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【2024年版】36協定に違反しないための5つの注意点|特別条項の上限・記載例も丁寧に解説

From: 働き方改革ラボ

2024年07月22日 07:00

この記事に書いてあること

働き方改革の機運が高まる中、36協定にあらためて注目が集まっています。時間外労働の上限規制が一部業種を除き大企業は2019年4月1日から、中小企業は2020年4月1日から施行されたことに伴い、以前にも増して時間外労働に厳しい目が向けられています。

今回は、36協定に違反しないために確認しておきたい基礎知識をわかりやすく解説します。36協定の「特別条項」や36協定違反となる主な事例、違反とならないようにする注意点などをまとめていますので、適切な労働時間の管理にぜひ役立ててください。

36協定とは

はじめに「36協定」に関する基本事項を確認しておきましょう。36協定に記載する事項や36協定届の記載方法など、基本を押さえておくことが大切です。

労働者と使用者間で交わす労使協定の1つ

36協定の正式名称は「時間外労働・休日労働に関する協定」です。労働者と使用者間で交わす労使協定の1つで、労働基準法第36条に定められていることから「36(サブロク)協定」と呼ばれています。企業は法定労働時間を超えた労働や休日労働を命じる場合、36協定を労使間で締結した上で所轄の労働基準監督署に必ず届け出なくてはなりません。

36協定に記載する事項

36協定に記載する事項は下記の3点です。

  • ・残業が必要となった具体的事由
  • ・残業の対象となる労働者数
  • ・法定労働時間を超えて設定できる労働時間数

これらの事項について従業員の代表者などと協定を結び、「36協定届」に記載した上で届け出ることが義務づけられています。

36協定届の記載例

出典:厚生労働省「時間外労働・休日労働に関する協定届(一般条項)」

労働基準法の改正に伴い、大企業では2019年4月以降、中小企業では2020年4月以降、上図の様式で届け出なければなりません。36協定は上図の書面で届け出る他、電子申請でも行えます。

時間外労働時間の上限とは

36協定を労使間で締結するにあたって、重要な概念の1つに「時間外労働時間」があります。36協定が必要になるケースや、時間外労働時間の上限について押さえておきましょう。

「法廷労働時間」と「所定労働時間」

労働時間には「法廷労働時間」と「所定労働時間」があります。法定労働時間とは、労働基準法で定められた1日の労働時間の上限であり、原則として1日8時間、週40時間が限度となります。これを超える分が「時間外労働時間」となり、労使協定(36協定)を結ぶことで初めて合法となります。

一方、所定労働時間とは、企業ごとに就業規則や労働契約で定められた労働時間であり、法定労働時間の範囲内で設定されることが一般的です。企業ごとに異なる場合があり、社員の通常勤務時間を示します。

簡潔に言えば、法定労働時間は法律で定められた上限の労働時間、所定労働時間は企業が定めた標準的な勤務時間です。

36協定が必要になるケース

法定労働時間を超えて時間外労働を命じる場合や、法定休日に労働を命じる場合には、労使間で36協定を締結する必要があります。具体的な例を見ていきましょう。

上図では、9時から17時の中で1時間の休憩時間をはさんでいるため、所定労働時間は7時間です。法定労働時間は1日8時間であることから、18時まで1時間残業をした場合も法定労働時間内に収まっています。つまり、この企業のケースでは1時間以内の残業であれば36協定を締結する必要はありません。

一方、18時を超えて残業をする場合には、法定労働時間を超えて働くことになります。この時点で36協定の締結が必須となるのです。このように、時間外労働時間は「法定労働時間」を基準に計算する必要があります。

時間外労働の上限

36協定を締結していれば、企業は従業員を無制限に時間外労働に従事させてよいわけではありません。時間外労働時間には上限が設けられています。

  • 【時間外労働の上限(原則)】
  • ・月45時間
  • ・年360時間

36協定には「一般条項」と「特別条項」がありますが、一般条項で設定できる時間外労働の上限時間は上記のとおりです。

36協定の特別条項とは

36協定には一般条項の他に特別条項があります。特別条項の基本的なルールを押さえておきましょう。

36協定で定めた時間外労働の上限時間を超えた労働を認める制度

特別条項とは、特別な事情がある場合に限り、36協定で定めた時間外労働の延長を認める制度です。たとえば、レジャー・観光業であればオンシーズンに繁忙期を迎え、やむを得ず労働時間が長くなることが想定されます。こうしたケースを想定して例外事項を設定しておくための制度と捉えてください。

36協定の特別条項における時間外労働時間の上限

特別な事情があるとはいえ、上限なく従業員を業務に従事させることはできません。特別条項では下記を時間外労働時間の上限として設定できます。

  • ・時間外労働が年720時間以内
  • ・時間外労働と休日労働の合計時間が月100時間未満
  • ・45時間を超える時間外労働の月は年6回まで
  • ・時間外労働と休日労働の合計の2~6カ月の平均労働時間が80時間以内

特別条項で定めることが義務づけられている項目

特別条項では、36協定の届け出が必要となり、下記の6項目の記載項目があります。記載する際の注意事項を確認しておきましょう。

36協定の通常の時間外労働の上限を超えて時間外労働させることがある特別の事情

どのようなケースが「特別の事情」に該当するのか、具体的に記載しなければなりません。たとえば「必要に応じて」「やむを得ない場合」といった漠然とした書き方は認められていない点に注意が必要です。

特別条項を適用するための労使間の手続き

一般条項の範囲を超える時間外労働に従事させる場合、具体的にどのような手続きを踏むのかを記載します。一例として「労使間で協議の上」「労働者代表への事前申し入れによる」といった記載方法が想定されるでしょう。

特別条項を適用する場合の時間外労働の上限

特別条項適用時における1カ月間・1年間の時間外労働時間の上限を記載する必要があります。1カ月間の時間外労働時間の上限は100時間未満のため、99時間が上限となる点に注意してください。

特別条項を適用できる回数

特別条項を適用できる回数は、6回が上限とされています。したがって、1〜6回のいずれかの回数を記載しましょう。

特別条項を適用し36協定の通常の時間外労働の上限を超えて時間外労働させる場合に支給する割増賃金の割増率

時間外労働における賃金割増率は、法定では25%です。25%を下回ってはならないものの、25%を超えて設定するのは問題ありません。

労働者に対する健康確保措置

医師による面接指導や深夜労働の回数制限、終業から始業までのインターバル設定、代休や特別休暇の付与、有給休暇の連続取得の推奨などが例として挙げられます。

特別条項の記載例

出典:厚生労働省「時間外労働・休日労働に関する協定届(特別条項)」

一般条項と同様、労働基準法改正に伴い新様式が用意されています。延長できる時間数を記載する際には、特別条項における時間外労働時間の上限を超えることのないよう注意しましょう。

36協定違反の罰則

36協定に違反していることが発覚した場合、6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。さらに厚生労働省の「労働基準関係法令違反に係る公表事案」に企業名が公表され、社会的制裁を受けることにもなります。

厚生労働省が公表する違反企業リストは誰でも閲覧できるため、たとえば求職者の目にふれて応募を取りやめることも十分に想定されます。結果として優秀な人材が集まりにくくなるといったデメリットが生じる可能性があるため、36協定に違反することのないよう細心の注意を払うことが重要です。

罰則の対象

36協定違反の罰則の対象となるのは会社の代表者の他、労務管理の担当者、直属の上司など、役員や従業員が個人として罰せられることになります。さらに会社に対しても罰金が科せられます。

このように所属する役員・従業員などが業務に関わることで罰せられるだけでなく、法人も罰せられることを両罰規定といいます。

36協定違反となる主な事例

36協定違反となる主な事例を紹介します。これらの事例に該当することのないよう、チェックリストとしても活用してください。

そもそも36協定を結んでいない

従業員が時間外労働をしているにもかかわらず、36協定を結んでいなければ違反となります。「残業について労使間で合意しているか」「従業員が納得しているか」「残業代を適切に支払っているか」といったことと36協定の締結は別問題です。時間外労働が発生する以上、必ず36協定を締結した上で所轄の労働基準監督署長への届出が必要になります。

サービス残業を行っている

従業員がサービス残業をしているような状態も36協定違反です。サービス残業とは、残業代が支払われない時間外労働や休日労働のことです。たとえば、下記のようなケースもサービス残業に含まれる点に注意してください。

  • ・残務処理のため従業員が自主的に残業している場合
  • ・従業員が管理者に知られないように休日出勤している場合
  • ・残業時間の端数を切り捨てている場合

上限規制を超えてしまった

36協定において労使間で取り決めた時間外労働の上限時間を超えてしまった場合も36協定違反となります。労働基準法上の上限を超えていなくても、36協定届に記載された時間を超過すれば違反となる点に注意が必要です。

36協定における時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間です。これらの時間数を超えてしまうと36協定違反となります。

特別条項付き36協定の「臨時的な特別な事情」に当てはまらない

特別条項付き36協定の「臨時的な特別な事情」には、具体的な要件を記載することになっています。記載した要件に該当しないにもかかわらず、時間外労働を命じてしまうのも36協定違反です。

臨時的な特別な事情とは、たとえば予算・決算業務やボーナス商戦などによる業務、予定外の大規模なクレームや機械のトラブル対応、納期のひっ迫などが挙げられます。あくまでも日常業務ではないことが条件となるため、「たまたま忙しい日だった」など該当しないものについては違法となります。

36協定に違反しないための5つの注意点

36協定に違反しないために留意したいポイントは以下の5点です。

時間外労働の管理を徹底する

まずは従業員の時間外労働について、徹底した管理を行いましょう。手入力だとミスが起こりやすく、労務担当者でも気付かないうちに上限を超えてしまうことがあります。勤怠管理システムの導入を検討し、徹底して時間外労働の管理を行えるような環境が必要です。

労働者の健康と福祉を確保する

特別条項付き36協定を結ぶ場合、限度時間を超える労働者の健康・福祉を確保するための具体的な措置が必要です。36協定では、健康・福祉を確保する措置としていくつかの措置内容が定められています。

たとえば、医師による面接指導、産業医等による助言・指導や保健指導、代休や特別休暇を付与する、健康診断を実施する、心とからだの健康についての相談窓口を設置する、といった内容です。

労働者の休息を確保するよう努める

企業には安全配慮義務があります。残業が多くなると安全性にも問題が生じる可能性が高まることから、企業は労働者の休息を確保しなければなりません。「残業」はやむを得ない場合のみに限定し、極力残業を減らして、労働者の休息を確保するよう努めましょう。

また残業が発生したときも、休憩時間をとるようにし、健康リスクの軽減に努めることが大切です。

テレワークのルールを整備する

テレワークは勤務時間の把握が難しい働き方であるといえます。そのため、テレワークの運用を続けていくなかで、知らないうちに36協定違反となってしまう可能性があります。

いつの間にか残業時間が増えてしまうのを防ぐためには、勤怠管理システムの導入や、必要に応じた「みなし労働時間制」や「専門型裁量労働制」の導入などを検討するとよいでしょう。

パートや契約社員も対象に含まれる

パートや契約社員も、契約条項の中に残業規定がある場合は、状況に応じて残業を行うことがあります。パートや契約社員が時間外労働を行う場合は、36協定の届出の際、協定を締結している従業員の人数に含めなくてはなりません。

したがって、パートや契約社員も正社員と同様の条件で、残業に対する制限があることを考慮しましょう。

36協定違反が発覚したときの対応方法

36協定違反が発覚したときは、状況に応じて適切な対応方法をとらなければなりません。社内で36協定違反が発覚した場合、労働者に36協定違反を通報された場合、それぞれについて対応方法を解説します。

社内で発覚した場合

残業にはさまざまな理由やパターンがあるため、注意していても意図せずして、結果的に36協定違反になってしまうこともあります。この場合の対処法は以下のとおりです。

報告義務はない

勤務時間をチェックした結果、36協定の上限時間を超えた労働者がいても、基本的に労働基準監督署への報告義務はありません。

ただ状況によっては、労働基準監督署からの監査が入ったり、労災事故の発生によって調査が必要になったりした場合など、労働基準監督署への報告義務が生じることもあります。この場合は速やかに報告ができるような準備を整えておきましょう。

企業内で是正する

報告義務がないからといって、36協定違反の状況をそのままにしていいわけではありません。36協定違反が生じた部署を担当する管理者に労働状況などを確認し、再度36協定違反が発生しないよう調整する必要があります。

また現状で違反まではいかなくても、今後違反の可能性がある労働者についてもチェックし是正することが重要です。

労働者が通報した場合

36協定違反は、労働者が労働基準監督署に通報する場合もあります。その場合の対処法を解説します。

労働基準監督署の調査が入る

労働者から36協定について通報があると、労働基準監督署の調査が入ります。

この場合はまず、労働基準監督署から指定された書類を漏れのないよう用意しましょう。書類の内容はタイムカード、業務月報、就業規則などです。これらの書類をもとに、タイムカードでの労働時間の確認や、労働者への聞き取りなどが行われます。

「是正勧告」を受ける

書類や聞き取りなどから、調査によって36協定違反が認められた場合は、「是正勧告」を受けることになります。このとき、是正勧告だけでは罰則はありません。

是正勧告を受けたら、労働環境を速やかに改善し、その旨を報告する必要があります。また調査の結果、違反とまでいえないと判断された場合、「指導票」で改善指導を受けることもあるため、労働基準監督署の指示に従って対応しましょう。

書類送検され罰則を受ける

是正勧告に従わないなど、悪質と判断された場合は書類送検される可能性もあります。書類送検に至った場合には、先述のような罰則を受けることも考えておかなければなりません。このような事態を避けるため、36協定違反にならないような労働環境を整えましょう。

36協定に関するよくある質問

36協定についてよくある質問と回答をまとめました。疑問点や不明点の解決に役立ててください。

Q. 36協定はすべての企業が届け出る必要がありますか?

法定労働時間を超える労働や、法定休日に労働させる場合には届出が必要です。残業について従業員が納得しているか、残業代を適切に支給しているかといったこととは関係なく、労働時間によって届出の要否が決まる点に注意してください。

Q. 36協定を結ばなかった場合、どうなりますか?

36協定を結んでいない場合、法定労働時間を超える残業や休日出勤を命じられません。従業員の自発的な残業や休日出勤も時間外労働に該当します。

Q. 36協定届には押印が必要ですか?

36協定届が36協定書も兼ねている場合、36協定届に記名または押印が必要です。36協定書を別途定める場合に限り、36協定書への署名または記名・押印は必須ですが、36協定届は押印不要となります。

Q. 36協定は自動更新されますか?

自動更新されません。年1回は「異議の申し出がなかった事実を証明する書類」を作成・提出する必要があります。記載内容に変更がない場合も、この手続きは必須となる点に注意してください。

Q. 36協定を守らなかった場合、どうなりますか?

労働基準法第32条・労働基準法第35条違反として6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される可能性があります。

まとめ

36協定は労働者を守るために定めた協定です。違反をすると罰則が科されることもあるため、時間外労働・休日労働が協定で定められた時間を超えていないか、常に確認しながら業務を進めていく必要があります。本記事の要点をまとめましたので、振り返りにご活用ください。

【本記事の要点】

  • ・36協定に記載する事項は「残業が必要となった具体的事由」「残業の対象となる労働者数」「法定労働時間を超えて設定できる労働時間数」の3点
  • ・時間外労働とは法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた部分を指す
  • ・一般条項の時間外労働時間の上限は「月45時間」「年360時間」
  • ・特別条項の時間外労働時間の上限は「時間外労働は年720時間以内」「時間外労働と休日労働の合計時間が月100時間未満、2〜6カ月の平均が80時間以内」「45時間を超える時間外労働の月は年6回まで」
  • ・2024年4月1日より、建設業にも上限規制がすべて適用される(災害の復旧、復興事業に携わる場合を除く)
  • ・36協定に違反すると6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる

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