【2024年版】不動産売買契約における電子化とは|最新の法改正や事例を解説
2024年07月12日 07:00
この記事に書いてあること
ここ数年、不動産業界では、デジタル改革関連法の成立や宅地建物取引業法の改正が続き、ペーパーレス化の流れが加速しています。
この記事では、不動産売買の電子契約化の概要やメリット、事例を解説しています。不動産売買における電子契約化を進めたい企業はぜひ参考にしてください。
不動産売買における電子契約とは

はじめに、不動産売買における電子契約について解説していきます。
電子契約とは
民法上において、契約は口頭でも可能とされています。しかし、双方の認識のすり合わせやトラブル防止等の理由により、不動産売買をはじめとした大切な契約に関しては、契約書を締結することが一般的です。
電子契約では、これまで紙で行なってきた契約書の作成・締結を電子データ化しシステム上で行われるよう置き換えます。そのため、効力は紙の契約書と変わりません。
電子化できる不動産売買に関する契約書類
電子化できる不動産売買に関する契約書類は、「媒介契約書面」「重要事項説明書」「不動産売買契約書」などです。ただし、電子データで交付する場合には、タイムスタンプを付与するなど改ざんを防止するシステムを利用しなければなりません。
不動産売買における電子契約の解禁までの経緯

続いて、電子契約の解禁までの経緯を解説していきます。
2017年よりIT重説の運用実験開始
電子契約化を進めるうえで、国土交通省は段階的に運用実験を開始していました。2017年からは賃貸契約において、従来対面で説明しなければならなかった重要事項説明をオンライン上で実施できる、いわゆるIT重説の運用が開始されました。2年ほどかけて導入に問題ないことが実証されたため、さらなるステップアップとして2019年10月1日からは参加事業者に対し社会実験が行われました。
当初は、個人を含む売買取引におけるIT重説を1年間、賃貸住宅電子契約を3カ月間実施する予定でした。しかし、新型コロナウィルス感染症対策の影響で電子契約化を進めるのが急務となり、2021年4月にはIT重説が自由化し、同年5月には、地方自治体を含む行政システムをデジタル化し、利便性を図るデジタル改革関連法が可決されました。
2021年よりIT重説が自由化
先述したように、2021年4月には、どの宅建業者であってもオンライン上で重要事項説明書について説明するIT重説を自由に行えるよう改善されたことをきっかけに、当時、書面交付の義務がない賃貸契約の更新・退去に関してはペーパーレス化が進みました。
さらに、2021年5月にはデジタル改革関連法が成立し、同年9月1日より不動産取引における「押印義務の廃止・書面の電子化」が認められ、その勢いはさらに加速しました。
しかし、一部の契約書では書類での送付・対面での契約が必須となっていたため、契約を完全に電子化するのは難しいという課題がありました。
2022年より電子契約が全面解禁
2022年5月には宅地建物取引業法が改正され、書面での契約が必須となっていた重要事項説明・売買契約締結・媒介契約締結の電子交付が認められ、不動産にまつわる電子契約が全面解禁されました。
この改正によって、契約書の送付から締結までをすべてオンラインでできるようになったため、非対面での契約が可能となったうえに、スケジュール調整や送付する用紙のコストなどが削減されました。
不動産売買を電子契約化する4つのメリット

それでは、不動産売買を電子契約化すると、具体的にどのようなメリットがあるのかご紹介します。
1.契約時間までの時間を短縮できる
従来の不動産売買では、契約のために顧客の元を訪れたり、個別に時間を取ったりする必要がありました。電子契約化することで、オンラインツールやメールなどで書類を送付でき、好きなタイミングでやり取りできるため、成約にかける手間を省くことができます。
2.郵送費などのコストを削減できる
郵送費・印紙税をカットできる点もメリットとして挙げられます。
郵送で契約書を送る際には、配達ミスに備えて配達記録付きで送るのが一般的です。配達記録が付く簡易書留・配達証明郵便・レターパックは普通郵便よりも割高で、郵送するほど経費がかさみます。2024年10月1日からは郵便料金の値上げが予定されており、郵送費の削減はより大きなメリットになるでしょう。
また、書面交付をすると金額に応じて印紙税がかかり、不動産売買契約書に記載されている金額が大きくなるほど印紙税額が増えていきます。成約数が多いほどかかる郵送費・印紙税を削減できるなど、電子契約による恩恵は計り知れません。
3.文書ファイルを電子化して保存できる
電子契約書は、紙で交付する時と違いパソコン・サーバーで管理するため、保管場所に困りません。不動産売買契約書は、債務不履行による損害賠償ができる期間の10年間、あるいは不法行為による損害賠償請求権の期間となる20年間は保存を推奨されています。
これらの期間、紙で管理すると、内容を確認する際は大量にあるファイルから探さなければならず、手間や時間がかかってしまいます。業務効率が悪くなるため、膨大なデータの中から瞬時に探せる電子契約書が便利でしょう。
4.取引先や消費者の需要に対応できる
テレワークやITツールの活用が一般化された取引先や消費者は、オンライン上での取引に慣れてきています。不動産売買においても、電子契約に対応することで、そのような取引先や消費者の需要に対応できることも、大きなメリットといえるでしょう。
不動産売買を電子契約化する際の3つの注意点

続いて、不動産売買を電子契約化する際の注意点を解説していきます。
1.業務フローの構築をする
電子契約化を進める場合、電子化が解禁された重要事項説明・売買契約締結・媒介契約締結の書類だけでなく、更新・退去・駐車場の契約書類もまとめて置き換える必要があります。
一部だけ書面交付を続けていると管理に手間取り、社内に普及するのが難しくなります。余計な手間を省くためにも、現場に電子化導入のメリットを説明し、一斉に進めていくのが大切です。そのためにも、今一度ネットワーク環境を確認し、万全の体制を整えることをおすすめします。
2.セキュリティ対策を講じる
電子契約化を図るうえで、セキュリティ対策は欠かせません。契約書の改ざんや漏洩を防ぐためにも、管理サーバーでデータを一括管理するのは避けるべきでしょう。契約書のデータを暗号化して保管したり、サイバー攻撃からシステムを保護したりして有事に備えるのが大事です。
また、サーバーのデータが消失しても復旧できるように、毎日バックアップしておく必要があります。過去には、クラウドサーバーの賃貸借契約をしていた会社のデータが、更新手続きミスで消失してしまった事故も起こっています。
3.取引先にもネットワーク環境を整えてもらうよう依頼する
電子契約が進められるなかで、セキュリティ面や保管方法に不安を感じ、書面交付にこだわっている企業は少なくありません。
電子契約サービスのなかにはアカウント登録が必要なサービスがあったり、セキュリティ対策を講じる必要があったりと、取引先に環境を整備してもらうことがネックになる可能性があります。取引先が乗り気でない場合は、電子契約のメリットを伝えて導入を検討してもらう必要があるでしょう。
ただし、どうしても電子契約を許可してもらえない場合は、自社で電子契約書を保管し、取引先には印刷物に押印して渡す方法もあります。
不動産売買において電子契約を締結するまでの3ステップ

不動産売買において電子契約を導入することで、契約締結までをオンライン上で完結することができます。どのようなステップを踏むのか、解説していきます。
1.IT重説を行う準備をする
IT重説を行なう際の事前準備としては、下記が挙げられます。
- ・
契約相手と双方向でやりとりができるIT環境を用意すること
- ・
重要事項説明書などを事前に送付しておくこと
- ・
IT環境に接続後、説明をはじめる前に契約相手が重要事項説明書を準備しているか、ネットワーク環境は整っているかを確認すること
- ・
宅地建物取引士証を契約相手に見せ、それがはっきり目視できたか確認すること
これらの要件を満たすために、まずはカメラやマイクなどを搭載した機器を準備したり、ネットワーク環境を整えたりする必要があります。
IT重説に必要な準備が整ったあとは、契約相手にIT重説の事前同意を得ます。もし相手方の準備が整っていない場合、国土交通省のマニュアルに違反することになりますので、あらかじめ相手のネットワーク環境や機器についても確認しておきましょう。
2.IT重説の事前同意を得たあと、IT重説を行なう
ネットワーク環境の整備や機器の用意、事前に契約相手に同意を得たあとは、事前に宅建業者・宅建士が押印をした重要事項説明書を含めた資料を送付します。これらにあわせて契約書類を送付することも可能です。
IT重説を行う際には以下の対応が必要です。
上記の確認ができたら、重要事項説明書に基づき、説明を行います。
従来は紙での送付が義務付けられていた重要事項説明書も、2022年5月より電子送付することが認められました。これらは書面として出力できること、電子署名をした際に改ざんができない仕組みができていることなどの要件を満たすことでメールでの送付やWebサイト上からのダウンロードが可能となります。
ただし、重要事項説明書の電子交付は義務ではなく、これまで通り書面を送付したものを見ながらIT重説を行なうこともできます。紙を使用する場合は、重要事項説明書を必ず2部送付し、IT重説を行なったのち、署名と捺印をしたものを返送してもらわなければならないため、注意が必要です。
3.契約書を電子交付し、電子署名をしてもらう
重要事項説明書の説明を行なって双方が内容を確認したのち、対面時の署名・捺印に代わって電子署名をしてもらいます。そうすることで、当事者が契約に同意していることを証明できます。
電子署名とは
電子署名とは、電子化された文書に行なう電子的な署名の事を指します。紙での契約書における「署名」に近いでしょう。電子署名をするためには、本人が署名していること、文書が改ざんされていないことを証明しなければなりません。
電子契約を締結する際には電子証明書を持って本人性を担保することがほとんどです。会社によっては電子契約サービスを導入することによって、なりすまし対策をしているところもあります。
不動産売買における電子契約システムの選び方

最後に、不動産売買における電子契約システムの選び方をご紹介します。
1.契約書の作成から管理まで網羅しているか
1つ目が、契約書の作成から管理までの業務を網羅しているかどうかです。先述したように、電子契約では契約書の作成から実際の契約までを電子上で行います。電子契約システムによっては対応していない書類もあるため、自社が必要な書類を電子上で作成・締結できるかを確認するようにしましょう。
さらに、すぐに検索できるかどうか、紙として出力できるかどうかといった利便性や、締結後の管理まで一貫してできるかどうかも確認しておくことをおすすめします。
2.導入実績があるか
2つ目が、導入実績があるかです。
電子契約では、個人情報を扱うため、セキュリティ対策やトラブル発生時のサポートについても確認する必要があります。それらと同時に確認しておきたいのが、導入実績です。
一般的には、多くの企業が導入しているシステムのほうが、利便性や信頼性の面においても高いと考えられます。もちろんセキュリティ面や利便性について吟味したうえで、複数のシステムで迷った際には導入実績を確認するといいでしょう。
まとめ
電子契約の導入によってコスト削減や業務効率化、契約にスピード感が生まれるといったメリットが得られる一方で、国土交通省のマニュアルに則った準備が必要であり、浸透までに時間がかかるのも事実です。そのため、あらかじめ注意点や契約締結までのステップを確認しておきましょう。
記事執筆
働き方改革ラボ 編集部 (リコージャパン株式会社運営)
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