BCPのはじめの一歩!中小企業のための、簡単BCP作成入門

From: 中小企業応援サイト

2022年06月17日 06:00

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かんたんにBCPのひな形ができる!BCP策定ワークシート
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災害時などの事業継続の方法について定めておく、BCP(事業継続計画)の必要性がいわれて久しくなります。

しかし、その必要性は理解しているものの、なかなか手が付けられずにいるという中小企業経営者も多いのではないでしょうか。

ある調査では、BCPを策定していない理由のトップは、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」(41.9%)、2位が「策定する人材を確保できない」(29.3%)となっています。作成はしたくても、「だれが、どうやって作ればいいかわからない」と感じている経営者が多いことがうかがえます。

(データ出所:帝国データバンク 「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2021年)」

そこで、本記事では、代表的な例を選んでいくだけで、「基本的な内容のBCP」が作成できる手順をまとめました。経営者が自分だけで策定できるもっとも手軽なBCPとして、ぜひ活用してください。

BCP策定の基本のキ

BCP(事業継続計画)とは、自然災害などの急激な事業環境変化に際して、被害を最小限にとどめ、早期にそこから復旧し、事業を中断することなく続けていくために、会社としてとるべき準備や対応をまとめたものです。

本来、BCPにおいて検討しなければならない、事業の中断が余儀なくされる事態には様々なものが含まれます。

たとえば、地震や水害、竜巻などの自然災害、コロナ禍のような感染症まん延、戦争やテロ、ランサムウェアなどのネット犯罪、あるいは、取引先の倒産などサプライチェーン上の問題などです。

場合によっては、従業員による機密情報の漏洩や不正、犯罪行為などを含めることもあります。

本来であれば、それらのすべての危機に広範囲に対応できるBCPを策定することがベストです。

ただし、すべての災害等に対応した広範囲のBCPをいきなり策定することは難しいでしょう。そこで今回は、災害の中でも頻度が高く、また発生の予測が困難で、しかも企業経営にも影響が大きい「地震」を想定した計画を策定します。

さらに、近年は異常気象が当たり前になっており、水害(河川氾濫など)も、頻繁に生じるため、自治体のハザードマップなどを確認し、自社が水害リスクの高い地域に位置している場合は、水害を想定したBCPを講じることも重要性は高いでしょう。

また、足元においては、やはり従業員が新型コロナウィルスに感染した場合の感染症BCPの重要性も比較的高いと思われます。

なお、BCPは業種によっても当然含むべき内容がことなりますが、今回は例として製造業を想定します。

まず、今回の基本BCPを策定してみて、その後、その企業として発生確率が高いリスクを調べて、盛り込んでいくようにするとよいでしょう。

今回作成を目指すBCPについて

今回の記事の目的は、BCPの意味やメリット、全体像を掴むことを主眼にしているため、最低限の方法で、かつ経営者のみで作成できる内容を紹介しています。

今回のBCPを作成してみて、経営者自身が理解を深めた上で、さらに本格的なBCPを策定していきましょう。本格的なBCP策定のポイントは、記事の最後に記載しています。

BCP策定ステップ1:BCPの目的を決める

まず、なんのためにBCPを策定するのか、そしてその策定により何を目指すのか、つまりBCPの「目的」を決定します。

BCPの目的は、自社の経営理念や経営方針と基本的に通ずるはずです。経営者の方の思いが反映していると思われるものを選択してください。また、選択肢以外にもあれば、自由に記述しましょう。

BPCの目的の例

▼一般的な目的の中から選ぶ

  • 人命(従業員・顧客)の安全を守る
  • 自社の経営を維持する
  • 供給責任を果たし、顧客からの信用を守る
  • 従業員の雇用を守る
  • 地域経済の活力を守る
  • 社会からの需要に応える

▼その他(自由記述)

BCP策定ステップ2:守りたい事業を決めるための分析=BIAを実施

次に、被災した場合に、どうしても守りたい事業や製品、サービスを選択します。

通常、企業では複数の事業や製品を展開しています。そのすべてを守りたいという気持ちになるのは、当然ですが、優先度を決めて、まずは最優先のものを絶対に守るとすることが大切です。

ただでさえ経営資源が少ない中小企業が、災害という非常においてすべてのものを守ろうとするのは無理であり、多くの場合、そのことで「すべてが守れない」という結果になってしまうためです。

優先度を決定する際、参考になるのが、「BIA」(Business Impact Analysis:ビジネスインパクト分析)です。これは、災害などで業務やコンピュータが停止した場合の影響度を評価するための分析手法として、BCP策定にあたり必ず実行しなくてはならない要素であるといわれています。

BIAの具体的な方法

BIAでは、各事業について以下のような内容について検討します。

①災害の程度を考え、最低限の人員で達成可能な事業を決める。
②取引先が困らないことを基準に決める。
③売上規模や収益額を考慮して決める。
④復旧時間などを考慮して決める。

具体的には、以下のような比較表を作り、項目ごとに数値を記入し、総合評価で比較します。評価は、5点法などを使うとわかりやすいでしょう。売上や利益などの業績数値と、復旧性や代替性などは評価の単位が違うため、業績評価はいったん「業績総合評価」として5点法で評価しておきます。その後、すべての評価の平均点を総合評価とすると良いでしょう。

▼BIA分析表の例

A事業

売上高

6,000万

利益額

600万

業績総合評価

5 / 5

将来性

3 / 5

復旧性

3 / 5

代替性

2 / 5

総合評価

3.25 / 5

守りたい顧客と製品・サービスを決める

決定した守りたい事業を1つ記述しましょう。その際、「〇〇向け△△製品」という風に、顧客と商品・サービス名を明確にします。

▼顧客(誰向けか)

▼事業、製品、サービスなど

BCP策定ステップ3:地震の影響の予想をする

実際の地震(震度5以上)が起きた場合を想定して、受ける影響を確認します。以下では、中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」のBCP入門編資料に準拠しながら、さらに表現をシンプルにしています。

地震の影響の例

▼光熱インフラはどうなる?

  • 停電が発生する。
  • 水道が止まる。
  • ガスが止まる。
  • その後、電気、水道、ガスの順番で復旧する。
  • 上記以外で自社が受けると思われる重大な影響(自由記述)

▼情報通信はどうなる?

  • 電話が繋がらなくなる。
  • インターネットがつながらなくなる。
  • その後、ケーブル断線の復旧等により、順次復旧する。
  • 上記以外で自社が受けると思われる重大な影響(自由記述)

▼道路はどうなる?

  • 道路が通行規制となる。
  • 道路で、渋滞が発生する。
  • 上記以外で自社が受けると思われる重大な影響(自由記述)

▼鉄道はどうなる?

  • 鉄道の運行が停止する。
  • その後、被害の少ない地域から鉄道の運行が順次再開する。
  • 上記以外で自社が受けると思われる重大な影響(自由記述)

▼人はどうなる?

  • 設備・什器類の転倒、耐震性の低い建物の損壊、倒壊、津波等により、一部の従業員が負傷する。
  • 設備・什器類の転倒、耐震性の低い建物の損壊、倒壊、津波等により、一部の従業員が死亡する。
  • 従業員やその家族の負傷、交通機関の停止等により、一部の従業員が出社できなくなる。
  • 上記以外で自社が受けると思われる重大な影響(自由記述)

▼物はどうなる?

  • 工場、店舗等が、損壊、倒壊、浸水する。
  • 固定していない設備、什器類が移動、転倒する。
  • 商品、備品類が落下、破損する。
  • 仕入先の被災により、部品や原材料等が調達できずに、商品の生産・販売ができなくなる。
  • 上記以外で自社が受けると思われる重大な影響(自由記述)

▼金はどうなる?

  • 工場の生産停止や従業員の出社率の低下により事業が停止してしまい、その間の売上がなくなる。
  • 売上がなくなるため、取引先に対する支払いができなくなる。
  • 会社の運転資金(従業員の給与、賃借料等)と建物・設備等の復旧のための資金が必要となる。
  • 上記以外で自社が受けると思われる重大な影響(自由記述)

▼情報はどうなる?

  • パソコン等の機器類が破損する。
  • 重要な書類、データ(顧客管理簿、仕入先管理簿、商品の設計図等)が復旧できなくなる。
  • 上記以外で自社が受けると思われる重大な影響(自由記述)

BCP策定ステップ4:事前にできる対策を決める

ステップ3を踏まえた上で、それに対して、自社が事前に準備しておける内容を決めておきましょう。

中小企業庁の資料では、経営資源である「人」「物」「金」をどうするかということを決めていきますが、現在では「情報」も非常に重要な資源となるため、それも加えたほうがいいでしょう。

事前対策内容は会社によっても異なるでしょうが、以下に例を掲載します。自社の規模や能力に応じた対策を選んで、記入していきましょう。

人の対策例

①安否確認ルールの整備
携帯電話、SNS、衛星電話、安否確認システムなど。

②代替要員の確保
担当者のサブメンバー決定、会社OB、取引先への依頼、代替要員の事前教育など。

物の対策例

①設備の固定
ボルトによる固定化、設備同士の連結、ベルトでの固定化、アジャスターの設置など。

②代替方法の確保
協力会社の設備確保、同業組合の設備確保、回復用の作業施設を確保、他の製品の設備を転用、別の場所に建設など。

金の対策例

①緊急時に必要な資金の把握
1週間、1ヶ月事業中断した際の損失の計算、必要資金の計算。損害保険の適用範囲の確認など。

②現金・預金の準備
損害保険への加入、共済制度の加入、各種融資の活用、手持ち資金事前確保など。

情報の対策例

①業務資料のデジタル化推進など
紙の資料等をデジタル化、デジタル化された資料については、検索、再利用をよういにするために、データベース化やBIツールへの統合など。

②デジタル化されたデータの冗長バックアップ
会社のサーバークラウドのサーバーなど、サーバーの場所が異なり、同時に被災しない場所での同一データのバックアップ。日次、週次、月次などごとの、自動バックアップシステム構築など。

【事前対策例】

対策範囲 対策内容 何を 誰が いつまでに
人の対策 ①安否確認ルールの整備 携帯電話を用いた緊急連絡網を作り、安否確認 〇〇総務部長 20××年3月31日
②代替要員の確保 担当者のサブメンバー決定 △△人事課長 20××年5月31日
物の対策 ①設備の固定 切削加工機のボルト固定化 ××工場長 20××年2月28日
②代替方法の確保 〇〇株式会社と設備使用契約 ××工場長 20××年6月30日
金の対策 ①緊急時に必要な資金の把握 1ヶ月事業中断した際の損失・必要資金の計算。 〇△経理課長 20××年2月28日
②現金・預金の準備 1ヵ月分程度の事業運転資金の確保 〇△経理課長 20××年2月28日
情報の対策 ①業務資料のデジタル化推進など 顧客データ、人事データ ◯×総務部長 20××年2月28日
②デジタル化されたデータの冗長バックアップ クラウドストレージへの保存 ◯×総務部長 20××年3月28日


(太字は記入例)

より本格的な中小企業のBCP策定のポイント

今回の記事は、BCPの必要性について理解しているものの、なかなかチャレンジできない中小企業の経営者の方に対して、「BCPの入門の入門」という意味合いで、BCPの全体像を理解していただきました。

今後は、特に以下の点に留意しながら、BCPを本格的に作成していきましょう。

最初から完全を目指さない

BCPは、未経験の災害を想定するものなので、予測が難しい点もたくさんあります。すべての不確定要素に対処することは、そもそも不可能です。不完全なものでもよいと考えて、現時点で自社に出来ることを確認しながら策定し、随時ブラッシュアップしていきましょう。

自社の弱みを補完できるような内容とする

BCPは災害時を想定した経営計画ですが、実はBCP対策を作っていく過程で、平常時の業務のムリ・ムダ・ムラが見えてきます。さらに、特定の部署や担当者に業務が集中し、潜在的に社内のリスクとなっていることに気づかされるはずです。

BCP策定の前提としてこれらのことが発見できれば、自社の弱みを補完し、企業体質を改善するチャンスにもなります。

平時の「攻めのツール」としても利用を考える

策定したBCPについて国に申請し、「事業継続力強化計画」の認定を受けると認定マークが付与されます。これにより社会的な信用が高まれば、新規顧客開拓や人材獲得にも結びつくでしょう。

さらに、日本政策金融公庫の低利融資や信用保証協会の保証拡大、ものづくり補助金の審査優先化など、経営そのものを攻めに転じさせるメリットがあります。

専門用語を知らない経営者でもBCPは作成できる

ところで、BCP作成にはどのような知識が求められるのでしょうか? 実は、BCPにかんする専門的な資格として、事業継続推進機構(BCAO)が主催・認定する、3段階の「事業継続管理者資格」があります。

  • 事業継続管理者
  • 事業継続准主任管理士
  • 事業継続主任管理士

の3種です。

ただし、この資格を持っていなければ、BCPを作成してはいけないという決まりはありません。もし興味があれば、勉強をしてみることは、経営者としての知見を深めることになるとは思いますが、必須ではありません。

本記事のBCP策定のために参照した作成資料

BCP作成にあたっては、多くの団体が、資料や書籍、テンプレートなどを作成しています。本記事では、中小企業のBCP作成に際してもっともよく利用されていると思われる以下の資料を参考にして、作成しています。

本記事で基本的なBCPを策定した後は、これらを参考により本格的なBCP策定を進めていくのもよいでしょう。

「中小企業BCP策定運用指針」(中小企業庁)

https://www.chusho.meti.go.jp/bcp/

中小企業庁が提供するBCP関連資料です。入門、基本、中級、上級の4コースにわかれているため、段階を踏んでレベルアップできるようになっているのが最大の特徴です。

事前のセルフチェック表が充実しており、用語解説や財務診断などあらゆる要素をカバーしています。また、基本的な悩みに答えるQ&A集や、中小企業を対象にした事例なども豊富です。BCP策定用のテンプレート用意しており、Microsoft WordやPDF形式などの形でダウンロードできるようになっています。

「東京商工会議所版 BCP策定ガイド」(東京商工会議所)

https://www.tokyo-cci.or.jp/survey/bcp/file/bcp_130314a.pdf

「事業継続計画書(BCP)様式」だけではなく、「事業継続戦略(BCS)様式」が用いられている点が特徴です。事業継続戦略(BCS)とは、災害を予測した上で、いかに対応するかを経営戦略レベルで考えるものです。

「中小企業BCP策定運用指針」よりも、やや高度で、中堅規模の企業に向いた内容です。

まとめ

記事中でも触れたように、最初から完全なBCPを策定することはできませんし、またその必要もありません。しかし、BCPがないのと、不完全なものでもそれがあるのとでは、有事の際に大きな差が出るでしょう。

ぜひ本記事をきっかけにして、多くの中小企業でBCP策定に目を向けていただきたいと願います。

今回の記事をもとに、かんたんにBCPのひな形ができる、BCP策定のワークシートをご用意しました。こちらから無料でダウンロードし、実際に印刷してお手もとで記入しながら、自社のBCPを策定してみてください。

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