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60歳以上の労災防止努力義務化とは? 企業に必要な取り組みを解説

From: 中小企業応援サイト

公開日:2026年10月14日

この記事に書いてあること

人材不足が進む中で、企業を支える人材の安全を守る取り組みの必要性が高まっています。また、従業員の高年齢化が進む職場では特に、高年齢労働者を含む人材の労災防止策がよりいっそう求められています。こうした労働環境の中、労働安全衛生法の改正により、2026年4月1日から、事業者は高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善や作業管理等、労働災害を防止するための措置を講じるよう努めることが求められるようになりました。今回は、その法改正の内容と、中小企業がとるべき具体策について、企業事例とあわせてお伝えします。

高年齢労働者向けの労災防止策が必要な理由

社会全体の高齢化とともに、企業で働く人の年齢も上がっています。労働人口のうち60歳以上が占める割合は増加傾向にあり、厚生労働省が公表した「令和6年労働災害発生状況について」によると、2024年には、雇用者全体に占める60歳以上の高齢者の割合は19.1%に上っています。

働く人の高齢化に伴い、高年齢労働者の労働災害も課題視されています。「令和6年 労働災害発生状況について」によると、2024年の「労働災害による休業4日以上の死傷者数」の全体に占める60歳以上の割合は、全体の約30%。事故の類型別に見ても、「墜落・転落」の発生率は、60歳以上の男性は20代男性の約3.6倍、「転倒による骨折等」の発生率は、60歳以上の女性は20代女性の約19.5倍といったデータがあり、加齢に応じて労災発生率が大きく上がっていることがわかります。

また、高年齢労働者は若年層に比べてケガや病気が重症化しやすく、回復に時間がかかります。高年齢者の長期間の休業や離職が、職場全体の生産性低下や、他の従業員への負担増を招くというリスクもあります。今後、さらに職場の高年齢化が進むことが見込まれる中で、業務上の事故から従業員を守るための環境作りが求められています。

高年齢者の労災防止策に関する法律の変更点

これまでも、高年齢労働者の特性をふまえた労働災害防止対策は重要視されており、厚生労働省が策定した「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」に基づく、企業の自主的な取り組みが推奨されてきました。

そして2026年4月からは、労働安全衛生法の改正によって、高年齢労働者の労災を防ぐ取り組みが努力義務へと格上げされました。事業者は、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理等の高年齢者の労働災害の防止を図る措置を講じるよう、努める必要があります。また厚生労働省は、法改正と合わせて新たに「高年齢者の労働災害防止のための指針」を策定。指針には、事業者が有効な労災防止策を進めるために必要な取り組みが示されています。

中小企業が高年齢者の労災防止に取り組むメリット

法改正で努力義務化された高年齢労働者のための労災防止の取り組みを進めることは、中小企業に次のようなメリットをもたらします。

従業員の安全確保

高年齢者の特性をふまえた職場環境の改善やルール整備は、企業全体の仕事の安全性の向上と、全従業員の労災リスク低減にもつながります。欠員のない職場での生産性維持に加えて、働く人の安心感やモチベーションの向上というメリットも見込めます。

人材の確保

人材の観点においても、高年齢労働者の労災防止策は有効です。高年齢者を含む従業員が健康に活躍できる環境を作ることで、新たな人材を採用することが難しい状況であっても、安定して人材を確保することができます。高年齢労働者の安全対策は、事業の継続や成長を担う人材を守るための投資としても重要な取り組みです。

企業が行うべき対策のポイント

では、企業は具体的に、どのような取り組みを進めれば良いのでしょうか。厚生労働省の「高年齢者の労働災害防止のための指針」が示すポイントと主な具体策は以下のとおりです。

安全衛生管理体制の確立

高年齢労働者の労災防止策を進めるための安全衛生管理体制を確立します。取り組みを組織的・継続的に進めるため、経営トップが高年齢者の労災防止対策に取り組む姿勢を明確に示し、労災防止策に関する事項を盛り込んだ「安全衛生方針」を表明しましょう。

次に、危険源を特定しリスクを見積もる「リスクアセスメント」を実施します。高年齢者の身体機能の低下などの要因や事例等から危険源の洗い出しを行い、リスクの高さを考慮して、実施する労災防止策と優先順位を決定しましょう。

職場環境の改善

リスクアセスメントに基づいて決定した対策を実施します。高年齢者の身体機能の低下を補う設備・装置等を導入して、職場環境を改善しましょう。具体的な取り組みの一例は、以下のとおりです。

  • 視力の低下を考慮した作業場所の十分な照度の確保
  • 階段の手すりの設置、通路の段差の解消
  • 床への防滑素材の採用、防滑靴などの転倒防止策
  • 補助機器やアシストスーツなどの重量物取り扱いの負担軽減策
  • 涼しい休憩場所の確保、通気性の良い服装などの暑熱な環境への対策

高年齢者の特性を考慮した作業管理も必要です。筋力や敏捷性、持久力、認知機能等の低下といった高年齢者の特性をふまえて、以下のような作業内容の見直しや配慮を行いましょう。

  • 短時間勤務や隔日勤務などの高年齢者が働きやすい就労形態の採用
  • 無理のない作業スピード、作業姿勢などを盛り込んだ作業マニュアルの策定
  • 作業負担に応じた適切な休憩の運用
  • 脱水症状を防ぐための水分補給の推奨
  • 熱中症の早期発見と重篤化防止のためのマニュアル策定

高年齢者の健康や体力の状況の把握

高年齢労働者の健康状況を確認するために、労働安全衛生法で定められた雇入時と定期健康診断を確実に実施します。健診結果の通知の際に産業保健スタッフから内容の説明を行うなど、従業員が自分の健康状態を正しく把握できる仕組みを整えましょう。

加齢により変化する高年齢者の体力を把握することも重要です。心身の力の衰えを確認するフレイルチェックや、オンラインツールや質問を用いたテストを継続的に行うことで体力を把握しましょう。

なお、健康診断結果や体力チェックの結果は、労働者の心身の状態に関する重要な情報です。企業がこれらの情報を取り扱う際には、利用目的を明確にし、本人への説明や同意、情報管理の方法を整える必要があります。また、健康状態や体力を理由として、本人と十分に話し合うことなく一方的に不利益な取扱いをすることは避けるべきです。

高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応

高年齢者の身体の状況に応じた措置や、高年齢者の心身の健康保持・促進のための取り組みを進めましょう。有効な就業上の対応の一例は、次のとおりです。

  • 本人の意向や医師・産業医等の意見を踏まえた、体力や健康状態に応じた業務内容・配置の調整
  • 複数の従業員で仕事を分け合うワークシェアリング
  • 健診結果に基づいた運動指導や栄養指導、保健指導
  • メンタルヘルスケアの実施

安全衛生教育

高年齢者に対する安全衛生教育も実施しましょう。雇入れ時等の安全衛生教育と、一定の危険有害業務で必要な技能講習や特別教育を確実に行います。作業内容やリスクへの理解を深めるため、写真や図も用いながら、十分に時間をかけて教育することが重要です。

高年齢者の管理監督者や同僚にも、高年齢者の特性や安全に関する教育を行いましょう。高年齢者向けの労災防止策を具体的に理解するために、補助機器や装具に実際に触れる機会を設けることも有効です。高年齢者のケガや疾患に備えて、救命講習を含む緊急時対応の教育を行うことも望ましいでしょう。

高年齢労働者の労災防止策の企業事例

実際に、高年齢労働者が活躍する職場では、どのような労災防止策が導入されているのでしょうか。企業事例をご紹介します。

介護補助器具の導入で腰痛を防止

介護老人保健施設の医療法人社団翠会蓮根ひまわり苑では、離職防止や人材確保を目的に、介護労働者の腰痛防止策などの職場環境改善を進めています。

施設利用者の抱え上げの負担を軽減するため、車椅子への移動をサポートするスライディングボードや、膝をつく作業を補助する膝パットを導入。また、腰痛の発生原因を回避する方法や、身体的負担が少ない介助姿勢を伝えるマニュアルを整備する等の取り組みで、介護労働者の腰痛軽減に効果を上げています。

心拍数のデータを用いた熱中症対策

綜合警備保障株式会社では、警備職で起こりやすい熱中症を防ぐため、心拍数を基準にした熱中症対策の実証実験を行っています。これまでも熱中症対策の基準としてきた暑さ指数(WBGT)に加えて、着衣センサーにより警備員の心拍数を計測し、熱中症のリスクを分析。現場への導入に向けた検証やセンサーの改善を進めています。

また、加齢による体力低下を考慮した人員配置も推進。個々人の体力に応じて、夜勤を含む機械警備や、重い現金を運ぶ必要がある警備輸送の業務から、常駐警備への配置換えを行うなどの配慮によって、高年齢労働者にとって働きやすい環境を整備しています。

重量物を取り扱う従業員の労災防止策

食品の製造を行う味の素株式会社・川崎事業所では、工場内で重い物を取り扱う従業員の労災対策として、転倒や腰痛を防ぐ取り組みを導入しています。

身体能力低下を把握できる「身体機能のセルフチェック」を行い、その結果から個々人の転倒リスク軽減の指導を実施。また、作業姿勢に配慮した設備を導入しても発生していた腰痛を防ぐため、日本予防医学協会の指導のもと、姿勢やスペース等に関する分析をふまえ、作業方法や位置の変更などのさらなる環境改善を進めています。

高年齢者の特性や危険要因を知る安全衛生教育

ステンレス鋼の生産を手がける日本冶金工業株式会社・川崎製造所では、中高年労働者の安全衛生教育に注力しています。40歳以上の中高年労働者の労災発生要因を分析した結果、慣れによる省略行為や、安全意識の不足、運動機能低下があげられたことから、心身機能の低下への自覚や健康管理に対する意識向上を促す、中高年労働者への安全衛生教育を実施。中高年者の特性や業務上の危険要因を伝える講義に加えて、安全に関する意見を交換するグループ討議を通じて意識改革を進め、労災防止につなげています。

幅広い人材が安心して活躍できる環境を整えよう!

高年齢労働者が安心して働ける企業の環境作りを後押しするこの度の法改正。設備の導入や教育の実施にはコストや時間が伴いますが、中小企業にとっては、高齢人材の戦力化と、安全と生産性の向上をともに実現するチャンスとも言えるでしょう。厚生労働省の指針や今回ご紹介した企業事例を参考に、自社にできる労災防止の取り組みを始めてみてはいかがでしょうか?

吉野誉文氏の顔写真

監修

吉野 誉文(よしの もとふみ)

吉野モア法律事務所 代表弁護士
京都大学法科大学院修了、大阪弁護士会所属。中小企業のコンプライアンス、外国人雇用に伴う労務・労災問題、事業開発のリーガル支援に精通。「トラブルを未然に防ぐ守りの法務」と「人が辞めない組織を作る攻めの法務」を両立させ、次世代経営者の育成支援も手掛ける。事務所HPでは、中小企業向けの法務情報を発信している。
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記事執筆

中小企業応援サイト 編集部 (リコージャパン株式会社運営)

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2026年4月施行の改正労働安全衛生法により努力義務化された高年齢者の労災防止策について、企業がやるべきことをチェックリスト化しました。

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