物流関連2法改正で新たに求められる荷主企業の義務と課題
2025年11月27日 07:00
この記事に書いてあること
2024年に物流関連2法が改正され、順次施行されています。この改正は、トラックドライバーの不足などにより生じかねない物流危機の懸念に対し、物流を効率化して、持続可能な物流体制を構築するために実施されたものです。
上記のような物流効率化は、物流事業者の努力だけでは実現できません。そこで、貨物の受け渡しをする荷主企業についても、実効性のある努力義務および義務が課されている点が、今回の法改正の特徴となっています。
本記事では、物流事業者に配送を依頼したり荷物を受け取ったりする荷主に焦点を当て、法改正によって荷主企業に求められている取組についてまとめました。
物流関連2法改正の背景と荷主企業
物流関連2法改正の背景には、以下のような課題と危機意識がありました。
2024年4月以降、トラックドライバーの時間外労働が年間960時間に制限されるようになり、ドライバー不足から輸送能力の低下が懸念されていました。国土交通省では、対策を講じなければ2030年には34%の輸送力不足が生じると試算しています。
そこで政府は、我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議の設置、物流の適正化・生産性向上に向けたガイドラインの策定などを経て、2024年に物流関連2法を改正しました。
その狙いは、物流業界における多重下請け構造の是正、荷待ち・荷役などの商習慣の見直し、共同輸送やモーダルシフトの推進、安全対策強化などを進めることにより、輸送能力向上やトラックドライバーの長時間労働削減といった課題に対応しつつ、持続可能な物流体制の構築を目指すことです。
物流関連2法改正
物流関連2法とは、「物資の流通の効率化に関する法律(物流効率化法)」(「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」を改称)と、「貨物自動車運送事業法」の2つの法律です。
特に荷主の努力義務や規制が定められているのは主に物流効率化法ですが、貨物自動車運送事業法にも一部、荷主に関わる規定があります。
「物流効率化法」改正の概要
改正物流効率化法では、物流事業者や荷主に対して、物流効率化のために取り組むべき措置について努力義務を課し、当該措置について国が判断基準を策定、さらに、その取組状況について、国が指導・助言、調査・公表を実施することとされています。
また、一定規模以上の物流事業者・荷主等を「特定事業者」として指定し、中長期計画の作成や定期報告等を義務付け、中長期計画に基づく取組の実施状況が不十分の場合、勧告・命令をおこないます。さらに、特定事業者のうち荷主には物流統括管理者の選任を義務付けています。
「貨物自動車運送事業法」改正の概要
改正貨物自動車運送事業法では、運送契約の締結に際して取引条件等を記載した書面交付の義務、元請事業者に対して実運送体制管理簿の作成の義務、下請け事業者への発注適正化の努力義務などが定められています。また、軽トラック事業者に対して、安全対策のための管理者選任や講習受講などが定められました。
物流効率化法の段階施行のスケジュール
物流効率化法は2024年の国会で成立し、2025年4月に第1段階が施行されました。以後、下記のように段階的に施行されていく予定です。
| 2025年4月1日 | 物流効率化法の第1段階施行が開始されました。すべての荷主・物流事業者に対して物流効率化に向けた努力義務が課されることとなりました。 |
| 2025年秋ごろ | 物流効率化法における判断基準に関する、国の調査・公表が実施されます。これは、国が運送事業者などにアンケート調査を実施して、荷主が努力義務を果たしているかを調査し、必要に応じて荷主に対して指導、助言をおこない、企業名が公表されるものです。 |
| 2026年4月 | 特定事業者の指定、中長期計画の提出・定期報告、物流統括管理者(CLO)の選任等が規定された物流効率化法の第2段階が施行されます。 |
| 2026年5月末 | 特定事業者の届出・指定手続の開始。 |
| 2026年10月末 | 特定事業者による中長期計画の提出 |
| 2026年秋ごろ | 判断基準に関する、国の調査・公表(2回目)が実施されます。 |
| 2027年7月 | 特定事業者による定期報告の提出。 |
物流効率化法における荷主とは
物流効率化法で努力義務などが課される対象になる荷主(企業)は、運送事業者との契約締結の点から「第一種荷主」と「第二種荷主」の2種類が定められています。運送事業者との契約を結んでおらず、単に貨物の受け渡しをするだけの企業も同法の対象となる点に注意してください。
第一種荷主と第二種荷主
第一種荷主は、物流事業者との間で運送契約を結ぶ荷主です。多くの場合、貨物を発送する「発荷主」が第一種荷主になりますが、引取物流として着荷主が運送契約を結ぶ場合は、着荷主が第一種荷主になります。
第二種荷主は、物流事業者との契約を結んでおらず、単に貨物を受け取る、あるいは貨物を渡すだけの事業者です。「着荷主」が主になりますが、着荷主側が運送契約を締結する場合は、発荷主側が第二種荷主となります。
なお、荷主の定義には、物流事業者や倉庫事業者は含まれません。
例えば、ある企業Aが3PL事業者Bに物流事業を委託して、3PL事業者Bが、運送事業者Cに運送をおこなわせているような場合、荷主(第一種荷主)になるのは企業Aだということです。
また、企業が物流事業者と契約を結んで、社内倉庫から他の倉庫事業者が運営する倉庫に貨物を運送させるような場合、第一種荷主は存在しますが、第二種荷主は存在しないことになります。
特定荷主
1年間に取り扱う貨物量が9万トン以上の荷主は、「特定荷主」として指定されます。物流効率化法では、すべての荷主に課される努力義務以外に、特定荷主だけに課される義務も規定されています。
なお、この9万トンという数字は、国内における取扱貨物の重量が多い順に対象として、国内全体の貨物量の50%をカバーする基準値とされています。企業数としては、約3,000社と見込まれます。なお、特定荷主についても、第一種、第二種の区分は適用されます。
荷主に求められる法的規制の概要
物流効率化法では、すべての荷主(※)に対して、物流効率化のために取り組むべき措置が定められています。
(※荷主だけでなく、物流事業者等にも同じ措置が設けられている場合がありますが、本記事は荷主企業をテーマにしているため、原則として荷主以外の事業者についての記載は割愛しています)。
すべての荷主企業が取り組むべき措置
荷主企業が物流効率化のために取り組むべき措置は、①積載効率等の向上、②荷待ち時間の短縮、③荷役時間の短縮、④実効性の確保、⑤その他の5点にまとめられています。中心となるのは①~③です。
また、これらの措置への取組は、義務ではなく「努力義務」として規定されています。そのため、「具体的にどのような取組をすればよいのか、よくわからない」と思う荷主企業も多いでしょう。そこで、荷主企業が取り組むべき内容の「判断基準」が、国(経済産業省)により示されています。
取組状況は定期的に調査され、点数が公表される
上記措置に対する荷主企業の取組状況については、国による調査(物流事業者への定期的なアンケート調査)が実施されます。そして、調査結果は点数化されて公表されることとされています。
さらに、悪質な荷主の事例があった場合には、必要に応じて荷主等からのヒアリング等がおこなわれ、トラック・物流Gメンや公正取引委員会等による働きかけ、要請等がおこなわれる予定です。
また、物流改善の取組や実施状況等についてランク評価等による見える化をおこなう「評価制度」の導入も検討されています。
つまり、荷主としての努力義務を真摯に果たしていなければ、「物流に対して取り組み状況が悪い企業」としての公表、公正取引委員会などによる行政指導などで、レピュテーションが悪化し業績等への悪影響が及ぶことも考えられるのです。
それを踏まえると、努力義務ではあっても、すべての荷主企業が真剣に取り組まなければならないといえるでしょう。
特定事業者の義務
特定荷主は、すべての荷主に課される努力義務に加えて、物流効率化に関する中長期計画の策定、国への定期報告、物流統括管理者(CLO)の選任などの「義務」が課されます。
また、特定荷主については、努力義務への取組実施が不十分な場合、国による勧告や命令など、より厳しい措置が取られることになっています。
荷主が取り組むべき措置の詳細の詳細については、以下の記事で詳しくご紹介していますので、参考になさってください。
物流効率化の数値目標
物流効率化法の施行にともない、国は、積載率向上、荷待ち時間短縮のそれぞれについて数値目標を掲げています。
積載効率の向上の数値目標(国全体)
近年、日本全体のトラック輸送で、積載率は40パーセント以下の水準で推移してきました。これを、令和10年度までに、5割の車両で積載率50パーセント、全体の車両で積載率44パーセントへ増加させることが目標とされています。
運転者の荷待ち時間等の短縮(国全体)
令和10年度までに、全国の貨物自動車による輸送のうち5割の運行で、荷待ち時間等を1時間削減(現状の平均3時間を2時間に削減)し、運転者1人当たりの荷待ち時間等を年間125時間短縮することが目標とされています。
荷主企業に求められる荷待ち・荷役時間の短縮目標
荷主企業に対しては、1回の受け渡しごとの荷待ち・荷役時間を、原則1時間以内を目標として設定し、長くても2時間を超えないようにする(すでに1時間以内の荷主はそれを維持する)ことが求められています。
ただし、業界特性その他の事情によりやむを得ない場合を除きます。
貨物自動車運送事業法改正により荷主に求められる義務
物流関連2法のうち、貨物自動車運送事業法の改正は、主にトラック事業者や軽トラック事業者に対して、取引における規制的措置を求めるものです。ただし、一部内容は、荷主の義務や権利が含まれます。
契約書面交付義務
運送契約の締結等に際して、提供する役務の内容やその対価(附帯業務料、燃料サーチャージ等を含む)等について記載した書面による交付等を義務付けるという内容があります。
第一種荷主が運送事業者と運送契約を結ぶ際には、書面(メールでも可)の交付が必要となります。
交付書面には、以下の事項が記載されていなければなりません。
- ・運送役務の内容・対価
- ・運送契約に荷役作業・附帯業務等が含まれる場合には、その内容・対価
- ・その他特別に生ずる費用にかかる料金(例:高速道路利用料、燃料サーチャージ等)
- ・契約の当事者の氏名・名称及び住所
- ・運賃・料金の支払方法
- ・書面を交付した年月日
また、交付した書面はその写しを1年間保存する義務があります。
実運送体制管理簿の閲覧請求権
改正貨物自動車運送事業法により、物流事業者の元請事業者は、実運送体制管理簿を作成し、実際に運送をおこなう事業者や再委託の状況を記録することが義務化されました。そして荷主は、この実運送体制管理簿の閲覧を請求できるようになりました。
荷主が依頼した運送が、実際にどのような体制でおこなわれているかを把握するために、必要に応じて、元請事業者に実運送体制管理簿の閲覧を請求し、問題がないかを確認しましょう。
中小企業が物流効率化の取組を進めるステップ
以上、荷主に関わる面での物流関連2法改正の内容を見てきました。それを踏まえて、荷主企業が進めるべき対応は以下のようになります。
- ・物流効率化のための組織体制作り
- ・現状把握
- ・効率化のための改善施策の実施
- ・効果測定、記録・評価
- ・取引・契約の適正化
①物流効率化のための組織体制作り
まず、物流効率化に対応できるよう社内組織を整備することが求められます。
特定荷主では、物流統括責任者(CLO)の設置が義務化されますが、特定荷主ではない企業でも、同様の物流責任者を任命したほうがよいでしょう。
後でも触れますが、物流効率化への対応は、経営の根幹に関わる戦略的な課題となります。そのため、物流責任者は戦略的な意思決定が可能な経営トップか、そうではなくても役員クラスが就いて、企業内の各部門長を巻き込む形でコミットすべきです。企業規模によっては、物流責任者の下に、物流現場のマネージャーを設置してもよいでしょう。
②現状把握
効率化の取組を開始する前に、現状の物流状況を把握します。
具体的には、発送または着荷する物流の量や回数、費用などのデータを、製商品ごと、取引先ごと、日次、週次、月次、年次ごとなど、詳細に集計します。また、トラックごとの待ち時間・荷役時間なども集計します。1回の運送ごとの荷待ち、荷役時間、積載量、運送料金など、定量的な情報だけではなく、荷造り、荷姿、パレットやカゴ車の利用、バースの利用状況などの定性的な情報も可能な限りまとめておきます。
また、物流事業者との運送契約内容、契約書の有無を確認します。
③効率化のための改善施策の実施
効率化のための改善施策を実施します。
「荷主の貨物自動車運送役務の持続可能な提供の確保に資する運転者の運送及び荷役等の効率化に関する判断の基準の解説書」「同(事例集)」などを参考に、積載効率向上、荷待ち・荷役時間短縮の施策を実施します。
参考:荷主の貨物自動車運送役務の持続可能な提供の確保に資する運転者の運送及び荷役等の効率化に関する判断の基準の解説書|経済産業省
④効果測定、記録・評価
改善施策により、積載効率向上、荷待ち・荷役時間の短縮、運送費の削減などの面でどの程度の効果があったのかを測定し、記録・評価します。
⑤取引・契約の適正化
改善された物流状況に基づき、物流事業者との取引内容を見直し、必要に応じて、配送回数・頻度、1回の積載量、配送料金(場合によっては、引き上げも含め)などの契約内容を適正化します。また、これまで契約書面を作成していなかった場合は、書面を交付します。
まとめ:経営課題として持続可能な物流を目指す
変わる荷主と物流事業者との関係性
これまで、荷主は発注側として、基本的に強い立場にありました。そのことが、積載効率の低下、待ち時間・荷役時間の増大といった、物流効率化法で指摘されている問題を生む商習慣の背景になっていた面があったといえます。
しかし、現在、荷主と物流事業者との関係性は急速に変わりつつあります。
実際、経済産業省がおこなった2024年問題に関する調査によれば、全体の約1割の事業者(荷主)が、トラックドライバーの時間外労働制限を理由に、貨物の輸送を断られたことがあると回答しています。
我が国の生産年齢人口は今後も中長期にわたって減少するため、トラックドライバー不足、ひいては、荷主が運送を依頼できる物流企業が不足する状況は、ますます悪化することが懸念されます。
持続可能な物流への改革に取り組まないリスク
そんな状況のもとで、意識変革ができず、物流効率化に対して真摯に努力をしない荷主は、物流事業者から配送を断られるケースが今後増加していくでしょう。また、物流効率化の取組状況の公表制度も創設されることが、その傾向に拍車をかけます。
つまり、荷主にとっては、物流効率化に真剣に取り組まなければ、顧客に製品・商品を届けることができなくなるリスクが確実に増大するのです。それは、企業経営の根幹に関わる事態となりかねません。そこで、持続可能な物流を経営の根幹に位置づけ、戦略的に対応する必要があるのです。
物流にかかる支出を投資と捉える
長らく物流費は、可能な限り減らすべき「コスト」として捉えられてきました。しかし、これからはその戦略的な重要性を考えると、物流効率化のためのシステム導入費や管理費は、長期的に経営を支える「投資」として捉えられなければならないでしょう。積極的な物流投資により持続可能な物流を支えることが、自社の経営の持続可能性も高めます。
ダウンロード資料「ドライバーにさせてはいけないこと チェックリスト」を活用して、現場の改善を!
従来、荷主企業が、物流会社のトラックドライバーに対して、荷役関連作業やその他の作業を求めることは、商習慣として広くおこなわれてきました。しかし、ドライバーが不足し、物流効率化のため、荷待ち・荷役時間の削減が努力義務とされる中、以前の商習慣は見直すべき点も多々あります。「物流会社が荷主を選ぶ」ケースも増えている昨今、「ドライバーにさせてはいけないこと」をさせている現状がないかを確認し、そのような実態があればいつまでに、どこから改善すればいいのかがわかるチェックリストをダウンロード資料として用意しています。物流責任者、また、現場の物流管理者が状況をチェック、改善するために利用してください。

監修
田代 三紀子(たしろ みきこ)
船井総研ロジ株式会社 執行役員 兼 コンサルティング本部 副本部長。
製造業・小売業を中心とした荷主企業に対して、物流戦略策定の支援、物流拠点の見直し、コスト削減策の提案、物流コンペの支援などを数多く実施してきた。また、物流子会社に対しても、あるべき姿の策定や他社との競争力評価をおこなっている。得意なカテゴリーは、化学、日用雑貨など。物流をテーマにした数少ない女性コンサルタントであり、脱炭素、ESGロジスティクス実行に向けた研修やコンサルティングも担当している。

記事執筆
中小企業応援サイト 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
全国の経営者の方々に向けて、経営のお役立ち情報を発信するメディアサイト。ICT導入事例やコラム、お役立ち資料など「明日から実践できる経営に役立つヒント」をお届けします。新着情報はFacebookにてお知らせいたします。
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