いまこそ進めよう!中小企業にESG経営を!
2023年02月24日 06:00
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SDGs(持続可能な開発目標)、ダイバーシティ(多様性)の推進、環境問題への対応など、新たな取り組みを行うことが課題とされる中、昨今耳目を集めているのが「ESG経営」です。
本コラムでは、「ESGとは何か?」、「ESG経営、SDGsの違い」、「ESG経営を意識すると中小企業の経営にどのような効果があるのか?」などを解説します。
ESGとは何か?
ESG(イーエスジー)とは、環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字です。「ESG」という言葉が広まったきっかけは、2006年に国連のアナン事務総長が投資の意思決定プロセスにESGを組み入れる「責任投資原則」(PRI:Principles for Responsible Investment:国連責任投資原則)を提唱したことが始まりです。責任投資原則とは、投資家として環境、社会、ガバナンスに関して責任ある投資行動をとることを宣言した行動規範で、2008年のリーマン・ショック以降、それまでの短期的利益追求型の経営・投資に対する批判が世界的に高まったことも、ESGの概念が広がる背景にありました。
ESG、SDGs、CSRとの違い
ESGのほかに、SDGs、CSRなどの用語も目にします。一度ここでどのような違いがあるのかを確認していきましょう。
特に、よく出てくる言葉としてSDGs(エスディージーズ)があります。SDGsとは、2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発目標」のことです。 「誰一人取り残さない」という理念のもと、2030年までに「世界の貧困をなくす」「持続可能(サステナブル)な世界を実現する」等を目標に、17のゴールと169のターゲットが設定されています。SDGsが国や国際機関主導による「目標」であるのに対し、ESGはその目標を金融業界・企業主体で実現するための「行動規範」であるといえます。
| 用語 | 説明 |
| ESG (Environment/Social/ Governance) |
環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の要素を重要視して、経営や投資を判断する切り口。 |
| SDGs (Sustainable Development Goals) |
持続可能な開発目標:SDGsは2015 年9 ⽉の国連サミットで採択された2030 年までの国際⽬標で、貧困、飢饉、エネルギー、経済成⻑と雇⽤、教育など様々なテーマについて、持続可能な世界を実現するための目標となっています。 |
| CSR (Corporate Social Responsibility) |
企業の社会的責任:企業や組織の活動は「社会的に存在する上での果たすべき責任」が起点とする考え方。ISO26000などの基準に沿って、社会への関わりとして遵守し活動していく項⽬を規定したものです。 |
ESGが企業経営に与える影響とは?
ESG投資の現状
ESG投資は、財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素も考慮した投資のことを指します。特に、年金基金など大きな資産を超長期で運用する機関投資家を中心に、企業経営の持続可能性を評価するという概念が普及し、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな収益創出の機会を評価するベンチマークとして、国連持続可能な開発目標(SDGs)と合わせて注目されています。
日本においても、投資にESGの視点を組み入れることなどを原則として掲げる国連責任投資原則(PRI)に、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年に署名したことを受け、ESG投資が広がっています。
| PRIの6つの原則 |
| 投資分析と意思決定のプロセスにESGの視点を組み入れる |
| 株式の所有方針と所有監修にESGの視点を組み入れる |
| 投資対象に対し、ESGに関する情報開示を求める |
| 資産運用業界において本原則が広まるよう、働きかけを行う |
| 本原則の実施効果を高めるために協働する |
| 本原則に関する活動状況や進捗状況を報告する |
ESGを意識しない会社はつぶれる時代に!?
日本では2015年9月に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名しました。GPIFは運用資産額約160兆円(2019年度末時点)という世界最大の機関投資家で、投資先の選定にESG重視の姿勢を示したことは投資マネーを呼び込みたい企業にとって大きな転換点となりました。
短期的利益に繋がりにくいとみなされていた環境・社会・ガバナンスの問題は大企業が取り組むものという「付加的な位置づけ」ではなく、機関投資家から投資対象から除外されてしまうリスクであり、「重要な経営事項としての位置づけ」に変わったともいえます。
また、持続可能な投資を促進するGSIA(Global Sustainable Investment Alliance)は、ESG投資手法を7つに分類しています。
当初は、分かりやすいネガティブ・スクリーニングによる方法(武器、ギャンブル、タバコや化石燃料など特定の業界や企業などを投資対象から除外する方法)を採用する投資が多かったものの、最近著しく普及しているのが、ESGインテグレーションという手法です。これは投資の意思決定において、財務情報などの従来の分析に用いられるデータに加えてESGなどの非財務情報を考慮する方法です。このほか、企業との対話や議決権行使を通じて企業にESGへの取組みを促す議決権・エンゲージメントや業界内でESG評価の高い企業を投資対象とするポジティブ・スクリーニング、あるいは持続可能性に関する特定のテーマに投資するサステナブル・テーマ投資なども、ESG投資の裾野は広がってきています。
こうした潮流を意識して会社経営を行うことで、金融機関などの利害関係者の皆さんとの会話が促進され、投資や融資の対象であり続ける一つのオプションになると考えます。
| 7つの分類 | 説明 |
| ESGインテグレーション ESG integration |
財務諸表分析のほか、ESG要素を考慮した投資の意思決定を行う |
| 議決権・エンゲージメント Corporate engagement & shareholder action |
企業との対話、株主提案、議決権行使を通じて、ESGに対する取組みを企業に促す |
| 規範に基づくスクリーニング Norms-based screening |
国際的な規範を満たしていない企業を投資対象から除外する(国連、OECD やNGOなど) |
| ネガティブ・スクリーニング Negative/exclusionary screening |
特定の業界や企業(武器、ギャンブル、タバコや化石燃料等)を投資対象から除外 |
| ポジティブ・スクリーニング Best-in-class/positive screening |
業界内でESG評価の高い企業・プロジェクト等を投資対象とする |
| サステナブル型投資 Sustainability themed/thematic investing |
持続可能性に繋がる特定のテーマ(気候変動、食糧、水資源、エネルギー等)に寄与する投資 |
| インパクト・コミュニティ型投資 Impact investing and community investing |
社会・環境問題解決や地域開発などの社会的課題に対処することを目的とした投資 |
(引用:Global Sustainable Investment Alliance 「GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020」から筆者和訳)
中小企業こそESG経営を意識すべき
機関投資家などのキーワードを目にすると、ESG経営は大企業中心のイメージですが、株式公開していなかったとしても、ESGの視点により、自社固有の長期的な価値創造ストーリー作りなど経営戦略分野での効果や、ESG視点での企業活動により融資、新規顧客開拓、人材採用など企業経営の多くの重要な分野での良い影響を期待することができます。つまり、ESG経営により、社会への貢献を行う姿勢を示し、金融機関、顧客、取引先からの評価と結びつくことで、結果としてブランドイメージや企業価値・信用度が向上し、事業成長にも繋がる基盤になりうるのです。
ESG経営の難しさ
他方で、ESG経営にあたってはさまざまな課題があり、企業として取り組みが簡単ではないという点にも留意しておく必要もあります。
短期間では結果が見えてこない
ESGという視点は、企業が社会に対してどのような貢献を行うかというものです。きわめて長期的な取り組みとなり、短期的な指標で成果を判断することが容易ではありません。施策に対する結果がすぐに得られず、また、フィードバックを得ることにも時間がかかりますので、長期的な取り組みを行う企業体力が必要となると言えます。
そこで、少しでも効果を実感できるように、E(環境)の面で、社内のペーパレス化や資源の有効活用の施策、S(社会)の面で、ハラスメント対策、G(管理)の面で利害関係者との対話を増やすなど、財務面での成果に繋がりにくいかもしれませんが、出来るところから始めるのも一つの手でしょう。
情報公開のハードル
次に、ESG経営に取り組むと表明するだけでも一定の評価を得られるかもしれませんが、明確なESG指標ないため、ESG経営に関する情報公開方法も現時点では、手探りの状況にあります。
ESG経営の事例
ESG経営の事例から、皆様の企業活動のヒントを探っていきましょう。
環境(Environment)
ごみから、資源という新しい価値を生み出す取り組みを行う産業廃棄物業を営む石坂産業株式会社は、再生可能な設計・ものづくりをする社会を目指し、あらゆるごみを資源として循環させ、「ごみ」という概念そのものをなくす「Zero Waste Design」をビジョンとして掲げています。その中で、振動発電の研究開発として、群馬県立産業技術センターと連携。プラント内に設置された破砕機やスクリーンから発生する振動エネルギーを、電力に変える発電装置の研究開発を行っています。発電効率を向上するためにデータ収集・分析を行い、実用化を目指しています。こうした産学連携やクリエイターとのコラボレーションにより、廃棄物の減量化・再資源化率100%に向けた技術開発、「循環」をコンセプトにした、新しいライフスタイルの創造に取り組んでいます。
社会(Social)
「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞で中小企業庁長官賞を受賞した島根電工株式会社は、昭和31年の創業から設備工事業を通じて、地域の発展に貢献してきました。「企業は人を幸せにするために存在する」という考えのもと、大切にするべき1番目は「社員とその家族」、2番目は「取引先の社員とその家族」、3番目は「お客様」、4番目は「地域社会」、5番目が「株主」として、経営の柱としています。そうした方針の下、定期的に老人ホームなどの福祉施設への清掃ボランティア活動や、毎年開催される「日本列島海岸クリーン作戦」にグループを挙げて参加し、山陰の海岸の美しさを守る活動を積極的に実施しています。
ガバナンス(Governance)
日本郵便、かんぽ生命、ゆうちょ銀行を子会社に持つ日本郵政株式会社は、ガバナンス(Governance)における取り組みとして、グループガバナンス、グループコンプライアンス、リスク管理、内部監査、お客様満足の推進を掲げています。顧客からの声を集約・分析し、必要な改善を行うことで顧客が満足できるような商品・サービスなどの提供に取り組み、そのための独自の体制なども構築しています。
まとめ
今回、ESG経営についてご説明をいたしました。ESG経営に取り組むことで、ユーザー、取引先や金融機関などからも注目され、企業のブランド価値の向上にも繋がっていきます。社会にも責任を果たせるESG経営に取り組まれるきっかけになりましたら、幸いです。
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執筆者
小島洋介
中小企業診断士・東京都中小企業診断士協会 城南支部 国際部 副部長
商学修士課程を修了以降、メーカーの海外営業に従事。中小企業診断士登録後は、きらりと輝く知的資産を生かした事業計画の立案支援を実施。創業・海外進出・補助金申請を力強くご支援中。
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