
義務化されたBCPとは?介護事業所が押さえるべき対策と具体的な作成例
2024年11月01日 07:00
この記事に書いてあること
2024年4月より、介護事業所におけるBCP(事業継続計画)の策定が義務化されました。BCPをどのように策定すべきなのか、現状BCPを適切に策定できているのか不安に感じている介護事業者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、介護事業者の方々がBCPを策定するメリットや具体的な策定方法についてわかりやすく解説しています。介護事業所におけるBCP作成例も紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
介護事業所におけるBCPとは
はじめに、そもそもBCPとは何か、関連用語とあわせて基本事項を整理しておきましょう。
BCPとは
BCP(Business Continuity Plan)とは「事業継続計画」のことです。地震や津波、豪雨といった自然災害への対策のほか、感染症対策などもBCPに含まれます。こうした予測不能な事態に直面した際、企業が自社の従業員を守り、事業の復旧と継続を実現するには、事前の計画策定が不可欠です。
厚生労働省では、自然災害発生時・感染症発生時のBCPについて介護サービス向けにガイドラインを発行しており、下表のように策定事項の例を挙げています。
【自然災害発生時のBCP策定事項の例】
平常時の対応 | ・自施設、事業所の安全対策 ・ライフライン(電気・ガス・水道・通信等)の事前対策 ・災害時に必要となる備蓄品や資金の確保 など |
緊急時の対応 | ・初動対応の事前準備 ・人命安全確保対応の徹底 ・重要業務の継続 ・復旧対応 など |
他施設・地域との連携 | ・連携体制の構築 ・共同訓練の実施 ・福祉避難所の運営 など |
参考:厚生労働省「業務継続計画(BCP)自然災害編(介護サービス類型:共通)」
【感染症発生時のBCP策定事項の例】
平常時の対応 |
・体制構築・整備 ・感染防止に向けた取り組みの実施 ・防護具、消毒液等備品の確保 ・研修・訓練の実施 |
初動対応 |
・第一報の報告先、報告方法の徹底 ・感染疑い者への対応 ・消毒・清掃等の実施 |
感染拡大防止体制の確立 |
・保健所との連携 ・接触者への対応 ・職員の確保 ・防護具、消毒液等の確保 ・情報共有 ・業務内容の調整 ・過量労働・メンタルヘルス対応 ・情報発信 |
参考:厚生労働省「業務継続計画(BCP)感染症編(介護サービス類型:入所系)」
BCPの関連用語
BCPの関連用語として「BCM」や「防災」が挙げられます。
BCMとは、Business Continuity Managementの略で、「事業継続マネジメント」と呼ばれています。BCPを策定したうえでBCPを運用し、マネジメントすることまでを含めた内容です。マネジメントの内容には、以下の項目が含まれます。
- ・BCPの維持更新
- ・事業継続のための予算と資源の確保
- ・被害を防ぐ、もしくは軽減するための事前対策
- ・緊急事態が発生した際のマニュアル作成などの事後対策
- ・企業内にBCP の取り組みを浸透させるための教育訓練
BCP対策は策定するだけでなく運用することが重要なため、BCP対策を行う際はBCMも同時に考えなければなりません。
また、災害に備えるという意味では防災という言葉も使われますが、BCPは防災だけでなく、事業継続の対策が上乗せされたものとなります。防災は「人命や建物を守るもの」、BCPは「人命や建物を守るだけでなく、事業の継続を守るためのもの」であることを押さえておきましょう。
介護事業所におけるBCP・BCM策定義務
2024年4月より、すべての介護事業所においてBCPおよびBCMの策定が義務化されています。BCPを策定するだけでなく、緊急事態が発生した際のマニュアル策定や研修・訓練の実施など、さまざまな対応が求められているのが実情です。介護事業所はこれらの準備や対応を継続的に進めていく必要があります。
介護事業所において求められる取り組みのうち、とくに重要度が高いとされているのは下記の4点です。
- 1.担当者を事前に決めておくこと
- 2.連絡先を整理し、速やかに参照できる状態にしておくこと
- 3.必要な物資を整理し、準備しておくこと
- 4.上記1〜3を組織で共有し、定期的に見直すとともに訓練を実施すること
- ・施設系・居住系サービス:所定単位数の3%
- ・その他サービス:所定単位数の1%
- ・訪問系サービス、福祉用具貸与、居住介護支援:2025年3月31日まで
- ・その他サービス:「感染症の予防とまん延防止の指針」「非常災害に関する具体的計画」を策定している場合、2025年3月31日まで
- 1.人命と会社の事業を守れる
- 2.税制優遇が受けられる
- 3.補助金を受け取れる
- 4.ワクチン接種が優先される
- 5.多くのリスク回避につながる
- ・意思決定者や各業務担当者の役割を整理する
- ・感染者の早期発見のため、利用者の体調評価を行い、日々記録する
- ・消毒液等の備蓄品の確保と発注ルールを取り決める
- ・BCPの研修・訓練の実施方法を決める
- ・BCPを定期的に見直し、改善する
- ・報告ルート、報告先、報告方法を整理する
- ・感染の拡大を防ぐ方法をまとめる
- ・消毒と清掃方法を決定する
- ・保健所と連携し、適切な対応をするための内容確認を行う
- ・濃厚接触者の対応方法をまとめる
- ・職員確保の方法をまとめる
- ・消毒液や防護具などの備蓄量を決めておく
- ・感染者が発生した際の情報共有先を整理しておく
- ・業務内容の優先順位を決め、職員の数に合わせた業務調整を検討する
- ・利用者のストレスの軽減や解消する方法を検討する
- ・情報発信時の対応方法と注意事項をまとめる
- ・震度6弱以上の地震が発生し、被災状況から施設長が必要と判断した場合
- ・震度6弱未満の地震が発生し、建物の一部倒壊や電気・水道・ガスの停止、通信手段の途絶、道路の寸断などが発生し、通常業務の持続が困難になった場合
- ・警戒レベル3の大雨警報・警戒レベル3の避難情報(高齢者等避難)が発令された場合
- ・建物の一部倒壊や電気・水道・ガスの停止、通信手段の途絶、道路の寸断などが発生し、通常業務の継続が困難になった場合
- ・その他、被災状況から施設長が必要と判断した場合
BCP未策定の事業所は基本報酬減算の対象
BCP未策定の事業所は「業務継続計画未策定減算」の対象となります。具体的には、BCP未策定の事実が判明した時点までさかのぼって基本報酬が減額されるというルールです。減算幅と経過措置は、下記のように定められています。
【減算幅】
【経過措置】
BCPを策定する5つのメリット
BCP策定は介護事業所が取り組むべき義務ではあるものの、策定することによって得られるメリットもあります。具体的なメリットは次の通りです。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
1. 人命と会社の事業を守れる
BCPを策定することにより、入居者や職員の命を守れる可能性が高まります。予測不能な事態に直面した際にも、人命を守るための適切な対応を取るとともに、事業の早期復旧に向けて行動できるでしょう。経営面での被害を最小限に抑えられるだけでなく、安全面に配慮された事業所として利用者・家族・地域の信頼を得られる点が大きなメリットです。
2. 税制優遇が受けられる
BCPを策定し国の認定を受けると、「中小企業防災・減災投資促進税制(特定事業継続力強化設備等の特別償却制度)」による税制優遇の適用対象となります。具体的には、2025年3月31日までに防災・減災に関わる対象設備を導入した場合、「特別償却18%の税制優遇(2025年4月1日以降に導入する設備については特別償却16%)の税制優遇」 を受けられるという制度です。
3. 補助金を受け取れる
自治体によっては、BCPの対策・実践にかかる費用が補助金の支給対象となる場合があります。たとえば東京都の場合、中小企業者の助成率は費用の2分の1、小規模企業者の助成率は3分の2以内です。いずれも助成限度額は1,500万円 と定められています(※)。なお、2024年10月現在、第2回の申請エントリーは締め切られており、第3回は2025年1月8日より受付開始の予定です。
また、導入する設備などが再エネや省エネに関連するものであれば、国からの補助を受けられる場合もあります。こうした補助金の対象となることは、BCPを策定・推進するメリットの1つといえるでしょう。
4. ワクチン接種が優先される
BCPを策定している介護事業所の職員は、感染症拡大時にワクチンを優先的に接種できます。新型インフルエンザ等対策特別措置法第28条において、「国民生活・国民経済安定分野の業種に該当する事業者」を対象とした特定接種が認められているからです。介護事業者もここに含まれるため、職員が優先的にワクチンを接種し、利用者が安心して施設を利用できる環境を維持しやすくなります。
5. 多くのリスク回避につながる
ここまでに紹介したメリット以外にも、BCPを策定しておくことは多くのリスク回避につながります。たとえば、緊急時に何らかの問題が発生した際、法的・社会的な責任を追及されたり、賠償責任を負ったりすることになる可能性は否定できません。BCPを策定していることは、従業員の健康と安全に配慮するための安全配慮義務をしっかりと履行していることの証しとなります。
【自然災害】BCPの策定方法
ここからは、BCPの具体的な策定方法について見ていきましょう。1つめは自然災害に関するBCPです。
自然災害発生時は、職員と利用者の安否確認を行うことが最優先となります。状況によっては、サービスを一時的に停止せざるを得ない場合もあるでしょう。業務の優先順位を見極めつつ、安全確保と復旧作業を並行して進めなくてはなりません。通所系介護サービスと訪問系介護サービスでは対応が異なるため、それぞれの場合について解説します。
通所系介護サービスの場合
通所系介護サービスでは、BCPを以下のように策定します。
平時対応
平時対応とは、自然災害が発生していない平常時に備えておくべきことを指します。緊急事態発生時に家族とスムーズに連絡が取れるよう、あらかじめ緊急連絡先を把握しておくと同時に、安否確認方法を整理しておきましょう。また、自施設では対応しきれない問題が発生することも想定し、日頃から地域の居住介護支援事業者と連携を取れる体制を整えておくことが重要です。
災害が予測される場合の対応
災害が予測される場合の対応とは、台風や豪雨の予報などから被害の発生が想定される際に備えておくべきことを指します。具体的には、サービスの一時停止や縮小などの検討が必要です。あらかじめ対応すべき基準を定め、利用者やその家族、ならびに地域の居住介護支援事業所に共有しておきましょう。
災害発生時の対応
災害発生時の対応とは、実際に災害が発生した場合に対応すべき事項のことです。具体的には、安否確認を行ったのち、緊急連絡先に安否状況を連絡する必要があります。利用者や家族の状況に応じて帰宅の準備を進めましょう。状況によっては施設に宿泊したり、近隣の避難所へ退避したりする選択肢も視野に入れておきます。
訪問系介護サービスの場合
次に、訪問系介護サービスのBCP策定方法を見ていきます。職員が利用者宅を訪問中、あるいは移動中に災害が発生することも想定しておくことが大切です。
平時対応
サービス提供中に災害が発生した場合の対応については、前述の通所系介護サービスと同様です。これに加えて、移動中の対応方法や、避難先でのサービス提供を想定した対策を練っておきましょう。あわせて、地域の避難方法や避難先の情報についてもまとめておくと、いざというときにスムーズに行動できます。
災害が予測される場合の対応
災害が予想される場合、あらかじめ決めた基準に合わせ、サービスの一時停止や縮小を検討します。場合によってはサービスの前倒しなど、柔軟に対応することも大切です。
災害発生時の対応
災害による被害が大きい場合、他施設でのサービスに移行したほうがよい可能性もあります。万が一に備え、日頃から他施設と連携を取っておきましょう。場合によっては避難先でサービスを提供することも考えられるため、地域の関係機関や居住介護支援事業所との協力も必要です。
【感染症対策】BCPの策定方法
感染症が発生した際には、利用者や他の職員への影響を最小限にとどめるため、業務縮小や一時閉鎖などを検討する必要があります。厚生労働省老健局が公開している感染症発生時の業務継続ガイドラインを参考に、策定方法を解説します。
入所・訪問系介護サービスの場合
まずは、入所・訪問系介護サービスにおける対応方法を解説します。
平時対応
平時対応で行う項目は以下の通りです。
感染疑い者の発生、初動対応
利用者の体調不良が見られる場合、感染症にかかっている可能性を考慮し対応する必要があります。感染症の疑いがある人を見つけた際の初動対応は以下のように行いましょう。
検査、感染拡大防止体制の確立
検査結果を待っている間、該当者が陽性だった場合に備えて感染拡大防止体制の確立に向けた準備を行います。感染拡大防止体制を確立するための項目は以下の通りです。
通所系介護サービスの場合
通所系介護サービスの場合は入所系・訪問系介護サービスと同様の内容に加え、以下の項目も検討する必要があります。
休業の検討
休業を検討する条件や、休業を通知する際の案内方法についてまとめておきます。休業の条件を決める際は、感染者数や濃厚接触者の体調、稼働できる職員の人数を基準に考えるとよいでしょう。
介護事業所におけるBCP作成例
介護事業所における自然災害に対するBCP作成例を紹介します。
BCP発動基準の作成例
管理者:施設長
代替者:事務長
【地震発生時の発動基準】
【水害発生時の発動基準】
対応体制の作成例
地震防災活動隊 |
隊長:施設長 副隊長:事務長 ・地震災害応急対策の実施については、隊長が一切の指揮を担う ・副隊長は隊長を補佐し、隊長不在時には指揮の代替役を担う |
情報班 |
班長:事務長 メンバー:介護主任 ・行政機関等より正確な情報を収集する ・各機関の指示を隊長に報告する ・緊急連絡網にもとづき、職員に指示事項を共有する ・利用者の状況について、家族や居宅介護支援専門員に連絡する ・活動内容を記録する |
消火班 |
班長:〇〇〇〇 メンバー:〇〇〇〇(職員を選定) ・火元やガスを確認し、発火防止に必要な措置を講じる ・発火が確認された際にはただちに消火活動を行う |
応急物資班 |
班長:〇〇〇〇 メンバー:〇〇〇〇(職員を選定) ・食料や飲料水を確保する ・炊き出しや飲料水配布を実施する |
安全指導班 |
班長:〇〇〇〇 メンバー:〇〇〇〇(職員を選定) ・利用者の状況を確認し、報告する ・施設設備の損壊状況を報告する ・隊長の指示に従い、利用者の避難誘導を実施する ・利用者の家族に引き継ぎを実施する |
救護班 |
班長:〇〇〇〇 メンバー:〇〇〇〇(職員を選定) ・傷病や体調不良が生じていないか確認する ・必要に応じて救護や手当を行う ・状況によっては医療機関などへの搬送も含めて検討する |
地域班 |
班長:〇〇〇〇 メンバー:〇〇〇〇(職員を選定) ・近隣の福祉施設や地域住民と協力して救護活動を行う ・ボランティアの受け入れ体制を整備する |
BCPの策定義務を正しく理解し、適切な対応を
介護事業所におけるBCP策定が義務化された今、自然災害や感染症のリスクに備えて対策を講じておくことは必須の取り組みです。一方で、BCP策定は義務として取り組むだけでなく、介護事業所にとってさまざまなメリットをもたらす点も理解しておく必要があります。今回紹介したBCP策定方法や作成例を参考に、緊急事態に備えた体制づくりを進めましょう。
記事執筆
働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
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