福祉介護業のICT導入の効果とそのポイント。ICT導入事例で詳しく解説
2022年03月17日 06:00
この記事に書いてあること
事例にみるICT導入の効果とポイント
高齢者や障害者など日常生活に何らかの支援を必要としている人に対して、様々な形でサービスを提供するのが福祉介護業ですが、急激な高齢化等により人手が不足する・過酷な職場環境により離職者が多く人材が定着しない等の問題を抱えています。また、最近のコロナ禍に対応する必要にも迫られています。
このような問題をICT[アイシーティー(Information and Communication Technology:情報通信技術)]を活用してどのように解決したのかを実際の事例を通じて説明します。
情報共有のデジタル化で、職員・利用者・家族の満足度が大きく高まった
#福祉介護の事例
介護記録の支援ソフトとグループウェアを導入した社会福祉法人みちくさの事例です。
職員の業務負担が軽減され職員にゆとりが生じこれまで手が届かなかった所に手が届くようになりました。また、利用者に関する情報を共有することにより利用者の希望に添った形のサービスの提供が可能になり、利用者のストレスが減少し施設の雰囲気が良くなりました。さらに、利用者の家族とのコミュニケーションも充実したものとなり、利用者の家族からの信頼も高まりました。
理事長は、1台のタブレットの稟議を却下、その真意は?
#福祉介護の事例
介護記録・介護請求システムを導入した社会福祉法人欣彰会の事例です。
現場から上げられた要望を充足するような業者を選定し、システムの導入の際には現場の要望に応じたカスタマイズを行いました。上から押しつけられたシステムを現場が利用するのではなく、現場主導でシステム導入を進めました。適切なシステムを構築するには実際にシステムを利用する現場の関与が重要であり、導入を円滑に進めるためには現場が必要性を理解し主体的に取り組むことが必要となります。
システム導入の結果、残業時間が削減され人材採用にも良い影響を及ぼしています。
有料老人ホームの新たなビジネスモデルに
#福祉介護の事例
介護請求業務ソフト・会計ソフトを導入した株式会社ニチモの事例です。
台風により書類が水浸しになってしまったのを機にペーパーレス化に着手し介護請求業務ソフト・会計ソフトを導入し、結果として経理業務の効率化・円滑化につながりました。
さらに介護記録のペーパーレス化を実現すべくタブレットで介護記録を作成するシステムを導入し、結果としてケアマネジャーの業務負担の軽減につながりました。介護職員に積極的に外国人を採用している同社では日本語の文字を書くことに慣れない外国人職員のために、話した言葉を音声認識で文字にするシステムの活用を試験的に導入しています。
リモートワークがケアマネジャーを残業から解放 帰宅時間が3時間も早く
#福祉介護の事例
ノートパソコンで施設のパソコンをリモート操作できるシステムを導入した社会福祉法人清風福祉会の事例です。
残業が当たり前だったケアマネジャーをリモートワークにしたことで無駄な時間を省き業務効率化につながったといえます。また、今回導入したのはリモート操作が可能なノートパソコンと携帯用のWi-Fi(ワイファイ)ルーターだけで、残業代の抑制を考慮すると施設のコスト削減効果は非常に大きいといえます。さらに、職員間の物理的接触を減少させることからコロナ禍に対する対応策にもなります。
センサーとセンサー連動カメラで入所者のプライバシーと安全を両立
#福祉介護の事例
カメラと行動分析センサーが一体になった「見守り」システムを導入した社会福祉法人イエス団の事例です。
システムはベッドでの行動をセンサーが認識すると職員が持つスマートフォンに映像付きで通知する仕組みになっており、映像は通知の時以外は見ることができないとすることでプライバシーに配慮しています。通知を受けた職員は映像を確認した上で対応することができます。また、録画機能があり事故が起きた場合の原因究明に有用です。
将来を見通したオンライン面会システムの導入
#福祉介護の事例
コロナ禍に対応すべくオンライン面会システムを導入した社会福祉法人やまびこの事例です。
このシステムはZoomなどのテレビ会議用ソフトを利用しています。また、無線LANを施設全体で利用可能にすることで、居室でタブレットを使う入所者が施設内にいる家族と面会することができるようになりました。さらに、コロナウイルス終息後も遠方に住む家族の面会に活用することが可能です。
入所者と家族の面会は双方に安心感をもたらすことから非常に重要です。
「コロナ禍でもいつも通りの研修を」 テレビ会議システムの導入を即決
#福祉介護の事例
テレビ会議用ソフト・大型のディスプレイ・スピーカー・カメラなどから構成されるテレビ会議システムを導入した株式会社ヒルズ伊勢崎の事例です。
同社ではホスピタリティー(おもてなし)の精神を職員に身につけてもらうために、正しい言葉遣いや適切な身だしなみ、所作などを学ぶ研修を行っていました。コロナ禍で研修の開催が危ぶまれましたが、テレビ会議システムの導入により研修を継続することができました。また、導入されたテレビ会議システムはオンライン面会にも活用されています。
コロナ禍をバネに介護研修をデジタル化、見え始めた様々な効果
#福祉介護の事例
研修用の動画を各施設にデジタル配信するシステムを導入した愛媛県老人保健施設協議会の事例です。
集合形式の研修では講師がその都度話をすることになりますが、有用な研修を動画の形で保存すれば何回でも利用することができます。また、受講者も集合形式の場合には時間と場所に拘束されてしまいますが、動画であれば受講者が好きな時間に好きな場所で何回でも視聴することができます。すなわち、講師と受講生の双方が利用しやすい研修のライブラリ(書庫)を構築することが可能になります。
給与計算の業務時間が半分に ICT活用で日常業務を削減
#福祉介護の事例
クラウドの勤怠管理システムを導入した社会福祉法人髙陽会の事例です。
導入の結果、ICカードをタイムレコーダーにかざすだけで、出勤時間や退所時間が自動的に記録され、その内容は本部でもリアルタイムで確認できるようになりました。勤怠管理システムは給与計算システムと連携しており、各施設が作成したデータを給与計算システムに入力する必要がなくなり、業務効率化につながりました。
成長とともに現れる「壁」をICTで突き破る クラウド型財務会計システムで“自立”経営を実現
#福祉介護の事例
会計・給与計算などを一体的に処理する基幹業務ソフトを導入した株式会社孫の手の事例です。
自社で開発した労務管理ソフトが給与計算はできるが、会計ソフトと連携していないことから会計処理を自社で行うことができませんでした。基幹業務ソフトを導入することにより自社で会計処理を行うことができるようになりました。また、最近は既成のソフトが福祉介護業で活用できるようになってきています。
最後に
人手不足に対応するには「業務効率化」が必要です。また、過酷な職場環境を改善するための「働き方改革」も不可欠です。そして、1人を複数の職員が介護することから「職員間の情報共有」も重要です。さらに、良質な介護の担い手を育成するための「研修」も大切です。これらの課題を解決するためにICTが果たすべき役割は大きいといえます。
このように福祉介護業ではICTの活用の必要性はもともと大きかったのですが、コロナ禍によりさらに大きくなったといえます。ICTの活用により経営改善を実現できれば、「禍を転じて福と為す」ことができます。
ICTの導入を検討していただく際に中小企業応援サイトがお役に立つと思います。
ICTの導入にはトップの決断が必要となりますが、本コラムがそのための一助となれば幸いです。
執筆
坂本 陽(さかもと あきら)
中小企業診断士・応用情報技術者・博士(工学)。学生時代は、ICTの活用(コンピューター・シミュレーション)による物理学の研究に従事。現在は、ICTの活用により中小企業ひいては日本経済の生産性を向上させるための活動に従事。
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