人的資本とは?多様な人材の活躍を促すタレントマネジメントを進めよう
2025年05月13日 07:00
この記事に書いてあること
今、経営戦略のひとつとして注目されているのが「人的資本」の活用です。経済産業省もこの人的資本を、企業価値向上における重要な概念として定義しています。そこでこのコラムでは、中小企業が知っておきたいテーマである「人的資本」について、その概念の意味と、必要とされる理由などの背景を解説。さらに、人的資本経営を推進する具体策についてもお伝えします。
人的資本とは?
人的資本とは、人材を、企業の競争力の源泉である「資本」ととらえる考え方です。人的資本経営とは、そんな人材の能力やモチベーションを最大限に引き出すことで中長期的な企業価値の向上へとつなげていく経営手法を指します。
人的資本という概念が注目されたきっかけのひとつが、経済産業省が2020年から開催する「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会」の議論をまとめた「人材版伊藤レポート」です。
「人材版伊藤レポート」は、日本企業の成長のため、人的資本の重要性や、人的資本経営をどう実践していくかというアイディアを提示する報告書です。企業がさまざまな経営課題を解決するためには、企業が「人財」という考え方の下、企業理念や存在意義に立ち返り人材戦略を変革させる必要性があると伝えています。
このレポートでは、「人材マネジメントの目的」や「アクション」などの各項目における人材戦略の変革の方向性を提示。人材を資源やコストとして管理するという考え方から、資本として活用・成長させる投資活動によって価値を創造する志向へ転換することを、企業に提言しています。
人的資本経営が求められる理由
ではなぜ今、企業の成長のために人的資本経営が求められているのでしょうか。
現在、ビジネスのデジタル化やグローバル化が進み、働く人に求められるスキルや能力が多様化・高度化しています。そのため企業は、競争力獲得のため必要なスキルを把握しながら、ひとりひとりの人材の能力を引き出すことで、組織のパフォーマンスを高める必要があります。
産業構造の変化や少子高齢化など、企業を取り巻くビジネス環境も日々、変化する中で、自社のビジネスモデルと人材マネジメントを連動させた経営戦略によって企業価値を向上することが求められています。
また、働く人ひとりひとりのキャリア観も変化。働き方の希望だけでなく、性別や国籍、年齢等において多様な人材が能力を発揮できる環境作りも欠かせません。リモートワークが浸透し、対面でのコミュニケーションの機会が減る中でも、ひとりひとりの人材に向き合い、その個性やスキルを企業内で十分に活用できる仕組みが求められているのです。
人的資本を活用するメリット
では、経営において人的資本を活用することで、企業にどのような変化が起こるのでしょうか。人的資本経営に取り組むことの主なメリットは、次のとおりです。
従業員の能力の可視化によって人材の活躍が進む
人的資本経営においては、働く人それぞれの能力に合った活躍を促すことで、企業価値向上を目指します。そのために欠かせないのが、ひとりひとりの個性やスキルの可視化です。人的資本の考え方に基づいた人材マネジメントによって従業員の強みが明確化され、適材適所での活躍が進む点が大きなメリットです。
人材が育つことで生産性が向上する
人的資本経営によって、従業員が自分の能力を発揮しやすい環境で活躍できるようになれば、各部門での業務の生産性が向上します。業務効率化が進むだけでなく、新規事業や業務改善につながるアイディアも生まれ、企業の利益拡大につながります。
人的資本への投資として、研修や育成による個々のスキルアップが進めば、さらに仕事のパフォーマンスが向上。従業員のあげた成果が、さらなる組織の成長につながります。
仕事の創造性が上がりイノベーションが生まれる
人的資本経営は、組織のダイバーシティや、人材の個性を生かした活躍を促します。さまざまな特性を持つ人材の能力が引き出されることで組織が活性化し、企業の成長につながるイノベーションが生まれるでしょう。多様なバッググラウンドを持つ人々が、自分の経験や知識に基づいた意見を持ち寄ることで、企業に新しい視点やアイディアがもたらされる点も、大きなメリットです。
従業員のエンゲージメントが上がり人材が定着する
人的資本経営によって、働く人の意欲や満足度も向上します。ひとりひとりが職場において尊重され、成長のための支援や教育の機会を得られることで、組織へのエンゲージメントや仕事へのモチベーションが高まります。企業の成長に貢献する人材が定着する点も、人的資本経営のメリットです。
また、人材を重んじる企業としての社外からの信頼も獲得できます。働きやすく、自身が成長できる会社という認知を得ることで、採用面でも、優秀な人材が集まりやすくなるという効果が期待できます。
中小企業を成長させる人的資本の活用法は?
企業にとっても、働く人ひとりひとりの成長にも欠かせない人的資本経営。成功させるためには、人的資本をどのように活用すればいいのでしょうか。その具体策は次のとおりです。
経営戦略と連動した人材戦略の策定
人的資本経営へと舵を切る上で重要なのは、経営戦略と連動した人材戦略の策定です。まずは、全社的な経営上の課題を洗い出し、対処の優先順位を明確化。次に、その課題解決のためにはどういう人材がどのくらい必要かという「人材アジェンダ」を設定します。
そして、現状の従業員の人数や、どのような職種の人材がいるかといった人的資本の構成をまとめた「人材ポートフォリオ」を作成します。その上で、経営戦略の目標達成に必要な人材アジェンダと現状のギャップを埋めるための人材戦略として、人員再配置や育成プログラム、採用計画などを策定・実行していきましょう。
タレントマネジメントシステムの活用
人的資本の活用において効果的なのが、タレントマネジメントシステムの導入です。タレントマネジメントシステムとは、従業員のプロフィールや能力などの人事情報を管理し、配置や育成に活用できるツールです。エクセル等の複数の方法で管理していた人事情報を検索性の高いシステムで一元管理できるほか、従業員が持つ資格やスキルなどの情報を、有効な配置や企業価値向上のために活用できます。
人事評価や、人材情報の分析、給与や勤怠システムとの連動機能を持つシステムもあり、人事業務の効率化にも役立ちます。
リスキリングの推進
人的資本の持続的な成長を支え、組織全体のパフォーマンスを高める取り組みも重要です。リモートワークなど多様な働き方においても活躍できる人材や、DXへの対応や新規事業に従事できる人材を育てるために、従業員のリスキリングを推進しましょう。eラーニングなどの学習プログラムの提供や、従業員がリスキリングに集中するための教育訓練休暇制度などの取り組みによって、従業員の活躍の幅を広げることができます。
人的資本経営を成功させる情報活用を進めよう!
人材難が進む中でも自社の競争力を高めていくためには、中小企業こそ、今いる人材の能力を最大限に引き出す人的資本へのアプローチが求められます。そして、人的資本への投資を成功させる第一歩として、自社の人材構成を可視化することが重要です。
人的資本経営の具体策や進め方を示す経済産業省のレポートや、人的資本の活用の土台を作るタレントマネジメントシステムも利用しながら、多様な人材の活躍を進めてみてはいかがでしょうか?
記事執筆
働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
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