建設業の若手育成 建設業ならではの視点で若手育成のポイントを解説
2023年02月03日 06:00
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建設業は非常に裾野の広い産業です。まず、スーパーゼネコンと呼ばれる超大手企業5社があり、サブコンと呼ばれる準大手が多数あります。また、海洋専門のマリコン、化学プラント建設や住宅建設など、各分野に特化した企業もそれぞれ活躍しています。さらには地場の建設会社やハウスメーカー、工務店、設計事務所、一人親方と呼ばれる個人事業者まで、非常に多くの企業、個人事業主が関連しているのが建設業界の特徴です。
今回はそれらの中でも、地場の中小ゼネコンを対象に、若手育成のヒントをまとめます。
「3K」のイメージから厳しい状況にある建設業の若手採用
上述のように、ひとことで建設業といっても幅広い企業や職種が含まれます。ゼネコン社員の業務は、基本的には現場の所長や現場監督などの管理者、あるいはその補佐であり、いわゆるプロジェクトマネジメントが中心業務となります。
しかし、一般的には建設業と聞くと、現場での肉体労働、悪くいえば「3K職場」というイメージを持たれることが多々あります。また、実際に現場の業務には3K的な要素もあるでしょう。
そのイメージがあるため、建設業界は、就職先、転職先としての人気ランキング調査などでも、人気が高いとは言い難い状況です。
若手人材の採用のためには、正しいイメージを伝えることがポイント
建設業において優秀な若手人材の採用を増やすためには、自社や建設業の正しいイメージを伝え、求職者が持つイメージを変えてもらうことが必要です。
ところが、中小の建設業者は公共事業や大手ゼネコンからの受注を主とするBtoBビジネスであるため、一般消費者を顧客とするサービス業や小売業のようなイメージ発信、ブランディングに長けていない場合が多いのです。自社Webサイトにも、必要最低限の会社情報程度しか記載していないこともあります。しかしそれは採用においては、大きなマイナス要素です。
“3K”イメージを持たれがちな建設業だからこそ、それとは異なる業務もある自社の実態を正しく伝えてより良い印象を持ってもらうため、採用専用Webサイトを作成することや、SNSでの情報発信などは必須になると考えてください。
たとえば、下記のような実態があるのなら、積極的にアピールをしたほうがいいでしょう。
- ドローンを飛ばして測量データを集めて、3Dでのモデリングをするといった、ICTを活用した業務もおこなわれている
- 女性社員も、男性と同様に活躍している
- 文系学部卒業社員などでも、技術者として働いている
- 転職者においては、他業界から転職した未経験者でも活躍している
- 社内勉強会などを開催して、専門知識、専門技術、資格などの取得機会を積極的に設けており、成長が望める職場である
どういった点が求職者から好印象を持たれるアピールポイントになるのかは、経営層にはなかなかわからないこともあります。経営層が「ここが我が社の良いところだ」と考えているポイントと、若手世代が求めるポイントにギャップのあることもよくあります。
そこで、アピールポイントを抽出して発信する際には、求職者と同世代の若手社員に担当させるのも良い方法です。
建設業で若手人材の離職が生じる背景
せっかく採用した若手人材にすぐに辞めてしまわれては、会社にとって大きな損失です。
それを防ぐためには、まずどうして若手社員が辞めてしまうのか、その背景を理解する必要があります。
一般的に、建設業では、時間外手当が多額になることもあり、給与水準は他業界と比べて高く、給与面での不満が離職理由になることは少ないものです。それよりも、下記のような理由での離職が、若手社員には多く見られます。
工期管理のプレッシャー
いうまでもなく建設業の現場管理では工期厳守が絶対の目標になり、また、予定よりも工期を短縮できればそれだけ経費が削減でき、利益増加に結びつきます。
その一方、建設現場には計画通りの進捗を阻む不確定の要素が数多く発生します。天候不順が続くこともあれば、現場作業員が大きなミスをすることもあるでしょう。
原因がなんであれ、進捗遅れが発生した場合、残業や休日出勤、あるいは増員などなんらかの方法でそれを取り戻し、納期を厳守しなければなりません。そしてそれは、現場担当者の責任になります。
大小のトラブルが生じた場合に、それを処理しながら工期管理をしなければならないプレッシャー、実際に残業、休日出勤などが続くことなどは、経験の少ない若手社員には心身に過重な負担をもたらし、離職の背景となります。
現場の人間関係
建設現場は、短くても数か月、長ければ1年以上続きます。若手人材が現場に入ると、その期間の最初から現場所長や現場監督の下で働くことになり、それ以外の人間関係ができません。
そして、昔ながらの建設業で叩き上げの現場監督には職人気質の人も多く、「仕事は背中を見て覚えろ」といった具合に、懇切丁寧な説明をしてくれないタイプの人や、気難しいタイプの人も少なくありません。
建設現場の閉鎖的な人間関係の中で、上司となる所長や監督とのソリがあわないと、若手は辛くなっていきます。上司と、下請けの工務店や現場作業員との間に立たされて、いわゆる「板挟み」の状態となっても、その悩みを打ち明けられる人が現場にはいなければ、なおさらでしょう。
そのような狭い現場で閉鎖的な人間関係が長期間続くことも、若手社員の退職の背景となります。
建設業の若手育成&社員のメンタルヘルスを守るために必要なことチェックリスト
建設業ならではの視点で、若手育成のポイントと、社員のメンタルヘルスを守るためのポイントをチェックリスト形式にまとめました。ぜひ職場環境改善のヒントにしてください!
「社内大学」による若手人材育成
最近は、「社内大学」あるいは「社内アカデミー」などと名付けて、全社的な教育・研修制度を実施する中小の建設会社が増えています。
これは、社内のベテラン社員、中堅社員から「講師」を選定し、テキストを作成して講義形式で教育をするというものです。受講者は必ずしも若手人材に限らず、全社員が受講できるようにする場合もあります。
コロナ前は、会議室などで実施されるものでしたが、今はZoomなどを使ってオンラインで実施し、本社に集まらなくても現場からでも参加できるようにするのが一般的です。
社内大学のメリット①属人的ではない教育により全員が平均以上のレベルに成長できる
社内大学を実施することにはさまざまなメリットがあります。
若手の育成という観点でいえば、属人性を排して、誰でも平均的に技術や知識のベースが得られるという点があげられます。
これまでの建設業における若手教育の主流は各現場での上司によるOJTでした。しかしOJT一本槍だと、教える上司自身の業務能力、また教育能力やコミュニケーション能力によって、若手育成のスピードや水準のバラツキが大きくなります。業務能力が高く、しかも教えることが上手な上司にあたれば、育成スピードは速く、水準も高くなりますが、逆のタイプの上司にあたった若手は、なかなか成長できないことになります。
上述のように、建設現場では閉鎖的な人間関係となるため、直接の上司以外の人からの教育・指導を受けることも困難です。
一方、テキストを作成し、全員が同じ社内大学で教育を受けられる制度とすれば、教育内容のバラツキはなくなり、若手人材の全員が平均水準以上のレベルに、同様の速度で成長していけます。
社内大学のメリット②経験の共有により、トラブル対応が容易になる
「工期管理のプレッシャー」は、特に若手社員に対しては重くのしかかり、離職の背景となります。
工期遅れにつながるトラブルが現場で生じたとき、過去に同様のトラブルを乗り越えた経験を多数持つベテラン社員なら、対処法やその後の展開のメドがつくため、さほど大きなストレスにはつながらないでしょう。しかし経験の浅い若手は、多くが未知のトラブルとなるため、非常に大きな不安やプレシャーを感じるのです。
そこで、社内大学を通じて、過去にどんなトラブルがあったのか、それをどうやって乗り越えたのか、どのようにすれば遅れた工期を短縮できるのか、といったベテランの経験、ノウハウを共有します。すると、若手人材が現場でトラブルに直面したときでも、学んだ経験によって不安やプレッシャーは大きく減少するでしょう。結果として、離職率の低下にもつながります。
社内大学のメリット③ノウハウが全社的に共有、承継できる
経験の共有は、若手社員だけに役立つものではありません。中堅、ベテラン社員であっても経験していない事例はたくさんあるはずです。また、技術や工法の進歩、環境変化などの時代変化による新たな問題の発生などもあるでしょう。社内大学の実施により、そういった経験、知識が全社的に共有できます。
建設業は、比較的高齢人材が多い業種であり、今後10年以内程度でその高齢人材が大量に退職を迎えます。その際に問題となるのが、技術やノウハウの承継です。それらには、属人性が高いため共有されていないものや、組織的なものではあっても形式化されていない、いわゆる「暗黙知」と呼ばれる状態のものも多く存在します。
社内大学を実施するためには、テキストが必要となり、その作成の過程で属人的、暗黙的な技術やノウハウが形式知として顕在化され、承継を容易にするというメリットがあるのです。
社内大学のメリット④教える側にも気づきやスキル向上が得られる
社内大学では、講師となる社員が中心となってテキストをまとめ、講義をします。その準備や実施には労力がかかりますが、一方で、それを通じて、講師をする社員自身にも新たな気づき、発見が得られ、技術やノウハウの向上に結びつきます。教えられる側だけではなく、教える側にもメリットがあるのです。
社内大学の始め方
社内大学と聞くと、準備や実施が大変なのではないかと思われるかもしれません。専門の研修会社がおこなうような講義をしようと思うと大変ですが、社内で社員のために実施するものですから、できることから「スモールスタート」で始めればいいのです。
たとえば、最初は10~15分程度の講座でもいいでしょう。そして、やってみて気づいた点や受講者からの質問などがあれば、それを踏まえて、少しずつ充実化していけばいいのです。
視野を広げるキャリアパスとコミュニケーション施策で育成を図る
建設現場の閉鎖的な人間関係の中で、入社直後の若手社員は、最初に配属された現場の所長を絶対的な存在として感じます。「所長に嫌われたらおしまいだ」くらいに思い詰めてしまう場合もあり、最悪の場合は離職に結びついてしまうのです。
若手人材の離職を防ぎ育成を図るには、若手の視野を広げるような施策が必要です。
キャリアパスで将来への視野を持たせる
若手の視野を広げるためには、まず、明確なキャリアパスの提示が大切です。3年目にはこんな仕事をしている、5年目には施工管理技士の資格を取得している、10年目には所長になっているといった、自社内でのキャリアパスのプロセスを明示します。
それにより、若手に「今いる現場は、長いキャリアパスの一過程だ」と気づいてもらうことができます。
中堅、ベテラン社員にとっては、会社に勤め続ければステップアップしていくことは当たり前だと感じられるかもしれません。しかし、新入社員にはそれが見えません。モデルケースなども含めて、明確かつ具体的にキャリアパスを示し、自分の成長や将来に向けた展望を感じてもらえるようにすることは非常に重要です。
「縦・横・斜め」のコミュニケーションが取れる環境を整備する
現場所長などの直属上司以外とのコミュニケーション機会を、多く用意することも重要です。
たとえば、現場所長よりも上の役職者との面談機会を定期的に設けるということでもいいでしょうし、「メンター」的な役割の先輩社員をつけてみるといったこともいいでしょう。もちろん、飲み会や食事会などを実施するということでもいいでしょう。社員の誕生日ごとに、同僚でちょっとしたイベントをする会社もあります。イベントなどは、会社の社風や社員によっても向き不向きがあり、一概に何がいいとはいえませんが、実施による効果は確実に得られます。
また、業務日報も重要です。口頭では話しにくいことでも文章でなら伝えられるということがあります。グループウェアなどのツールを用いて業務日報を公開、共有できるようにしておき、直属の上司はもちろんですが、他部署の上長、先輩や同僚などからもコメントできるようにしておき、多面的なコミュニケーションの基盤を用意します。
このような多様なコミュニケーション施策により、建設現場では上司・部下の「縦」のコミュニケーションに限られてしまうものを、「縦・横・斜め」のコミュニケーションも可能にすることで、若手人材の視野を広げ、閉塞感を払拭します。
現場の異動や配置転換を実施する
上記のような施策を講じた上で、なお若手人材が現場の上長との軋轢に悩んでいる場合は、別の現場への配置転換、あるいは、現場業務から内勤業務への異動を実施しましょう。「誰もが通る道だから、もうちょっとがんばれ」などといって、我慢させることはいい結果を生みません。
まとめ
建設会社のベテラン、中堅社員には、職人気質の人も多いでしょう。そういった人に属人的な若手育成を任せていると、さまざまな弊害が生じることがあります。「会社として、若手人材にどう育ってほしいのか、そのために何をするべきなのか」は、やはり経営トップが判断し、実行すべき事項です。
長期的な視野に立った若手人材育成のために、本記事をヒントにしてください。
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監修
鶴田隼人(つるたはやと)
株式会社船井総合研究所 建設支援部 マネージング・ディレクター
建設・不動産業界に特化した経営コンサルティングを行う。建設部門では、倉庫・工場建築の受注促進等民間事業の業績アップが得意。また若手社員の定着・育成の仕組み構築や、SDGsを主軸においた組織活性化も手掛ける。

記事執筆
中小企業応援サイト 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
全国の経営者の方々に向けて、経営のお役立ち情報を発信するメディアサイト。ICT導入事例やコラム、お役立ち資料など「明日から実践できる経営に役立つヒント」をお届けします。新着情報はFacebookにてお知らせいたします。
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