現場主義を貫くミサワホームの働き方改革(前編)30歳までにプロを育てる研修体系

From: 働き方改革ラボ

2022年01月27日 07:00

この記事に書いてあること

施工現場の労働環境や人材不足など、数々の働き方の課題を抱える建設業界。ITツールの活用や、現場での業務改革が求められているこの業界において、ミサワホーム株式会社は、社員の声を聞く仕組み作りや、「健康経営優良法人2021 ホワイト500」に認められる健康経営など、働き方改革を積極的に進めています。

制度や教育制度の面から改革を進める人事総務部担当部長の高橋幸男氏と、デジタル活用を主導するITソリューション部部長の高島巌氏に、ミサワホームの課題意識や、働き方改革の具体的な取り組み内容について伺いました。

働き方改革で大切にしたのは現場目線

ミサワホーム株式会社の人事総務部担当部長の高橋幸男氏

―「いつでも、どこでも、いつまでも、いきいきと」働ける環境づくりをスローガンに掲げる「ミサワスマートワーキング」の考え方が生まれた背景を教えてください。

高橋:2017年頃からの世の中の働き方改革の流れの中で、当社も改革に取り組もうというところからスタートしました。特に建設業界は、これまで現場は3Kと言われることも多く、営業現場も昔ながらのやり方を続けている部分もあり、働き方改革に関して遅れているという感覚を持っていました。

その時の大きな柱としては、取り組む方向性を限定しないために、残業を減らすという数値的な目標はあえて掲げずに、働き方を変える取り組みを行うこと。組織横断的に若手からベテランまで幅広く、50人程度の社員を集めたBR(ビジネスレボリューション)働き方改革推進室を立ち上げて活動をスタート。各取り組みの進捗報告や、社長の磯貝を含む経営層と意見を交わす定例会を月に1回行ったり、チームごとのミーティングを重ねたりした結果をふまえ、仕組みや制度作りを進めました。

特に大切にしたのは、現場目線です。営業や設計、建設、カスタマーサポートなど、お客さまの住まいづくりや暮らしに直接携わる社員の意見を吸い上げて、「いつでも、どこでも、いつまでも、いきいきと」という言葉にあるように、社員がモチベーション高く、若手からシニアまで働き続けられる会社を作ることが大きな狙いでした。

―実際に、どのような仕組みや制度が生まれたのでしょうか?

高橋:テレワーク制度やフレックス勤務制度、定休日の振替制度などを導入しました。本社部門の休日は土日ですが、営業は火曜日と水曜日がお休みです。働き方改革推進室の意見交換の中で、子どもがいる社員は出勤日に保育園に預けられないという課題が挙がり、定休日を振り替えられるようにしました。

そのほかにも、もともと男性がメインだった現場の作業服が女性にはぶかぶかで動きにくいという意見に応えて、女性社員が中心になり作業服のリニューアルを行いました。そういったさまざまな課題について、現場の生の声に経営者が応えるという形で改革を進めたことで、成果につながったと思っています。

30歳で1人前になることを見据えた、一貫した研修体系

ミサワホーム株式会社 制度や教育制度の面から改革を進める人事総務部担当部長の高橋幸男氏と、デジタル活用を主導するITソリューション部部長の高島巌氏

―ミサワホーム様は人材育成の取り組みにも力を入れていますが、人材面ではどのような課題を抱えていらっしゃったのでしょうか。

高橋:これまで一貫した研修制度が確立されていませんでした。定期的に行う研修はありましたが連続性がなく、一本化しようと3年前に改革しました。内定者研修に始まり、新入社員研修、3年目・5年目・7年目研修という、7年目の30歳で一人前の社会人になる、「30歳プロ化」を見据えて体系化された、一貫した教育・研修ができるように整備しました。

3年目研修で学んだことが5年目で活かされ、5年目研修で学んだことがまた次に続いて、というようにつながってきましたので、若手社員が30歳を見据えて良い形で育ってきていると思います。研修で教えるのは、ビジネスマンとしての根底の考え方です。専門知識ではなく、仕事の進め方や向き合い方など、どの職場に行っても生かせるスキルを身につけます。

―日ごろから社員の声を聞ける仕組みも整えていらっしゃるそうですね。これはどういった制度なのでしょうか。

高橋:2021年4月から始まったレプレゼンタティブ制度、通称レップ制度です。人事総務部の社員が支店や支社に毎週足を運んで、意見を聞いています。人事制度に対する意見や、ハラスメントがあったことを聞いたり、こちらからも情報を伝えたりといったコミュニケーションがとれています。

当社はディーラー制度をとっていまして、関東では以前、東京・神奈川、埼玉・群馬、千葉・茨城の販売会社にそれぞれ人事総務部があったのですが、7年前に3つの会社が本社に統合されたことで、本社だけに人事総務部がいるという状態になりました。

人事総務部と距離ができると、ちょっとした相談事がしにくくなるんですね。それでは現場の状況がわからないということで、4月から制度を始めて、今年10月からは訪問を週3回にしています。来年の4月からは常駐にする予定ですので、もっと現場の意見を吸い上げたいと思っています。

―レップ制度で、実際に現場の意見を聞くことで改善につながった事例はありますか?

高橋:最近ですと、図面を書いている設計の部署に残業が多いという課題が多くの支社から聞かれました。全社的に設計がこういう状況だと経営層に上申できて、今、人材を補強するなどの手を打つ方向に動いています。今まで、現場での働き方の課題を経営層まで伝える流れがなかったのですが、レップ制度によって、現場の問題にスピーディーに対処ができる状況になりました。今までなかった仕組みですので、現場からは感謝の声があがっています。

5年で社員の健康状態が悪化。長く働ける会社作りのため健康経営に着手

インタビューに答える高橋氏

―3年連続で「健康経営優良法人 ホワイト500」に認定されていますが、健康経営に力を入れ始めた理由は何だったのでしょうか。

高橋:健康経営は、働き方改革で取り組むテーマのひとつでした。2017年に社員の健康状態を確認しようということで、2012年から2016年まで5年間の健康診断の結果をあらためて調査しました。すると、調査した5年間で、すべての年代で健康状態が悪化していたことが浮き彫りに。とくに30歳前後の悪化が著しく見てとれました。20代前半では健康でも、30歳頃にはみんな悪化してしまう。これは大きな課題だと認識しました。

40歳になってさらに悪化していくとなると、この状態に手を打たなければ、これからの人生100年時代において、長く健康に働き続けることはできないだろうと。また当時、健康保険組合の保険料率が大きく上がったことも、健康経営に取り組む後押しになりました。

シニア世代の社員がいきいきと、長く健康に働けるようにしたいという内的要因と、健康保険組合の負担が上がっているという外的要因の両面から、社員の健康増進にしっかり取り組むべきだと判断しました。

―なぜ、特に若手の健康状態が悪化していたのでしょうか?

高橋:これは多くの会社に共通する話だと思いますが、社会人になると太ってしまう方が多くいます。これは、生活が大きく変わることに伴う運動不足やストレスのほか、例えば遅い時間まで働いた日には食事の時間が遅くなり、食べた後すぐに寝てしまうということも健康を害する一因だと思います。

多くの会社にとってその年代は健康状態が悪くなりやすいですが、当社の場合は、そこに手当てが出来ていなかったと反省しています。健康診断をやるだけでなく、この数値が悪いですよ、二次健診を受けてくださいね、というところまでフォローをしていませんでした。

―では、具体的にどういう健康経営の取り組みをされてきたのでしょうか?

高橋:社長の磯貝が、CHO(チーフヘルスオフィサー)=最高健康責任者として就任し、健康宣言をホームページに掲載して発表することで、まずは本気度を内外に示しました。

また、社内に保健士が駐在する健康保険室を作り、就業中いつでも健康相談ができる環境を整備。電話相談等で各支社・支店からの問い合わせに対応しています。なお、支社・支店に保健師は駐在していませんが産業医がいて、現場の社員とコミュニケーションをとっています。

そうして保健士が健康診断の結果を見ながら社員の健康状態をフォローしているうち、社員たちの間にも「会社は本気だ」ということが伝わり、徐々に文化として浸透していきましたね。

―運動習慣をつけるための、社員参加型のイベントも実施されているそうですね。

高橋:今年で3回目になりますが、全社員参加のウォーキングイベントを毎年やっています。みんなで携帯にアプリを入れて、期間中の歩数を測るんです。競い合うのが好きな会社なので、部門対抗だと、けっこうみんな燃えますよ(笑)。

部門長が「1日何万歩歩くぞ」と先頭を切って、みんなで1位を目指してがんばったり、朝礼で順位をチェックして盛り上がったりしているうちに、社員に運動習慣がついてきました。

そのほかにも、感染症がまん延する以前の話ですが、健康づくりを応援する趣旨で地域のマラソン大会に協賛した際には、多くの社員がランナーとして参加しました。参加しない人も、部門みんなで法被を着て応援に行くなどして、社員参加型のイベントが活性化していますね。

―施工現場ならではの健康面の課題に対しては、どんなアプローチをされているのでしょうか。

高橋:たとえば夏の熱中症対策には、直行直帰ができる仕組みとフレックスタイム制度が役立っています。

現在はコアタイムを設けていないため、月単位で1日あたり8時間働いていれば、何時に始業しても何時に帰っても良く、直行直帰も可能です。仕事の繁閑に合わせて、1日2時間だけ働く日があってもかまいません。暑い日中は控えて夕方だけ働くとか、朝に働いて暑い昼は休むということもできて、体をしっかり休ませられるようになったのは、現場にとって大きなメリットですね。

前編まとめ

組織横断的に様々な社員が主体的に働き方改革に取り組んだこと、そして現場目線で声を吸い上げ、その課題に経営者が応える形で働き方改革を進めたたことで、柔軟な働き方を実現する制度や、一貫した教育制度を整えることができたミサワホーム株式会社。

受け身の姿勢では得られない貴重な現場の声を積極的に拾い上げていくことで、今、会社で求められる働き方がわかることが伝わるインタビューでした。
後編では業務効率化やデジタル活用について詳しく伺います。

現場主義を貫くミサワホームの働き方改革(後編)
社員のITスキル底上げで生産性を向上(2022年2月公開予定)>

記事執筆

高橋 幸男(たかはし ゆきお)

1991年に入社。2005年から東京・神奈川エリアの人事に従事した後、2015年より本社の人事総務部・人事課長として会社全体を担当。2017年には新設された「BR働き方改革推進室」を兼務し、健康経営への着手や様々な制度導入に携わった。現在は人事総務部長として感染症への対応を含む労務管理を担っている。


高島 巌 (たかしま いわお)

1989年に入社。11年間の営業経験を経て、2000年からITソリューション部へ。販売店の基幹システムの構築、現場導入を担当するなど情報システムに従事。2017年には「BR働き方改革推進室」を兼務し、RPAなどのツール導入を推進。現在はITソリューション部長として、フレックス制度や在宅勤務など新しい働き方の導入をITの面からサポートしている。

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記事執筆

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