電子帳簿保存法2022年の改正で準備するべきポイント

From: 中小企業応援サイト

2022年03月23日 06:00

この記事に書いてあること

2022年1月1日に「電子帳簿保存法」が改正され、関連する話題を目にすることも多くなってきました。この改正により、請求書、領収証などの会計関連の書類の取り扱いで新たな対応が必要になるというイメージが湧くところと思いますが、実際にどのように業務を変える必要があるのでしょうか?
本記事では、電子帳簿保存法はどのような内容なのか、電子帳簿保存法の改正後に必要な企業ごとの対応例は何か、電子帳簿保存法に対応するメリットは何かを中心に、解説致します。

電子帳簿保存法とは

電子帳簿保存法の正式な名称は、「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」で、平成10年(1998年)に制定された法律で、別称では電帳法とも呼ばれます。簡単にいうと、国税関係帳簿書類の電子化する取り決めとなります。

電子帳簿保存法の概要

会計処理の分野でコンピュータを使用した帳簿書類の作成が普及してきたなか、帳簿書類の電子化や電子データでの保存の容認について、かねてから強い要望が寄せられていました。そこで、平成10年(1998年)に電子帳簿保存法が創設されました。これにより、国税関係の帳簿や書類は原則「紙での保存」となっていましたが、事務的負担やコストを軽減するため、「電子データでの保存」が特例として認められました。平成10年(1998年)に制定されたことを端緒に、何回か改定されてきました。
平成22年(2005年)には、「決算関係書類を除く国税関係書類」をスキャナで読み込み、電子データ化して保存することが認められました。平成27年(2015年)には、電子署名の義務化廃止や金額の上限撤廃(従来は3万円未満)やスキャナによる保存の要件が緩和され、平成28年(2016年)には、デジタルカメラやスマートフォンによる撮影での電子化、令和2年(2020年)には、キャッシュレス決済の場合には領収書が不要となるなど、時代の要請に対応した制度へと変更が行われてきました。
税法などにより紙による保存が義務付けられていた帳簿書類のうち、一定の要件を満たして作成された帳簿や、電子メールなどで授受した取引情報などを電子データとして保存できるように定められました。電帳法の対象は三つの種類があります。
一つ目は、仕訳帳、売上・仕訳帳や現金出納帳などの国税関係帳簿です。二つ目は、貸借対照表、損益計算書などの決算関係書類や見積書や契約書などの取引関係書類の国税関係書類です。そして、三つ目は、インターネット取引やクラウド取引等の電子取引に分けられます。

現行法のポイント

現行法では、電子データを保存するには、書類が本物の内容と確認できる「真実性の確保」、いつでも確認ができる「可視性の確保」という要件を満たす必要があります。
まず、真実性の確保には、三つの要件を満たす必要があります。
一つ目は、訂正・削除履歴の確保(帳簿)です。これは、帳簿の記録の訂正又は削除を行った場合には、これらの事実及び内容を確認することができることです。また、記録事項の入力が、通常の業務上の手続きや処理の時間を経過した後に行った場合には、その事実や履歴を確認することができることです。
二つ目は、相互関連性の確保(帳簿)です。帳簿の記録事項とその帳簿に関連する他の帳簿の記録事項との間において、相互にその関連性を確認できるようにしておくことです。
三つ目は、関係書類等の備付けです。帳簿の記録の保存等に併せて、システム関係書類等(システム概要書、システム仕様書、操作説明書、事務処理マニュアル等)の備付けを行うことです。
次に、可視性の確保には、二つの要件を満たす必要があります。
一つ目は、見読可能性の確保です。帳簿記録の保存場所に、パソコン、ディスプレイ及びプリンタ並びにこれらの操作説明書を備え付け、記録をディスプレイの画面及び書面に、整然とした形式及び明瞭な状態で、速やかに出力できるようにしておくことです。
二つ目は、検索機能の確保です。帳簿の記録について、次の要件を満たす検索機能を確保しておくことです。
(イ)取引年月日、勘定科目、取引金額その他のその帳簿の種類に応じた主要な記録項目を検索条件として設定できること
(ロ)日付又は金額に係る記録項目については、その範囲を指定して条件を設定することができること
(ハ)二つ以上の任意の記録項目を組み合わせて条件を設定することができること

さて、電子保存かスキャナ保存を行う場合には、運用開始3ヵ月前までに所轄税務署での手続きを行い、税務署長の事前承認を取得したうえで実施となります。さらに、帳簿や書類の種類によっても電子保存できるか、スキャナ保存ができるかが異なってきます。以下の表をご参照ください。
また、電子データ保存・スキャナ保存の要件はそれぞれ異なりますので、詳しくは、国税庁のホームページにてご確認をお願いします。
/>出典:国税庁 電子帳簿保存法Q&A(一問一答)
~令和3年12月31日までの保存等に関するもの~
【電子取引関係】Ⅱ適用要件 問9
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07denshi/02.htm#a009
電子帳簿保存法Q&A(一問一答)
~令和3年12月31日までの保存等に関するもの~
【スキャナ保存関係】Ⅱ適用要件 問12
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/07scan/02.htm#a012

保存方法 種類 文書例
電子保存 スキャナ保存
OK × 国税関係帳簿 仕訳帳、売上・仕訳帳や現金出納帳など
OK × 国税関係書類、決算関係書類 貸借対照表、損益計算書など
OK OK 国税関係書類、取引関係書類、発行する書類 見積書、契約書、請求書、領収書など
OK 国税関係書類、取引関係書類、紙面受領書類 見積書、契約書、請求書、領収書など
OK 電子取引 EDI取引、電子メール取引など

【2022年1日1日施行】改正された電子帳簿保存法とは

今回の改正法では、国税関係帳簿、書類のデータ保存に関する見直しが行われ、手続き面での大幅な規制緩和と、罰則の強化という2つの面がありました。今後、紙面での会計書類のみで処理する場合にはありませんが、1つでも関係書類を電子データで受け取る場合には把握しておく必要がある内容です。

改正の目的

今回の改正の目的は、社会全体のデジタル化をふまえ、現行法のネックになっていた点を緩和し企業の業務効率化・デジタル化・ペーパーレス化をさらに進めたいという政府のデジタル化・グリーン化政策を推進する一つの施策が背景にあります。

猶予期間

令和4年1月1 日から令和5年12月31日までの間に電子取引を行う場合には、一定の条件で、電子データの出力から作成した書面で保存をすることも認められます。
その条件とは、電子データを要件に従って保存することができないことについて、納税地等の所轄税務署長がやむを得ない事情があると認め、かつ、保存義務者が税務調査等の際に、税務職員からの求めに応じ、その電子データを整然とした形式及び明瞭な状態で出力した書面を提示できる場合です。この条件の下、電子データの保存に代えて、電子データの出力から作成した書面で保存をすることも認められます。
なお、上記の取扱いを受けるに当たり税務署への事前申請等の手続は必要ありません。  当面、このような猶予期間がありますが、将来に向けて、準備を進めておくとよいでしょう。

主な改正後の違いとは?

今回の改正により、変更になったポイントをご説明します。

変更点① 電子取引の際の電子データは電子形式で
改正前では、電子取引の際の電子データは紙で保存してもいいことになっていましたが、改正後は紙での保存は不可となり、電子データで保存することとなりました。社内手続き上、紙面印刷して確認したとしても、保管する手段としては電子データ形式となります。

変更点② 電子取引での守るべき保存要件
保存要件では、真実性の要件、可視性の要件の両面が必要ということは変わりがないですが、それぞれの手続きで一部変更があります(下線部)。詳細は、国税庁のパンフレット(「電子帳簿保存法が改正されました」)にてご確認ください。
真実性の要件では、取引情報の授受後、速やかに(またはその業務の処理に係る通常の期間を経過した後に速やかに)タイムスタンプを付すとともに、保存を行う担当者または監督者に関する情報を確認できるようにしておく。
可視性の要件では、これまでの検索機能で多くの項目が検索できなくてはなりませんでしたが、改正後の記録項目は取引年月日、取引金額、取引先に限定できることになりました。
出典:国税庁パンフレット「電子帳簿保存法が改正されました」
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/jirei/pdf/0021005-038.pdf

変更点③ 税務署の事前申請手続きが不要に
電子保存には、改正前には税務署に対して事前申請しなければなりませんでしたが、改正後には申請が不要となり、手続き面で緩和されました。

変更点④ 改ざん防止等のための事務処理要件の廃止
不正防止に向けた内部統制の手続きでは、改正前には、電子帳簿保存に関する社内規定の整備や2名以上での対応などの適正事務処理要件がありました。改正後には、これが廃止されました。

変更点⑤ タイムスタンプの要件緩和
タイムスタンプの要件も緩和されました。
まず、タイムスタンプとは、ある時刻にその電子データが存在していたことと、それ以降改ざんされていないことを証明する技術で、タイムスタンプに記載されている情報とオリジナルの電子データから得られる情報を比較することで、タイムスタンプの付された時刻から改ざんされていないことを確実かつ簡単に確認することができます(出典一般財団法人 日本データ通信協会) 。
改正前には、国税関係書類を画像データとして保存するためには、書類の受領者が自署するほか、3営業日以内のタイムスタンプ付与が必要でした。改正後には、書類の受領者の署名が不要になるうえ、タイムスタンプの付与期間も最長約2ヵ月以内に延長できることになりました。また、削除や訂正の履歴の残るシステムで、入力期間内に入力時刻証明機能を備えていれば、タイムスタンプの付与要件を満たすことができます。

変更点⑥ 検索機能の要件緩和
国税関係帳簿・書類の電子データ保存・スキャナ保存での検索性の要件が、今後は「日付」「取引金額」「取引先」の3項目に限定されることになりました。
スキャナ保存については、税務職員による質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じる場合には、検索要件の中の「日付/金額の範囲指定により検索できること」「2つ以上の任意の項目を組み合わせて検索できること」が不要となりました。

変更点⑦優良保存認定制度の新設とシステム要件の緩和
国税関係帳簿・書類の電子データ保存には、「真実性の確保」とる「可視性の確保」が求められますが、これまでの詳細な保存要件および検索要件を満たしている帳簿は「優良な電子帳簿」に認定され、過少申告加算税が5%免税される制度が新設されました。ただし、申告漏れについて隠蔽、または偽装された事実がある場合には適用外となりますので、ご注意ください。
また、簿記の正規原則に従って記録されており、最低3つの要件を満たせば、電子データ保存が認められることになり、システム要件の緩和されることになります。

変更点⑧ 罰則の強化
適正な保存を担保するための措置として、今回の改正により、スキャナ保存が行われた国税関係書類に係る電磁的記録に関して、隠蔽し、又偽装された事実があった場合には、その事実に関し生じた申告漏れ等に課される重加算税が 10%加重される措置が取られ、罰則が強化されました。

電子帳簿保存法の改正後に必要な企業の対応例

電子帳簿保存法の改正により、国税関係帳簿や書類の電子化の推進の環境が整ってきましたが、企業の皆さんでの必要な対応はどのようなことがあるかを整理してみましょう。

電子取引で受領する書類に対しての取扱い例

電子取引においては、紙での保存ができないことになったため、電子取引をしているすべての企業で自社に合った方法を、以下の四つの選択肢から、最適なオプションを選択する必要があります。
1.訂正削除履歴の残るシステムを利用してデータを授受・保存する
2.授受したデータに関する訂正削除の防止に関する事務処理規定を整備・策定して運用・保存する
3.発行先にてタイムスタンプが付与されたデータを保存する
4.受領後、自社でタイムスタンプを付与して保存する

紙で受領する書類の取扱い例

紙面で受領する書類の保存方法は、以下の2つの方法から選択することになります。
1 スキャナ保存(税務署承認不要)
2従来通りに、紙面のまま保存

電子帳簿保存法に対応するメリット

今回の電子帳簿保存法の改正に伴い対応することで、以下のように、企業内の電子化やペーパーレス化の促進やテレワークやDXの推進にも役立ちます。

企業内の電子化やペーパーレス化の促進にも役立つ

企業内手続きが電子化やペーパーレス化になることで、業務効率化・省スペース化や業務コストの削減に繋がります。
・バックオフィス業務の効率化、経理業務の負担軽減に役立つ
・郵送作業がなくなる
・保存場所が不要になり省スペースがかなう
・盗難や災害等による紛失リスクの低減
・印刷コストや管理コストの減少など、

テレワークやDXの推進にも役立つ

コロナ禍などによるテレワーク推進、スマートフォンの普及による消費者行動の変化、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進がすすんでいることなど社会全体のデジタル化の追い風もあり、電子化さらに進んでいくと思われますので、電子帳簿保存法に対応することは意義深いアクションとなるでしょう。

改正後の対応ポイント(まとめ)

今回の電子帳簿保存法の改正に伴い対応するポイントを纏めます。

紙の書類を電子データ化する方法を検討しましょう

期末が到来し、関連書類を探したりする手間や時間を考え、長い目で見ると、紙媒体から電子化の導入時の負担よりも、電子化して運用した方が負担が軽くなると考えられるのではないでしょうか。社会全体のデジタル化の追い風の中で、紙媒体を電子データ化していくとよいでしょう。その際には、法律要件を満たすことを確認しましょう。
・会計システムやクラウドサービスの選定、電子化手段の検討
・真実性の確保、可視性の確保が重要
・長期的には、電子化する際の負担より紙のまま運用することの直接的間接的コストの負担の方が大きいかを検討する

市販の会計ソフトやクラウドサービスを選ぶ際の注意点

法律要件の順守が求められますので、会計ソフトやクラウドサービスを選ぶときには、改正電子帳簿保存法が求める要件に対応しているものを選ぶことがおすすめです。各サービス会社において要件対応の動きがありますが、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(JIIMA)による認証を受けたシステムを参考にすることをお勧めします。

電子データに関する業務プロセスと運用の見直しをする

メール等で受領した電子データを紙に出力してから処理や保存している場合には、業務プロセス、運用の見直しが必要になります。今までなかなか変えられなかった社内プロセスをこの機に最適化することもできます。
また、自社から他社へ請求書を発行するときにも、相手先が電子化しているかどうかなど配慮されると取引関係の強化にも繋がります。

違反した場合の罰則に注意する

今回の改正をきっかけとして、新しくプロセスの見直しをしたとしても、既定の要件に沿って保存されていないと税法上の帳簿、書類として認められなかったり、各税法上の保存書類として認められなかった場合に、経費として計上できず控除不可となったり、また、悪質な不正があると判断されると重加算税の対象になる可能性もあります。
自社の既存システムが要件を満たしているか、社内で正しく運用できているのか、新しいシステムが電子帳簿保存法の将来の改正要件にも対応できるかなどを確認していきましょう。

電子帳簿保存法の改定に対応するためには

今回、電子帳簿保存法はどのような内容なのか、電子帳簿保存法の改正後に必要な企業ごとの対応例は何か、電子帳簿保存法に対応するメリットをご説明いたしました。各サービス会社も様々にサービス提供しているところで、何が最適なのかなどお悩みになられる方もいらっしゃるかと思います。
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小島 洋介(こじま ようすけ)

執筆者

小島 洋介(こじま ようすけ))

中小企業診断士・東京都中小企業診断士協会 城南支部 国際部 副部長
商学修士課程を修了以降、メーカーの海外営業に従事。中小企業診断士登録後は、きらりと輝く知的資産を生かした事業計画の立案支援を実施。創業・海外進出・補助金申請を力強くご支援中。

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