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人的資本開示とは? 義務化の対象や開示方法を解説

From: 働き方改革ラボ

公開日:2026年04月30日

この記事に書いてあること

2023年3月から、有価証券報告書を発行する大手企業に対して「人的資本開示」が義務化されています。将来の上場を目指す企業や、人的資本に関心を持っている方は、開示すべき内容について気になっているのではないでしょうか。そこでこのコラムでは、人的資本開示の進め方や、項目選定のポイントを解説。さらに、具体的な開示方法や内容がイメージできる、企業の事例もご紹介します。

人的資本開示とは?

人的資本とは、人材を企業に価値をもたらす貴重な「資本」ととらえる考え方。人材への投資を通じて企業価値を向上させていくという考え方に基づく経営が、人的資本経営です。

人的資本開示とは、人的資本に関する企業の情報を、客観的なデータや指標を使って社外に公表することです。20233月期決算から上場企業約4,000社に対して、有価証券報告書での開示が義務化されています。

有価証券報告書において、対象企業に開示が義務付けられている人的資本の情報は次のとおりです。

サステナビリティに関する考え方及び取組

人材の多様性の確保を含む人材育成の方針、社内環境整備の方針

従業員の状況

女性管理職比率・男性の育児休業取得率・男女間賃金格差といった多様性の指標

人的資本が重視されている理由

情報開示が義務化されるなど、人的資本が注目されている背景には、企業の非財務情報に対する社会や投資家の関心の高まりがあります。環境への配慮や、人権・労働環境の改善等に取り組むESG活動が、企業価値の指標として重視されており、人的資本も、企業の競争力に関係する資産として注目されています。人的資本開示は、そうした社会の要請に対して、自社の価値を伝える手段として非常に有効です。

同時に、人的資本を可視化することは自社の人材の状況や将来性の把握にもつながります。人的資本への投資と経営の関連性や、人材の課題を理解することが企業価値向上につながるという点で、人的資本開示は、自社にとってもメリットの大きい取り組みなのです。

人的資本の開示項目

では、人的資本として開示する情報は具体的に何を指すのでしょうか。内閣官房が「人的資本可視化指針」で示している開示項目の例は、以下のとおりです。これらを参考に、自社にとって重要な項目や、経営戦略と人材戦略の関係性を表現する上で適切な項目を主体的に選んで、開示することが求められています。

人的資本可視化指針 | 非財務情報可視化研究会

育成

  • 研修時間、研修費用
  • パフォーマンスとキャリア開発につき定期的なレビューを受けている従業員の割合
  • 研修参加率、複数分野の研修受講率
  • リーダーシップの育成
  • 研修と人材開発の効果
  • 人材確保・定着の取組の説明
  • スキル向上プログラムの種類・対象等

従業員エンゲージメント

  • 従業員エンゲージメント
  • 従業員満足度、コミットメント

流動性

  • 離職率(自発的離職率、重要ポジションの自発的離職率)
  • 定着率
  • 新規雇用の総数・比率
  • 離職の総数
  • 採用・離職コスト
  • 人材確保・定着の取組の説明
  • 移行支援プログラム・キャリア終了マネジメント
  • 後継者有効率、後継者カバー率、後継者準備率
  • 求人ポジションの採用充足に必要な期間

ダイバーシティ

  • 属性別の従業員・経営層の比率
  • 男女間賃金格差
  • 正社員・非正規社員等の福利厚生の差
  • 最高報酬額支給者が受け取る年間報酬額のシェア等
  • 育児休業等の後の復職率・定着率
  • 男女別家族関連休業取得従業員比率
  • 男女別育児休業取得従業員数
  • 男女間賃金格差を是正するために講じた措置

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健康・安全

  • 労働災害の発生件数・割合、死亡数等
  • 医療・ヘルスケアサービスの利用促進、その適用範囲の説明
  • 安全衛生マネジメントシステム等の導入の有無、対象となる従業員に関する説明
  • 健康・安全関連取組等の説明
  • 労働災害関連の死亡率
  • ニアミス発生率
  • 労働災害による損失時間
  • 安全衛生に関する研修を受講した従業員の割合
  • 業務上のインシデントが組織に与えた金銭的影響額
  • 労働関連の危険性に関する説明

コンプライアンス・労働慣行

  • 人権レビュー等の対象となった事業()の総数・割合
  • 深刻な人権問題の件数
  • 差別事例の件数・対応措置
  • 団体労働協約の対象となる従業員の割合
  • 業務停止件数
  • コンプライアンスや人権等の研修を受けた従業員割合
  • 苦情の件数
  • 児童労働・強制労働に関する説明
  • 結社の自由や団体交渉の権利等に関する説明
  • 懲戒処分の件数と種類
  • サプライチェーンにおける社会的リスク等の説明

項目の選び方と開示のポイント

自社の人的資本の状況を効果的に伝えるためには、どのような切り口や方法で情報の整理を進めればよいのでしょうか。主なポイントは以下のとおりです。

開示情報のストーリー性を重視

「人的資本可視化指針」は、情報開示のポイントのひとつに「ストーリー性」を挙げています。人材戦略と競争力の関連性を示すために、経営戦略と人的資本戦略をつなぐストーリーを描き、それを伝えられる情報を開示することが推奨されています。

このストーリーの組み立てに役立つフレームワークのひとつが「価値協創ガイダンス」です。価値協創ガイダンスの各要素(価値観、長期戦略、実行戦略など)と、自社の人的資本への投資や人材戦略を関連づけることで、つながりをロジカルに示すことができます。

参考:企業と投資家の対話のための「価値協創ガイダンス 2.0」 (価値協創のための統合的開示/対話ガイダンス2.0) ー サステナビリティ トランスフォーメーション (SX) 実現のための価値創造ストーリーの協創 ー|経済産業省

「独自性」と「比較可能性」のバランスを意識

自社の人的資本に関する独自性と、投資家や社会が求める情報のバランスも重要です。投資家や評価機関は、企業間で比較ができる一般的な算出方法や指標に基づいた情報を求めています。一方で、ビジネスモデルや組織のあり方が多様化する中で、企業の人材戦略を伝えるためには、独自の施策に関する情報も必要です。比較可能な情報を伝えつつ、自社ならではの人的資本の強みを表現できる独自性の高い情報も盛り込みましょう。

定量情報をあわせて開示する

開示にあたっては、情報を受け取る側が客観的な評価や比較ができるように、定量情報や数字を具体的に示しましょう。取り組みの内容や実績だけでなく、実際の投資額や時間数、成果などのデータを伝えることが重要です。目標や方針を伝える上でも、「目指すべき女性管理職の割合」などの数値目標を同時に開示しましょう。

ステップを踏んで開示を進めることも有効

完成された形での開示を目指すのではなく、ステップを踏んで開示を進めることも有効です。最初から高い完成度を求めると、情報開示や人的資本経営の取り組みが遅れる可能性があります。まずは、できる範囲で開示をして、フィードバックを受けて開示内容をブラッシュアップしていくことも可能です。情報の精度向上だけでなく、人材戦略の見直しや、人的資本への投資判断にもつながり、着実に人的資本経営や企業価値向上を進めていくことができるでしょう。

4つの要素をおさえた開示

「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」の4つの要素に沿った開示を行うこともポイントです。これらに基づいた開示方法は、資本市場において、サステナビリティ関連情報を伝える上での一般的な構造として認知されており、人的資本開示においても、経営戦略と人的資本の関係性を伝える上で有効です。4つの要素を、人的資本の以下の内容にあてはめて情報をまとめましょう。

  • ガバナンス:人的資本に関連するリスク及び機会に関する組織のガバナンス
  • 戦略:人的資本に関連するリスク及び機会が組織のビジネス・戦略・財務計画へ及ぼす影響
  • リスク管理:人的資本に関連するリスク及び機会を識別・評価・管理するためのプロセス
  • 指標と目標:人的資本に関連するリスク及び機会の評価・管理に用いる指標と目標

人的資本開示を進める企業事例

では、実際に企業はどのように人的資本開示を行っているのでしょうか。独自の人的資本の取り組みを開示している企業の事例をご紹介します。

人材の多様性実現に向けた目標と取り組みを開示

保険会社の東京海上ホールディングス株式会社は、「グローバル展開を支える人材の多様性」を重要な経営戦略と位置づけ、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みと定量目標を開示しています。

D&I責任者と、DIに関するビジョンの策定と経営コミットメントを社内外に発信するCEO直轄の諮問機関「ダイバーシティ・カウンシル」の設置、パーパス浸透のための「マジきら会(マジメな話を気楽にする会)」の実施といった具体的な施策と、グループ中核企業の女性管理職以上比率の定量目標(30%)を開示。あわせて、現状の男女別従業員数・役員数・管理職数や、配偶者出産休暇制度利用者数などのデータも公表しています。

人的資本の定量目標と成果を図で開示

東京都の総合商社・双日株式会社は、具体的な取り組みと数値目標、アウトカムのつながりを図で示すことで、人的資本開示を行っています。人材戦略において目指す姿の実現のための「女性活躍」「挑戦」「外国人人材」「健康経営」といった各種施策と、「人材KPI」と「定量目標」、そしてその成果として生まれる価値の流れを図式化。人的資本がどのような企業価値につながっていくかというストーリーを、整理図でわかりやすく示しています。

責任あるサプライチェーン構築の方針と実績を開示

食品の製造販売を手がける大阪府の不二製油株式会社は、責任あるサプライチェーン構築を重要課題と位置づけ、原料の調達方針や、労働問題に関するKPI等を開示しています。カカオや大豆の農家にあたる一次産業から物流、加工、販売といった調達工程全体を通じてサステナブルな社会を実現するという「価値創造プロセス」を提示。取締役会の諮問機関であるESG委員会で、その進捗と成果を確認しています。その上で、児童労働撤廃、労働環境改善プログラム適用率100%、協同組合まで追跡可能なシアカーネル(戦略原料)直接調達比率75%という【2030KPI】を設定し、毎年の実績値も開示しています。

参考:人的資本可視化指針 付録① 人的資本:開示事項・指標参考集 | 非財務情報可視化研究会

人的資本経営のための情報を可視化しよう!

企業が社会的役割を果たす上でも重要な、人的資本の取り組み。可視化された人的資本の情報は、自社が取り組むべき新しい課題を見つける手がかりにもなるでしょう。上場企業としての開示が求められていないとしても、まずはホームページ等で、独自の人材の取り組みや目標を発信することがおすすめです。人的資本の視点を経営に取り入れて、多様な人材が活躍できる組織を目指してみてはいかがでしょうか?

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記事執筆

働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営

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