福祉業(介護)

福祉介護業の若手育成 業種ならではの視点で若手育成のポイントを解説

From: 中小企業応援サイト

2023年02月01日 06:00

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福祉介護業の若手育成&社員のメンタルヘルスを守るために必要なことチェックリスト
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福祉介護業界には、上場企業が運営している全国展開の介護施設もあります。そのような大手はもちろんのこと、地場で1施設~数施設程度を運営している中小の施設では、恒常的に人手不足が続いていることが一般的です。

そのためどの施設でも、せっかく入社してくれた若手人材には、しっかり仕事を覚えてもらい、ベテラン職員として長く働いてもらいたいと考えるはずです。しかし、適切な環境を整えないまま、人に職務をつけていくことは、若手に無理なプレッシャーを与えて、かえって若手の育成を阻んでしまうこともあります。

本記事では福祉介護業の現状や特性を踏まえた若手職員の育成について考えていきます。

福祉介護業の採用市場、定着の現状

現在、我が国では、労働人口(生産年齢人口)の継続的な減少により、産業全体で人手不足状態が続いています。中でも福祉介護業は、平均以上に人手不足状態の強い業種です。

2022年6月現在、全業種の有効求人倍率が1.19倍(※)であるのに対して、介護サービスの職業(介護施設職員など)では3.52倍(※)と、大幅に高くなっています。

有効求人倍率とは、大まかにいうとハローワークに登録されている求職者に対して、求人件数がどれだけあるかという倍率です。これが3.52倍ということは、介護サービスの職業に就きたいと望む求職者が100人いるとき、それに対して352社が募集をしている状況だということです。かなりの「売り手市場」となっていることがおわかりいただけるでしょう。

※厚生労働省「一般職業紹介状況」令和4年6月分より。いずれも実数値。

福祉介護業の離職率は高い

売り手市場の状況下で、すでに介護職で働いている職員、特に介護福祉士をはじめとした資格を取得している働き手であれば、「いまの施設を辞めても、いつでも他の施設に転職できる」という気持ちが生じやすくなることは、容易に想像がつきます。

実際、福祉介護業の離職率は、全業種の平均と比べても高い水準をキープしています。
ただし、公益財団法人介護労働安定センターの調査によれば、介護業界における離職率は年々低下傾向で推移しています。

※出典:公益財団法人介護労働安定センター「令和2年度 介護労働実態調査」

採用面においては基本的に売り手市場であり、定着という点では、他業種と比べ高い離職率の水準が続いているのが、福祉介護業の人材市場の概況です。

福祉介護業において若手社員が辞めてしまう主な理由

福祉介護業では、資格保有者なら比較的転職しやすい状況があるため、職場に不満があれば、我慢して働き続けるより退職して転職することを選ぶ人が増えます。では、福祉介護業において、どんな不満が離職に結びつくのでしょうか。

業務負担のバラツキ、一部職員への過重負担

介護施設では、「業務に対して人をつける」という考え方ではなく、一人がなんでもやるという「人に対して業務をつける」考え方で運営している場合が多くあります。

そうすると、さまざまな業務にうまく対応できる有能な人ほど仕事が増えていき、負担が集中することになりかねません。そこから、職員間での業務量にバラツキが生まれ、責任感が強い真面目な人であればあるほど過重労働となり、結果として疲れて辞めてしまうことにつながります。

経験の少ない若手にかかるプレッシャー

介護業は「人」を直接扱う仕事であり、しかも、高齢者や身体の弱った人を相手にしなければなりません。事故などが起きれば、利用者の生命や健康にかかわる問題になります。それを背景として、新卒で採用された若手職員の場合、まかされる業務の質量がいきなり増えると、責任の重さから強いプレッシャーを感じて退職してしまうという場合もあります。

たとえば、いきなり1人で夜勤をまかされるといったことです。人によっては、それをプラスに感じて、むしろ積極的に取り組む場合もありますが、逆にプレッシャーが大きすぎて離職に結びついてしまう場合もあります。

給与が低い

福祉介護業は、男性職員のいわゆる“寿退社”(結婚を機とした退社)が多いといわれています。これは、家庭を持って子どもを育てていくには、給与水準が低すぎることが多いためです。そこで、若手の男性職員が一定の年齢になると離職しやすくなります。ただしこの場合は他業種への転職となるでしょうから、上記とはやや事情が異なります。

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福祉介護業の若手育成&社員のメンタルヘルスを守るために必要なことチェックリスト

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福祉介護業で人材を定着させる前提となる業務運営改善

介護報酬制度と各種の規制のもとで運営される福祉介護業では、現状の施設規模のままで売上を増やすことは困難です。コスト圧縮など、利益率には改善できる要素もあるでしょうが、それも限界があります。そのため、職員の給与を大きく引き上げることは、現実的には困難です。

そこで、給与面以外で、いかに待遇を改善したり、働きやすい職場環境を整えたりするのかが、福祉介護業での人材の定着・育成のためのポイントとなります。

たとえば、業務中の休み時間を予定通り取れるようにする、好きなときに有給休暇を取得できる、職員間の業務負担のアンバランスを無くす、その人の育成段階に応じて過度な心理的な負荷を与えない、といったことです。

施設運営と人材育成を切り離して考える

そのためにもっとも基本となるのは、施設運営と人材育成を切り離して考えることです。これは、人材の育成を施設運営の前提にしないということでもあります。

人材の育成には時間がかかります。また、キャリアプランを用意して人材育成を図るにしても、必ずしもその計画通りに進むとは限りません。たとえば、介護福祉士の資格取得は入社後3年目というキャリアプランにしていたとしても、人によっては、4年、5年とかかる場合も当然あります。

業務内容でも同様です。たとえば、「入社半年後までには生活援助がすべてできるようになっており、1年後までには、食事介助、入浴介助、排泄介助の3大介助が1人で一通りできるようになっている」、というキャリアプランを立てているとします。そういったキャリアプラン自体は必要なことです。

しかし、それができていることを前提に施設運営の体制やスケジュールを作ってしまうと、実際にできない場合、人手が足りないということになり、先に述べたような過重労働や負担のバラツキ、プレッシャーなどの問題が生じることになります。

そこで、計画通りの人材育成を前提にして施設運営を考えるのではなく、両者を切り分けられるような業務のあり方を作ったほうがいいということです。

業務設計、工数管理を徹底して、業務に対して人をつける考え方をとる

施設運営と人材育成を切り離して考えるためには、どういう業務を何人でやらなければならないのかという業務設計をおこない、さらに各業務の工数を管理して、育成レベルがどの段階の人でも、なんらかの工程を担える体制を作ることが必要です。

たとえば、身体介助できない人でも生活援助の一部ができるとか、送迎業務ならできるでしょう。あるいは身体介助の全部はできなくても、一部ならできることもあるでしょう。

そこで、業務の工程を細かく分解して、この業務ができる人は、AさんとBさん、この業務ができる人はCさんとDさんという具合に、業務に人を割り当てていくようにします。そうすれば、日々の施設運営は施設運営でしっかりおこない、それとは別に育成は育成でその人のペースで無理なく進めていく、ということができるようになります。

ところが、実際には多くの施設では、一定期間に達した人は全員、すべての業務ができるはず、あるいはできることを求めるという、人に業務をつける考え方がとらえています。それが実態と乖離していることが、先に述べたような問題の背景となるのです。

福祉介護業で人材を育成するために必要な育成制度の考え方

最後に、福祉介護業での人材育成に必要なキャリアパス制度、人事評価制度について確認します。

キャリアパス制度、教育・研修がなければすぐに導入を図る

許認可業である福祉介護業では、他業種と比べれば、職員のキャリアパス制度が整備しやすい環境があります。

未経験の新卒で入社後、業務経験に応じて、介護職員初任者研修、介護福祉士実務者研修、介護福祉士、認定介護福祉士などとキャリアアップしていくための各種の資格制度が細かく用意されています。それにあわせて、各資格取得を基準とした教育・研修教材なども豊富に存在します。

また、介護報酬制度においては、介護職員処遇改善加算の中でキャリアパス要件が定められており、キャリアパスを整備していれば報酬が加算されます。

そういった背景があるため、すでに各種資格を基準としたキャリアパス制度やそれに応じた教育・研修制度を導入・整備している施設が一般的なのです。

これは逆にいうと、現在、施設においてキャリアパス制度や教育・研修計画制度などが導入されていなければ、若手人材から見て大きく見劣りするということです。もし、未導入の施設であれば、早急に導入を検討すべきです。

人事評価制度は適正に運用する

福祉介護業においては、キャリアパス制度が導入・整備されていれば、それにあわせて人事評価制度も設けられていることが一般的です。

ただ、制度はあっても、それが正しく運用されていないということは、よく見られます。たとえば、新卒採用者の場合は、人事評価制度のテーブルに沿って資格等級に応じた昇給をしているのに、中途採用者については、保有資格の等級に関係なく、前職場の給与水準をベースにして給与を決めてしまうといったことです。

こういった恣意的な運用がおこなわれていると、新卒で採用した若手人材のモチベーション低下の要因となり、離職に結びつきかねませんので注意してください。

まとめ

福祉介護業では、ロボットやAIの導入も少しずつ試みられているとはいえ、多くの業務は今後も人が担わざるをえないでしょう。また、人員配置基準もあることから、人材に定着してもらうことが非常に重要です。そのためには、まず業務設計や工数管理をしっかりおこない、人に対して業務をつけるのではなく、業務に対して必要な人をつけていくという発想で、業務設計を整えることがポイントとなります。

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沓澤翔太氏の顔写真

監修

沓澤翔太(くつざわしょうた)

株式会社船井総合研究所 地域包括ケア支援部 マネージング・ディレクター
デイサービス、特別養護老人ホーム、有料老人ホームなど介護事業所に対して、新規開設、収支改善、業務改善などのコンサルティングを実施。著書『人が集まる! 定着する!明るい介護職場づくり』(自由国民社)他。

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記事執筆

中小企業応援サイト 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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