業後に農業関連団体へ入会。自費でMBA(経営管理学修士)を取得し、2013年中小企業診断士登録。2014年中小企業診断士事務所設立。主に経営戦略、マーケティング、創業支援、M&A、補助金申請書作成支援、HACCP構築等を中心に活動しています。創業セミナーや食品表示の講師の他に各種執筆を行う。
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