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建設業のメンタルヘルス対策 建設業特有のストレス要因と対処法を解説

From: 中小企業応援サイト

2023年02月03日 06:00

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建設業の若手育成&社員のメンタルヘルスを守るために必要なことチェックリスト
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建設業は、体を酷使して働く現場仕事のイメージがあります。肉体的にキツい、あるいは危険な仕事といったことは連想されやすいですが、メンタルヘルスの問題とは結びつきにくく感じられるかもしれません。

しかし、建設業でもメンタルヘルスの問題は生じますし、それを放置することは、いわゆる「不安全行動」につながる恐れがあります。建設業でもっとも避けなければならない、現場での事故にもつながりかねません。現場の安全という観点からも、メンタルヘルス問題は軽視できないのです。

本記事では建設業におけるメンタルヘルス問題の現状、および対策について見ていきます。

建設業におけるメンタルヘルス問題の状況

各種の統計データによると、建設業は全体として見ると、他産業と比べて比較的ストレスが少なく、メンタルヘルスの問題が発生しにくい業界だということが示されています。
たとえば、厚生労働省が発表している「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)」にある、「過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者または退職した労働者がいた事業所の割合」を見ると、該当労働者がいた事業所は全産業で9.2%であるのに対して、建設業では5.6%と、かなり低い割合になっています。

※出典:厚生労働省「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)」

また、労働安全衛生法において規定されている「ストレスチェック」を、企業から請け負って実施している民間事業者の公表データでも、おおむね、建設業は低いストレス度が示されています。

しかし、ここで注意しなければならない点があります。それは一口に「建設業」といっても、現場で様々な施工などに携わる現場作業者(職人)と、それを管理するゼネコンの現場監督、あるいは、バックオフィスで管理業務を担う人では、まったく違う職種である点です。
調査データではそれらの多様な職種の人たちが「建設業」と一括りにされてしまうという点には注意しなければならないでしょう。

また、厚労省の「労働安全衛生調査(実態調査)」においても、全産業平均より低いとはいえ、5.6%の事業所において、過去1年間にメンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者または退職した労働者がいたというのは、決して無視できるほど小さい数字ではありません。

建設業におけるストレスの要因

メンタルの不調は、主に、長期間にわたって強いストレスにさらされることにより生じます。では、建設業において、強いストレスとなる要因には、どのようなものがあるでしょうか。
上述のように、関わる立場によっても変わるのですが、ここでは主に中小のゼネコン(施工管理、現場監督)を想定して考えます。

工期厳守であり、かつ、外的な不確定要素が大きい

建設業における業務は長期間にわたるプロジェクトで、厳密な工期管理が求められます。それは単に顧客からの要求があるためではなく、工期の短縮が自社の利益と直結しているためです。中小のゼネコンの場合、大手ゼネコンの下請けとなる場合もあり、元請け企業から厳しい工期を要求されることもあります。

その一方で、工期は、天候、自然災害、地中埋蔵物など、事前に想定できない外的要因の影響を大きく受けます。完工近くの段階で想定外の長雨が続いただけで、その後の期間短縮が求められ、現場管理者には大きなストレスとなります。

上記に起因する、不規則な長時間労働、休日出勤などが多い

納期が近くなっても工事が遅れ気味であれば、連続の休日出勤、長時間残業などが強いられます。また、自分も長時間労働をしている上に、現場に入っている協力会社の人たちにも長時間労働をお願いしなければならないなど、気を使う場面が多くなり、ストレスが増えます。

現場は閉鎖的な人間関係で、「縦社会」の古い文化が残っている。

建設業の中高齢の社員には、縦社会の規律を重んじる考え方や、「仕事は見て覚えろ」といった、悪い意味での職人気質を持っている人が少なくありません。現場での人間関係が閉鎖的で、ひとつの現場に配属されれば、相性が悪い人とも、工事が終わるまでずっと一緒に仕事をしなければなりません。若い世代にとっては、大きなストレス要因になることは想像に難くありません。

建設業でメンタルヘルスの問題が発生することのリスク

次に、建設業において、メンタルヘルス問題を抱えた社員が出てしまうことによる経営的なリスクについて確認しましょう。

人材不足が生じ、最悪の場合、現場が止まってしまう

メンタル不調により休職、あるいは退職となる社員が出れば、当然、そのぶん人手が不足することになります。メンタル不調に陥りやすいのは特に若手社員であり、現在の求人難時代に、貴重な若手社員が離脱してしまえば、大きな打撃となるでしょう。

また、万一、現場監督をしていた社員が、メンタル不調により、ある日突然出社できなくなり、連絡も取れないといったことになれば、数日間は現場が止まってしまうかもしれません。もし納期間際であればフォローをするのも大変ですし、経済的な損害も大きなものになるでしょう。

不安全行動、ヒヤリハットが増える

メンタル不調になり不眠が続いたり、高ストレス状態になったりしていると、出社することができたとしても、判断能力がにぶります。それは、不安全行動につながる恐れがあります。

実際、建設業労働災害防止協会が実施した「建設現場における不安全行動・ヒヤリハット体験に関する実態調査」によると、高ストレス・不眠の者はそうでない者と比べて、労働災害につながるおそれのある「ヒヤリハット」体験が約1.2~2.0倍高いというデータが示されています。

建設業におけるメンタルヘルス対策は、不安全行動防止、ひいては労災防止の意味も持つのです。

※出典:建設業労働災害防止協会「建設現場における不安全行動・ヒヤリハット体験に関する実態調査」

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建設業の若手育成&社員のメンタルヘルスを守るために必要なことチェックリスト

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建設業のメンタルヘルス対策1:業務面での対策

建設業におけるストレス要因には、工期厳守の問題が大きく関わっています。そこで、この点への対応を考えることが、メンタルヘルス対策としても重要になります。

まず、工期は顧客が指定するものであり、受注側のゼネコンがそれ自体を調整することはできないことが前提です。そこでポイントとなるのは、2点です。

ノウハウの蓄積と共有

1点目は、社内で工期対応ノウハウの蓄積と共有を進めることです。たとえば「社内大学」のような形で、ベテラン社員から、若手社員へ、ノウハウを継承する公式な研修を定期的に実施しているゼネコンも増えてきています。

工期遅れが生じそうなトラブルに、若手の現場監督が直面した場合に、無事に乗り越えられた事例の知識があれば、精神的な負担はずっと軽くなるでしょう。
また、属人的、潜在的なノウハウを、組織的、顕在的なものにしていけば、平時においても工期の前倒しにつながり、工期に余裕部分を作りやすくなるかもしれません。その余裕がメンタルヘルス対策にもなります。

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早めの人材手当

もし、なんらかの想定外の事態が生じて、現場での負担が大きいと思われる場合は、早めに増員を実施することも大切です。もちろん、増員にはコストはかかりますが、過重な負担をかけることで、メンタル不調が生じてしまうよりはよいでしょう。

建設業のメンタルヘルス対策2:組織、制度面での対策

縦社会、閉鎖的な現場という環境を意識的に変えて、コミュニケーションを活性化させた風通しのよい組織風土にすることも、メンタルヘルス対策につながります。

失敗をオープンにできる風土を作り、トラブルが起きた場合に迅速にフォローできるようにする

建設業では、たとえば資材の発注ミスなどの業務上のミスが生じると社内外の多くの人に迷惑がかかるため、ミスを報告することは非常に大きなプレッシャーとなります。

ある会社では、部下が仕事でミスをしたという報告をしたとき、上司は「ありがとう」とお礼を述べるそうです。もしミスを報告した部下を厳しく叱れば、部下はミスを報告したくなくなり、ミスを隠したりごまかしたりしたりするようになります。するとそれが、より深刻な事態を生む恐れがあるため、できるだけ早期に、正確に報告をしてもらうための対応です。

ミスは誰にでもあります。それに対して必要以上のストレスを感じることなく、オープンにできる風土を作れば、メンタルヘルス対策にもなります。

「縦、横、斜め」にコミュニケーション経路を増やす

建設業は、職人的な面が強いため、どうしても徒弟的な「縦の関係」を重視する組織になってしまいがちです。そこで意識的に、「横」と「斜め」のコミュニケーション経路を作って、「縦、横、斜め」のコミュニケーションが取れるようにしておくことも大切です。
「横」は、同僚ですが、たとえば現場が違う同僚が集まれる飲み会や、カラオケ会、バーベキュー会などのイベントを、会社主催で頻繁に実施するのはよい方法です。

また、「斜め」というのは、他部署や他現場の上司などとの交流です。たとえば、職務上の疑問や悩みがあり上司に教えてもらいたいけれど、上司とのソリがあわないために聞きにくいというようなときに、他部署や他現場の上司に気軽に相談できる経路を作っておくことは、とても有効です。グループウェアなどをうまく活用して、全社的なコミュニケーション経路を作りましょう。

建設業のメンタルヘルス対策3:メンタル不調の社員がいたら

メンタル不調に対しては、身体の病気と同様に、早期に発見し、早期対応を取るが大切です。

社内と現場の両方でストレスチェックを実施して、問題を早期発見する

現在、労働安全衛生法で、常時50名以上の労働者(パート、派遣含む)を使用する事業場には、労働者に対して定期的なストレスチェックを実施することが義務付けられています。また、「建設工事従事者の安全及び健康の確保の推進に関する法律」にも、建設工事従事者のメンタルヘルス対策に、事業者が自主的に取り組む必要性が明記されています。

50名未満の事業所では、法定の義務ではないものの、メンタル不調が発生することによる経営リスクを考えると、可能な限りストレスチェックを実施したほうがよいでしょう。
また、社員だけではなく、建設現場における現場従事者のストレス管理も、安全管理上に結びつく重要な要素になります。

現場従事者のストレス管理では、建設業労働災害防止協会(建災防)が用意している建災防方式健康KYと無記名ストレスチェックを利用するのがよいでしょう。これは、建設工事現場での使いやすさを考慮された健康、メンタルヘルス管理ツールです。

現場を変えることを検討

現場の閉じた人間関係がメンタル不調の要因となっている場合、担当現場を変えることで、解決する場合があります。
また、場合によっては、現場監督業務から、バックオフィスでの管理業務へと配置換えをすることも効果的です。
もちろん、医師の診断があり、本人が希望する場合は、一定期間の休職も必要です。

産業医を活用する(地域産業保健センターへ相談)

建設業において、常時使用する労働者が50名以上の事業場においては、安全管理者、衛生管理者、そして産業医の選任が必要となります。これは法定ですので、設けなければなりません。一方、社員が50名以下の会社は、法定の義務もないことから、産業医による診断を受けていない会社が多いでしょう。

そういう小規模事業者に、無料の産業保健サービスを提供しているのが、独立行政法人 労働者健康安全機構が運営する「地域産業保健センター」です。無料で利用できるので、最初はここに相談してみるとよいでしょう。

地域産業保健センター

まとめ

建設業のメンタルヘルス対策は、なによりも大切な「安全」に結びつくものであるため、決して軽視できません。
また、現場監督などを担う自社の社員と、社外の現場従事者の両方に対して配慮しなければならない点にも注意しましょう。

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鶴田隼人氏の顔写真

監修

鶴田隼人(つるたはやと)

株式会社船井総合研究所 建設支援部 マネージング・ディレクター
建設・不動産業界に特化した経営コンサルティングを行う。建設部門では、倉庫・工場建築の受注促進等民間事業の業績アップが得意。また若手社員の定着・育成の仕組み構築や、SDGsを主軸においた組織活性化も手掛ける。

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記事執筆

中小企業応援サイト 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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