介護報酬改定(2024年度)の改定率・変更点・対応策をわかりやすく解説
2024年09月24日 07:00
この記事に書いてあること
本記事は、掲載時点における法令・制度等の情報をもとに作成しています。以降の法改正や通達等により、内容が現状と異なる場合があります。正確な情報については、最新の法令や公的機関の発表をご確認ください。
【2025年10月22日更新】
介護報酬は約3年ごとに見直されており、直近では2024年に改正されました。職員の処遇改善をはじめ、介護保険制度の持続可能性を確保するためのさまざまな改正がなされています。
この記事では、2024年度における介護報酬改正の改定率をはじめ、主な変更点をわかりやすく解説しています。介護事業者が対応すべき点や今後の改定が想定される事項もまとめていますので、ぜひ参考にしてください。
介護保険法とは

はじめに、そもそも介護保険法はどのような法律なのか、その概要と改定されてきた経緯について振り返っておきましょう。
公的介護保険を運用するための法律
介護保険法とは、公的介護保険の根拠となっている法律のことです。40歳以上の国民に介護保険への加入を義務付けるとともに、被保険者が要介護状態になった際には1〜3割の自己負担率で介護サービスを受けられる仕組みになっています。介護保険制度は2000年に始まり、以来複数回にわたって改定されてきました。
介護保険法が改正された経緯
介護保険法の施行から20年以上が経過し、介護を取り巻く環境も変化しつつあります。今後は少子高齢化がいっそう進んでいくことを見据え、介護保険法は定期的に改正されてきました。この背景には、介護保険制度の仕組みを持続可能なものにするという重要な目的があります。後述するように、2024年度改正においても介護職員の処遇改善に重きを置いた介護報酬の改定がなされました。
介護保険法の改定は何年ごと?
介護保険法は2005年に第1回の改正がなされ、以降およそ3年ごとに改正されてきました。従前の主な改正内容は下記のとおりです。
| 改正年度 | 改正の概要 |
|---|---|
| 2005年 |
|
| 2008年 |
|
| 2011年 |
|
| 2014年 |
|
2025年は、団塊の世代が75歳に達する節目となる年です。直近の2024年改正は、この節目を前に実施された最後の改正と位置付けられます。
2024年度改定の8つのポイント

2024年度改正の主なポイントをまとめました。どのような点が変わったのか、概要を把握しておきましょう。
ポイント1:介護情報一元化に向けたシステム基盤の整備
介護情報を一元管理するシステム基盤の整備が決定しました。利用者の同意のもと必要な介護情報を介護事業所、医療機関、自治体が相互に共有できる仕組みを目指すことが明記されています。これは「地域包括システムの深化・推進」の一環として、地域包括ケアシステムの確立を目的としたものです。
自治体や介護事業所などが一体となり、必要な介護サービスを提供することが重要です。介護事業者が提出する書類の様式を一体化し、電子申請への統一が示されています。
ポイント2:財務諸表の公表義務化
社会福祉法人に限らず、医療法人や株式会社に関しても財務状況の提出が義務付けられました。介護サービス事業者に対して適切な支援を実施する上で、まずは経営実態調査を補完する必要が生じたことが大きな理由です。提出が必要となる財務諸表は、拠点ごとの損益計算書等となっています。
介護を取り巻く環境は刻々と変化しています。生産年齢人口の減少と介護現場における人材不足の状況、新型コロナウイルスなどの感染拡大による経営への影響などを踏まえた改正といえるでしょう。
ポイント3:介護予防支援の適用拡大
要支援者を対象とした介護予防支援を、従来の地域包括支援センターに限らず、居宅介護支援事業者(ケアマネ事業所)においても実施できるようになりました。
この改正に伴い、市町村から指定を受けた居宅介護支援事業所は、市町村や地域包括支援センターと連携しながら介護予防支援を実施できます。これまで、介護ニーズの多様化や家族介護者の増加などに伴い、地域包括支援センターの負担が増大しつつあったのが実情です。地域包括支援センターの負担を分散化するとともに、より適切な介護サービスを提供するための支援体制づくりにつなげることが狙いです。
ポイント4:ICT活用推進
ICT活用の推進が打ち出されたことも、2024年度改正における重要なポイントの1つです。AIを活用した見守りシステム導入や介護記録のデジタル化といった、業務効率化とサービスの質向上を目的としています。
また、これらの支援のために新たな加点が創設されました。加点の対象となるには、見守り機器やそれらの継続的な活用による効果のデータ提供などが必要です。
また、「LIFEを活用した質の高い介護」として、LIFEへのデータ提出頻度についてなどの見直しも行われました。LIFEの活用を促進することで、介護記録のデジタル化や科学的知見にもとづく加点といった、業務の効率化と質の向上を図ることが主な目的です。
ポイント5:リハビリテーションの充実
自立支援や重度化防止を図るため、利用者への理学療法や作業療法の提供体制が強化されました。介護職員や訪問介護員に対して、リハビリ研修の充実が期待されています。医療との連携強化に向けて、医療機関によるリハビリテーション計画書の受領が義務化されたことや、退院後に早期のリハビリテーション実施に向けた情報連携の推進が明記されたことも重要なポイントです。
ポイント6:介護職員の処遇改善
介護職員の処遇改善に重点が置かれ、介護報酬の改定が行われたことも重要な点です。労働人口が減少に転じたことに伴い、介護人材不足が懸念されます。働きやすい職場環境づくりを推進するには、介護職員の処遇改善が不可欠です。
また、ICTを活用した業務の簡素化・効率化といった環境整備も、労働環境の改善の一環といえるでしょう。職員の負担を軽減するための取り組みが、各介護施設において求められています。
ポイント7:訪問介護の向上
「適切かつ質の高い訪問看護を提供する観点を取り入れる」ための、専門管理加算が新設されました。具体的には、中山間地域などにおける訪問介護の継続的な提供の評価、質の高い訪問介護サービスを提供する事業所への評価などが挙げられます。また、看取り期の利用者が安心して過ごせるよう、ターミナルケア加算や看取り連携体制加算が行われました。在宅介護おける医療ニーズに対して、どのように対応するかが重要なポイントとなります。
ポイント8:福祉用具貸与の見直し
福祉用具が貸与から販売へと移行しました。貸与の場合、多くの費用がかかるほか、廉価な品目も含めて貸与させている実態が報告されています。改正後は、一部の福祉用具について貸与・販売の選択制が導入されたほか、利用者への十分な説明の義務化や多職種や関与した提案の推奨などが明記されました。一例として、固定的スロープといった安価な用具に関しては、貸与ではなく購入する必要があります。
2024年度改定による改定率と対象となる介護サービス
2024年度改正では、介護報酬はどのように改定されたのでしょうか。改定の対象となる介護サービスとともに確認しておきましょう。
2024年度の改定率
介護報酬とは、事業者が要介護者または要支援者に対して介護サービスを提供した場合、対価として支払われる報酬のことです。2024年度改正における改定率は+1.59%でした。内訳は、介護職員の処遇改善による改定率が+0.98%、その他の改定率が+0.61%となっています。
さらに、処遇改善加算による賃上げ効果と、光熱水費の基準費用増額によって0.45%相当の増収効果が見込めます。これらを含めると、実質的な引き上げ率は合計2.04%程度です。
対象となる介護サービス
介護報酬改定の対象となっているのは、下記に挙げる24の介護サービスです。
- ・訪問介護
- ・訪問看護
- ・居宅介護支援
- ・定期巡回・随時対応型訪問介護看護
- ・訪問入浴介護
- ・夜間対応型訪問介護
- ・訪問リハビリテーション
- ・通所リハビリテーション
- ・居宅療養管理指導
- ・通所介護
- ・短期入所生活介護
- ・短期入所療養介護
- ・特定施設入居者生活介護
- ・福祉用具貸与
- ・介護老人福祉施設
- ・介護老人保健施設
- ・介護医療院
- ・地域密着型通所介護
- ・認知症対応型通所介護
- ・小規模多機能型居宅介護
- ・認知症対応型共同生活介護
- ・地域密着型特定施設入居者生活介護
- ・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護
- ・看護小規模多機能型居宅介護
上記のうち訪問介護、訪問リハビリテーション、通所リハビリテーション、居宅療養管理指導に関しては2024年6月、その他のサービスに関しては2024年4月より介護報酬が改定されています。
訪問介護の基本報酬は減額
全体としては介護職員の処遇改善が図られた一方で、訪問介護の基本報酬は減額となりました。この背景には、訪問介護サービスを提供する事業所の経営状態が比較的良好であるケースが多く見られること、処遇改善加算の加算率が他サービスと比べて高いこと、介護職員以外への処遇改善も講じられていることなどがあります。改定前後の単位数は下表のとおりです。
【訪問介護の基本報酬単位数(改定前/後)】
| 種別 | 時間 | 改定前 | 改定後 |
|---|---|---|---|
| 訪問介護 | 20分未満 | 167単位 | 163単位 |
| 20分以上30分未満 | 250単位 | 244単位 | |
| 30分以上1時間未満 | 396単位 | 387単位 | |
| 1時間以上30分未満 | 589単位 | 567単位 | |
| 以降30分増すごとに | 84単位 | 82単位 | |
| 生活援助 | 20分以上45分未満 | 183単位 | 179単位 |
| 45分以上 | 225単位 | 220単位 | |
| 身体介護に引き続き生活援助を行った場合 | - | 67単位 | 65単位 |
| 通院等乗降介助 | - | 99単位 | 93単位 |
介護事業者が対応すべきこと

2024年度介護保険法改正を受けて、介護事業者にはどのような対応が求められるのでしょうか。対応すべきことのポイントをまとめました。
改定された事項を把握する
はじめに、厚生労働省「令和6年度介護報酬改定における改定事項について」を必ず一読し、必要な対応を確認しておくことが大切です。このうち、施設に該当する事項をピックアップしておきましょう。
たとえば、介護報酬の加算要件の中には、新設された認知症ケアや入浴介助への対応なども含まれています。こうした専門的なケアやサービスを提供するには、介護職員の専門性向上が欠かせません。介護職員を対象とした研修等の実施が求められる場合もあります。このように、施設や人員の現状を踏まえて必要な対応を整理しておくことが大切です。
医療機関との連携強化に向けた準備を進める
前述のとおり、介護施設と医療機関との連携強化は2024年度改正のポイントの1つです。協力医療機関の名称等を事前に届け出る必要があることから、特定施設入居者生活介護などの該当するサービスを提供する事業者は、連携に必要なシステムの整備を進めておく必要があります。
また、現場のICT活用が進むことを見据えて、各種研修等を前もって実施しておくのが望ましいでしょう。実際にICTツールが導入された途端、現場が混乱することのないよう導入の目的や具体的な操作方法について、丁寧に伝えていくことが重要です。
介護職員が働きやすい環境を整備する
2024年度改正に盛り込まれた介護報酬の引き上げは、介護職員の処遇改善が主旨となっています。介護職員の賃金増を検討するほか、福利厚生の増強など、職員にとって働きやすい環境を整備していくことが重要です。
少子高齢化がいっそう進む中、介護サービス事業における人材不足が深刻化すれば介護保険制度の持続そのものが危うくなりかねません。職員にとって魅力的な職場になるよう、賃金以外の面についても改善を図ることが求められています。
2024年度改正にて見送られた事項
2024年度改正では、改定が見送られた事項もあります。これらの事項については、次回以降の改正に向けて検討が進められる見込みです。
複合型新介護サービスの創設
複合型新介護サービスの創設に関しては、2024年度改正には盛り込まれませんでした。複合型新介護サービスとは、通所+訪問のように通所介護と在宅サービスを組み合わせた介護サービスのことです。現時点では正式名称が決まっていないことから、「複合型新介護サービス」のほか「通所+訪問サービス」などと呼ばれることもあります。
こうしたサービスの創設に際して、介護保険制度の複雑化やサービスの質低下、対応が困難な事業所の撤退などが懸念されるといった声が上がったことにより、2024年度改正からは除外されました。今後の改正では複合型新介護サービスが創設される可能性があることから、早めに対応を進めておくのが望ましいでしょう。
ケアプラン作成の有料化
介護保険を利用したサービスを受ける際に必要なケアプランの作成は、在宅サービスに関しては全額が保険給付となっており、利用者の負担は発生しません。しかし、施設サービスでのケアマネジメントについては利用者が費用を負担する必要があることから、公平性を保つための有料化が検討されていました。
一方で、ケアプラン作成を有料化することによって利用料管理の負担が増したり、介護サービスの利用控えにつながったりするおそれがあるとの指摘もあります。これまでも繰り返し議論されてきたトピックのため、今後の介護保険法改正において再び検討事項の1つに挙がる可能性は十分にあるでしょう。
まとめ
2024年度に実施された介護報酬改定では、人手不足対策としての処遇改善をはじめ、医療機関との連携やICTの推進などが重視されています。介護事業者は法改正に伴う変更事項を正確に把握した上で、時代背景に即した対策を検討していく必要があるでしょう。今回紹介した改定のポイントや対応すべき事項を参考に、施設における対応状況をあらためて確認してみてはいかがでしょうか。
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記事執筆
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